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アリスは外の世界へ行きたいようです  作者: 吐 シロエ
過去編 狂ったお茶会編
20/62

番外編 「奇想天外な出会いと祝福」

アリス誕生日おめでとう!2018.7/4日

「やっと見つけたよ! 小さくて可愛い僕の貴婦人(ミレディ)!」


「……はぁ?」


 その少年との出会いは、エタンセル王国の王都だった。


 アリスはいぶかしげな表情を浮かべ、カールがかった茶髪で青色の瞳の少年を、不審な目で睨み付ける。


「あぁ、悪かったね。僕の名前はルイ。ルイ・フォルクロール。よろしく、ミレディ」


 ルイと名乗った少年は行儀よくお辞儀をするが、アリスは怒りで肩を震わせていた。


「ちょっと、あんた……言いたいことがあるんだけど」


「うん? なんだい? 僕のミレディ」


 アリスは黒いブーツを忌まわしげに鳴らすと、ルイの『お坊っちゃん』な服の(えり)をひんづかむ。


「おっと」


 ルイが驚きも声をあげたのもつかの間、アリスは顔を真っ赤にしてかんしゃくを起こした。


「あのねぇ……ルイ。私にもね、『アリス』って言うちゃんとした名前があるの! それに何よ! さっきからミレディ、ミレディって!

 せめて貴婦人(ミレディ)ではなく、お嬢様(レディ)と声をかけなさい!?」


 アリスはふんと鼻を鳴らしそっぽを向くと、ルイは襟を正して茶化すように言葉を連ねる。


「僕はミレディの方が格式高くて、お上品な女性なイメージだと思ったんだけどなぁ? まぁ、たった一文字違いだけど……。君がそこまで言うなら、レディと言わせてもらうよ」


「ふん、それでいいのよ。それで」


 そっか。とルイが相づちを打つと、そうよとアリスは返す。初対面なのに、二人はなぜだか居心地がよかった。


 どうしてかは分からないが、アリスもルイも互いに初めて会った気がしなかった。


 そのちょっとした違和感が、二人の運命を変えた。


「ねぇ……あんた、私と前に会ったことある?」


「それはナンパのつもりかい? そうだとしても、君とは()()会ったことはなかったよ」


 アリスは眉間にしわを寄せて、よく分からないというような顔をした。


「あははっ。『言い回しがよく分からない』って、取って書いたような顔をしてるね。悪かったよ。

 ()君とは今まで会ったことはないよ。一度もね」


「……そう、分かったわ。それじゃあ」


 アリスはルイに背を向け、軽く手を振るとルイは慌ててアリスの前に立つ。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


「……。今度は何かしら?」


「本当に、僕に心当たりないの?」


「心当たりっていう、訳じゃないけど……」


 アリスは少し考え込むと、ルイは嬉々として身を乗り出した。


「じゃあ、僕のこと知ってくれてるんだね!?」


「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。あんた、さっきからめちゃくちゃよ!」


 あせるアリスに、ルイは肩をすくめてとぼけてみせる。


「ん? どういうことだい? 僕に教えてくれないかな」


「その言い回しにその髪型……。あんた、ルイス・キャロルね!?」


「さぁ? 何のことだかさっぱり」


 ルイは鼻で笑ってアリスを馬鹿にする。


「僕は左耳がよく聞こえなくてね。君の言っていることがよく分からないんだ」


「ごめんね、愛しの君(ミレディ)。けど、どうしても伝えたいことがあったんだ」


 ルイは指をパチリと鳴らすとアリスの前に一冊の本が現れ、ルイスはどこかへと消えていった。


 アリスはその本を手に取り、題名を手でなぞりつつ読んでいく。


「『不思議の国のアリス』、ルイス・キャロル作……。

 ふん、ちょっとは(いき)なことするじゃない」


 アリスは少しだけ赤く染まった頬でルイスを褒めると、本を抱きかかえて白ウサギと帽子屋が待つ、帽子屋の家へと帰っていった。

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