一話 「告白Ⅰ」
初投稿、初作品です。よろしくお願いします!
果てしない青空の下で、ある庭園に少女の声が響く。
「こんなの耐えられないわ! 紅茶ばかり飲んでお菓子を食べる毎日はもううんざり!」
怒りに任せて黒髪の少女が机を思いきり叩き、白い椅子から立ち上がる。
それを見た白髪の青年は、耐えきれないと言った様子で声を殺していた。しかし、我慢しようと思うほど笑みがこぼれ、ついにこらえきれず盛大に吹き出し腹を抱えて笑った。
「笑わないで! 私は真剣なんだから!」
カールがかった長く麗しい黒髪とアメジストの瞳。首には瞳の色と同じ宝石がついたチョーカーをつけ、黒く愛らしいゴスロリ姿のお姫様――アリスは、何も変わらない日々に退屈しているようだった。
「どうして誰も分かってくれないのかしら」
アリスは頬を膨らませ、髪の毛を指で退屈そうにいじる。
午後の四時には必ず紅茶をすすり、砂糖がたっぷりな甘い菓子を食べる毎日。ティータイムが終わるとぬいぐるみと遊び、飽きれば白ウサギに蹴りを入れたりクッションを投げたりする。
結論を言えば、とにかく暇でしかたないのだ。
この茶会の世界には青空と芝生以外何もない。洒落たテーブルと椅子に本棚があるくらいで、ラジオやレコードなどは無く、娯楽は読書のみと言ってもおかしくはなかった。
好奇心旺盛で年頃なアリスにはかなり辛い。他の人間がここを訪れても退屈で発狂するだろう。
「あははっ、その台詞は何度目だい? アリス。ボクもう聞き飽きて耳にたこができそうだよ」
「うるさい! あんたなんて私が外の世界へ出た時には、一人で寂しくなって死んでしまえばいいのよ!」
「酷い!?」
本当にいなくなるのが嫌なのか、涙目になる自称アリスの従者――白ウサギ。白ウサギの透き通る髪は左目を隠しており、赤い瞳は心が吸い込まれそうになる。
紺の燕尾服にズボン。白いワイシャツには赤いネクタイを結び、両手には白手袋、靴は同じく白のロングブーツをはいている。
服の内ポケットには金色の鎖付き懐中時計と、護身用のナイフが入っているらしい。アリスがもしもの時も安全だ。
「その顔、そこまで寂しいとは思っていないわね。お忍びでついていって私の困っている姿を見ようと思ってるでしょ!」
「嘘、なんで分かったの!? アリスってば、実はものすごいパワーとか秘めてるんじゃない?」
「ずいぶんと頭の悪い考え方ね……。女の勘ってヤツよ」
アリスの話を聞くと、途端に白ウサギは近くにあった小汚ないウサギのぬいぐるみに話しかけた。
「ねぇウサ公。アリスが意地悪してくるんだけど、どうしたらいいと思う?」
「え、何々? "白ウサギの願いを叶えてあげたらいいと思うよ"って? あはは、そんなまさか」
ボフッ!
ありえない早さで羊のぬいぐるみを投げつけたアリスの頬と目元は赤かった。白ウサギは気づいているものの、わざとウサ公に話しかけていく。
「でもなー、あのアリスが聞いてくれるわけないじゃん。ちょっと心は揺らいだけどさ。どうしちゃおうかなー?」
「分かったわよ!」
アリスの堪忍袋が割れた瞬間だった。仁王立ちで白ウサギを指差し、再び庭に声を響かせる。
「……あんたの願いを叶えればいいんでしょ! 言ってみなさいよ。どうせくだらないものなんでしょうけど!」
「くだらなくなんかないよ」
声を荒げるアリスとは対称的に、白ウサギは声のトーンを落としてアリスを睨み付けた。
「ど、どういうことよ」
アリスは思わず言葉をにごす。白ウサギのこの目付きを見るのは初めてではなかったが、やはり動揺してしまう。
「ボクは真剣だよ、アリス。いつものボクなら笑って済ませるけど今回はそうはいかない。
君が外の世界に憧れてるのと同じぐらいに、ボクは君に望んでいることがある」
「……言ってみなさいよ」
アリスは一瞬だけたじろいたが腕を組み、何とか聞く姿勢を取る。
白ウサギはくだらなくないと言っていた。「危険な外の世界になんか行かないで、この茶会でボクと永遠に暮らそう」だとか。「もっと娯楽を増やすから腹いせに蹴るのはやめてほしい」だとか。
――どうせそんなものだろうと思っていたのに。
白ウサギはふっと息を吐いて、ゆっくりと穏やかに告げる。
「君が外に出た暁には、ボクと永遠の愛を誓ってもらう。最終的には主としてではなく、妻としてね」
白ウサギを名乗る男はアリスと呼ばれる少女に告白する。
そして白ウサギはそっと、アリスの手の甲にキスをした。