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Achieve〜与えられた試練〜  作者: Tale Jack
●別章 【源家】
53/56

3.他愛の無い話

 街の喧噪が一瞬止んだ気がした。そして時が止まってしまったかのような感覚を覚える。視界には理紗子と、正体不明のメイドしか映らない。

 

 ――――――喪失感

 

 一言で表すのならばこんな言葉。しかし、そんな感覚の周りに猜疑心が纏わりついている。それはまるで淡紅梅区全体から源 あゆむという一個人を対象にされたようでならない。

 

 しかしそれでも、秒針は刻一刻と時を刻むのであった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 St.Veraferith女学院、理紗子の通っている中学校である。世界各地のヴェラフィン教徒が、自分の娘をここに入学させようと躍起になっている。その為競争率が高い。その理由は至って簡潔。

 

 ――――――St.Veraferithが学園の創始者であるから

 

 しかし、我が妹はそんな理由で入学した訳ではない。

 

 St.Veraferith女学院、慈愛と友愛や献身さを重んじているお嬢様学校。その方針からか成績優秀者には奨学金が支給され、3年間トータルで512万4671円から189万2983円になんと学費が減額。加えて、多国からヴェラフィン教徒がやってくるので、異文化コミュニケーションや語学力も付く。故に理紗子は御学校を選んだのだそうだ。

 

 蛇足かもしれないが、金を積めば入れるような学校ではない。実質偏差値71と化け物並みであるため、単に金持ちが入れる学校でもないのだ。

 

 しかも理紗子はSt.Veraferith女学院で「TFSV」の枠に属している。意訳するならば、「特別待遇秀才枠」である。この上限は学院生徒数1600名の中のたったの3人。要は超人のなかの超人なのである。故に「TFSV」に属している理紗子は学院から様々な特権を与えられるとともに、特別待遇を受けているらしい。

 

 その内容は知らないものの、この現状はもしかしたらそこから来ているのかもしれない、と予想する。すると兄が知らぬ魁傑な妹像が創造できてしまう。

 

 ――――――再び寂寞の念が込み上げてくる……

 

 ボクは妹の肩に手を置いたまま固まっていた。行住坐臥の毎日が揺らぐような気がしたのだ。

 

 そうこうしている内に、ボクの手に温度差の感じられる手が重ねられる。

 

 ――――――予想が確定事項に変わった瞬間だった

 

「おにいさま? どうかしたの」

 

 メイドさんに会話が聞こえないように、ボクは妹の背中に手を添えながら少し前進するように誘導する。そして少し距離を取ったところで、妹の耳元で囁いた。

 

「理紗子……とりあえず父さんに会いに行く前に、これだけは教えてくれ。あのメイドさんやあのリムジンは何だ?」

 

   理紗子の特別待遇の中にこれらが含まれているのなら、合理化出来なくもない。しかし、その内のメイドが先ほど「本日付で貴方様、源 あゆむ様の専属のメイド、お側御用役として寝食を共にさせて戴く……」と言った。つまりはこのことから三つの事が言える。

 

 一つは「専属」という言葉から類推する。専属というからにはボク以外の人にも専属のメイドさんが存在する訳だ。当然、理紗子にも。その為、兄妹に付くのだから家族である父さんに付く事も当然と言える。すると、ここで疑問が浮かぶ。

 

 ――――――いくら特別待遇と雖も、生徒の家族にまで同待遇の処置を学院側が取るのか

 

 二つ目は「お側御用役」という言葉である。この事から類推できるのは、お側御用「役」であるからして他にもいくつか役がある訳である。それを受けられる特別待遇なるものは、かなりの大規模で且つ過度な待遇とも言える。しかもプライベートの現在にまでそれが進出してきている。すると、またここで疑問が浮かぶ。

 

 ――――――学校側がそんなプライベートまでも、世話を焼くのであろうか

 

 三つ目は「寝食を共にさせて戴く」という部分である。これに関しては異常と言わざるを得ない。まぁ、食事に関してまでは分からなくもない。と言っても、これでも非現実的ではあるのだが……。しかし、「寝る」に関しては理論的にも、個人的にも別である。

