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Achieve〜与えられた試練〜  作者: Tale Jack
★第一章 【第一の試練】
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37.困惑

 お父さんが木野城くんの会社を買収した。それはボクにとって信じられない出来事で、確かに木野城くんの会社が停滞してゆく事は読んでいたけれどもこんな事になるとは。お父さんは何故木野城くんの会社を買収したのだろう。もし停滞したとしても時間が掛かるにせよいつか自社自身で立ち直せるであろうに。その芽を摘むようなこんな、横暴。

 

 ふと視線を栄治さんに向ける。テレビを見ながら腕組してなにやら考えに耽っている様子。その内鼻息を漏らした。

 

「栄治さんは知っていたのですか? その、お父さんの買収の話……」

 

 栄治さんは腕組をやめて、テーブルに肘を付いてボクに視線を移した。

 

「今、初めて知ったよ…。まさか木野城の会社を買収するとはね、大したもんだよ」

 

 そう栄治さんは薄笑いを浮かべながら返答する。

 

「大したもん? 栄治さん、あなたは本当にそう思っているのですか。だったらボクはお父さんだけでなく、あなたにも失望せざるを得ません。いくら自分の会社の利益になるからといってやっていい事といけない事があります。前にボクの部屋のパソコンで源コンツェルンにの各分野について調べた事があります。確かに源コンツェルンはエレクトリック部門ではまだまだ発展途上の段階で自社だけで現状を打開して上位に上らせる事は難しいでしょう。指導顧問的な会社なり人材なり必要だとは思いますよ。しかし、自社にエレクトリック部門王手三大企業の内の一つが停滞したのをいい事に子会社化するなんて事はボクは許せません」

 

 ボクは真顔で栄治さんにそう真剣に話す。栄治さんは肘をつくのをやめて、苦笑いを浮かべ視線を落とした。

 

「ハハ、いやそういう意味じゃなくてね」

 

「ではどういう意味ですか?」

 

 ボクは身を乗り出して栄治さんの目を見つめる。

 

「あゆむ君はまだ『社会』というものを知らない、複雑なものなんだ」

 

「でも道義に反する事をしてまで押し通す事なんですか、この諸事は?」

 

 ボクは更に声を大にする。

 

「では聞こう。あゆむ君が今後、お父さんからの試練を成し得て会社を任された際の事だ。キミは経営者としてまず何を優先する?」

 

 栄治さんは視線を上げてボクをゆっくりと見据える。

 

「何をって、ですから勿論それは、道義です。いくら自社のエレクトリック部門が弱いからと言って子会社化にするというのは反対です。自社自身で真正面から成長させる事ができるはずです。例えそれが時間が掛かり、その所作段階で不利益を蒙ったとしても」

 

「確かにそれも大事な事だ、しかしもっと経営者として大事な事がある。社長になるであろうあゆむ君という存在は一人でその会社を動かしているのではない。他の従業員や幹部も含めての会社であり、その統括をしているのはあゆむ君だ。故にあゆむ君一人の事だけ考えればいいのではないのだよ。つまり自分の意志だけで会社運営できない、他の従業員・幹部達全員の事を優先的に考えなければ。それは他の会社に対しても同じ、私の言っている意味があゆむ君には分かるかな?」

 

「確かに分かりますが、でも曲がった事はしてはいけないと思います。例え他の人に多少の被害が及んでも、道を踏み外さなければ……」


 ボクがこういうと栄治さんは小さな溜息を漏らした。そしていきなり目の色を変え、いつもの優しいおじさんからは逸脱し蛇にでも睨まれているかのようなそんな感じに変貌を遂げた。ボクは唾を飲む。畏怖をその時抱いたが、しかしそれに負けじとじっと見つめる。


