32.知らせ
ボクは平賀さんの待つ車の元まで歩みだす。しかし校門を抜けようとするところで一人の男の人がボクの前に立ちはだかっていた。精悍な顔立ちな上に全体的に体格が良く背が自分の1.5倍もあるかというくらいであったので驚きつつも一歩後退する。しかし、良く見ると以前に見たことのある顔だった。瞳を黒いサングラスで覆い、耳には何かイヤホンのようなものをつけている。そうだ、この人は……。
「み、水島さんですか?」
大きな存在感を醸し出している目の前の男の人に向かってそう問いかける。なんか懐かしい、確か以前会ったのはこの学校に入学したての頃だったかな。以前会った時より若干肩幅が広がっていた。スーツの上からでもそう見て取れる、身体でも鍛えているのだろうか。加えて髪型をオールバックに変えてワイルドさが加わった気がする。さらに顎に髭を蓄え何か平賀さんに似てきたような……。まぁ平賀さんはワイルドというか、ヤクザっていう感じだから水島さんとはちょっと違う線なんだけど。センチネル持たせたら右に出るものはいないだろう……。
そういえばこの人はいつもどんな職務に当たっているのかボクは知らない。お父さんが雇っている人なんだろうけど詳しくは不明。今度聞いてみようか。
「はい、お久しゅうございます。本日はあゆむ様にご報告がありまして参上仕りました」
報告? あぁそうか、この前会った時も『報告がある』とか言ってボクを呼び出してたな。って事は以前と同じ用事って事か。凡その予測は出来ていたものの一応聞いてみることにしよう。
「ホントに久しぶりですね、何週間ぶりでしょうか。して、報告とは何でしょうか?」
「まず、この度は生徒会長当選誠におめでどうございます。この水島、あゆむ様に心よりお祝い申し上げます。さて、見事生徒会長に当選なさった事により御当主様との公約を達成なさった訳で、お父様との会談を執り行いたいと思います。しかしながら当グループのカイロ支社の経営トラブルで御当主様が先程向かわれました事により本日は難しいので明日お時間を戴きたく存じます」
やっぱりそうだ、お父さんとの約束を果たしたわけだから次の試練を与えるためにまた会うんだろうなと思っていた。しかし、おかしくないか? 8時間程離れているカイロまで先程向かいトラブルを解消しまた戻ってくる。明日執り行うのは時間的に厳しいのではないだろうか。
「お父さんは明日戻ってこれるんですか? 勿論飛行機で行ったと思うんですけど、相当な時間が掛かると思うんですよ、飛行時間・トラブル解消時間とかも加味すると明日には帰って来る事が難しいと思うんですよね……」
「シュド・シュペル・カラベルEXで御当主様は飛び立たれましたので多少の飛行時間は削減できます。加えましてトラブルといっても経営難に陥って現地の会社との経営統合をするかしないかというだけの問題ですからそれほどのものでもないでしょう……」
ヤバイ、突っ込みどころ満載なんだけど……。
「あの……シュド・シュペル・カラベルですよね? EXってなんですか?」
水島さんは眉を顰めてボクに平然と返答する。
「普通に詩条グループが改良したものですが……」
「いやいや、おかしいじゃないですか? あれは研究段階で留まったはずですが、しかもそんな事フランスの開発者が認めたのですか?」
「普通に詩条様がフランスの首相と仲が睦まじく色々手を回してその開発者様を傘下に迎えたようですよ」
「あの……勘違いしないでください、普通じゃありませんから。第一ソニックブームの問題はどうなったのですか? 裁判が行われる事必然でしょう」
「普通に各国の首脳の側近と仲が睦まじかったが故に手を回して詩条家専用機のみの例外措置を認めたようですよ。その代わり年間上空を航行する各国に結構な特別金を支払っているらしいです。それに使用回数も定めているらしくそんなに各国に迷惑がかかる事はないと思います。加えまして、先程『改良』と申し上げましたがソニックブームの問題点を改善する事に成功致した様で各国が認可したという事ですね」
「あぁ、そうですか……。でもそのカイロ支社の存亡が掛かっているのにそんな軽々しく考えてよいのですか? 結構大きな問題ですよね」
「まぁ、そうでもありませんよ。立地条件が悪かっただけで何も他に問題はありません。立地条件が悪かったが故に移動に時間が掛かりクライアントとの交渉に手間取る、作業の効率が悪くなる、業績が落ちる、ライバル社に追い上げられる。この悪循環を脱するためナイル川沿いに社を構える事に致しました。これで問題は解決です。しかしこれが上手くいかなかった場合は経営統合するしかないでしょうがまぁ大丈夫でしょう……」
異常というのかこれは楽観的というのか、それとも気道に乗りなれた揺るがぬ現状の位置に驕り高ぶった気持ちから派生したものなのか……いずれにしろこれ以上問いかける事は自分の精神的に疲れてしまう。様々な点で気になるがやめておこう。
「……分かりました……。もういいです、準備出来次第、明日水島さんが私を呼びに来ていただけませんか? 時間はなるべく昼休みぐらいがいいですね。それと明日は生徒会メンバーに入会通告を実施する日でもあります。故にあまり時間がありませんので早めに切り上げてもらうよう父に仰って戴きたいです」
「承知致しました。仰せの通りに……」
「用件というのはそれだけですよね? 私はこれから向かうべき所がありますので失礼して宜しいでしょうか?」
「いえ、まだもう一つ……」
まだ何かあるのだろうか……、ボクはてっきりこれで最後だと思っていたけど……。
「なんでしょうか?」
すると水島さんは顎髭に手をやり顔を下に向けた。何か考えているように見えた。
「いえ、すみません明日改めて御当主様からおそらく仰られると思いますので、お時間取らせました事に謝辞申し上げます。申し訳ございませんでした」
そう言うと水島さんは頭を下げた。ボクは軽く会釈をして振り返って平賀さんの待つ車の元へと向かった。
水島さんの言おうとしていた事はなんだろう……、分からない。まぁいずれにしろ今考えるべきは……。
御閲覧戴きまして誠にありがとうございました。
最初に申し上げておきますね。
当話は雑談の中の雑談を繰り広げていますので多くの不満を残し次へという形になったと思います。まずその点に置いて謝辞申し上げます。加えまして当話は突っ込みどころ満載です。あゆむも色々疑問に思っていたようでしたが全てに突っ込む事はしませんでした。
つまり読者の方々にはその点に置いても眉を顰める事となったと思います。ここでも謝辞を……。
さていよいよ次は……まぁお分かりですよね? 敢えてここは暗黙の了解として申し上げません。お楽しみにして戴ければ幸いです。
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それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。