1.過去
長らくお待たせ致しました。改稿後の新プロローグで、あゆむの過去に触れたものです。やはりシリアスを呈さざるを得ませんでした。本章ではなるべくコミカルにストーリーを進めて参る所存です。何卒御容赦下されば幸いです。
桜も凡そ舞い落ちた春の終わりの頃。もうその頃になると段々とクラスの仲間と打ち解け始め、そろそろ自分らしさを呈し始めようかと思うだろう。ボクも例外ではない。持ち前の社交性で多種多様な友達を作った。楽しい日々を過ごしていた。しかしそんな事も束の間、一年間と少し通った学び舎を去ることになった。
そしてボクはその先『恐れ』と直面する事となる。ある意味やってきて欲しくないそんな出来事が、ボクに再びやってくるなんてその時は思っても見なかった。
あの出来事から約四年。その期間中再びそんな『恐れ』と直面する事はなかった。だから転校先でもそんな事はないと思った。しかし……。
生まれてから平凡な日々を送って、ボクは『平凡』な性格となった。でも『平凡』ってなんなんだ、と考えた時に『平凡』を定義付け出来ない。では何で『平凡』な性格なんて言えるのか。それは多分、本が物語るドタバタな『非凡』を自分と日々比較しているからだろう。そう、ボクはよく本を読む、それが日課となっている。そして憂う。何を? それは
――――――本みたいな『非凡』が自分なんかに訪れるわけがない、『空想』の世界
でも日課をこなす度に思ってしまう、こんな状況が自分に訪れれば……。しかし過去との葛藤でいつもそれが揉み消される。
自身の性格を鑑みてみると『社交性』を持ち合わせているが、持ち合わせていない。
――――――矛盾
勿論そんな事は分かっている。言葉遊びをしている訳ではない。正しくは『一方』では社交性を持ち合わせていて、『他方』では持ち合わせていない。言い方がマズかったかもしれないので訂正しようか。
――――――自分の想い人との関係に億劫になる
それは何故なのか。答えは分かっている。原因は中学時代のある出来事……
それは自分の望む正反対の現実だった。小学生までは何も意識せず、ただ無邪気に外で友達と遊んでいた子供……。男女という、それでいうジェンダーの差異を気にせずに。
しかし、中学生の入学式の時に自分は人生で初めて『恋』なるものをした。『恋』というモノを初めて意識したと言った方が正しいか。それが自身の性格を変動させたと言ってもいいかもしれない。所謂、『一目惚れ』といわれるものだと思う。自分がたまたま新入生代表で答辞を述べている際、その子は最前列の一番真ん中に座っていた。
気が気ではなかった、それが当時の本音。『恋』という感情を自分は持ち合わせてはいなかった。まるで突然やってくる津波に、どう対策を講じてよいか慌てふためく被災者のよう。
ボクは持ち前の社交性で多くの人と『友達』という関係で結ばれていた。それ以外なかった。実際、式が執り行われた体育館には男女共の『友達』が沢山いた。しかし、彼女を見た瞬間、どうであろう。しっかりと筆を認めて書いた答辞文をただ読むだけなのに、まるでその子にある意味『惑わされる』かのように、言葉が切れ切れになった記憶がある。
その際小学校時代の恩師が大勢臨席していて、その人たちの目を見開くような、そんな表層を目にするなり考えざるを得なかった。何を?
――――――そもそも自分が何故中学校の答辞を賜る事になったのか
他人からは『秀才』『優等生』等と持て囃され、それに先生達も感化させられたのか、先生達はボクをこの場で『代表者』として仕立て上げたのだ。
初めての経験且つ初めての失態だった。
――――――初体験
会場が次第にどよめくに従って、ボクは本来の現実に引き戻された。
――――――自分の仕事をしっかり全うせねば……
そうでないと自分のアイデンティーが侵される気がした。
その子を極力見ないようにして、遠目で平然を装いつつ役目を果たす。そして終わりに一礼し、壇上を降りる際に無意識にその『彼女』を見てしまった。すると彼女はボクの方を向きながら、満面の笑みで拍手を送っていた。その光景を見て、清楚さと儚さを思わせる彼女にまたときめいた。
――――――一体何処に
言葉では言い表せない。
『ときめく』それは、目と目が合った瞬間に稲妻が走る、そんな感覚。
たまたまその子とは同じクラスで、これは一種の『運命』だと思った。これは絶対にいくべきだと、声を掛けるべきだと。しかし座席は最前列と最後列。席が隣同士という好機的な状況であれば、身近な機会を得られるかもしれない。しかし、現実は違う。
自分は彼女に声を掛けて知り合いになりたい。しかし境遇的にそんな機会は簡単には巡ってこない。ボクは初めての感覚に心を躍らせて、心の行く先を知ってみたかった。しかし、どうすれば。
――――――なんと嘆かわしい、人一人に声を掛けるという事が出来ないのか
