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Achieve〜与えられた試練〜  作者: Tale Jack
★第一章 【第一の試練】
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35.可笑しなメイド

  心地よい小鳥の囀りが外から聞こえてきてボクはベッドから身体を起こす。目を幾度も擦り、まだ眠気が拭えないまま何とか生暖かいベッドから這い出る。空調が効いてるせいか室内は快適で足と床の温度差がやけに気持ちが良い。そのまま閉じられているカーテンの前に立つ。見回すとやっぱりカーテンの長さが長いし大きい。色を先日赤から薄いグリーンに変えたが故に閉塞感が消え去ってとても開放的。ボクは片方ずつカーテンを端まで開けてゆく。すると外からは眩しいほどの日光がボクの目に差し込んで、咄嗟に手を翳す。それでもまだ若干眠気が残っているようなので窓を少し開けて、バルコニーに出てみる。すると生暖かい風がボクを包んで清々しくなった。そんな朝……

 

「今日は生徒会委員の任命就任式か……」

 

 上方いっぱいにノビをしながら欠伸交じりにそう言葉を漏らす。

 

 今日はいよいよ生徒会メンバーの任命式。ボクがオーダーを組んだメンバーでこれから生徒会をやってゆく……。それとともにこれからはボクは生徒会長として様々な場面でリーダーシップを発揮し、且つ全ての事に責任を負わなくてはならない存在となる。それはボクの心を震えたたせると共に気を引き締めなくてはと思わせるものだった。

 

 これから楽しい事ばかりではなく辛い事もあるだろう……、時には生徒会メンバーが挫けそうになるかもしれない……、その時はボクが励ましてあげなくては、ボクは責任感を持たなくてはならないんだ。それがボクを選んでくれた人、ここまで尽くしてくれこれからも助けてくれようとする人への礼儀。その為にはボクは芯をしっかりしなくてはいけない。しかしボクは今不安材料を抱えている……。

 

 ボクは室内に戻り窓を開け放ったまま机まで向かう。開け放った窓からは微弱な温風が吹き込み、白のレースのカーテンをヒラヒラと揺らす。そんな中机の上に昨日置いたある紙を手にとって徐に目を落とす。

 

 そう、平賀さんからこの間手渡された『生徒会メンバー申し込み用紙』。昨日の深夜まで悩んでやっと書き終わり今日提出し公表する為のそれは、不安材料の一つだった。

 

 ボクが選ぼうとしたメンバーは全部で7名、しかしそれまでにはこの紙には2つの余白があった。

 

「ハァー……」

 

 ボクは深い溜息を漏らし用紙を机の上に再び置きなおす。

 

 昨日ボクは雪穂さんを自ら率いる生徒会に引き入れようと勧誘しようとするも、雪穂さんは首を縦には振らないというある意味予測の範囲外な出来事が起きそれが現在の状態に起因している。雪穂さん曰く『晴紀さんを無碍に扱うように無視する事は出来ない』とどちらかと言えば断られてしまったのだ。

 

 自分の鞄の中に今日の授業で使う教科書を入れ最後に先程の用紙を入れてチャックを閉める。心なしか鞄は重い……、別に今日はいつもより教科書が多いってわけでもないのにそれでも、少し重い……なぜだろう。

 

 重厚な大きな扉のドアノブを回して廊下に出る。辺りを見回すとそこには白いカチューシャを付け、清楚な黒を基調としたの服に赤のリボンを付け、白のレースの腰掛を掛けた頭を下げながら女の子が一人立っていて、ボクは不意に一歩下がる。

 

 女の子はゆっくりと顔を上げてボクと目を合わせた。清楚さを残しつつも何処となく儚さと思わせるかのような顔立ち。割と小顔でスゥっとした輪郭、鼻と口元に反比例するように目がパッチリ大きいその女の子はボクに優しく微笑んだ。

 

「キミ……、誰?」

 

 ボクは誰とも知らない女の子に声を掛ける。彼女の服装から察するにメイド……であることは間違いないんだけど今までこの屋敷にいてこんな子は見たことがない。

 

「おはようございます」

 

 彼女は再び頭を垂れてその光沢のありサラサラしていそうな綺麗なショートカットの髪を揺らした。同じくらいの歳だろうか、それともボクより年下だろうか、しかしボクより年上というのは絶対ないと見える。

 

「お、おはよう……」

 

