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Achieve〜与えられた試練〜  作者: Tale Jack
★第二章 【第二の試練】
50/56

42.=始章=桜屋敷架蓮

  ここは多目的棟6F生徒会長室。この前生徒会長選を辛くも勝利し、会長に就任して数日でこの長年使われて居なかった12畳部屋に自分の席を置いた。以前忍び入った理事長室と比べても遜色のない程の、大きさである。中央には座り心地の良さそうな黒革の椅子や大机や客席長ソファー2つ、左右翼には大きい本棚にファイルや誰かの趣味としか思えない純文学と思しき書籍が所狭しと並んでいる。初めて見た時も今この時もこの光景に圧倒される。同時に調度の取れた部屋に自分が不釣り合いなのではないかと思ってしまう。一面張りの特注大ガラスから差し込む朝日を背に、ボクは中央上座の会長席に腰掛けて目の前の客座で横になっている昨日のあの彼女に声を掛けた。


  「架蓮、寝ちゃダメだよ」


  客座のソファーに上半身だけ横になって目を瞑っている彼女に困りながらそう呼びかける。しかし何も返事はない。これはもう落ちてしまったのか、それとも無視なのかどっちなのだろう。どっちにしてももう1時限目まで30分ない位である。始まる前に早めに話をしておかなければいけない。ボクがもう一言続けて起こそうとすると彼女から声が少し漏れてきた。気を感じたのだろうか、体を徐に起こし上に伸ばし欠伸をする。髪を手で梳かす仕草をしながらボクに目を合わせて、笑顔。


「おはよ、あーくん。昨日は激しかったね~、でもみぃちゃんは一つになれて幸せでした」

「ハイハイ、ソレハヨカッタネー」


 自分の事をみぃちゃんと呼ぶ目の前の彼女はボクの幼馴染でもあり、同じ小学校の同級生だった桜屋敷架蓮さくらやしきかれん。ボクの事はあゆむの「あ」の字を取ってあーくんと呼ぶ。彼女は訳あって中学生から女子高に通い、高校もそのままエスカレーターで進むんだと噂で聞いていた。そんな架蓮が何の前触れも連絡も無しに奏応学園にやってきて、ボクの…。1日経ってみても信じられない。少しでも現状を整理したいのと、架蓮が何かこの事で知っているのかを聞き出そうと思った。


「何で棒読みなのよ~。ヒドイなぁ、昔と変わらないね。でもこうやって話ができて良かったよ」

「今まで寝てたでしょ? いつもより前に登校しようとしたら家の前に架蓮がいて、話したいって言うからここに連れてきたのにいきなり寝るんだもんなぁ」

「だってこのソファー気持ちいいんだもん。この部屋も何かゴージャスだし、あっでもあーくんには何か似合わない気がする」


 そう言って架蓮はクスッと笑みを溢す。この部屋に入ってきた時、やっぱり架蓮も同じ事を思っていたんだね。


「ボクだってそう思ってるよ、でもボクがかいちょ」

「あーくん、会長になったんだって?」


 言葉が遮られる。昔から思った事を直ぐに口に出すので、ボクが話し終わる前に彼女が被せてくるのはそう珍しい事では無かった様に思う。


「そうだね、つい数日前に生徒会長選があって当選したんだ。お父さんから聞いてたんでしょ?」


 少し段階を飛ばして架蓮にそう疑問を投げかける。この問いかけで同時に2つ目の試練に関わる事を聞き出す足がかりにしたいと考えていた。


「パパっちからは何も聞いてないよ」

「え、うそ!」

「う~そ」


 間髪入れずにしてやったり顔で笑う架蓮に、どこか懐かしさを感じながら釣られてボクも笑みを溢す。


「あーくんが会長とか凄いよ、パパっちも何処か嬉しそうだったもん。なんか口元が少し綻んでた感じしたんだよね。でも、考えてみればパパっちがこの学園の理事長で、あーくんが生徒会長でって考えると何かあーくん王国みたいで面白くない?」

「あーくん王国って何かアホっぽいね」

「馬鹿にしちゃいやだよー」


 不思議と架蓮のペースに飲まれていて、それが心地良くてこんなバカバカしい話も笑って言い合える。時間を忘れてしまいそうで少し怖い。ふと返ってみるとソファーに腰を掛けていた架蓮が立ち上がって直ぐ隣に来ていた。ボクが架蓮を見上げると肘置きに今度は腰を乗せ、顔を近づけてくる。その内次第に架蓮から石鹸のいい香りが漂ってきて、改めて昔の幼かった彼女そのものではない事が分かった。


