39.深戸
長らくお待たせ致しました。一ヶ月以上も経過してしまい誠に申し訳なく思っております。
さて、めでたくもPV200,000突破致しました。
これも皆様の日頃のご愛顧によるものだと感謝しております。どうぞこれからも応援の程宜しくお願い致します!
学校の校門が見えてきたところで少し気持ちが落ち着いたのか、ボクは安堵の息を漏らした。
思い起こせば、隣の不思議ッ子メイドさんは運転が非常に獰猛この上無かった。アクセルを徐々に踏んでゆくに従って、スピードが出る事への爽快感を覚えたのか知らないけれども、車の奇怪な爆走ぶり。しかも運転しながら口元が緩んでいるのだから、非常に畏怖を感じざるをえない状況下。二つの畏怖心による相乗効果を体感しつつ、車はいよいよ屋敷内を走り去っていくのである。
公道に出た時点で『絶対に捕まる』、と冷や汗を掻きながら辺りを見回す。そして不思議ッ子メイドさんにボクは注意を促すのである。
「ほほ、ほ法定速度守ろう? けけ警察とか来ちゃうから、ねっ?」
異様な片鱗を垣間見せる不思議ッ子メイドさんに対して、ボクは宥めるように温和にそう諭すのであった。しかし……
「ポリ公ですか……、鬼ごっこもいいかもしれませんね? ……心が疼きますっ、ウフフ」
そう言いながら更に口元を綻ばせていた。その瞬間、対向車線から大きなダンプカーが轟音と共に物凄い存在感を出だしながらやってくる。すれ違い時にボク側のドア擦れ擦れにダンプカーは通り過ぎるわけで、ボクは畏怖を通り越して硬直状態になってしまった。
徐に視線を車道に落としてみると気付いた。そう、車はオレンジラインをはみ出さない限界地点で走行していたのだ。
ボクはダッシュボードに手をやってそのまま何も突っ込む事が出来ずに前だけを見つめていた。
その内交差点で渋滞に嵌る。先頭車両までは9台くらいの車が停車していたと思う。不思議ッ子メイドさんは信号が赤から青に変わった瞬間に、ハンドルを左に切って猛スピードで先頭車両を追い抜いて交差点を通過しようとする。勿論法定速度などは遵守されているはずもなく、しかも先ほどのオレンジラインの事も頭を過ってボクはふと我に返る。
「ちょちょ、マズいってっ! ふぉふぉフォレンジラインみみ見たでしょ? ふぉふぉふぉ追い越し車線禁止だってばっ!! しかも、法定速度、警察、これは本当に」
「何もマズくはありません。心配しすぎです」
「うん、何も心配しすぎな事はないから。そんな安堵の顔で騙そうとしてもそうはいかないから」
「本当ですよ。嘘は言っていません、だって、たかがポリ公でしょう?」
「えぇ? うん、おかしいね? こここの世界は直接的にはその『ポリ公』によって強制されているんだよ」
「でしたら私を含め源家がこの世界を統制及び教育を行いましょうか? 容易いものです」
「どっ、どれだけ源家の力を過信してるのさっ? そんな力はどこから、あぅっ」
この人、実はSッ気たっぷりなのでは?
