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アリスは外の世界へ行きたいようです  作者: 吐 シロエ
過去編 狂ったお茶会編
13/62

十二話 「青年が見た夢Ⅴ」

投稿時間を間違えましたが、アリ外をお楽しみください……!(2018,2/3)

 白髪で光を灯さない赤目の青年ラパン・アルザスと、三つ編みで金髪、純粋無垢な赤い瞳を持つ少年ルアは、さらに森の奥深くへと進んでいく。


 彼らはとある暗殺組織の一員で、ラパンはその暗殺者の中でも指折りのエリートである。


 ラパンは今まで数多くの任務をこなしてきたが、ある複雑な理由と上司からの絶対命令でルアと共に行動している。


 そして、ラパンはこの忌々しい少年から一刻も早く解放されたいと願っていた。ルアと一緒にいればストレスがたまるばかりで、これっぽっちも清々しい一日を送れていない。


 元から清々しい一日なんて送ったこともないが、ルアさえいなければどんなに楽なことだろうか。


 遊んでくれなければ泣き、ナイフでズタズタにしたぬいぐるみを片付けようとすれば怒り、あげくの果てにはどんな所でもついてこようとする。


 ラパンの健康状態は、いつ胃に穴が開いてもおかしくない状況だった。


 このまま今と同じ日々を送ればストレスでおかしくなると、ヤブ医者から診断されたのも最近の出来事だ。


 次は万が一のために手術を受けよう。この任務が終わって、忘れないうちに手術を受ければ体の調子もきっと良くなる。そうラパンは思っていた。


 二人の足音と虫の鳴き声、時おり吹く風の音が森を支配している。


 しかしいくら歩いても仲間らしき人間は見つからず、ルアは心底退屈そうな顔で口を開いた。


「それにしても、人気(ひとけ)が全然ないね。他の人達も派遣されたんでしょ?」


「あぁ、そうだな。特に俺達は最前線……。他の奴らはサポート、または偵察組と言ったところか」


 それを聞いたルアは、退屈で沈みそうだった気分が一気に飛び跳ね、バネのように高揚し目を輝かせる。


「ぼく達って最前線だったの!? なんだかよく分からないけど、とにかくすごいんだよね! 兄さんとぼくって!」


「……そうだな」


 少し和やかになった空気もつかの間、人の気配と血の臭いをかぎとった二人はとっさに振り向く。


 すると、ボサボサの灰色の髪をした青年が不適な笑みを浮かべていた。


「久しぶり、シロ」

「その声は……!」


「ラネオン……。ラネオン・カルメネールなのか……!?」


 変わり果てたラネオンに、ラパンは驚きを隠せなかった。


 あんなに穏やかで優しそうな目をしていた少年は、今や血と肉に対する執着が酷くにじんでしまう程に変わってしまった。


「うん、そうだよ。シロのこと、会いたかった。ずっと待ってたんだぁ……」


 執着心が強いあまりにルアがラパンの隣にいるのを気づいておらず、変わらずラネオンはラパンに焦点を定めている。それが気に入らないのか、ルアは身を乗り出してラネオンに反発する始末だった。


「ちょっとお兄さん。ぼくのこともちゃんと見てよね!」


「おいルア、あまり調子に乗るな……!」


 ルアに危険が及ばないよう、ラパンは彼の口をふさぐ。ルアはそれが気に入らず、言葉の言いようがない叫びを訴えていた。


「……。ねぇ、シロ。その隣の子供はシロの弟……? あれ……でも、君にはお兄さんがいたはずだけど……。うーん……。あ、隠し子とか……?」


「違う。断じて違う。こいつとは血なんか繋がってないし、ましてやこんな奴が弟だなんて……!」


「こんな奴!? 酷い、酷いよ兄さん! 兄さんはわずかな可能性を捨てたんだね!」


「可能性もくそもないだろ、普通。それにお前が俺の弟だったらストレスで死にそうだ……」


 いつものように騒いでいると、ラネオンが仲裁(ちゅうさい)するように首を割った。


「えっとシロ……。これは噂で聞いた話なんだけどさ。気のふれた手の付けられない少年を保護した物好きって、まさか君のことじゃないよね……?」


 ラネオンが半笑いでいぶかしげに聞く。ラパンはルアと付き合うのに疲れたのか、蚊の鳴くような声で答える。


「……あぁ、そうだ」


「ふーん……そう。冷酷で人との関わりを避けてる、あの『白ウサギ』さんがねぇ……」


 ラネオンは昔と同じようにくすくすと笑う。それを真に受け止めたのか、ラパンは目付きの悪い赤い瞳で睨み付けた。


「……あぁ、ごめんごめん。けど、これでようやく分かった気がするよ……」


「何がだ」


 苛立ちを隠せないラパンは相変わらず歯ぎしりをするが、ラネオンの顔は少し悲しげだった。


「シロ、忘れちゃったの……? あんなに悲しくて辛い思いをしたのに……。まぁいいや、教えてあげる……」


 一呼吸置いてラネオンは今までの口調とは大きく変わり、吐き捨てるように真実を口に出す。


「……不吉の象徴である赤い瞳を持つ人間は、不幸や災いを呼び起こしてしまうんだ。シロもその少年も例外じゃない」


「シロが組織の人間に避けられているのは、君が『災厄の瞳』の持ち主だからだよ」


 ラネオンの標的はラパンからルアへと変わり、容赦なく言葉を並べる。


「シロに付きまとっている君もそうだ。『何で自分はこんな酷い扱いを受けるんだろう』。……そう思ってたよね? 君が虐待されたのも、両親が君を捨てたのも、君が『災厄の瞳』を持っているからだ」


「……違う。ぼくは違う……。化け物なんかじゃ……」


 ルアは涙を流し、否定を繰り返す。しかし、ラネオンはさらに追い討ちをかける。


「『災厄の瞳』を持つ者は必ず、自分自身や周りに不幸が訪れる。だから、手遅れになる前におれが……」


「おれが、シロたちをこの手で殺してあげる!」


 ラネオンが狂気に踊らされナイフを振りかざした頃は、もう何もかもが手遅れだった。


「は……?」


 ラパンの左目は自身の瞳よりも赤く染まり、やがて血の涙を流した。

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