「詭弁だ。社会と言うものはそんなに甘いものじゃない。従業員に対して『多少の被害が及んでも』なんて事は経営者にとっては有り得ない思想だよ。キミはまだ分かっていないようだね、会社というものを。さっきも言ったように『会社』というものは社長一人で成り立っているものではないのだよ。多くの従業員に支えられて成り立っているが故に彼らの信頼を失ったら最後、会社は倒産へと追い込まれるだろう。厳しい事を言うようだがあゆむ君の言っている事は全てがキレイ事だよ。そんな事を言えるのは行動力に伴う達成力を持ち合わせた優れた人材のみ。あゆむ君は今回の選挙を見る限りではそれには値しない。現時点では、キミはその……アマちゃんだという事だよ。『多少』の被害が『多大』な被害へと発展する。キミはどちらの経営方針に沿うか選択を迫られる時がその内くるだろう」

 

「…、分かりませんね、分かりませんよ。ボクには栄治さんの言ってる事が理解できません、というより理解したくありませんね」

 

 頭に血が上ってゆくのがよく分かる。栄治さんはボクの言ってる事の本意を分かってくれていないんだ。ボクの意見を丸ごと否定するような言い草。

 

 ボクは皿に残っていたスープを飲み干し、ナプキンで口を拭いてテーブルに叛投げた。ボクが勢いよく立ち上がると同時に背後にいた深戸ちゃんが椅子を引いてくれた。

 

 振り向くと深戸ちゃんの手には自分の信玄袋とボクの学校の鞄を下げていた。

 

「学校があるのでお先に失礼しますっ」

 

 ボクはそう栄治さんに言って歩きはじめた深戸ちゃんの後ろを歩く。

 

 栄治さんは再び腕組をして自分の顎に蓄えている顎鬚に手をやりながら、もう片方の手で自分のワイシャツのポケットからタバコとライターを取り出してタバコに火を点した。そしてゆっくり一服、二服とボクの後姿を見つめながらタバコをふかした。

 

 

 ◆◇◆

 

 

「深戸ちゃんはさ、お父さんが木野城くんの会社を買収した事知ってるの?」

 

 今はとりあえずお父さんに事の真意を問いたい。けれどもしボクの予測どおりの答えが返ってきたら? その後はどうする。お父さんの今回やった事は確かに許せない。しかしボクは源コンツェルンで何も影響力を持っていない。故にボクは社会に対して何も出来る事はないだろう、無力。まだ社会に適応できない自分がなんとも嘆かわしかった。今出来る事は悔いながらも出来る限りそんなお父さんがやった事を撤回させたい。木野城くんには申し訳ない気持ちで溢れている。どう謝ればいいんだろう。彼から責められることはもはや避けられないだろう。

 

 ボクは前を歩いて先程から言葉を交わしていない深戸ちゃんにそう尋ねる。すると深戸ちゃんは立ち止まって、くるっと半回転してボクの方を見据えた。

 

「確かに先程の事を受けて木野城様はあゆむ様の事を悪く思うでしょう。しかし、あゆむ様は何かなさいましたか? 私はしていないと思います。ですから貴方様は毅然としていて宜しいですし、普通にいつも通りにしていて良いと私は思います。先程のあゆむ様のお言葉を返すようで誠に申し訳ないですが、御当主様が何か悪い事をしたようには私には思えません。むしろ私は御当主様は立派な経営者であるとそう思います。考えても見て下さい、株価はこれからも下落し続ける事でしょう、その事から源コンツェルンに利益などあまり齎されないのでは、むしろ失益額の方が大きいです。そんな現状ではあまり利益が見込めない会社を御当主様が買収したのは訳があっての事ではないでしょうか?」

 

 深戸ちゃんはそう淡々と語り、ボクに真剣な眼差しで返答した。

 

 深戸ちゃんってこんな顔もするんだ。今日の朝からしか知り合っていないのに色々な面が垣間見える。

 