 

 理論的には一つ目の時の疑問が掲げられる。

 

 個人的には……、ボクが高校生であるという事だ。あのメイドさんは少なくともボクと同い年ぐらいであろう。そんな女性とボクが一緒に寝るなど、あってはならない事だ。年頃の男女を一緒にしてはならない。殊、in the bedでは。何が起きるのか分かっているであろう、神よ。もしもボクが発情したらどうしてくれる?(勿論間違ってもしないが……、強姦に発展しかねない立派な罪だからな)責任を取ってくれるのか? ボクは隣で小動物のように寝ているメイドの腰に手を掛け、ベッドに仰向けにさせ、嫌がるメイドを尻目にボクは獣の如く飛びかかるだろう。あらゆるものをむしゃぼり……まぐわ……。

 

 ――――――何を創造しているんだ。理性の欠如は身を滅ぼす、しっかりと胸に刻んだはずではないか

 

 兎角、これら全てを統合すると

 

 ――――――これらの待遇は学院側の処置ではない

 

 とすると関連してそうな事側は……

 

 ――――――父、源 雄司

 

 そこまで浮かんだ所で思考を停止する。

 

  「おにいさま、大体予想は出来ているんでしょう? なんかこの事を私が伝えるべきじゃないと思うの」

 

 理紗子は顔の前で手を合わせてちょこんと頭を下げる。

 

 確かにそうかもしれない。お父さんが理紗子を仲介としている訳だから、本元はお父さんな訳で、理紗子に疑問をぶつけるのはお門違いなのかもしれない。しかしそれでも、自らの頭にこびり付いている異物を少しでも拭い去って欲しかった。いやいや、これはワガママなのかもしれない。

 

 自分の顎に手をやって考え込んでいると、理紗子が目の前の視界からいつの間にか消え去っていた。

 

「深戸さ~ん。早くおにいさま乗せちゃって~」

 

 先ほどのメイドさんにそう促すと、理紗子は後部座席に一人でさっさと乗り込んでいった。

 

「はい、かしこまりました~」

 

 理紗子が乗り込んだ後部座席に向かってお辞儀を済ませると、ボクの方を凝視する。すると、なんの前触れもなく走ってきて、ボクの手を引っ張る。

 

「ゆ、ゆきますよっ、んぅ~」

 

 メイドさんは背を向けて一歩前に踏み出るも、ボクを引っ張る事はかなわない。やはり、その力は外見通りに女の子のそれであった。すると今度は両手でボクの腕を掴んで引っ張り込む。しかし、どうやっても動かない。いや「動く」というアクションをしようとしていない、と言った方が正しいか。何故ならばまだボクは顎に手をやって考え込んでいたからである。

 

「ほ、ほら……、お気を確かにぃっ、んぅ~」

 

 やがてメイドさんは手を離して、ボクに正面から相対する。

 

「さん、にぃ、いち、ハイっ」

 

 ゆっくりとカウントを取っていきながら、メイドさんはまるで通せんぼをするようなポーズを取り、後ろに反動をつけた後

 

「お、お気を確かにぃっ!!」

 

 そう声を上げて、一気にボクの両頬をビンタする。メイドさんのフィニッシングポーズは「胸を交差して隠す」それであった。しかし事はそんな可愛らしいような事柄ではなく……

 

「い、いったぁ~~、……」

 

 ボクはあまりの打撃+不意打ちに思わず腰を抜かし、その場にヘタリと尻もちをついた。そしてやっと正気に戻り、その動作主の方を見上げる。いつのまにか頬の痛いという感覚は、痺れという感覚に変わっていた。そしてそれが認識できたと同時に、頬に手を当てる。頬に炭酸が弾けているかのような感覚を味わいつつ、口を開く。

 

「何ビンタしてるの?」

 

 するとメイドさんは人差し指を下唇付近に当てながら、上方を仰いだ後

 

「何って、あゆむ様……銅像なんですもの」

 

 そうサラリともらすメイドさん。ボクはどうやら人として認めてもらってないらしい。

 

「銅像って、何?」

 

 すると、またも先ほどと同じようなアクションを取った後

 

「何って、あゆむ様……駄々っ子なんですもの」

 

 ――――――コミュニケーション能力の欠如!?

