4.真実➁
「知っての通り源家は代々貿易会社を経営してきた。経営者になる資格のあるものは全員乗り越えていることだから当然あゆむにもそれを課さなければならない。実質父さんもあゆむのおじいさんにあたる父さんのお父さんがそれを課して乗り越えたから今俺は社長になっているしな」
お父さんは人指し指をたててそんな事を言い出した。何をボクに課すっていうの、ものすごく心配なんだけど。
「その課すこととはな……父さんの言う3つの事を成し遂げることだ。目標としては高校卒業までと父さんは考えている。一つ一つ区切ってその指令を言う。達成でき次第次の指令を言い渡す。それを全て達成できた時にわが社の正式な経営者として認められることになる。これを拒否したものは源家から即座に出て行ってもらう。これが家訓だ。だから申し訳ないがあゆむには拒否権はないよ。心配すんな。父さんの言う事を3つだけ達成すればいいんだ。な〜に、あゆむならできるさ、なんせ父さんの子なんだから」
そう言ってニヒヒといった顔でボクを見る。3つの事? なんだろう。大体やるもやらないもボクにはそれを達成する自信がない。というかそれ以前に経営者になるとかならないとか今のボクには分からない。でも小さい時からお父さんはボクに跡を継いで欲しいってことは言ってたからボクはそれを叶えるつもりでは一応いた。でも……。
「おじ様」
隣の雪穂さんが問いかけるように口を開いた。
「詩条家の人間が源家の方に言って良いのか分からないのですが……あゆむさんはまだ高校生で跡を継ぐ継がないの話はもっとあとでも良いのではないのでしょうか、なんて偉そうな事を言ってごめんなさい」
そう言って雪穂さんは押し黙る。でもこの人はボクの思ってることが分かるのかな。やっぱり同じ趣味が好きなだけある……かも。
「いや、全然謝らなくていいよ。雪穂ちゃんの言ってる事は正論なんだから。正直に言えば、私のお父さんはね、私が大学を出てから跡を継がせるという話をしたんだ。多分私の経営者としての適齢期がその時期だったんだろうね。それか私の学業が一段楽するのを待ってくれたかのどちらか……。どちらにせよ最終的には跡を継ぐんだ。能力がない人間なら『跡を継げ』なんて言わないよ。それも源家では代々守られてきているからね。ところがあゆむは私なんか、いや、今までの源家の中でひょっとしたら一番Minamoto Tradeの経営者にふさわしいかもしれない……、一番会社を大きく出来るかもしれない……」
お父さんはそう言って腕組をして椅子の背もたれに寄りかかる。ボクにそんな力なんてあるのかな。多分お父さんはボクを買被り過ぎているような気がする。現にお父さんはお母さんと一緒に昔から今にかけてボクを手塩に掛けてくれて育ててくれた。勿論、妹にもだけど。だからその愛情がそのまま期待に代替されているんじゃないかな。
「どうしてそんな事が言えるんですか」
やはり問いかけたのは雪穂さんだった。ボクの心臓の音が一瞬高鳴ったような気がした。絶対にボクの思ってること筒抜けだよ。
「それはあゆむの頭脳にある。
あゆむには昔IQテストとPQテスト、GIFテストを受けてもらったんだ」
ボクは頭の引き出しからその記憶を探していた。すると確かにそんなような事をしたような……。そうだ!お父さんに『楽しいゲームがあるんだ!父さんが質問するからそれに全部答えられたら今日はお子様ランチにあゆむの好きなモノ3つ追加していいぞ!』 って言われて当時喜んでやったんだ。あの頃は無邪気だったなぁ……。ボクは色々な事を回想していた。
「そのテストで3つのテストの結果に私は驚いた。驚愕の数字だったんだよ。IQ183、PQは忘れたが平均値を大幅に上回った、そんなことよりもGIFだ。これは3つのテストの中で一番重要だった。なんせ、なにに対して一番素質があるのか、それを計るためのテストだったからね。GIF3056PHP。しかもどれもこれも経営者に必要な能力の素質が現れているんだ、まぁそれだけではなかったけれども……」
「 ……」
ボクと雪穂さんは言葉を失っていた。けど雪穂さん父はあまり驚いていない様子だった。ただすこしそれを聞いて頷いていただけ。ボク自身あまりの驚きに声も出ない。そんなすごい結果だったなんて、今日は信じられない事が多すぎる。
「そんな結果も含めてユウちゃん、もとい、源雄司はあゆむ君に厳しい難題を出したんだと思うよ。どうだい、拒否権はないらしいけど、コレを受けるかい」
雪穂さん父がボクに向かって問いかけた。そんな今すぐにはそんな答えは……。
「母さん、莉紗子もあゆむにはこれを乗り越えてくれることを期待している。父さんも同じだ。すこしでも父さんの跡を継ぐ意志があるのならコレを乗り越えて欲しい」
「まだ継ぐ継がないは置いておくとして、お父さんの望みは叶えたいって気持ちはあるよ」
そうコレは親孝行ではない。親だから、とかそんな半端な理由じゃなくて一番近くで経営者としてアントレプレナーをやっていた頃のお父さんを見ていた一人の人間としてこの気持ちは心の中にあるんだ。経営というものを一生懸命にやってのける、仕事を愛し、家族を愛し、社員を愛しているお父さんはボクの憧れなんだ。
