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アリスは外の世界へ行きたいようです  作者: 吐 シロエ
過去編 狂ったお茶会編
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十一話 「青年が見た夢Ⅳ」

眠りネズミ誕生日おめでとう!(2018,01,06)

 太陽はどっぷりと沈み、月が肌寒い夜を照らしている。


 黒く塗りつぶされた空と青白く光る月を背景に、うっそうとした森の中で目付きが悪いどす黒い赤目の青年と、純粋無垢な赤い瞳を持つ幼い少年がいた。


 白髪の青年は金色の鎖がついた懐中時計を服の内ポケットから取り出すと、時計の針は夜中の二時を指していた。


 青年が時刻を確認すると、金髪で三つ編みの幼い少年が青年の懐中時計を覗き込んでぼやく。


「なんて書いてあるか分かんないや」


「明日、仕事が落ち着いたら教えてやる。今はそんな暇ないからな」


「……はーい。分かったよ、兄さん」


 兄さんと呼ばれた白髪の青年の名前はラパン・アルザス。とある暗殺組織のエリートで、生まれつきの白髪と冷酷な赤い瞳が動物の白うさぎにそっくりなことから、『白ウサギ』の異名を持つ。


 そして青年の隣にいる金髪の幼い少年はルア。彼も青年と同じ暗殺者で、幼い子供ゆえの無邪気な狂気を持つことから『三日月ウサギ』の異名を持っている。


 ラパンはルアをある理由で引き取ることとなり、現在は上司の命令かつ任務で共に行動することになる羽目になった。なってしまったのだ。


「時間だ。行くぞ」


 ラパンは手早く金色の懐中時計を服の内ポケットにしまうと、それが合図かのようにラパンとルアは森の夜道を駆け抜けていった。



 森の中心部の方へ進むと緑の濃さが増し、より薄暗く不気味になっていく。


 ラパンとルアが草を踏み歩く音と呼吸、種類や生態は不明だが、この時間帯にはよく聞く虫達の合唱だけが森の中から発せられていた。


 光源は月の光のみだが、彼らは真の暗闇でもよく周りが見えるのでその必要は一切ない。


 また、武器のナイフや最小限の荷物――主に万が一に備えるための簡素な食料をラパンが。ルアは飴やチョコなどの小さな菓子などを服のどこかしらに忍ばせている。


 ここでラパンは確認のために、上司であるメルロー・シュトルツから与えられた情報を思い出していた。



◇◇◇


「お前達に任務を言い渡す。まず言うが、単独行動は一切許されない。常に二人でいること。そうでもしない限り、ラパンが今まで避けてきた複数人で推奨する任務……つまり、協同任務が達成できないからな」


「……」


「分かりました、メルロー姉さん!」


 いかにも嫌そうなオーラを出すラパンとは対称的に、どこで覚えてきたのか分からないが、ルアは威勢よく敬礼までして了承する。


「ラパン」


「……なんですか」


 上司相手でも構わず腕を組み、歯ぎしりをしながら足で貧乏ゆすりをする。


 ラパンは過剰なストレスと疲労で今にも爆発してしまいそうだった。


 しかし、メルローがラパンに何やら耳打ちすると、口は緩まなかったものの、ラパンは頬を染めてそわそわするようになった。


「……大人の事情って、なんかズルい」


 ラパンは嬉しさでルアがすねているのも知らずに、上司と部下の密会は成功に終わった。


「うっ、ううん!」


 メルローが場の空気を引き締めるために咳払いをすると、条件反射で部下達は背筋を正す。あんなに嬉しそうだったラパンの顔も冷めきって、いつも通りの仏頂面になった。


 そしてメルローは重要な情報が書かれている、今回の任務に関する二枚の用紙をラパンとルアに渡す。


「まずは、任務の内容の再確認だが……」


「はい。……あの、メルロー姉さん」

「なんだ? ルア、言ってみろ」


 自らルアが手を挙げると、本来なら文字や顔写真で埋められているはずの欄を指をさした。


「これ……。何で、紙が血でべとべとになってるの? 敵リーダーの情報が分からないよ」


「あぁ、それはだな。お前達とは違う暗殺部隊が、敵組織を暗殺するときに血しぶきが勢い余って……」


「嘘ですよね。これはどう考えても血ではなく、インクの臭いがします。指揮官の陶酔っぷりは有名ですから、酔っぱらってグラスを倒してこの書類を濡らしたんでしょう。

 翌朝、二日酔いから目覚めて慌てて赤色のインクでも塗りつぶしたのだと思われますが……。いかがでしょうか」


 唐突に話を切り出し、反論したのはラパンだった。何度目かも分からない上司に対する態度に吹っ切れたのか、メルローは吹き出し笑い声をあげた。


「何がおかしいんです」


「あぁ、悪かったよ。私に対するお約束の反論は大当たりだ。それとルア。お前もまだまだだな。兄さんを見習えよ?」


「……! はい!」


 目を輝かせ、満面の笑みを浮かべるルアにラパンは嫌な予感がしてたまらなかった。


 それもそのはず、任務の準備のほとんどをルアから質問攻めにあった。ラパンの胃と頭はこれからも悲鳴を上げることになるだろう。


 ラパンはルアからの質問を二つ返事で流しつつ、すでに頭の中では相手が何者であろうとも決意を固めていた。それが、かつて共に過ごした家族だと知らずに――。



◇◇◇


 その頃、月が照らされうっそうとした森の中では、無惨に撃たれた何人もの死体が無造作に転がっている。


 スーツだらけの死体のなかには、かつてラパンにルアを半強制的に預けさせた同僚達も含まれていた。


「シロ、まだかなぁ……」


 その死体をもたれるようにして、ボサボサの灰色髪に白い長袖シャツ。そして黒い長ズボンに素足という、ラフな格好の青年が暗殺用の銃をいじり、退屈そうに座っていた。


「……早く来ないと、おれ寝ちゃうんだけど」


 青年の名前はラネオン・カルメネール。かつては『騎士団長の右腕』と謳われ真っ当な道を歩んでいた。


 しかし、今や暗殺者へと道を外し、貪欲に血と肉を求める続けるネズミと化している。


 彼に会えば永遠の眠りにつかされ、ネズミのように血肉を貪り食われると言われている。


 そのことから、人々はラネオンを『眠りネズミ』と呼ぶようになった。


「ほしいなぁ……シロの肉……。君を食べたら、おれの目もちゃんと覚めるかなぁ……? 覚めたらきっと、おじさんも喜んでくれるよね……」


 血がにじむまで爪をがりがりと噛み、不適な笑みを浮かべるラネオンの異様な光景は誰一人見ることはなかった。

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