4.理科室
その人は徐々にボク達に近づいてきてその顔が明るみに出てきた。
「どっ、毒闇先生ッ! いたんですか」
三角フラスコをもった初老で白髪の男の人だった。先生ってことはよかったぁ〜、やっぱりあの怪談話は嘘だったって事だよね。で、でもなんか白衣とか少し焼けてて破れてる部分とかあるしなんか別の意味で怖い、かも。
「おっほぃっ! いちゃ悪いかね? ここは私の教室、いるのは当然じゃろ」
その人の眼鏡の奥に隠された瞳にボクは違和感を感じた。
「ホントに先生なの?」
ボクは手塚くんの耳に囁きかけた。というのもやっぱり先生にしては結構……。
「あぁ、いないと思ったんだけどな」
手塚くんは囁き返した。
「何をボソボソ言っておる?」
『い、いえ、なんでもありません』
なんかとりあえずここから逃れて次の場所に行った方がいいと思うんだけどな。
「それより、ここにはやはり例のワシの申し出を受けるために来てくれたんじゃろ?」
例の申し出? なんだろう、ボクには分からない。先生は徐々に渉に歩み寄ってきた。手塚くんは人差指で額をかいていた。少し沈黙が続き今度は先生はボクに顔を近づけてきた。眼鏡を少し唸って持ち上げながらボクの顔を見た。
「見ない顔じゃな? おぬしは誰じゃ? 何故ここに来た?」
「えっと、今日転校してきた源 あゆむです。だから、その、案内してもらってたんです、手塚くんに」
今度は手塚くんに顔を移して
「真か」
「っま、真です」
「そうか、ワシについて来いっ!」
そういって先生は暗闇の中に消えた。ボク達は遅れを取らないように着いて行った。先生は理科室の奥にある扉を開けて中に入っていった。暗いよ。やっと渉と先生の影が見えるくらい。よく先生は目的地の位置がこんな暗闇で分かるよ。さっきの入り口からの光が少しも入ってきてないし、やっぱりこの部屋も暗幕を引いてるし。
「手塚くん?」
「なんだ」
「なんでこの部屋暗幕張ってるの」
ボクは前方にいる先生に聞こえないように声を潜めて渉に問いかけた。
「それに関しては様々な情報を得ているんだが残念ながらどれもが不確かだ。それ以前に確かめようともしない。それにはやはり毒闇先生の噂が関係しているようだ。詳しくは今本人の前だから話せないがその噂のせいでここの理科室には誰も入れないようだ。加えて俺もその一人だしな。本当は今日は先生がいないと思ったからココに入ってきたというのに……」
噂ってまたよからぬ噂ですか? 薄暗くてよくは先生の顔を見ることは出来なかったけど、なんかおぞましい雰囲気が感じられたんだよなぁ。なんて、疑ってかかっちゃダメじゃないか。先生だって生徒の考え違えで噂が立っているわけで(まだ内容は知らないけど)実は心優しい人かもしれないじゃないか。信じてみてもいいかな……。
「止まるのじゃ」
先生の呼びかけにボク達は立ち止まる。辺りに何があるのか分からない。手塚くんも先生の指示に従ってボクの真ん前で静止した。先生はどこにいるのか分からない。
「ん?」
ボクは足でなにか踏んでいるような感触があった。なんだろうと思いその場でしゃがんで足元に手を伸ばしてみる。人差指と親指で擦った感触からすると紙ペラみたいなもの。なんなのかは分からない。
「どうした?」
真ん前にいた手塚くんが小声でボクの方に振り返る。
「うん、なんか落ちてるみたいで、手で触った限りでは紙みたいだと思うんだけど、なんだろう」
「貸してみろ」
そう言われて手塚くんの掌にその紙ペラを渡そうとした。だけど持ち上げてみると少し重い。コレは紙だけど……本だ。とりあえず手塚くんに手渡す。
「これは本だな。ちょっと待ってろ」
そう言って手塚くんは急にモゾモゾしだす。何してるんだろう?
「あった、あった、ここあんまり見えないから携帯の光でもないとな」
そう言って手塚くんは携帯をスライドして待ち受け画面(角度的に見えない)と共に光がそのモノを照らす。と同時にボク達の近距離だけ辺りが照らされる。先生はいないようだ。辺りは机があってその上に実験器具や薬品やら置いてあって
「こっ、これは!」
ボクはなんだろうと思って渉の手元に視線を移す。
「あっ」
ソレを見てしまってボクも思わず声をあげてしまった。なんでこんなものが理科室に!
『す、スクール水着の中身?!』
その本の表紙には高校生のような感じの世間ではロリ系と言われるのか分からないけどそんな感じの6人がスクール水着を着てプールサイド(室内)にあられもない姿、ポーズで表紙を飾っていた
「ちょ、なんでそんなものがココにあるのっ!」
「ちょっと黙ってろ、俺はコレを捜し求めて1ヶ月と15日10時間54分22秒。誰がどうして持ってるかなんてどうでもいい。いいか、これから俺はコレを見る。じっくり見る。なんせプレミアものだからな。だから話しかけるなよ! いいな?」
「先生が来たらどうするのっ」
「愚問だ! 隠すに決まっているだろう」
「先生の私物ってこともあるんじゃない」
「それは気にする必要ない。いいか? この学校の規則として教師とあれどもこんなモノを持ち込むのは厳禁なんだ。破ったら……」
「……破ったら?」
「予想できるだろう? 取り上げられそうになったらそれを逆手にとって脅せばいい、あっ、ヤベッ、光がっ」
手塚くんは携帯をスライド再びしなおす。根性ひん曲がってるなぁ〜。なんか手塚くんっていう人間が少し分かってきた気がするよ。ちょっとこの先、手塚くんの全てを知っていくのが……恐い、かも。
「もう分かったよ」
ボクの顔の温度が少し上がる。右手で頬を触ってみる。やっぱり熱ってる。ボクには刺激がちょっときついかな。なんせもう……平常心が。……ズボンのチャック部分に当たって。そうだ、こんな時に莉紗子にもらったビタミン剤を飲もう。ボクは懐から小瓶を取り出して薬を何粒か水なしで飲んだ。
「うわぁ!」
ボクの反応に渉はこっちを向きもしない。気にもしないのか。なんで? 下半身にやけに力が……漲る。お父さんが持ってたって、コレは!?追い討ちかけないでよ、っあぁっ。莉紗子〜っ! ボクはズボンのチャック部分に両手を当てて蹲る。帰ったら抗議してやる、莉紗子。お父さんも同罪だよっ!
携帯の光が辺りを照らす薄暗闇の理科室(?)の中、先生が消えてしまった間ボク達はそれぞれの問題に対処していた。
読破戴きありがとうございます。
さて今回は量的に少ないですが少しでも楽しいと思っていただければ嬉しいです。
最近ユニーク数が初期段階に比べ飛躍的に伸びている事が確認でき至極の限りでした。
ですがこの状況に満足せず更に新規読者様を増やし、
現段階で読んで戴いている皆様に少しでも満足して戴ける精一杯頑張って参りたいと思っています。
質問・感想などありましたら評価の方をどうぞよろしくお願いいたします。
それではまた次のストーリーを読んで戴ければ幸いです。