番外編 「奇想天外な出会いと祝福」
アリス誕生日おめでとう!2018.7/4日
「やっと見つけたよ! 小さくて可愛い僕の貴婦人!」
「……はぁ?」
その少年との出会いは、エタンセル王国の王都だった。
アリスはいぶかしげな表情を浮かべ、カールがかった茶髪で青色の瞳の少年を、不審な目で睨み付ける。
「あぁ、悪かったね。僕の名前はルイ。ルイ・フォルクロール。よろしく、ミレディ」
ルイと名乗った少年は行儀よくお辞儀をするが、アリスは怒りで肩を震わせていた。
「ちょっと、あんた……言いたいことがあるんだけど」
「うん? なんだい? 僕のミレディ」
アリスは黒いブーツを忌まわしげに鳴らすと、ルイの『お坊っちゃん』な服の襟をひんづかむ。
「おっと」
ルイが驚きも声をあげたのもつかの間、アリスは顔を真っ赤にしてかんしゃくを起こした。
「あのねぇ……ルイ。私にもね、『アリス』って言うちゃんとした名前があるの! それに何よ! さっきからミレディ、ミレディって!
せめて貴婦人ではなく、お嬢様と声をかけなさい!?」
アリスはふんと鼻を鳴らしそっぽを向くと、ルイは襟を正して茶化すように言葉を連ねる。
「僕はミレディの方が格式高くて、お上品な女性なイメージだと思ったんだけどなぁ? まぁ、たった一文字違いだけど……。君がそこまで言うなら、レディと言わせてもらうよ」
「ふん、それでいいのよ。それで」
そっか。とルイが相づちを打つと、そうよとアリスは返す。初対面なのに、二人はなぜだか居心地がよかった。
どうしてかは分からないが、アリスもルイも互いに初めて会った気がしなかった。
そのちょっとした違和感が、二人の運命を変えた。
「ねぇ……あんた、私と前に会ったことある?」
「それはナンパのつもりかい? そうだとしても、君とはまだ会ったことはなかったよ」
アリスは眉間にしわを寄せて、よく分からないというような顔をした。
「あははっ。『言い回しがよく分からない』って、取って書いたような顔をしてるね。悪かったよ。
僕は君とは今まで会ったことはないよ。一度もね」
「……そう、分かったわ。それじゃあ」
アリスはルイに背を向け、軽く手を振るとルイは慌ててアリスの前に立つ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「……。今度は何かしら?」
「本当に、僕に心当たりないの?」
「心当たりっていう、訳じゃないけど……」
アリスは少し考え込むと、ルイは嬉々として身を乗り出した。
「じゃあ、僕のこと知ってくれてるんだね!?」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。あんた、さっきからめちゃくちゃよ!」
あせるアリスに、ルイは肩をすくめてとぼけてみせる。
「ん? どういうことだい? 僕に教えてくれないかな」
「その言い回しにその髪型……。あんた、ルイス・キャロルね!?」
「さぁ? 何のことだかさっぱり」
ルイは鼻で笑ってアリスを馬鹿にする。
「僕は左耳がよく聞こえなくてね。君の言っていることがよく分からないんだ」
「ごめんね、愛しの君。けど、どうしても伝えたいことがあったんだ」
ルイは指をパチリと鳴らすとアリスの前に一冊の本が現れ、ルイスはどこかへと消えていった。
アリスはその本を手に取り、題名を手でなぞりつつ読んでいく。
「『不思議の国のアリス』、ルイス・キャロル作……。
ふん、ちょっとは粋なことするじゃない」
アリスは少しだけ赤く染まった頬でルイスを褒めると、本を抱きかかえて白ウサギと帽子屋が待つ、帽子屋の家へと帰っていった。




