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Achieve〜与えられた試練〜  作者: Tale Jack
★第一章 【第一の試練】
38/56

30.感謝➁

 起き上がると体中に痛みが奔り多少の頭痛を伴っていた。そのため立ち上がることが困難であったのでしばらくその場で寝そべっていた。辺りを見回すと先ほどボクに重傷を負わせた彼女はいなくなっていた。まぁ、とりあえずボクの果たすべき目的は果たすことが出来たので良しとしよう。だがしかしボクにはまだ行かなければならない所がある。生徒執行取締委員長のいるであろう昇降口だ。……っあ!

 

「約束時間ッ!」

 

 ハっと気がついて反動的にまたも起き上がるもやはり全身の節々に痛みが奔る。忘れてはいけない事を忘れていた。ボクは自分の腕に装着されているデジタル時計を目元に引き寄せる。時刻17時48分、良かった待ち合わせ時刻まであと12分程。身体の痛みはともかく不幸中の幸いといったところだろうか。

 

 節々の痛みを堪えつつも自らの身体に鞭を打ちなんとか立ち上がることが出来た。自分の腕を少し揉んでみる。すると内出血を起こしているかと思わされる程の激痛が神経を通って感受させられた。こんな大打撃を与えられるのならボクが救わなくても一人で何とかできたのではないか……、そう思い知らされたような瞬間である。

 

 少々の立ちくらみを起こしながらも一歩前に出る。先程の少々の休息の賜物なのか若干身体の融通が利いた。ボクはゆっくりと閉塞な空間へと変わってしまった主因であるドアを力を入れて開け放つ。やはり腕の痛みのせいなのか軽いはずのドアなのに重厚さが感じられた。ボクはそのまま生徒執行取締委員長から待ち合わせ場所と指定されている昇降口にゆっくりと向かう。

 

 本校の最上級生の昇降口は1・2年生とは違っていて別棟となっているため一度表に出なければならない。本当は外に出る際には外履きに履き替えなければならなかったが若干面倒くさかったのでそのまま外の地へと歩みだした。天を仰げばまだ日は沈む気配はなく、天は橙の系統色のパレットのように様々なコントラストが見受けられる。もうすぐ夏真っ盛りの季節に突入するせいか、背中には汗が噴出してワイシャツを濡らしていた。風が吹けばよいのだがそんな事はおそらくはないだろう……。

 

 更に歩みを進めると前理事長が趣味で手入れをしていた中規模の庭園が目に入ってきた。ボクは足をそこで止める。一人でこの大きさは厳しいのではないか。様々な色のチューリップ、椿、シュウメイギク、スイセン、ポインセチア等他にも多数の花々が植えつけられていた。その中でも心が癒されるかのような仄かなスイセンの香りが鼻に入ってくる。と、それ以前にこれらをここまで育てるのにどれだけの労力を費やしたのだろうか、前理事長……圧巻。そんな様々な感情を抱きながらも顕著に自分の心の中で思った事はこの庭園はどうなるのかという事だ。……もし誰も手入れをしないのであればボクが是非引き継ごうか。

 

 再び歩みだし地がコンクリートに変わった時点で別棟が見えてきた。あそこが今回の約束場所だ。もう生徒執行委員長は待っているのだろうか……。距離は徐々に縮まる。そもそも用とは何だろう、そんな考えを張り巡らしながら別棟昇降口に向かった。

 

 下駄箱が見えた時点で生徒執行取締委員長の姿が見えた。近くの用具ロッカーに寄りかかりながら腕組をしている。これは待たせてしまったのだろうか、考えるまでもない。生徒執行取締委員長はもう待ちに待ったのだ。それは顔の目を見たら一目瞭然だった。目を細くしながら左右を見渡している。加えて腕に当てられた人差指。何度も打ち付けている。ボクは自分の腕時計を見て確認。時刻、17時58分、遅れてはいないハズ。

 

「お待たせしました……」

 

 顔を窺いながらそう自信なく、あくまで申し訳なさそうに話しかける。さっきの行動から感じ取った事はこの人は怒っているという事。あくまでも下手に出なければ。

 

「いや、待ってはいない。気にするな」

 

