36.吸収
展開が速すぎだと思いますが、とりあえずは一章まで駆けてゆきたいのでお許し戴きたく思います。
全ては私のテンポの悪さにその責があると反省しています。
深戸ちゃんの背中を見やりながら力なく前に進んでゆく。最近は非常に疲労の蓄積が早い。若干の偏頭痛も患っているから結構厳しい状況といえる。しかし、そんな事は言ってられない。ボクはやるべき事が山ほどあるんだ。
ボクは力を無理矢理湧かせなおし背筋を伸ばして歩くようにした。前にいる深戸ちゃんの足取りは一定で流石メイドというだけあって歩き方からしてなにか違う。足音一つ立てない、それで且つ不自然じゃないそんな感じ。
その内ボクは辺りを見回し始める。雪穂さんは深戸ちゃんの事は……知らないよね。あぁ、なんかこんな光景見られたらどう思われるんだろう。
そうそんな事に囚われていると前方の深戸ちゃんが立ち止まり、不意に彼女にぶつかってしまい我に返る。
「大広間に着きました。先程から何か気にしていらっしゃるようですね? どうかなさいましたか」
深戸ちゃんは振り返ってボクに対して心配そうな顔で見つめる。
「いや、別になんでもないよ、ホントごめんね。えっとじゃあ中に入ろうか」
そう勝手に会話を終わらせて扉のドアノブを回して前方に押し出す。中は100畳程の規模の部屋に縦に驚くほど長い白いテーブルクロスを掛けられた食卓(?)が一つ。色とりどりの花が等間隔で置かれていて、真ん中だけ突出しているキャンドルが同じ数ある。そして各座席の前にはナプキンやらディッシュやらフォーク、ナイフ、グラスといういかにも高級そうな食器器具が置かれていた。
最近の結構な回数ここに来てご飯を食べている自分としても未だにこの部屋全てが食事室のような役割を果たしているなんてにわかに信じられない。けれども最近は実感しつつはあるんだけど、普通であればここでスポーツが出来ると思うし。
定例化している事としてもうひとつ。四方の壁際にはメイドさん達が立ち並び微動だにせず且つボク達の食事の諸事をする為に待っている。やはりなれない事は確かなのだけれども。
『おはようございます、あゆむ様』
ボク達が中に入ってゆくとそのメイドさん達が声を揃えてこちらに向かって一礼する。四方に沿ってぎっしりとメイドさんがいるので、行き詰る圧迫感が感じられる。それは最初に来た時よりかは幾分がそれは払われたものの、やっぱりこの人数っていうのは悩んでしまう。
奢侈さが感じられるテーブルには上座の方に雪穂さんのお父さんである栄治さんが椅子に腰を掛け、他には誰もいない。
お父さんは昨日水島さんに聞いたとおり海外出張しているし、ボクのお母さんや妹は二人とももう出掛けてしまった。
お母さんは何処ぞのアパレル会社に勤めていて最近新入社員の指導を任されているらしく早めに出勤しているし、妹の莉紗子は一昨日から友達の家に泊まってくると聞いている。なんでも昔からの親友で最近ドタバタしていて遊べなかったから久々に遊びたいとか。
ボクのいつもの席は下座の方、故に入り口手前の席に腰を掛けようとする。すると栄治さんがボクの方に手を拱いて自らの席の近くに手を指し示した。
ボクにそこに座れって言ってるのかなぁとそう思いながらゆっくりとその席の方に歩みを進める。
「雪穂を平賀が学校に送ってしまったし、早柚瑠はいないから今日の朝は二人だけ、ちょっと寂しくってね」
そう言いながら栄治さんは苦笑いをする。皆いないんだ。ボクはその最中に席を引こうとすると
「あゆむ様、これは私の仕事です」
そう割って入ってきた深戸ちゃんが椅子の背もたれに手を掛けて椅子を引きながら言う。
「あはは、ありがとう」
ふと微笑を浮かべながら深戸ちゃんに向かってそう言葉をかける。そして徐に腰を掛けた。
深戸ちゃんは満足気に数歩後ろに下がってそこで落ち着いた。
「テレビを設置したんですか? しかも四方に?」
席に着いて上方を見上げると各々の壁には今までに見た事が無いほどの大きさのテレビが取り付けてあった。昨夜の夕食の時には無かったものだ。という事は夜中の内に設置したっていう事?