勿論当車が交差点を通過した時点ではもう後ろの9台の車を追い抜いていた。そして視界上前方には車は見当たらない事もあってかスピードをドンドン上げてゆく。故に言葉を話す事も徐々に儘ならなくなっていったのである。
突然後方で甲高いサイレン音が鳴り響く。嫌な予感がしながらもその後方へ視線を向けると……
黒の普通の乗用車のセリングには赤いサイレンが設置してある。
そう、瞬時に悟った。追い抜かしたあの9台の中に不運にも、覆面パトカーが紛れていたという事が。
ドライビング中はもうどこかに衝突したりしないか、そもそもここで自分の命を落とすやもしれないという気持ちを常に持っていた。だから自分の視界に入る情景全てに注意を怠らないし、なにより背後の覆面パトカーに細心の注意を払っている。
「前方の車両に告ぐ。直ぐに道脇に車を寄せて停車しなさい! 繰り返す、直ぐに道脇に車を寄せて停車しなさい」
後方から規律の取れた声色の音声がこちらに響き渡る。それを受けてボクの恐怖心は更に高まってゆく。
「やややっぱり、だだから言わんこっちゃ無い。警察が後ろに……。ほほほら、ももう距離が縮まってるって、おっ、大人しく投降しよう? ねっ? これ御願いだから!」
「源家のメイドたるものが警察程度の存在愚の存在に屈服出来ようものですか? いいえ、出来るはずがありません。いいようにチョロ巻かせてみせましょう。さぁ、鬼ごっこの始まりです」
「鬼ごっことか決してそんな軽い問題じゃないから! というか逆にこっちが教育されちゃうよッ」
「でしたらこちらは『強制』しましょう。さぁポリ公の駄犬共、掛かってらっしゃい。この源家メイド隊お側御用隊序列3士の浜辺 深戸がお相手仕って差し上げましょう。さぁ只今より強制という名の煉獄に誘って差し上げるわ。源家の人間に刃を向けることに後悔し、悶え苦しみ嗚咽を漏らしなさい。アハハハ……」
「ヒィ〜え〜ッ」
不気味な笑みとともに、豹変を遂げた不思議ッ子メイドさんはそういうとスピードを上げまくり、全速力で公道を爆走し、それから小道やうねり道、獣道までもを利用しながら波乱万丈なドライビングを体感する事約20分。ようやく警察も追ってくる事無く、この車は従来のスピードに戻った。(途中釘をばら撒いたり、煙幕をばら撒いたり、油を撒いたり、挙句の果てには何処から持ってきたのかAKライフルで覆面パトカー6台の前輪をパンクさせるなどの愚行の甲斐あってかもしれない……)そしてこのストーリーの冒頭に至る。
高校の門前に至ると車は停車し、不思議ッ子メイドさんは助手席のドアを開いてくれる。
「私の言った通り大丈夫だったでしょう? 所詮ポリ公はポリ公。高貴なる源家の足元にも及びません」
―――気絶による暫くの沈黙
「う、ん……。凄い、ね。ででも、車のナンバーとか控えられているかもしれないし、どどうせ捕まっちゃうんでしょ?」
「お気遣いは無用です。既に手はうってあります。警視総監に捜査取りやめの指示を促しておきました。警視庁と雖も所詮は源家の犬ですからね」
「はい? そんなら最初からそう指示出しておいてくれればこんな怖い思いはしなくて済んだのに! 頼むよっ」
「そうは言われましても、毎日の日課を欠かすことは出来ません。そもそも、警視庁にはどれだけの援助を行ってきた事か、それを鑑みればこの程度大した事ではありません」
なんか突っ込むところありそうだけど、毎度の事ながらスルーしましょうね。
「へ、へぇ〜」
「はい、こちらがお鞄になります」
この人の精神計り知れないわ、というか度胸がありすぎと言うか、逸脱してるというか、なんとも表現しにくい……。なんかこの人にこの先着いて行けそうにないかも。というか既に着いてゆけてない、よ。
不思議ッ子メイドさんはそう言ってボクに鞄を差し出す。ボクはそれを受け取って車から出る。そして不思議ッ子メイドさんを一瞥。まだメイド服を着替えていない。
「深戸ちゃんは一緒に行かないの?」
「ええ、私如きの使用人風情がこの様な高貴な御学校に通う事など許されようもありませんから」
「じゃあ深戸ちゃんは何処の高校に行ってるの?」
「私は高校に通ってはいません」
「えっ?」
そう言うと深戸ちゃんは若干俯きがちに目を落とした。なんだろう、今までの彼女から感じてきた印象からは少し外れたこの感じ……。悲しそうな瞳が垣間見える。どうしたんだろう、何かあるのだろうか。
