1.=始章=ファースト・ミッション
「昨日は残念でしたね」
「ええ、でもその後ボクの買い物につき合わせてしまってごめんなさい」
その日はボクにとって奏応学園初登校日だった。ボクと雪穂さんは運転手を平賀さんとする車の中そんな会話をしていた。昨日は本屋に行ったら休みで、結局ボクの学用品を買うのに雪穂さんにつき合わせてしまった。
「そんなことはありませんよ。自分の思ったとおりにいかない事だって沢山あって人生でしょう。だから全然いいんです。何より昨日は楽しいモノを見せていただきましたし……」
「いっいや、昨日は店員さん達が勝手に……」
「着せ替え人形みたいで面白かったです、フフ」
雪穂さん……ボクはモノじゃないです。ボク達は昨日制服を新調しにある制服店に行った。でもそこで対応した20代の女性店員さん達8人がくわせモノで、ボクが『かわいい』 とかなんとか言って、制服以外のメイド服? とかウェイトレス服とか婦人警官の服とか何処からか持ってきて、ボクに無理やり着せて写真を撮ったんだ。そんな写真どうしようって言うんだろう……。第一なんで制服店にそんな服が……、もしかして制服って色々の制服をさしていたのかも。分からないけどボク達がいた一階には学校の制服や学用品しか置いてなかった。暗幕を張っていた2階への通用口を通ればもしかしてボクが無理やり着せられた服があったかもしれない。これはもちろん想像だけど……。全くボクには理解ができないよ。
「あゆむ様、昨日ご用意致しましたお部屋に不都合な点はございませんでしたか」
突如、バックミラー越しに運転をしていた平賀さんが話しかけてきた。
「……、特には……ないです」
「作用でございますか。御当主様から突然仰せつかりお嬢様の隣のプライオリティールームを改装し急ぎで用意したので、心配でしたが、それなら良かったです」
ボクはコメントしづらかった。何故ならボクの部屋は……。
「私のお部屋の隣じゃご不満ですよね……」
ボクの表情を見てなのかこう呟いて、雪穂さんは隣で落ち込み気味に俯く。そう、ボクの部屋は予想だにしていなかった雪穂さんの部屋の隣。
「い、いえ。そんなことないです」
ボクのこのコメントを聞くと雪穂さんは顔を上げて嬉しそうに
「良かったです。あゆむさんが隣のお部屋なのでいつでも本の批評ができるのでとても嬉しいです」
「そうですね、ボクも嬉しいです」
「クラスは何組になるんでしょうね。私、あゆむさんと一緒のクラスになれたら嬉しいです」
恥ずかしげもなく直球ど真ん中に心情を伝えてくる。少しボクは照れた。確かにボクも唯一学園で知り合いになるであろう雪穂さんと一緒のクラスになれたほうがどんなに助かるか……。でもこればっかりはボクの思い通りにはいかないだろう。
「さぁ、でもボクも雪穂さんと一緒のクラスになれたら安心です」
「私、なれるようにお祈りしてますから」
そう雪穂さんは言って自分の通学バックの中からなにやら取り出した。よく見えない……。そして両手で握り締め本当にお祈りを始めてしまった。いや、本当にすることはないのでは? バックミラー越しにふと平賀さんを見てみる。見る限りこの光景を微笑ましく見ているようだ。視点を変えて、雪穂さんの手に握り締められたものをじっと見ていると、雪穂さんが気づいたのか聞いてきた。
「どうしたんですか」
いや、それボクのコメントでもあるんですけど。モチロン心の中の声は口には出さないように。
「いっいや、な、なにを握り締めているのかなって思ったんです」
「これですか、これはですね……」
お守りだった。でも何かが違う、何かが……
『あっ』
ボクと雪穂さんはお守りを見てビックリしてしまった。お守りは確かにお守りだけど、これは、
「あっ、あんざん?」
そう、それは安産のお守りだった。雪穂さんは瞬時にバックにそれを戻してボクの方から顔をそらした。聞きたいことは山ほどあった。でもここはあまり触れるのはやめておこう。きっと何かの手違い。そう心の中で解決する事にしよう。それ以降車の中で雪穂さんと話す事はないまま、学校の正門に車は到着したようだ。
「お二人とも、着きました」
そう平賀さんは言って運転席から外に出て後部座席のドアを開けに来た。雪穂さんが最初に出て、次にボクが。
「行ってらっしゃいませ。今日は15時36分49秒にお迎えにあがります」
なんか物凄く中途半端な時間だなぁ。それに関して雪穂さんは頷くだけで一言も発しなかった。平賀さんがそれを見て頭を下げ、ボク達は昇降口に向かって歩き出す。数歩歩き出すといきなり雪穂さんが頭を下げ始めた。
「わ、わたし先に行きます!きょっ、今日は日直なので朝の先生との打ち合わせがあるんです。
ごめんなさい。じゃ、じゃあ、また……」
そう言って、走って行ってしまった。一人取り残されるボク。やっぱ恥ずかしいよね。周りには誰もいない。それもそう、実際の登校時間よりも2時間も早く来たのだから。こんな時間に来てる人なんかいないよ。そう、しかも部活の人だってもう少し後にくるだろう。