 

 まずボクの問いに答えてくれない。続いては謂れの無いカテゴリに括られる。人ではない銅像みたいなボクは……、いや。「駄々っ子」なんだから人として返り咲いたと考えて良いのか。しかしそのカテゴリはボクの年よりも遥か下の年齢に付けられるもの。むしろ退化してないか? つまりは、もしかして幼児として見られている? もしそうであるならば即座に是正せねば。そう、今、この瞬間に。

 

「いいですか? ボクはしっかりとした定見がある、又それを実行に移せる人間であると自負しています。であるからして、ボクは赤ちゃん言葉を使う様な幼児ではない訳です」

「えぇ……」

 

 メイドさんが少し首を傾げる様にボクを見ながら相槌をうつ。なんとも腑抜けているように聞こえてならない。いわば内容を飲み込めていないと言ったところか。そうなると話は変わってくる。一言で且つ単純明快な言葉に集約しなければ。自分が中人であるという事を認識させるためには……

 

「理紗子の兄ですが、何か?」

 

 いけない、つい威圧的に口語してしまった。もしかしたら逆上するかもしれない。女性を怒らせた時の対処は……

 

「えぇ、ですか」

「ぷ、プレゼント買ってあげますっ!」

 

 メイドさんが言いかけた言葉を遮って口走ってしまったこの言葉。メイドさんはこれを聞くと同時に目を丸くした。キョトンとしたような様子に見える。

 

 何かおかしな事を言ったのであろうか? 以前雑誌で見て一度は使ってみようと思ったから使ってみたのだが……。何故なら、女性はまず「プレゼント」という言葉に滅法弱い。これはまず間違いない。

 

 いやしかし、よくよく考えてみれば問題点はある。まずこれではボクは金蔓カモに成り下がってしまう。もしも、目の前のメイドさんが実は強欲且つ守銭奴であったらどうする? ボクはこれを契機に彼女に強請られるまま、諸品を買わされる事になる。想像してみよう……

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

「あゆむさまぁ~、このバッグ買ってくださぃ~、ねぇ、凄く凄く欲しいんですぅっ」

「えぇ~、高くない? せめてこっちの牛革のバッグにしときなよぉ」

「えぇ~、そんなババ臭いの嫌ですよぉ。こっちの鰐皮のブラックがいいのぉっ。ねぇ、いいでしょう? このあいだプレゼント買ってくれるって言ったじゃないですかぁ」

 

 そこで賺さずメイドの人差し指がボクの胸に打ちつけられる。

 

「だ、駄目だって、こんなところで。分かった、分かったってば。買うけど……、『プレゼント買う』って言って3度買ってあげたじゃない」

「だってぇ~、回数制限なんて言わなかったじゃないですかぁ~、ねぇ、あ・ゆ・む・さ・ま?」

 

 お次はボクの胸を指先で蛇を描くように這わせる。

 

「とと、あぁ、うぅ、だ、ぼ、ぼく、はぁ」

 

 そして、とどめは艶めかしい唇をボクの耳元に近づけて熱い、熱い吐息を吹きかける。

 

「フゥ~」

「はぅあ~、いぃ、いやよくな、ぅうわ、は、はい、分かりました、買う、買うから耳にフゥフゥしないで」

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 ハイレベル過ぎる……。金蔓カモだ。いや、ここまで来ると道具ヒモに違いない。

 

 とそれは置いておくとしよう。そんな酷い人ではない。何故そのように言えるのか。

 

 ――――――メイドさんの瞳

 

 それはよく見れば、何か温厚な人柄である事を感じさせる。しかしそう考えると、また別に罪悪感に苛まれてしまう。

 

 ――――――ボク、最低だ

 

 人の気持ちをモノで買おうとしている。言動には注意すべきと教えられた筈なのに……、それに

 

 と、そうこう考えていると

 

「お、お気を確かにぃっ!!」

 

 またもやメイドさんのかます両手ビンタがボクの両頬にクリーンヒット。勿論、そんな事を予想してないボクはその場に倒れこんだ。

 