社交性を持ち合わせている自分が何故かその女の子にアクションをかける事が出来ない。そんな今までにない心と葛藤しながら、為にもならない先生の『訓示』を聞き流す。彼は一生懸命ボク達生徒に、人生訓を諭しているのかも知れないけれど、何を言いたいのかサッパリ分からない。要領を得ない、そんな教師だと一言目を聞いて即座に判断した。
そんな一日千秋ならぬ一時千秋の時を経て、とうとう休み時間になった。
ここでイジイジしていても何にも始まらない。仕掛けよう、そう思って席を立つと彼女はいなかった。一体何処へ行ってしまったんだろう? そう思いながら立ちつくしていると、一際目立つ笑い声が廊下から聞こえる。そう、まだ入学式。だから表立って肩幅利かせて話す人なんてあまりいない。そんな状態の中、突飛して存在感を露にする人たちにボクは嫌悪感を抱いた。
声の主はどうやら二人。男と女。誰なんだろう、そう思い立ってドアを少し開けた後、廊下を垣間見る。
しかし自身の気持ちとは裏腹な状況が目の前に起こっていた。『一目惚れ』した彼女と見知らぬ男が親しげに話す状況が目先にある。その瞬間ボクは多様なショックを受けて絶望した。
「またなのね、あの阿婆擦れ女も意外とやり手だわ。流石ってトコかしら、泥棒猫が」
そう背後から呆れ返ったような声。自分の傷心を感じている時に、さらに追い討ちを掛けられた気がした。
ボクが振り返るとそこにはセミロングの髪の女の子がいた。彼女はまだ入学式を終えたばかりだというのに制服を着くずしている。ボクが訝しげに彼女を見つめていると
「なに? 私の顔に何かついてるとでも言うの」
そう聞いてきた。何かついてると言うよりも、ここの不良なんですか? そう問いたい。しかし彼女は、その言葉に似つかわしくないほど顔は整っていた。アダルティな顔立ちで決して中学生とは思えない。雰囲気すらも大人のオーラが出てきていると言っても過言ではないかもしれない。見かけとの不一致。世の中は見かけじゃ判断しかねる事があると改めて感じた。その日二回目の感覚だった。
「いや……」
「何を落ち込んでいると言うの? まさか、あの子に恋をしていたの」
冷静沈着にそんな事を言う彼女を見て彼女の本心を反芻しつつ、ボクは目の前のこの子に親近感を覚えた。
「そうかもしれない。何しろボクにとっては生まれて初めての感情だった、から。だけどたった今その終焉がやってきた。君も同じなんでしょう?」
「なっ、何を言っているのかしら。あなたは馬鹿なの? 何を根拠にそんな事を言っているのかしら」
彼女の冷静沈着な態度が乱れ、表層も強張っているかの如く見えた。
ボクには分かっている。彼女がボクの嫌悪感の向いた先の男に『恋』をしていた事を。彼女は今やボクにいなかった同朋だ。そんな彼女が目の前にいる事がボクの萎靡な心を癒してくれている。
「さっきあの子の事『泥棒猫が』って言ったよね? という事は自分が好きだった人をあの子に取られた感情から出た言葉、それが根拠だよ」
「……」
彼女は口元をへの字にしながら押し黙ってしまった。
目元から二滴の雫が零れ落ちる。
ボクも彼女もただただ押し黙ったまま下を向く。
ボクの初めての感情が終わりを告げ、それとともに再びそれがやってくる事を恐れた。
その出来事以来何故かもうストーリーの結末が分かっている本を熱心に読んでいる。恐れているはずなのにそれを読んで夢を膨らませる。いや、恐れているのは『恋』をすることだ。もう『恋』が成就していると、分かっているモノへの恐れは一切無い。むしろそれに夢を抱いているのだ。だから本に韋編三絶している。
そう、『恋』に到るまでにボクは恐れを抱いている。
そんなボクがまたも高校時代に恋をする事になる……
御閲覧戴き誠にありがとうございました。
大変お待たせした挙句このようなストーリーしか掲載できないとは、自分の無力さを感じています。申し訳ございません。
しかし、皆様の御意見を賜り成長してゆきたいと思いますので、アドヴァイスやまた、賜れるのなら御支援下さればとても励みになります。
~Special Thanks~
●ライクス様 ●うにゅう様 ●未紋様 ●投稿者様
拙作に御指摘・御支援の御言葉を戴き誠に感謝申し上げます。
お気に入り登録をなさって下さっている皆様方や読者の皆々様方の御陰で、この作品は存在できています。ありがとうございます。
次話はいよいよ本章です。あゆむと雪穂が如何に出会うのかが見所になるかと思います。
何か御質問等ありましたらお気軽に御寄せ戴ければ幸いです。
それではまた次のストーリーをお読み戴ければとても嬉しく存じます。
※追記
ありがたくもメッセージを賜りました故、修正すべき点を補正させて戴きました。メッセージを下さった方には最上級の御礼をこの場を借りて述べさせて戴きます。ありがとうございました。
Tale Jack