40.警護主任就任
「御覧戴けましたか」
お父さんからの手紙の内容で、これほどにまで驚きを隠せないほどの衝撃を受けているので水島さんの言葉は耳に入らなかった。
お父さんはボクにまたも1つの試練を課し、加えてそれに付随して3つの命令を命じたのだった。4つの命令は何ら問題なく受け入れられる。しかしながらボクが驚愕を呈しているのはそれの何れでもない、1つの試練なのだ。
ボクは……。にも拘らず、お父さんはそれを強制的に今年度中にと言う。一体何を考えているのか。そんなのまだなのに、『そういう勇気を持て』と言う真意なのだろうか。だとしたらそれは勇気とは言わない。それはただの蛮勇である。しかし、情けないが何れの憶測も的を得ない訳で、慧眼して的を得た正答を出す事が出来ない。
「あゆむ様? あゆむ様? どうなされたのですか? お加減でも悪いのですか」
ハッと我に返ると心配そうな顔を浮かべながら水島さんはボクを見つめていた。
水島さんの髪型は今日もオールバックであった。やはり以前からは少し違った面持ちでボクに相対している。そうか、水島さんが以前言っていた『そのうち分かる』とはこの手紙の内容の事だったのか……。
「い、いえ。少し驚いているだけです」
すると水島さんは声色を変えて、真剣な眼差しでボクを見つめる。
「試練の内容、ですか」
「さ、流石ですね。そう、です」
「私はその内容に関しては何も分かりません」
そう申し訳なさそうに言って水島さんは目を落とす。
そうか、水島さんはこの手紙の内容については一つの部位を除いて、他は知らないのか。それだったら水島さんに心配させる訳にはいかない、か。
「そうだったんですか、でしたらすみませんでした。なんでもありません」
「そうはいきません。私にどうか教えて戴きたく存じます。教授戴いてどうなる、という訳でもないのですが。何か少しでもお役に立てればと思っておりますので。それを私のお役目だと思っております」
水島さんは胸に手を当てて、一貫した態度でその様に言い、間を空けた後、最後にこう付け足す。
「私は本日付で源 あゆむ様付きの専属HS(Head Sp)の任に就くのですから」
そう、お父さんの4つ命令の中の一つの項目に『水島 惟則を源 あゆむ付きのSPに任じる』という風に記載されていたのだ。でもなんでボクにspなんて付くのだろう。ボクはただの高校生で重要な人間じゃないし、何故。お父さんの意図する事が全くと言っていい程分からない。
でもspを付けると言うのは単にお父さんの気紛れでという訳ではなさそうだ。深戸ちゃんも言ってた様にお父さんは何の理由なしに行動する人じゃないし。
――――――自分の頭の中でよく考えよう
普通Sp付けるという事はその対象が危ないという事で付ける訳だ。ここで考えなければならないのは「危ない」という度合いである。Spは単に用心棒という訳ではない事は分かる。『命』に関わる程の何かから身を守るために付けるもの。つまりはボクが何者かに『命を狙われている』かもしれないと予測するのが自然だろう。そう考えると何とも悪寒が感ぜられる。
「ぼ、ボクは誰かに命を狙われているのですか」
ボクは不安な面持ちで水島さんにそうゆっくりと問いかける。
すると水島さんは若干笑みを含みながら安心させる声色で
「まさか、そんな事はありませんよ。御当主様の保有社はもう既にコンツェルン化し、現在ではコングロマリット化し日本でも有数の大企業となっています。そんな御要人である御当主様のご子息であらせられるあゆむ様はこの位の備えは当然です。不当な輩もいる今日、何より危ない世の中になってきましたので用心の為ですよ。ですから何もあゆむ様が心配する事はありません。ですから何卒安心なさってください」
そうだったんだ、ボクの思い過ごしか。でもお父さんがそんな大きな存在だったって改めて認識させられた。確かにそんな巨大な企業のトップの息子ともなればそのくらいの用心は必要なのかもしれない。お父さんの真意が今分かったような気がする。
「ええ、単に私の思い過ごしだったのですね。それでは畏まってこれから宜しくお願いしたいと思います」
「はい、全身全霊を持って任務に当たります」
そう規律のとれた言葉を放った後に水島さんはこう問いかける。
「して、あゆむ様の今回の試練は一体何なのですか?」
「それは……」
改めて言うべきか否か考えた後、ボクは口を開く。
御閲覧戴きありがとうございました。
非常に短いストーリーとなってしまいましたがご容赦下さい。
〜Special Thanks〜
ライクス様
それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。