 今度は先ほどの比ではなく、痛いと感じる事すらないのだ。これは流石に一大事である。感覚神経がもしややられたのでは、そう考えて差支えないだろう

 

 ボクが口を開こうとメイドさんの方を見ると、距離のあった顔が一気に至近距離に。

 

 しかも、いつの間にか倒れこんでいるボクの胸倉を掴んでいたのだ。

 

 ――――――何故ボクの胸倉を掴んでいるんだ

 

 刹那……

 

「お、おクスリは、いけませ~んっ!!」

 

 ボクは宙に浮かんだ。

 

 飛距離、凡そ4メートル。

 

 ボクは先ほどのリムジンのある所の地面に叩きつけられた。

 

 直後、鈍い音と同時に背面や後頭部に激痛が走る。

 

「あぁっ、うぅ……」

 

 分かった。先ほどの疑問がやっと認識出来たのだ。

 

 ボクの胸倉を掴んだメイドさんは、マウントポジションを取った後、まるで槍でも投げるかのようにボクを投げ飛ばしたのだ。

 

 序盤のアレは手抜きだったって訳か……。

 

 その内、頭を抱え丸くなりながら身悶えしているボクの元にメイドさんがやってくる。ボクが痛がっているのを心配したのか、背中を擦り、一言。

 

「元気ですか~?」

 

 いや、前言撤回。心配していない。ボクは思わず謦咳する。

 

「うぅ、痛い」

 

 恐る恐るボクがメイドさんの方を見やると

 

「やっと、正気に戻ってくださいました。『プレゼント買ってあげます』って言われた時には、寝ぼけているのかなって思いましたけど、あの……お伺いしても宜しいでしょうか」

 

 目を背ける様にそう口語したメイドさん。何を聞いてくるんだろう。

 

 ボクは首を縦に振る。

 

「も、もしかして、ですけど……ら、乱用者なのですか」

 

 らんようしゃ? 意味が理解できない。……

 

 あぁっ! 先ほどの『おクスリ』ってまさか

 

「しちゃいませんよっ!」

「でもでも、先ほど意識が飛んでいらっしゃったようですし」

「考え事してたんだよっ!」

 

 すると胸を撫で下ろす様に安堵の息を漏らすメイドさん。ボクの上体を起こし、その後立たせる。

 

「さ、先ほどの御無礼をお許しください」

 

 今度は先ほどまでの不思議ちゃんから、真剣に頭を垂れていた。

 

 ――――――万華鏡

 

「いい、だから、頭上げてくれる?」

 

 ボクがそう促すと、メイドさんは顔を徐に上げる。その所作と並行して光沢のあるサラサラしている綺麗なショートカットの髪を揺らした。こんなに優美な黒髪をあまり見たことがなかった為、思わず目を見張ってしまう。ボクが見とれて凝視していると

 

「あ、あの……、そんなに見られますと、わたし……」

 

 急にしおらしくなり、頬が朱に染まったように思えるメイドさん。整っている小顔を俯け、艶やかな髪を耳に掛けるような仕草を取る。そして横目でボクの反応を覗っている。

 

 そんな姿に心打たれたのか、ボクは思わず目を逸らしてしまう。

 

「ちょ、ちょっと、おにいさまぁっ?」

 

 そんな時に先ほどリムジンに乗った筈の理紗子が、不機嫌そうに両腰に手を当てながらボクの顔を覗き込んできた。

 

「な、なんだよ」

 

「このお惚気をのこっ! メイドさんを食べちゃいけないのっ、これは規則。い~い? お手付き禁止ッ!!」

 

「き、規則って何?」

 

 何か責められている気がするのは気のせいなのであろうか。確かにメイドさんの仕草に、少し心動かされたものの……はて。何故か理紗子の視線が痛い。決して後ろめたい事は何もしていない筈なのに。第一、食べる事は愚か、お手付きすらしていないのだが……。何故か理紗子の視線が痛いのは何故だろう。

 