 確かに一理ある。これから株価は下がりに下がってゆくだろう。しかし、そのような利益のない、むしろ失益額の方が大きい会社を手に入れるという事は先程のボクの私利私欲説は否定される。では何故お父さんは木野城くんの会社を買収したのだろう、謎は深まるばかりであった。先程栄治さんが言いたかった裏返しがもし深戸ちゃんの考えと類似するものであったら。


 いくら自分の意見が否定されて頭に血が上っていたとはいえさっきの態度は間違っていたのかもしれない。そう思うと後悔の念が込み上げてきた。そもそもなんでボクの学校の事を知っているんだろう、じゃなきゃ木野城くんの事なんて分からないはずだし。


「ではなんでお父さんは木野城くんの会社を買収したんだと思う?」 

 ボクは深戸ちゃんの鋭い洞察力に若干驚いていた。ボクは目先の出来事に腹を立てていたけれども確かに周りが見えていなかった。ボクは、まだまだだ。しかしそんな自分に何か嫌気が挿して、深戸ちゃんにその思いを少々ぶつけつつあった。

 

 すると深戸ちゃんは困ったような顔をして、

 

「そんな事は御自分で考えるべきです。なんでも人に頼って済ませようとする所はあゆむ様の悪いところです。今朝の朝食もそうです、あゆむ様の嫌いなピーマンが大皿の片隅に残されておりました。ピーマン農家の方がどんなに苦労して作り上げたものなのか、あゆむ様は今一つ人の御心というのが分かっていないようですね。一度農家に出向いて仕事を手伝ってみてはいかがですか?」

 

 今朝の食事からいきなり飛躍してピーマン農家の仕事を手伝うまで発展してしまった。しかも今朝が初対面なのにまるでボクを分かったような言い方。曲がりに曲がったボクの怒りは更にその方向を変える。

 

「まるでボクの事を分かったような言い草じゃないかな、今朝出会ったばかりなのにね?」

 

 すると深戸ちゃんは自信たっぷりそうな顔を浮かべて、

 

「奥様からあゆむ様についての報告書を逐一郵送してもらっていましたから。全17記全てに目を通しました。あゆむ様がここに来る前からの事も、全てこの頭にインプットしてあります。それともなんでしょうか、あゆむ様のお母様がご理解されていないあゆむ様がおありだと、そう仰いますか? だとしたらそれは間違いです、栄治様の言葉をお借りするならばそうですね……、その内あゆむ様も分かる時が来ますよ、お母様が一番お子さんの事を理解していると」

 

 ボクの成長日記的なもの? お母さんからそんなもの預かってるの、おかしいでしょ。

 

「なんか思ったんだけどさ、深戸ちゃんって偉そうだよね。ご主人様にはちゃんとした礼儀礼節を持って従うべきなんじゃないの? さっきから変な語託並べて論理を通そうとしてるけどさ。じゃあこっちから聞くけど、深戸ちゃんはピーマン農家に行った事があるというの? 行った事がないって言ったんじゃおかしな事になるよね、だってさっきボクに農家の気持ちを勉強したらどうかって言ったんだからさ。勉強した事がない人がそれやれって随分理に適っていないと思わない?」

 

 ボクは皮肉たっぷりに深戸ちゃんにそう尋ねた、顔を若干上に上げて目を細めるように。

 

「私の実家は農家ですが、何かおありですか? 加えて、メイドという存在を熟知されていらっしゃらないあゆむ様がその存在についてとやかく言う事は出来ないと思います。もし熟知されていると仰るのならまずメイドが成すべき所作を仰ってみてください」

 

 すると深戸ちゃんは無表情でボクに向かってそうさらりと言った。

 

 の、農家? 予想外の返答だった。相手を打ち負かそうとしていた自分が逆に返り討ちに遭うなんて。

 

「れ、礼儀?」

 

 ボクがそう言うと深戸ちゃんはやれやれといった顔でボクを見やった。

 

「五分咲きですね。正解は立ち振る舞いです。それから言葉遣い、挨拶と次々身につけてゆきます」

 