「で、でも高校生なんだよね?」
この質問は侵入せざるべきスペースに足を踏み入れるか、入れないかギリギリのものだとは思ったが、ボクは躊躇しつつ問うてみる。
「…ええ、高校生です。 采ノ宮高校の通信ですが。恥だと思っています。源家のメイドたるものがそのような所に在籍している事自体、許されない事だとも分かってはいるのです、ですが……」
「恥なんかじゃないよっ。通信で何が悪い? そんな事誰が決めた? この社会? それとも貴方の勝手な社会観? だったら直ぐにそんな観念は捨ててしまえ! もしも貴方の社会観が正しいと考えるのならばこの奏応学園に一緒に通えるようボクが手配するよ!」
この人は社会的な視線を気にしている。しかも源家という社会的にブランド力のある存在に属す人間として更に負い目を感じて、不安定だろう。さっきの悲しい瞳はこの事を物語っていたに違いない。ボクがそれを取り攫うにはどうすればいいのだろうと考えた答えがこの回答にはあると思う。
すると不思議ッ子メイドさんは目線をボクに合わせて真顔で
「ありがとうございます。ですがやはりお気遣いは無用です。ご主人様のお手を煩わせるまでもありません、あと少しで卒業ですし……、では私はここで失礼致します。行ってらっしゃいませ」
そう言って頭を垂れると運転席に乗り込み車は急発進して何処かへ消えてしまった。
ボクは何か失礼な事でも言ったのだろうか? 少なくともさっきの不思議ッ子メイドさんの態度は好意的なものではなかったと思う。でもそしたらボクの何がいけなかったのだろうか……。
ふと昇降口まで続く並木道を見やるとそこには水島さんが立っていた。ボクはそこまで歩いてゆき彼の面前まで歩いてゆく。
水島さんの顔は少し強張っているように見えた。何がそうさせているのだろう、いや、仕事で疲労が溜まっているのかもしれない。ボクは徐に鞄から栄養ドリンクを取り出して水島さんに差し出す。
「お顔からお疲れの様子が窺えます。大丈夫ですか? もしよろしければ今朝ボクが持ってきた栄養ドリンクでも如何ですか?」
すると水島さんは口元に笑みを浮かべてボクに視線を合わせる。
「お気遣い勿体無いくらいです。畏まって頂戴いたします」
そう言ってボクの手からそれを優しく取って、キャップを開けて一気にそれを飲み干した。
「美味しいです。ありがとうございます」
「いえいえ、お役に立てたのなら嬉しい限りです。して何故ここに?」
「昨日申し上げた通りにあゆむ様に御当主様との対面を……と思ったのですが、現地でトラブルがあり、どうやら時間が間に合わないらしく」
水島さんはそう言いつつ自分の内ポケットからなにやら封筒らしきものを取り出してボクに渡してくる。
「こうして手紙という形になってしまいました。誠持って申し訳ございません」
「いえいえ、わざわざ渡しに来てくれて感謝しています」
そういって手紙の入った封筒を開け、手紙を取り出す。
そしてその手紙に目を向ける。
読み進めてゆくに従ってボクは大きく目を見開いた。
お父さんの第二の試練って、まさか。
こんな事を提示してくる……の。
御閲覧戴きありがとうございました。
まず最初に前半部分の大幅改編の件ですが、まだまだ時間を要します事ここにお詫び申し上げます。
出来るだけ早く行いたいと思っております。何卒ご理解・ご了承の程宜しく賜りたいと思っております。
さて次にこれはまだ企画段階なのですが、今後の創作や改編の参考にとアンケートを実施しようかどうか考えています。もし実施する際にはご協力の程宜しくお願いしたいと思っております。
今回の話は少しコメディーを盛り込んだつもりです。多少なりとも楽しんでいただければ幸いです。
深戸は私的にはクセになりそうな子です。こんな子いたら日々退屈しないんだろうなぁ、なんて思っています。そうそう、そういえばメイド検定ってあるの皆様ご存知でしたか? 私がメイドの資料集めをしている時に偶然見かけたモノなのですが……、驚きましたよ。と同時に日本やりますね〜。何方か受けた方か詳しい方は是非私に詳細をご教授下さい。
雄司からの指令にも是非ご注目戴きたい所です。一体何をあゆむに提示したのでしょうか? お楽しみに!
〜Special Thanks〜
Rikuto先生 ライクス様
それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。