番外編 「巡り合う星と淡い幸福」
優しい世界な七夕です 2018.7/7
早朝の六時。『白ウサギ』ことラパン・アルザスは、久しぶりに心地のいい眠りについていた、
現在はエタンセル王国に住む若き商人、『帽子屋』シリアーバ・サヴィニーの家にアリスとともに居候している。
「どうも、こんにちは。呼ばれてないのに出てくる苗代ちゃんですよ~」
「……うぜぇ」
ラパンは目をこすると、目の前には変化の術で女性に化けた苗代がいた。
端から見ると、女性に変化した苗代がラパンを押し倒すような形になっている。
「どうです? 私のモーニングコールはお役に立てましたか?」
そう言って苗代はベッドから降りて、ラパンは起き上がり皮肉を言った。
「あぁ、おかげで最悪な朝を迎えた」
「またまた~。お得意の嘘じゃないんですか?」
「いいや、事実だ」
「酷いですねぇ。およよ……」
嘘泣きをする苗代をラパンは華麗にスルーして、淡々と言葉をつむぐ。
「……。茶番はここまでだ。で、何の用件でここに来た? 場合によっては通報するぞ」
変化の術を解いて、苗代はにこりと笑う。
「ふふ、通報はやめてください。私の品格が問われますから」
ラパンは品格も何も無いだろという目で苗代を見つつ、苗代は咳払いをした。
「無論、七夕祭です。将来、夫婦になる貴方達にはぴったりではないかと」
「はぁ!? お前、その情報何で知ってるんだよ!」
「ふふ、私は何でもお見通しですよ。何せ、私には読心……心を読む力が生まれつき備わっていますので」
「あぁ、独身だな。お前、女に手を出すだけで結婚はしてないしな」
「いいえ、独身ではなく読心です。まぁ、妻の一人もいないのは事実ですが……」
目をふせる苗代に、ラパンはドン引きした。
「お前、マジで結婚考えた方がいいぞ……」
「貴方に言われたくありません。……と、少し前の私なら言うでしょうね。
とにかく。準備の方は整っていますから、後はそちらの方でご自由に」
苗代は白い煙とともに消えていき、床には式神である人形のお札が落ちていた。
「ご自由に、ね……」
「白ウサギさーん! 朝ごはんですよ! アリスも待ってます!」
「はーい! 今行く~!」
ラパンはお札を破り捨て、『白ウサギ』となった彼は階段を降り下の階にある食卓へ向かっていった。
数時間後。エタンセル王国の王都では、苗代の思惑通りに『七夕祭』が開催されていた。
日はどっぷりと沈み、空には溢れんばかりの星と天の川が輝いていて、地元の者や観光客で王都は活気盛んだ。
「わぁ……! とっても綺麗ですね!」
「えぇ。私、本物のお星さまを見るなんて初めてよ……!」
帽子屋とアリスは星に負けないくらい目を輝かせ、星や屋台の食べ物を満喫している。
そして帽子屋は焼き鳥を食べつつ、アリスに白ウサギの居場所を聞いた。
「そういえば、白ウサギさんはどこへ行ったんですかね?」
「さぁ? 知らないわ」
「えぇ……」
「そんなことよりも、願いを書きに行くわよ!」
困惑する帽子屋をよそに、アリスは一直線に短冊が笹の葉へと向かう。
「えっ!? ちょっと! 待ってくださいよぉ~!」
帽子屋は置いてけぼりにされないよう、アリスの元へついていった。
一方その頃。アリス達とは離れた場所の屋台では、ラパンは『眠りネズミ』と射的で大人げない真剣勝負をしていた。
「シロ……もしかして、腕が鈍ったとか言うわけないよね……?」
「まさか。俺は銃の鍛練も怠っていない。馬鹿にするな」
「そう……? じゃあ、本気でいくから……!」
「望むところだ……!」
また王都の市街地では、ディリット・サングリアとヘンリー・エトワールが酒をあおって飲んでの、せわしくも和やかな喧騒が響いている。
「おい、ヘンリー・エトワール! 俺を怒らせたらどうなるか分かってるんだろうなぁ!?」
「おぉ、分かってらぁ! ディリーお坊っちゃん!?」
「おらぁ!」
「うらぁ!」
そして、ディリットとヘンリーは勢いよく頭をぶつけさせる。額は少し赤くなり、二人はすぐに正気に戻った。
「いてぇ!」
「いってぇ~!」
ディリットとヘンリーは額を押さえ、顔を見合わせる。
「ふふっ」
「ははっ」
「やっぱり持つべきものは……」
「親友だよな!」
そうして二人は笑いあい、お互いに拳を突き出してグータッチをしてみせる。
そして人気の少ないところでは、ルアと実の兄、フレールが手を繋いで歩いていた。
「ねぇ、兄さん」
「なんだい? オレの愛しいルア」
「あのね、ぼく……お星さまに願い事したんだ。
えっと、それで……。んと……」
ルアは少し言葉に詰まったが、フレールは黙って優しく待っていた。
「ぼく、兄さんとずっと一緒に、幸せに暮らしたいって願ったの。だから、兄さんは……。もう、ぼくのそばを離れちゃダメ!」
ルアは満面の笑顔で、フレールに飛びついて抱きつく。
「……うん。分かったよ、ルア。約束する」
「ルアはとってもいい子だから、願いなんて消し飛ばないよ」
フレールはしゃがんで、ルアの頭を優しくなでたその時。
たくさんの星達が、彼らの幸福を願っているような気がした。