「はい、質問も認めてあげませ~んっ。大体、主人がメイドに手を出すなんて本の中でしか聞いた事ないわよ……。あぁ! もしかしてそういう本、おにいさま……も、も、も、もってたりするのッ?」

 

 赤面しながら、少々興奮気味に理紗子は問うた。

 

「はい? そういう本って何?」

 

 そうボクが問いかけると、理紗子はもう熟れたリンゴの如く顔を赤らめて、息を飲んだ。そして若干の間を空けた後、大きく深呼吸してから口を開く。

 

「え、え、えっちぃ、ほん、でしょぉ?」

「は?」

 

 この子は何を考えているんだ。え、えっちぃ、ほん、だと? 仮にボクがその官能的な本を持っていたとして、それをここで告白なんてするものか。白昼堂々どんな話題振っているんだ、理紗子は。

 

 理紗子は顔を落として、両手をだらんと垂らしつつ、握りこぶしを作った。

 

「だ、だから、え、え、えっちぃ、え、え、えろちっくな、ほん、でしょぉ? し、しかも、まま、まにあっくな……じじょ、趣向? む、むねは、大きいほぉが、いいの、かな?」

 

 おいおい、娘っ子がどんだけ根性座ってるんだよ。後ろのメイドさんが顔を伏せながら恥ずかしがっているじゃないか。こ、こっちだって恥ずかしいよ。こんな、公共の場で、むねの大きさについて議論しろと、そう仰るわけですか、妹よ。どう答えればいいんだよ。「お、大きいのに決まってるじゃないか」ってそう真剣に答えればいいのか? それはいくらなんでも白痴だろう。なにか、いきなり人生の壁にぶつかってしまったような気がする。

 

「……」

「うぅ、うし、と、まないた、どっちがいぃ、のッ?」

 

 ど、どう考えても極端すぎるだろッ! 大体「まな板」とか「牛」とか、相手を揶揄しかねるぞ。

 

「……」

「どっちでもいけるクチなんだ~」

 

 理紗子は感心したように、そう言葉をもらす。

 

「どっちでもいけるなんて、一言も言ってないだろうっ。 第一ソレを知って、理紗子はどうするんだ?」

 

 すると両腕を折りたたんで上から下に振り落とした。

 

「もし、おぉきいのがすきだったら、あたしがんばってお、おおぉ~きくなるっ」

 

 これは健気と言うべきなのか。そもそも、自分の意思でサイズアップを図れるのか聊か疑問である。まさか自分のソレに「おぉきくなぁれ」っておまじないをする訳でもないだろうか。

 

「頑張れ」

 

 そう言うと理紗子は、先ほどとは打って変わって目くじらを立て始めた。

 

「何、その投げやりな言い方~。あたしがないすばでぃになっても、おにいさまは気にしないってことなのっ?」

「いや、そういう訳じゃないが……」

「あの……御二方、そろそろお時間です」

 

 そこに運良くメイドさんが割って入ってきた。

 

 理紗子は大きく溜息をつくとボクの手を引き、踵を返してリムジンの方に誘導してゆく。そしてボク達が数歩歩くのを見届けたあと、その後をメイドさんが付いてくる。

 

 そしてリムジンが停車している位置に付いた時点で、ボクは立ち止まった。ボクを誘導出来ないと分かった理紗子は、手を離して再び向き直った。

 

「な、なぁ? ホントにこのリムジンで行くのか」

 

 理紗子の目を見ながら訝しげにそう問うてみる。

 

「なに、おにいさま? いやなの? だったら……、深戸さん?」

 

 そうメイドさんの方に顔を向けてそう促すと

 

「はい、かしこまりました~」

 

 そう言うと徐に胸ポケットから携帯電話を取り出して、そして誰かに電話を掛ける。

 

 そして数分後……

 

「お、おい」

 

 ボクは驚きのあまり、何を言ってよいのか分からなかった。周りの人もどよめいている。

 

 そう、ボクの驚きの原点は……

 

「これは何なんだ!」

 

 ボクは理紗子に向かってそう強く言った。そう言うのも無理はない。だって、普通はありえないのだ。

 

 ――――――ロータリー内が全てリムジンで埋め尽くされている事など……

 