 ボクはその女の子に挨拶をされたのでとりあえずそれに応えるも、まだまだ彼女に訝しげな眼差しを向けている。彼女は一体何者なんだろう……。新たに雇用された人なのかなぁ、だとしたら何でボクの部屋の前に立っているの? 多くの予想をするもどれも予想の域を出ない。

 

「ご機嫌麗しいようで何よりです」

 

 ボク目の前の娘にそんな様子を向けてもいないし、今日はそんな気分も良くない。社交辞令だろうか……。

 

「い、いや、だから、キミは何でボクの部屋の前にいるの?」

 

 ボクは当惑しながらも彼女にそう問いかける。

 

「そうでしたね、申し遅れました。本日付で貴方様、源 あゆむ様の専属のメイドとしてお側御用役として寝食を共にさせて戴く浜辺はまべ 深戸みとと申します。雄司様ごとうしゅさまの勅命によりこれから貴方様は私の主です。何卒宜しくお願い致します」

 

 頬が真っ白く柔らかそうな彼女はどこか可愛らしさも携えているように感じる。彼女の手には古風な漣と水仙の模様が入った信玄袋をぶら下げていて、黒のロングスカートの半分くらいまで垂れ下がっていた。ロングスカートはドレス調となっていて床にいくに連れて適度な膨らみを持たせている。

 

 ボクの、メイド……? しかもボクと寝食を共にするって言ったよね? こんなに可愛い娘と……。若干嬉しさが込上げたが同時に当惑の念が込上げた。

 

「……そんなこと言われても困るんだよね……。ボクの身の回りの事は全て平賀さんにやって貰ってるから……その……」

 

 ボクが最後の言葉を言おうかどうか迷っていると彼女はその清楚な雰囲気を保ったままにボクに向かって

 

「不必要と、そう仰るのですか?」

 

「いや、そこまでは言ってないけど……、何でボクに専属のメイドさんが付くのか全然分からないんだよ……」

 

「私にも分かりません。しかし御当主様仰せつかっている事なので貴方様の側を離れる事は絶対に致しません。ですので良しなに迎えて下されば幸いです」

 

 その女の子はにっこり笑って顔をちょこんとかたむける。その素晴らしく可憐な仕草に思わず一度心臓への酸素供給がなされなかった。確かにこの娘はカワイイ。それは認めるけど、なんかこの娘と一緒にいたらさらに雪穂さんと気まずくなるし、でもこの娘はボクと一緒にいるようにってお父さんから言われて来た訳だから無碍に付き返すとこの娘の立場がなくなって大変だろうし……。

 

「……、分かった。その代わりボクの事は何もしなくていいから。ただ側にいてくれるだけ、いやキミの勝手にしていいから」

 

 ボクがそう戸惑いつつ言うとその女の子は頬を少し膨らませて目を細めて声色を変えてボクに言う。

 

「それでは私が何故ここに来たのか全然分からないではないですかッ! メイドの職務を勝手に剥奪しないで下さい。そんな事されたら私、あゆむ様の枕に毎日涙をびっしょり垂らしておくと言う暴挙に出ます。それでもいいですか? 加えて私の名前は浜辺 深戸です。深戸と御呼び下さい」

 

「み、深戸ちゃん、ボクはなんと言っていいのやら、この気持ち分かってもらいたいな」

 

 ボクはこめかみをかきながら微妙な笑みを深戸ちゃんに向ける。

 

「分かりたくありませんっ。メイドを無碍に扱うことは別に構いませんがこういう事は例外です」

 

 最初の清楚さより今はかわいらしさが勝っている。深戸ちゃんは胸の前で人差指を交えつつ打ち付けていた。

 

 深戸ちゃんは結構頑固なのかもしれない。まだまだ内面は分からないけど……

 

「深戸ちゃん、頑固でしょ?」

 

 ボクは目を細めながらそう問いかけると

 

「そうかもしれません。たしかにそれは容認しますが、でもメイドが頑固じゃダメなんて規則に明記してありませんでした。故にこんな私でもいいのではないでしょうか?」

 

「……、うん……別にいいんだけど、深戸ちゃんは、なんていうか……一瞬で不思議な空気に変えられるんだね」

 

「……、それも容認します。しかし源家に仕えるときに御当主様から預かった規則集に『不思議な空気に変える事が禁則事項』なんて一切明記していませんでした。ですからこんな私は存在していいんだと思います」