 生徒執行取締委員長は寄り掛かるのをやめてボクにそう言った。やがて腕組をやめて先ほどの表情が若干柔らかくなる。どういう心理変遷なのかは分からないが逆にこれは好都合。でも下手に出ることは変わらない。この人の人柄から鑑みてもボクの態度は決まっているのだから……。

 

「いえ、一応遅れた訳ですしお詫びします、……それで用というのは一体なんでしょうか」

 

 ボクは頭を少し下げた後に間をとってからやめて話を切り替えた。すると生徒執行取締委員長は下周辺に顔を背ける。どういう訳か目を合わせてくれない。

 

「用というのはな……、……申し訳なかった」

 

 今度は生徒執行取締委員長が頭を下げる。何故頭を下げる? もう事の終結は終わったはずなのに……、そうか目の前にいるこの人は終結の延長を施しているのではなくて終結に関する綻びの収集をしているんだ。ボクはこの人の態度からそう思った。

 

「なっ、何がですか? もし今までの事について言っているのだとしたら全然気にしていません。生徒執行取締委員長の……」

 

「生徒執行取締委員長という呼び方はやめてくれないか? 本日をもって私のその役職は解任したのだから。普通にそれ以外であったら何の呼び方でも構わない」

 

 ボクの言葉を遮った。別の呼び方と言われても困る部分がある。この人は前理事長の娘である朱鷺等 瀬那さん、という事は普通に先輩付けすればいいだけか。

 

「じゃあ、朱鷺等先輩」

 

「よろしくないな……、君は上級生である人には全員そんな”先輩”というフレーズをつけて呼んでいるのか?」

 

「えっ、普通はそうじゃないですか?」

 

「そんな普通の呼び方しか出来ない人間は将来社会に出て凝り固まった昔の石頭な古代人にカテゴライズされてしまう。忌避したほうがいい」

 

 この人の思想は一体どうなっているんだろう……。さっき『それ以外だったら何でもいい』って言ってたのに……真持って理解不能。こんな思想の持ち主がこの世界にそういるだろうか? この人は不思議と言ういや、ユニークさという個性から構成されているため通常の常識・見解の事が逆に異常に見えてしまうのかもしれない。ゆえに、この人と接するにはボクにもユニークさを携えなければならないだろう。それはセオリーと言っても過言ではない。

 

「じゃ、じゃあ……瀬那さん?」

 

「足りないな……、うどんに七味がない感じだ。加えてねぎというすばらしいトッピングがない薬味がないそんな回答。まだレッドゾーン」

 

「瀬那……」

 

「たん」

 

 ボクが言いかけて悩んでいると先輩は後付するようにそう答えた。しかも表情が非常に真面目。整った顔立ちなのに発言がまるでギャップの相違。今まで出会ったことのない人だ。

 

「はっ?」

 

 この現時点での意味の分からなさは誰でも理解できるはずだ。この人の比喩を引用すると、うどんをもってくれるおばちゃんが注文者に差し出したうどんを勝手に自分の好みの分量の七味を入れてしまうと同等の事。この人には自分の今までの経験が通用しない。

 

「繋げてみてくれ」

 

 驚きと戸惑いに苛まれながらもそれを試みる。

 

「瀬名……たん?」

 

「それでいい。まぁ若干足りないがレッドゾーンではない、ギリギリグリーンラインくらい。これなら社会に行っても異邦人ではないだろう」

 

 この人の価値観でこの世界は成り立っていないことをこの人に如何ほどに伝えるか、おそらく熾烈を極めつつ最終的に挫折パターンであろう。

 

 呼び方に違和感と嫌悪感を持ちながらも逆らえず行う。慣れることは今後あるのだろうか……。自分の中ではないと思っている。それがこの人の扱い方(?)を分かってきたとしても……。

 

 

 


ご閲覧戴きありがとうございました。

まだ続きはあるのですが今月は執筆し投稿することが困難なためストックを切り崩して投稿いたします。

そのためカッティングをしての公表になってしまいました。加えて修正の件ですがまだまだ延期となりそうです。その点も含めご理解よろしくお願いいたします。


感想・評価・投票ランキング等して戴ければ嬉しく思います。


それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。

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