「リムジン20台を御用意しました。どれでもお好きなお車をお選び下さい」

 

 そう平然と言うメイドさん。

 

 これでは「どれでもよりどりみどり、なんと100円ぽっきりっ!」ていう感じの手軽さではないか。しかもリムジンに乗ること自体に違和感を覚えた為に、理紗子に問うただけなのに何を勘違いしたんだこの二人は……。

 

「選べるわけがないじゃないかっ。第一どこからこんなの呼び寄せたっ?」

「まぁ、いいじゃないですか」

 

 メイドさんは手を仰ぐようにそう笑いながら言う。

 

 ここで「いやいや、良くないから」なんて言って問い詰めると、さっきの状況のように堂々巡りをするだろう。ここは流すしかないのか。いやしかし、一応言っておく、いやいや、その労力を費やすことすら……

 

 顎に手を掛けて考えているボクを見かねたのか、理紗子が指を鳴らしメイドさんに何かを促す。

 

 数秒後、ある一台のリムジンのトランクから何かを取り出してボクの目の前に置く。

 

「おにいさま?」

 

 ボクの顔をまたまた覗き込んでくる理紗子。けれど先程とは表層が違う。

 

 ――――――含み笑い

 

 何かを企んでいる、そう直感した。

 

「なんだ?」

「これ見て」

 

 理紗子は指を地面に向けて突っついた。

 

 ボクはそう促されて、理紗子の指示に従う。ボクの目に映ったのは……

 

 ――――――錆びれて且つペダルがボロボロの三輪車

 

「だから幼児ではないと、何回言えば済むんだっ」

「まだ二回しか伺っておりませんが……」

 

 メイドさんは何か不思議なものを見る感じで、ボクを眺める。

 

 この人たち、絶対ボクをバカにしている。間違いない。

 

「さぁおにいさまぁ? これでとつげきぃ~!」

 

 理紗子は公道の方を指さしてボクに向かってそう口語する。

 

「リムジンvsバーサス三輪車で戦えというのかっ?」

「もう、駄々っ子なんだから~。じゃぁ、深戸さん?」

 

 駄々っ子とかそういうものではない。モーターがついているモノと、動力源が人間では競争できる次元の話ではないに決まっている。にも拘わらず、ボクにそれをさせるという事は拷問以外の何物でもない。

 

 加えて、もしもボクの寛大な心でやってやろうとなって、仮に三輪車に乗ったとしよう。

 

 まずペダルに足を付けられない。しかもボロボロだから、いつかペダル自体がなくなるだろう。さらに、ボクの体重にこの三輪車が耐えられるはずがない。もし耐えられたとしてもそれで激走出来ようもないだろう。

 

 そして何よりも、三輪車に乗った高2近くの人間を周りはどう思うだろうか。画的におかしい事極まりない。

 

 ボクがそう突っ込みを考えている内に、メイドさんがある一台のリムジンのドアを開けて、ボクから間合いをいくらか取る。そして

 

「お、おいたわしいしやぁ~っ!」

 

 そう言ってボクの脇腹を回し蹴ってリムジンの中にシュート。刹那、何が起きたのか分からずボクは車内で気を失った。

 

 リムジン20台は音を立ててロータリーを走り去って行った。

 御閲覧戴き誠にありがとうございました。


 文章量が多くしたせいか、コミカル部分の描写が足りていないと思います。皆様の中で「こうしたほうがいい」という指摘点がありましたら、是非に御寄せ戴ければ嬉しく存じます。


 最近体調を崩し気味で、思うように執筆が捗りません。冬だけあって、病気にかかり易いのでしょうか。皆様もお体に十二分に御気を付けて、御風邪を召しませんように。それと、何方か風邪に効くモノを何か御存知でしたら御教授戴きたく存じます。


 当作品のアンケートの方を設置致しましたので、お手すきの際にでも御協力戴ければ幸いです。


 ~Special Thanks~

●ライクス様 ●うにゅう様

●当作品をお気に入り作品に組み入れて下さった37名の方、御一人御一人にも感謝申し上げます。


 それではまた次のストーリーもお読み戴ければ幸いです。

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