「じゃあやってくれるね」
ホントにこれに同意していいのかな。でもボクに拒否権はない。お父さんの目を見つめる。険しい目をしていた。その険しさの奥にはなにがあるんだろう。期待? 愛情? 願望? いや多分違う。……信頼。絶対あゆむならやれる、だから父さんの跡を安心して任せられる、そんな風に語りかけているようにボクには思えた。
「うん、やってみるよ!」
こう言い放った時、お父さんの目は少し潤んだように見えた。
「そうか……あゆむならそういってくれると思ってた、ありがとうな。指令だが後日また改めて言うことにする」
しみじみそんな事を言った。
「あゆむ君」
「はい」
今度は雪穂さん父がボクをよんだ。
「さっきユウちゃんとも話してたんだが、さっきの条件をのんでくれたあゆむ君には我が家に居候してもらうよ」
「なっ、どうしてですか」
ボクはビックリして立ち上がってその衝撃で椅子を後ろに押し倒し押してしまった。ボクが、雪穂さんの家に??そう思うとお酒を飲んだ時(お正月に薦められて少し飲んだくらいだけど)みたいに顔に熱が充満した。顔がほてる。こんな豪邸に? それ以上に多分距離は近くないにしろ同じ敷地内に住むってことでしょ、やっぱり信じられない。こんな……、そう思ってボクは雪穂さんの方を見る。雪穂さんは目を大きくして口を手でふさいでいた。どうしたんだろう。
「貿易会社を経営するということは外資のことも勉強しておかなければならない。そこで外資系企業で最大手のshijoコーポレーションの経営者であるエイちゃん、コホン、もとい、詩条栄治氏に外資のhow toを学んでもらいたい」
お父さんが雪穂さん父の言った事に理由を補足する。
「今日来た理由にそのお願いも含まれていたんだよ」
雪穂さん父がそれにまた補足を重ねた。そうだったんだ、そのためにお父さんはここに来ていたんだ。でも待ってそうしたら、
「ってことはお父さんやお母さん莉沙子と離れて暮らすって事になるって事?」
ボクは少々声を大きくして聞いた。いつも寝食を共にしてきた家族と離れて暮らすなんて寂しすぎるよ。
「それなら心配ない! 父さんたちもココに暮らすから」
「おっおじ様たちもですか」
雪穂さんが驚きの声を上げる。
「あっ迷惑だったかな」
「いっいえ、人が多いほうが賑やかで楽しいですし……」
「あゆむ君と色々話せますし……かい」
雪穂さん父がまるで先読みをしたかのように雪穂さんに問いかけた。
「いえっ、あの……えっ、あっ、……」
そう言って雪穂さんはすこし首をたてに振って下を向いて顔が少し赤くなったように見えた。
「どうやら雪穂はあゆむ君に興味をもったようだ」
雪穂さん父がそうつぶやいた。
「実は父さんの会社の傘下に入っている会社とエイちゃんの会社の参謀が業務提携をするんでその一端の為なんだけどな。まぁ父さんたちとあゆむとは別館になるだろうけどね……」
別館になれども家族みんなで暮らせるんだ。そんな安堵の気持ちとコレが夢なんじゃないかという気持ち、更には雪穂さん達住まうこんな豪邸、しかも雪穂さん達と同じ敷地内に住むことへの緊張感がボクの脳裏の中で渦巻いていた。
「そしたら明日から引越し開始だ。もう母さんや莉紗子には言付けしてある。了承も得ているしな。そうと決まれば帰るぞ、あゆむ」
お父さんが席から立ち上がって『じゃあまた明日、世話になるよ』と頭を下げて雪穂さん父に言った。加えて雪穂さんの方に向き直って『雪穂ちゃん、またね』 と微笑んで言った。そうしてドアの方向に向かって歩いていった。ボクも立ち上がって二人にペコリ礼をしてお父さんの方に歩き出そうとしたら、雪穂さんがボクの服の裾をチョコンとつまんでボクの方を見て無言で手を仰いだ。ボクはなんだろうと思いながら耳を雪穂さんの口元に近づける。
「あのっ、あっ明日付き合っていただけませんか。新刊をチェックしに書店に行きたいんです、それでもしよろしければお勧めの本などを紹介していただけたら……なんて、どっどうでしょうか?」
いきなりの提案だった。ボクは『エッ』と少し声を出して雪穂さんを見てしまった。雪穂さんと二人で本屋に? 緊張してしまうけど、転校がいきなりだったから学用品とかまだ買ってなくてどうせ明日買おうとしてたし……。
「 ……お受けします」
額を少し人差指でかきながらボクはこう答えた。そういうと雪穂さんはニッコリ笑って
「では明日家へ引越しに来たときにでも詳細は考えましょうか」
「はい」
そう言ってボクはお父さんと部屋から退室しお父さんの車で家に帰宅していった。
Prologue fourth を読んで戴きありがとうございます。
少しでもこのストーリーに興味・関心を持っていただければとても嬉しいです。
これから多くの読者の皆様にこのAchieve〜与えられた試練〜を読んでいただいて、かつ、少しでも楽しんでいただけるようにこれからも努力し、精進して参りますのでどうかよろしくお願いいたします。
それではまた次のストーリーを読んでいただければ幸いです。