辺りは閑散としてて、たまに風が吹いて周りの木々がそれに揺らされてカサカサっという音を立てるくらい。正面に見える校舎も大きい。一体何人の人が通ってるんだろう。そう思わせるほど大きかった。6階建て?! しかも建てられたばかりみたいに新築? 加えて学校とは思えないほどのモダンな造り。前にも一回来たけど本当に学校なのかと疑いたくなるほどの校舎だった。とりあえずあとは隣になぜか国立競技場みたいなグラウンド。ここ、学校? 編入届けを出しにきたときに続けて2回目の疑問。雪穂さんは行っちゃったし時間もたっぷりあるし、ボクは少し周りを見て回ることにした。
まず驚いたのはこの学校の敷地面積。東京ドームいくつ分? 分からないけど校舎も幾号館かあって、テニスコート、バスケットコート、サッカーコート、弓道場、室内プール。色々あった。特に驚いたのは乗馬場があって、馬小屋らしきものがあったということ。この学校すごいお金持ちなんだなぁ……。でも少し気になったことがあった。それは剣道場が見当たらなかった。
何故剣道場が気になったかというとやっぱりボクのおじいちゃんが剣道をやってて毎日のようにしごかれたから、やっぱり少なからず思いいれがあったんだ。まぁ、剣道部に入りたいわけじゃないけどね。
あれってもの凄く痛いから。面は金具のところに当ててくれればいいけど皆その奥の布地の所に打ち込んでくるし、籠手だってスナップがきいた人がやるとめちゃくちゃジンジンして痛いし、胴も外されたら最悪。一回だけ下の方の急所に当たったことがあって(わざとではなかったらしい)死にそうになったことがあったし(袴の下は何も穿かないからなおさら)それ以来もう剣道はやらないって決めたんだ。モチロンおじいちゃんにその旨を伝えたら残念がってたけど……。
しばらく探しているとさっきの校舎の方面に向かって歩いている女の子が見えた。ちゃんと制服着てる(当たり前だけど)あの女の子に聞いてみよう。ボクは走って行ってやっとの思いで彼女の元にたどり着いた。
「あっ、あの」
「……なに?」
ボクを睨み付けるかのような目。
髪はロングで赤髪、顔はモデルのような顔立ち。
「て言うか、あんた誰ッ」
腰に手をやってそうボクに尋ねた。
「源 あゆむです。転校生で……ちょっとお聞きしたことが」
「転校生? それで何、私これから行くところがあるの、手短にしてくれる」
少し不機嫌な口調でそう言って、溜息をつき始めた。とにかく感じが悪かった。
「えっと、剣道場はどこかなって」
「剣道場!?」
彼女は驚いた面持ちでボクの方を見つめる。
「そんなものないわ」
「そうなんですか……」
「用はそれでおしまい?」
「ええ、まぁ」
「じゃあ私は行くわ。さよなら」
そう言って何処かに消えてしまった。剣道場がないことは少し残念だった。さてこれからどうしよう……。
「あゆむ様」
背後から声が聞こえた。振り返ってみるとスーツ姿で耳にイヤホンをつけた若い男の人がいた。こんな人知らない、っていうか学校の関係者なのかな。直感からいって違うかも……。
「私は源家専属執事一尉水島と申します。あゆむ様とはお初にお目にかかります。こちらに来ていただけますか」
訳が分からないままその人についていった。さっきの校舎の中に入ってエレベータで6階に行ってその中の一室に入っていった。
「ここでお待ちください」
中は大会議室みたいに長机と椅子が置いてあった。そしてその中の一番上手にあたる席に座らせられ
「あそこのモニターを御覧下さい。もうすぐご主人様と通信がつながるはずです」
お父さんと?! 一体何の用だろう……。水島さんは一礼して部屋を出て行った。机を触ってみる。白いホコリが手につく。よっぽど長い間使っていなかったんだなぁ。
「あゆむ、ちゃんといるな」
その時モニターにお父さんが写った。
「お父さん、一体何用なの」
「何用って、お前に第一の指令を言い渡すためじゃないか」
あぁそうだった。すっかり忘れてた……。ボクは源家の家訓を果たすって約束してしまったんだ。
「あぁ、ゴメン。忘れてた」
「じゃあ、申し渡す」
「うん」
「この学校で生徒会を立ち上げろ。勿論あゆむには生徒会長をやってもらう。まず人員を確保してそれから学校の皆にこの生徒会が認められれば任務完了だ。その時は部屋の外で待機しているだろう水島に言い渡してくれ。その時またココで次の指令を言い渡す」
ブチっという音と共にお父さんとの通信は途絶えてしまった。
やっと本章に入る事が出来ました。
まだ若干入ったくらいですけど・・・・・・。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。よろしければ評価のほうも徐々によろしくお願いします。
それでは次のストーリーを見ていただければ幸いです。