 

 自信たっぷりに両手を折り曲げて両の拳を頬に寄せながら頬を膨らませた。

 

「うん、……なんか分からないけど……規則には……書いてないだろうね……」

 

  この娘は全然よく分からない。なんか今までにない女の子に出会ったっていうか、返って来る言動一つ一つが不思議。

 

「深戸ちゃんってさ、自分の事どう思うの?」

 

 深戸ちゃんは人差指を頬に立てながら上を向いて考えた。

 

「どうって……、いたって普通のメイドだと思いますけど……。自分の事をどう思うかっていうのはある意味死ぬ時に答えが出る事であって……、……あっ、もしかして私、死ななければなりませんか?」

 

 深戸ちゃんは顔をボクに向きなおして平然とこう答え、終盤にはハっと何かに気が付いたように目を大きく見開いて声を大にしてボクに問いかけた。

 

 なにをどう考えたらそういう事に結びつくんだろう? 恐らく一生掛かっても彼女の心は解読できないであろう。

 

「いや、そんな事一言も言ってないし、どこをどう解釈して発展すればそこにいきつくのっ?」

 

「私は老衰がいいですっ!!」

 

 深戸ちゃんは両手をボクの両肩に乗せて懇願するようにそう言った。

 

「だからそんな事言ってないからっ! もう水に流して」

 

「私、流水刑なんでしょうか? マリアナ海溝で冷たい、冷たい深い海に、っあ、名前にもしかして掛けました? 深戸の『深』に……。結局私の願いは届かなかったようですね……。……分かりました、どうぞ……主の命令は絶対ですから…」

 

 そう深戸ちゃんは言うと両手をボクに差し出して、いかにも縄で縛ってくれと言わんばかりの顔をした。

 

「だからそうじゃなくて、もう! 深戸ちゃんは一体何なの?」

 

「人間且つ恒温動物ですよ! そこはあゆむ様と一緒です。身体のあらゆる部分は違っていますが……」

 

 人差指を立ててボクにそう説明する。

 

 ボクがもう訳が分からなくなって少し感情的になったのも束の間の内に、深戸ちゃんは火に冷や水を掛けるかの如くボクのさっきの感情はどこへやらいってしまった。

 

「いや、そういうことじゃなくて、深戸ちゃんってどういう思想を持ってるの?」

 

「一から話すと長くなりますが……、というかいい加減私の存在全てを肯定してください」

 

 深戸ちゃんは両手を胸を押し当てて目を大きく見開いてボクにそう言う。

 

「別に否定してたわけじゃないんだけど、ハァ……うん、もういいや。もう好きにして」

 

「はいっ! これから宜しくお願いしますねっ。それでは下の大広間に向かいましょう、お食事が出来ております」

 

 ボクは力なく両手を前にフラフラさせながら深戸ちゃんを先頭に大広間まで向かってゆく……。お父さんは何故ボクに専属のメイドを差し向ける事をしたのだろう? 足取りはいつもより重かった。

 

 

 

 


ご閲覧戴き誠にありがとうございました。

最近ミスドで5kg太ってしまった当作品の作者です。

やっぱり糖分の取りすぎは問題だと自ら身を持って体感し痛感しました。最近流行ってる『コアリズム』にでも挑戦しようかな……。絶対続かないと自負できますが。っとそんなどうでもいい雑談は置いておいてと。


新キャラの登場です。個人的にこの子は結構好きな子ですね。なんか雰囲気とか言動とか仕草に全部惹かれてしまいます。こんなメイドいないだろうケド、いて欲しいですね。こんなやり取りしたいです! いつもこんな妄想してるのか? と問われると首を縦に振るしかありませんね。小説を書いてる以上妄想は欠かせませんし……、ってまた別の話題に逸れてしまう。もう反省です、ごめんなさいっ(汗)話を戻しますと、あゆむはこれからどうなるんでしょうね? 一応これから徐々に少しずつですがあゆむの恋路に触れてゆきます。どうぞお付き合い下さい。あぁ、でもこの後はちょっとショッキングな事が起こります。朝食の時に……、マズい、ネタばれ注意! 失礼しましたっ。お楽しみに!


〜Special Thanks〜

月奏様 ライクス様


毎度の御評価、心より御礼申し上げます。


それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。

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