ボクは上方の壁を見回しながら栄治さんに問いかける。
「あぁ、これね。実は莉紗子ちゃんに言われちゃってねぇ、『テレビがないからつまんない』って。今まで私達家族は食事の時にはテレビは見ない事が習慣化されていたんだ。だってテレビなんかに頼って会話が疎かになったらコミュニケーションが取れなくなって関係悪化に繋がるだろう? その事を莉紗子ちゃんに言ったら、『それは違うと思いますよ! テレビがあって何かの番組で何かの話題が見つかって会話が弾むんだと思いますっ。しかもそんなに会話の事を気にするんだったらこの大きな長テーブルをどうにかすべきですっ! 人とのコミュニケーションに距離とかってとっても重要だと思いますよ』って手厳しい事言い返されちゃったよ。確かに一理あったしそうしてみようかなと思ってね、昨夜の内に取り付けてもらったんだよ」
栄治さんは四方のテレビにそれぞれ指をさしながらそう笑いを含みながら言った。
そういう事だったのか。莉紗子って結構我儘だからなぁ。なんか足りないと思ったら即座におねだり交渉とかしちゃうから、この間おかあさんが遂にキレてた所見ちゃったんだよな。『あなたの我儘に任せてたら出費が嵩んで嵩んで仕方がないわよ! あなたにお小遣いいくら渡してると思ってるの!』って半ばマジぎれして莉紗子も負けじと屁理屈こねて口論になってた。
ちなみにボクと妹ではお小遣いの額が大いに違う。女の子だから色々とかかるとかそういう理由で妹は月にブランド物のバックが5個ぐらい買える額。それに引き換えボクはゲームソフト一つ買えるか買えないかの額。そしてボクはその額で月の出費を押さえ込んでいる。妹はボクより高い額でも尚足りないとお母さんに駄々捏ねる。この格差はなんだろう。『格差社会』とはよく言ったものだと思う。まだ働きにもバイトにも行ってない世間知らずのボクがもう既にその事を分かり始めているんだから、これはもしかしたら全ての世代に当てはまるのかもしれない。
「そ、そうですか。ホント我儘な妹ですみません。もう申し訳なさでいっぱいです」
絶対見たい番組を食事の時にみたいっていう願望から出たそれは詭弁だと思う。あんまり甘やかしてはいけない存在であろうね。
「いいんだよ、私が最終的に決めたことなのだから。莉紗子ちゃんはなにも悪くない。それよりも、その子……」
雄司さんはそう言うとボクの後ろに控えている深戸ちゃんに目を向ける。深戸ちゃんも雄司さんと目を合わせて首をちょこんと傾ける。
「えっと、なんと言っていいやら、この子は」
「申し送れました。詩条 栄治様とはお初に御目に掛かります。私は本日付で源 あゆむ様の専属メイドに着任致しました、浜辺 深戸と申します。源家の使用人としてお仕えしております。そこでこの度着任するに当たり源家御当主様である源 雄司様に助言を求めたところ、ここに住まわせて戴く事に関して栄治様にお許しを戴いてはどうかとお言葉を戴きました。何分勝手な物言いで申し訳ないのですが、何卒お許し戴きたくお願い致します」
そう淡々と語りながら栄治さんに向かって頭を垂れる。それを見て栄治さんは声高らかに笑う。その笑い声は室内中に響き渡った。
「ハハ、そうかキミはユウちゃんの所の、そうか。いいよ、ここにいるといいよキミの好きにしていいから。あのちょっと〜、テレビ付けてもらってもいいかな?」
栄治さんは深戸ちゃんに向かって優しくそう声を掛けて、壁際にいるメイドさん達にそう頼む。
「寛大なお心、感謝致します」
深戸ちゃんは頭を上げてボクのすぐ斜め後ろまで詰めて来る。
メイドさん達は持っていたリモコンでテレビのスイッチを入れ、結構な音量で液晶画面からニュースが流れる。
「ありがとう」
そう礼を言うと二度手を叩いてメイドさん達に促すとメイドさん達を数人残してあとは退室してしまった。食事の用意の合図である。
数分後食事が運ばれてきてボク達それを食し始める。
◇◆◇
ボクはテレビの画面を見ながら驚いている。その番組はちょうどニュースの速報が流れてきたのであった。
テレビにはなにやら巨大高層ビルが移っていて多数の他局の報道陣が背景にありながら女性キャスターが『緊急速報です』とそう緊迫した雰囲気を醸し出させる。
『こちら木野城エレクトリックコーポレーション本社前です。では緊急速報をお伝えします。木野城エレクトリックコーポレーション経理部部長代理である最上 天容疑者が業務上横領罪の容疑で逮捕されました。これにより検察側は社内捜索を決行し現在入社している模様です。更に、この事を受け株価は現在大暴落、その責を現社長である木野城 清次氏に向けられてい、彼の今後の進退につきましては先程もお伝えしたとおり会見が行われ現職を辞する事を表明しております。そして、最新情報なのですが木野城エレクトリックコーポレーションは源コンツェルンに買収され子会社化される事が先程決定しました』
ボクは飲んでいた牛乳を喉に詰まらせて、堰を幾度も模様してしまった。
「ゲホっ、ゲホゲホっ。お、お父さんが……、木野城くんの会社を買収、した」
部屋の中にはテレビからの音声だけが響き渡り、他には何も音が聞こえない。それはまるでこの部屋の中の時間以外が静止しているように思えた。
御閲覧戴きありがとうございました。
小説ってホントに難しいですよね。なんてこの場で愚痴っていますが、今の時期ホントにスランプに陥っています。小説が書きにくい事や文章・ストーリーの構成、登場キャラの情景を文章化する、ホントに厳しいです。めげずに頑張ってゆきたいとは思っていますが、現在生力に赤ゲージが点灯しています。情けない作者でホントに申し訳ありません……。
読者の皆様からのメッセージ・ご指摘・感想、ホントに嬉しく思います。中にはホントに至極ご尤もなご指南もありまして、感謝しております。しかし、それは小説全体に当てはまる事であり、修正する事は容易ではありません。故に一章を完結させ、その後に修正を断行したいと思っております。基本的にストーリーの主軸に変わりはないと思いますが、前半部分の場面が幾つか変更・加筆され、新ストーリーを挿入する事もあるかもしれません。あくまでも予定ですが……。
〜Special Thanks〜
イルフレーム様 ライクス様 月奏様 YUTO様
それではまた次のストーリーも読んで戴けたら幸いです。