 深戸ちゃんは自分のスカートの布地をちょこんと摘まんで上にクイっと上げる。

 

「しゅ、しゅ主人が直して欲しいといったらその通りにしなくちゃいけないんじゃない? ほ、ほ他のメイドさんは皆そうしてるよ」

 

 ペースを大盤狂わせさせられているボクはもうどう反論してよいのか分からない。なんというか深戸ちゃんはボクよりも数段格上なような気がしてきたのだ。

 

「そうですか、で他になにかおありですか? 他のメイドは他のメイド、私は私。十人十色のメイドがあってそれでよいと思います。もしも皆が同じ性格、同じポテンシャルを外面に出していたらアンドロイドみたいで気持ちが悪いとは思いませんか? 私は私のやり方で主人であるあゆむ様に従う、あゆむ様の固定概念をなんとか打破して差し上げようとこうして先程から一生懸命なのですが、あゆむ様は何かおかんむりのようですね。御自分の感情に任せて発言、行動していると人は着いてきませんよ。仮にも本日付けで奏応学園生徒会長にならせられる御身がそのような事を念頭において置かねば務まるはずもありません」

 

 深戸ちゃんは真剣な目でボクを見つめてそう言った。

 

 何か胸に刺さったようなそんな感覚だった。なんでだろう、本当の事を言われたから? そもそもなんで今日はこんなにいつもに有るまじき状態になっているのだろう。あぁそうか、栄治さんにボクの意見を否定されてその感情を差し向ける対象を深戸ちゃんにしてしまったんだ。

 

 つくづく自分が愚かだと思った。ボクは心を落ち着けるために深呼吸を二三度する。しかし……

 

「何が言いたいの?」

 

 今ばかりは素直になれなかった。冷静にそうといかけてしまう自分がそこにはいたのだ。

 

「これ以上は何を言っても無駄のようですね」

 

「勝手に話を切らないでもらえるかな?」

 

 尚も双方冷静に受け答えする。

 

「あゆむ様……、私は一生懸命です。今朝に初めてお会いしてから時間は経っていませんが、一生懸命なんです」

 

 ボクはハッとした。何かに気付かされたそんな感じだった。深戸ちゃんは口調は普通であるのにも関わらず、何かを必死に目で訴えてきていた。

 

 そこで区切りがついた気がした。そうだ、深戸ちゃんはボクに助言してくれているんだ。ボクを良い方向に導くために。時間なんて関係ないんだ。

 

「い、言い過ぎたよ。さっきからおかしいんだ。頭に血が上ってさ、お父さんの買収話からなんでか頭がいっぱいになってそれで」

 

「いえ、当然の事です。様々な事が起こりましたからその整理は時間を要すはずです。しかしお忘れなく、本日は生徒会長の就任式。御気を確かに持っていませんことには選出して戴いた生徒様方に示しが着きません。私も言い過ぎました。数々のご無礼をひらにお許し下さい。この通りです」

 

 深戸ちゃんは最後に深く頭を垂れて、その間が続くとまた半回転して前に歩き出した。

 

「ありがとう、深戸ちゃん」

 

 ボクが見失っていた大切な何かを深戸ちゃんが教えてくれたそんな瞬間だった。と同時にメイドさんというのはやはり主には様々な意味で欠かすことが出来ないそんな風に思う、深戸ちゃんという存在はまだよく分からないけれど……。

 

 ボク達は平賀さんの待つ車がある玄関口まで向かってゆく。

 

 ところで深戸ちゃん、メイド服を着たままで学校はどうするの?

 

 

 


御閲覧ありがとうございました。


〜Special Thanks〜

ライクス様


〜お詫び〜

大幅改編予定ですが、この分ですと予定を遥に上回ってしまうかもしれません。陳謝致します。有言実行出来なくなってしまい申し訳ございません。先にお詫び申し上げて置きます……。


それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。

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