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アリスは外の世界へ行きたいようです  作者: 吐 シロエ
過去編 狂ったお茶会編
21/62

番外編 「巡り合う星と淡い幸福」

優しい世界な七夕です 2018.7/7

 早朝の六時。『白ウサギ』ことラパン・アルザスは、久しぶりに心地のいい眠りについていた、


 現在はエタンセル王国に住む若き商人、『帽子屋』シリアーバ・サヴィニーの家にアリスとともに居候(いそうろう)している。


「どうも、こんにちは。呼ばれてないのに出てくる苗代(なわしろ)ちゃんですよ~」


「……うぜぇ」


 ラパンは目をこすると、目の前には変化の術で女性に化けた苗代がいた。


 (はた)から見ると、女性に変化した苗代がラパンを押し倒すような形になっている。


「どうです? 私のモーニングコールはお役に立てましたか?」


 そう言って苗代(なわしろ)はベッドから降りて、ラパンは起き上がり皮肉を言った。


「あぁ、おかげで最悪な朝を迎えた」


「またまた~。お得意の嘘じゃないんですか?」


「いいや、事実だ」


「酷いですねぇ。およよ……」


 嘘泣きをする苗代をラパンは華麗にスルーして、淡々と言葉をつむぐ。


「……。茶番はここまでだ。で、何の用件でここに来た? 場合によっては通報するぞ」


 変化の術を解いて、苗代はにこりと笑う。


「ふふ、通報はやめてください。私の品格が問われますから」


 ラパンは品格も何も無いだろという目で苗代を見つつ、苗代は咳払いをした。


「無論、七夕祭です。将来、夫婦(めおと)になる貴方達にはぴったりではないかと」


「はぁ!? お前、その情報何で知ってるんだよ!」


「ふふ、私は何でもお見通しですよ。何せ、私には読心(どくしん)……心を読む力が生まれつき備わっていますので」


「あぁ、独身だな。お前、女に手を出すだけで結婚はしてないしな」


「いいえ、独身ではなく()です。まぁ、妻の一人もいないのは事実ですが……」


 目をふせる苗代に、ラパンはドン引きした。


「お前、マジで結婚考えた方がいいぞ……」


「貴方に言われたくありません。……と、少し前の私なら言うでしょうね。

 とにかく。準備の方は整っていますから、後はそちらの方でご自由に」


 苗代(なわしろ)は白い煙とともに消えていき、床には式神である人形(ひとがた)のお札が落ちていた。


「ご自由に、ね……」


「白ウサギさーん! 朝ごはんですよ! アリスも待ってます!」


「はーい! 今行く~!」


 ラパンはお札を破り捨て、『白ウサギ』となった彼は階段を降り下の階にある食卓へ向かっていった。



 数時間後。エタンセル王国の王都では、苗代(なわしろ)の思惑通りに『七夕祭』が開催されていた。


 日はどっぷりと沈み、空には溢れんばかりの星と天の川が輝いていて、地元の者や観光客で王都は活気盛んだ。


「わぁ……! とっても綺麗ですね!」


「えぇ。私、本物のお星さまを見るなんて初めてよ……!」


 帽子屋とアリスは星に負けないくらい目を輝かせ、星や屋台の食べ物を満喫(まんきつ)している。


 そして帽子屋は焼き鳥を食べつつ、アリスに白ウサギの居場所を聞いた。


「そういえば、白ウサギさんはどこへ行ったんですかね?」


「さぁ? 知らないわ」


「えぇ……」


「そんなことよりも、願いを書きに行くわよ!」


 困惑する帽子屋をよそに、アリスは一直線に短冊が笹の葉へと向かう。


「えっ!? ちょっと! 待ってくださいよぉ~!」


 帽子屋は置いてけぼりにされないよう、アリスの元へついていった。


 一方その頃。アリス達とは離れた場所の屋台では、ラパンは『眠りネズミ』と射的で大人げない真剣勝負をしていた。


「シロ……もしかして、腕が鈍ったとか言うわけないよね……?」


「まさか。俺は銃の鍛練(たんれん)も怠っていない。馬鹿にするな」


「そう……? じゃあ、本気でいくから……!」


「望むところだ……!」


 また王都の市街地では、ディリット・サングリアとヘンリー・エトワールが酒をあおって飲んでの、せわしくも和やかな喧騒が響いている。


「おい、ヘンリー・エトワール! 俺を怒らせたらどうなるか分かってるんだろうなぁ!?」


「おぉ、分かってらぁ! ディリーお坊っちゃん!?」


「おらぁ!」

「うらぁ!」


 そして、ディリットとヘンリーは勢いよく頭をぶつけさせる。(ひたい)は少し赤くなり、二人はすぐに正気に戻った。


「いてぇ!」

「いってぇ~!」


 ディリットとヘンリーは額を押さえ、顔を見合わせる。


「ふふっ」

「ははっ」


「やっぱり持つべきものは……」


親友(ダチ)だよな!」

 

 そうして二人は笑いあい、お互いに拳を突き出してグータッチをしてみせる。


 そして人気(ひとけ)の少ないところでは、ルアと実の兄、フレールが手を繋いで歩いていた。


「ねぇ、兄さん」


「なんだい? オレの愛しいルア」


「あのね、ぼく……お星さまに願い事したんだ。

 えっと、それで……。んと……」


 ルアは少し言葉に詰まったが、フレールは黙って優しく待っていた。


「ぼく、兄さんとずっと一緒に、幸せに暮らしたいって願ったの。だから、兄さんは……。もう、ぼくのそばを離れちゃダメ!」


 ルアは満面の笑顔で、フレールに飛びついて抱きつく。


「……うん。分かったよ、ルア。約束する」


「ルアはとってもいい子だから、願いなんて消し飛ばないよ」


 フレールはしゃがんで、ルアの頭を優しくなでたその時。


 たくさんの星達が、彼らの幸福を願っているような気がした。

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