 鼓動が急に早くなっていくのが良く分かる。この心臓の音が直ぐ隣にいる架蓮に聞こえてしまっているのではないだろうかと考えてしまうと余計にまた緊張してしまう。


「みぃちゃん、あーくん王国のお姫様だね」

「え?」

「パパっちが王様で、あーくんが王子様、みぃちゃんがお姫様…言ってる意味分かる?」


  耳元でそう囁かれると体全身に震えにも似た痺れが走り、顔が体温を上げて火照っていくのが自分でも分かる。架蓮の囁きは今までに経験した事のないもので甘い物言いだった。言葉と言葉の間で彼女の生温かい吐息が耳を撫でボクの全神経が耳元に集中してゆく。


「分かんない」

「もぅ」


 ボクが分かっていながらそう答えに逃げると、架蓮はちょっと頬を膨らましボクの耳に息を吹きかけた。


「うっあ」


 自分でも驚く程素っ頓狂な声が出てしまう。キャスター付きの椅子を少し動かして架蓮から離れようとすると、動くのと一緒にそのまま付いて来てまた顔を近づける。


「いじわるな人にはバツだよ。もっと凄いバツもあるんだからね。だからちゃんと答えて」


 もっと凄いバツって何だよ、ちょっと気になる所ではあるけれども時間的にそうも言ってられない。逃げ場を失ったボクは覚悟を決めた。


「架蓮良いの?」

「良いのって何が~?」

「好きでもないボクと婚約者にな」

「好きだよ」

「は?」


 話を遮られた事に注意が行かず、彼女の放った言葉が果たしてボクに聞こえてきたものと違いないのか訝しげに架蓮を見る。その時のボクはまるで鳩が豆鉄砲を食らったような状態であったように思う。そんなボクを尻目に続け様に架蓮は話を進める。


「大好き」


 チュ、とボクの耳に架蓮の唇が触れる。またも突然の出来事に気持ちの整理がつかず、架蓮の目をじっと見つめていた。すると今度は今までボクを見ていた架蓮が頬を赤らめ目を逸らす。今までの態度と比べてより一層可愛いと感じてしまい、思わず口元に目が行く。艶のある桜色の2つの膨らみが今ボクの耳に触れて…と考えると感触が蘇りそのまま残る。架蓮は目を逸らしたまま続けて言葉を紡ぐ。


「小学校の頃から好きだった、でも言えなくて…。中学で離れて高校生になった今でもその気持ちは変わらなかったの。それよりか、その想いが強くなったの」

「ボクはてっきり中学の時から連絡がなかったし、嫌われたのかと思ってたよ」

「家の事情でね、勉強に専念しなくちゃいけなくて自分の恋は二の次にしなきゃいけなかったの。ううん、むしろ忘れられるなら忘れたいとさえ思ってたの。でもね、その気持ちは無くならないで残っていてパパっちから連絡があって会った時、運命なんだなって感じたんだよ」

「運命?」

「そう、運命だよ。たまらなく逢いたくなった時にその機会が巡ってきたんだもん。パパっちがね、みぃちゃんがもし良かったらあーくんのフィアンセになって欲しいって言われて心の底から嬉しかったの。だから二つ返事でOKして、転校もして今こうしてあーくんの隣にいるの。あーくんはみぃちゃんの事嫌い?」


  そう問いかけられた時にやっと目が合って、不安そうな面持ちをしている架蓮の頭を撫でた。


「そんなわけ無い」

「じゃあ好き?」


 そう追い立てられ、視界がどんどん狭まってゆく。架蓮しか見れなくなってしまい、周りに目を向けることが出来なくなっていた。何か考えようと思っても考えられない、思考がストップする状態に陥っていたのだ。ボクは異性としてどうかという事を別にして、友達としてという意味で無言で首を縦に振る。そうすると架蓮は目を潤ませながら堪えていた気持ちを笑として溢す。そんな架蓮に見とれていると彼女の顔が近くなってきて、鼻と鼻が触れ合う。架蓮は微かに鼻を左右に動かして、ボクの口元にチュっと口づけをした。先ほどの耳元へのキスとは違う、彼女の唇の温かさが伝わってきて口から微かに零れる架蓮の雫がボクの唇に伝う。思考停止、長めのキスだった。


 ---ガラっ


  「あゆむさん…」


 ふと架蓮ワールドから我に返って席から立ち上がり音がしたドアの方に目を直ぐ向ける。その時にはボクと架蓮の距離は離れていた。そんなボク達を見たのはボクの良く知るあの


 ---誌条雪穂


  だった。ボクが言葉に詰まっていると雪穂さんはお辞儀してその場を早足に去る。その後ろ姿を追いかける事も出来ず、その場に立ち尽す自分。隣の架蓮はバツが悪そうに「見られちゃったね」と何処か照れ気味にボクにそう言葉を掛ける。架蓮に対する気持ち、雪穂さんに対する気持ち、そしてこんな自分自身に対する気持ちが入り乱れ、渦巻き、ゆっくりと崩れ落ちるように後ろの席に腰を下ろす。


 1時限目開始の予鈴のチャイムが鳴り響いた------

ご閲覧頂きありがとうございました。

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