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アリスは外の世界へ行きたいようです  作者: 吐 シロエ
過去編 狂ったお茶会編
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十五話 「青年が見た夢Ⅷ」

「ルア、『アリス』! 眠りネズミを呼んできたよ! どう? 凄い?」


「凄いよ、兄さん」

「凄いよ、白ウサギ」


 三度目の正直と言うのだろうか。このやり取りも、お約束になってきている。


 二人とも同じように顔を背けたが、ラパンにとっては何のことか分からなかった。


 ちなみに現在の状況は、昨夜にラパンがルア、カルテ、ラネオンの三人でお茶会に行きたいと言い出したので、その待ち合わせ場所である暗殺組織の玄関にいる。


 ラパンの仕事仲間達は、敵組織のリーダーであるラネオンをそそくさと避けつつ、彼の噂話をしながら歩いていた。


「あ~……えっと、シロ……? そろそろ、おれの紹介もしてほしいんだけど……」


「あぁ、ごめんよ。眠りネズミ」


「この人はラネオン・カルメネール。血は繋がってないけど、ボクの『家族』なんだ。ルアは会ったことあるけど、アリスは会ったことないよね?」


「うん、そうだね。僕もラネオンとは初対面だよ」


 カルテはとっさに嘘をついた。彼の中では息をするように嘘をつくのが当たり前になっている。


 本性を隠し、いつも笑顔で人を騙す。カルテ・ソミュールは『嘘』で形成されているような人間だ。


 カルテはラネオンに目配せをすると、ラネオンは察したのかそれに対応した。


「……。よろしく、カルテ……」

「こちらこそ」


 カルテは握手の意味で右手を差し出すと、ラネオンも左手を差し出し握手をする。


 それは良くも悪くも、ルアにとっては二人が共犯者のように見えた。


「三人とも、こっちだよ~!」


 白ウサギは一足先に茶会に通じる道の前に着いていて、皆に手招きする。


 それに応じるように、他の三人もついていった。



◇◇◇


 茶会への道中。赤レンガの床の周りには木や生い茂る葉ばかりだった。


 しかし、植物の手入れは行き届いていて清潔な印象を持つ。決してジャングルという訳ではない。


「アリスは、ボクと何回かお茶会に行ったことがあるよね?」


「うん、そうさ。あそこで食べるお菓子は絶品だよ。何と言っても、白ウサギの手作りだからね」


「ふふ、ありがとう。嬉しいな~」


 微笑ましい会話だが、ルアはムッとした。


 それじゃあ、客室に置いてあったお菓子は何だったのか。カルテのことについて考えれば考えるほど、はらわたが煮えたぎってくる。


 しかし、それも茶会に着けばすぐに終わる。そう思うことで、ルアは何とか平静を(よそお)っていた。


「あ、見えてきたね。ここがお茶会の場所?」


 ルアはカルテに対する嫉妬と憎悪を紛らわせようと向こう側を指差し、話の機転をかける。


 すると同時にツタのように絡まり、おいしげっていた葉や木が道を譲るかの如く、急にルア達の視界が開けた。突如とした現れた日差しがまぶしい。


「ここがお茶会……ねぇ」

「眠りネズミ、どうしたの?」


 ラネオンは聞こえるか聞こえないくらいの声で呟く。白ウサギは首をかしげたが、カルテはさっそくお菓子に手を出し、ルアは実兄からの伝言を思い出して気づかなかったようだ。


「いや、何でもない……」


 ラパンは口を開き、自分達が幼少期の頃について話をした。彼らにとっては他愛のない会話だが、二人の口から彼らの昔の話を聞けるのは貴重だ。


「眠りネズミって、ボーッとしてるようで実は色んなこと考えてくれてるよね~」


「え? まぁ、それなりには……」


「小さい頃からの付き合いだもんね。君は孤児で身寄りがなかった。ボクは十分な地位の家柄に住んでたけど、それが嫌で家出をした……」


 ラパンは少しだけ目を伏せながら話を続けた。


「懐かしいなぁ。それでよくボク達喧嘩したよね。家がどうとか孤児(みなしご)がどうとか」


「……。まぁね……。おれらもそういう年頃だったんだよ……」


「あははっ。そう言うと、ボク達おじいちゃんみたいだね」


「一応、成人済みだからね……」


「え~っと。成人って二十歳だよね? 確か、ボク達って二十……」


 突然、ガラスの割れる音がした。


 見ると、ルアがジャックナイフを手に取り、カルテはティーカップの破片を握りしめていた。カルテの手からは血がしたたり落ちている。


「美味しそう……」

「え?」


「おれは『眠りネズミ』だからさ……。前から、『アリス』の血に興味があるんだよね……」


「ね、眠りネズミ? どうしたのさ、急に」


「どうしたもこうしたも、『アリス』を食べるに決まってるじゃん!」


 隠しナイフを取り出すラネオンに願いが生じたのか、ルアはにやりと笑う。


「ルア……?」


 ラパンは目を見開き、どういう状況なのかいまいち分からなかった。


「ふふっ、あはっ。あはははっ! さぁ……狂ったお茶会の始まりだよ!」


「狂ったのはぼくかなぁ……? それとも……ラパン兄さんかなっ!?」


 ルアはラパンに強烈な蹴りを入れ、思いきりナイフを突き刺す。


「ぐあっ!?」


 ラパンは少し離れたところに倒れこんだ。左のわき腹辺りからどんどん血があふれてくる。


「ふふ、ふふふ。あははっ。兄さん……あいつなんかより、ぼくの方を見てよ。なんであいつの方が良いの? 教えてよ……!」


「教えない……」


 ルアは目を見開き、声の限り叫んだ。


「教えろ! ラパン・アルザス!」


「分かった……。教えるよ」


 ラパンは立ち上がり、表情はうつむいて分からなかったが、急に彼の雰囲気が変わった。


「いや、教えてやる……」


「ボク……いいや、俺は……『アリス』のことが好きだ。もちろん、変な意味ではないけどな」


 刺されたわき腹辺りを右手で押さえ、ラパンはルアに言い放つ。


「俺はお前の『兄さん』をするのはもう疲れた。散々だ。だからルア、お前の世話をするより俺は……。

――『アリス』の従者を選ぶ」


「お前なんか、ぼくの『兄さん』なんかじゃない……。白ウサギ……お前を殺してやる!」


 ルアの背後には兄であるフレールの影が揺らめている。やがてそれは実体を持ち、金髪の長い三つ編みで黒ずくめの服をまとった青年が現れた。


「そうだよ、ルア。それでいい……。自分の邪魔をするやつは全部殺せばいい。そうすれば、もうオレたちが迫害されることなんてなくなるんだ……。ふふ、ふはははっ!」


 『死神』の青年、フレールは自分の髪を乱暴にかきむしりながら言った。


「さぁ……狂ったお茶会の時間だ!」

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