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Achieve〜与えられた試練〜  作者: Tale Jack
★第一章 【第一の試練】
37/56

29.感謝➀

 思いもがけない展開がそこに待っていた。何故に志倉さんがここにいるの……。ボクが余計な事をして逆に彼女を傷つけてしまったとばかりに思っていたのに。

 

 志倉さんは無言のまま当方まで歩み寄ってくる。なんという無表情、感情を面に出さないので怒っているのかと心配になってしまっている。そして志倉さんを先頭に距離をつめて同じ当方についてきている胴着姿の男女に多くの疑問を寄せていた。同じ剣道部には違いない、この前の乱闘事件の時に顔を見かけた人が何人かいたので確信の裏付けが取れた。さっき生徒執行取締委員長が言ったことがこのメンバーに当てはまるって事はないなと自分の中で思っていた。

 

 志倉さんは当方の壇上にいよいよ辿り着いた。雛壇を一足一足踏み越えてゆく。背後に列をなしていた剣道部の男女はそこで足を踏み留めた。志倉さんはボクの方を一目見てから聴衆の方を向いた。そしてステージ横の司会者が使っていた講壇の上に置いてあるパソコンの方へと歩みを進めた。何をする気だろう……固唾を飲みながら志倉さんの方を見つめていた。辿り着いたかと思えばそのパソコンを操作しているようだ。一体何を操作しているのか、大体そのパソコンは投票の集計をするために設置されたものなんだけど。

 

 とその時驚嘆の声が聴衆から上がってくる。一体何がどうしたんだろう。聴衆の目の先を追ってみるとそこには先程集計結果を映し出す大画面モニターがあった。ボクはそうと気づくと視線をモニターから外した。先程ボクと木野城くんとでバーティカルバーで区切られそれぞれに数字が映し出されたそれはただのトラウマでしかなかった。当選した木野城くんの方に大きな赤マルがそして敗戦したボクの名前には大きな青バツが、まるでそれを助長させるかのように……。全てボクの責務、多くの悔いる部分を想起させるモノ。できる事なら目を背けていたいようなそんな感覚、しかし聴衆がなんで驚嘆の声を上げているのかというのも気になるところだった。ボクは恐る恐るモニターにゆっくりと視線を合わせる。

 

 するとボクは目を大きく見開いた。なぜならばボクの視線の先には先程決定し白黒付いていた筈の集計結果が記号が取り払われ、源側の投票数字が軒並み上昇してたからである。ボクは志倉さんの方を向いた。しかし彼女はすでにもういなかった。最前列にいたはずの剣道部員もいつのまにか忽然と姿を消し先程の変わらぬ情景になっていたからである。ただ変わってしまったのはボクの集計結果。彼女がいなくなっても尚上昇している、おそらく遠隔操作で読み込みが遅いのかもしれない。百の位の桁が一つ繰り上がりそして十の位も二つほど上がっていった。

 

 729、730、731、……

 

 心の鼓動が次第に高鳴り、それに呼応してか喉の渇きが尋常ではなくなってきてしまった。人間の身体の約70%は水分で出来ているらしい。そのボクの身体が今のボクの喉の状態になったらボクの身体は枯渇してしまうのだろう。若干の頭痛に苛まれながらもモニターを窺った。

 

 737、738、739

 

 とうとう並び立ってしまった……

 

 

 

 

 一時間程前に選挙が本当の意味で幕を閉じた。結果3票差でボクの方に軍配が上がり先程の結果は見事に覆ってしまった。木野城くんは声も出せず肩を落とし力なくその場に腰を落とし俯いた。悶えていた事は傍から見ても明白であった。何故だろう、選挙期間中そして当日に嫌味を言われたりしたのにも関わらず、目の前の木野城くんに哀愁を感じてしまった。選挙結果が覆った事によって木野城くんを哀恤あいじゅつしているのかもしれなかった……。そして現時点では解消しつつもあった、悩みの種にも以前なっていた雪穂さんについても、木野城くんの側にいる事について納得しつつもあった。木野城くんの本質を雪穂さんは見抜いていたからこそ承諾したのではないか、勿論コレは憶測に過ぎなかったが木野城くんの本質の一部をボクは憶測によって垣間見る事が出来た気がした。兼愛に富んだ人だと改めて感じた情景だった。その後木野城くんは体調不良で保健室へと雪穂さんと共に向かっていった。

 

 そして時は時は移り現在に至る。多くの波乱があり、もうダメかと諦め絶望の境地に達した所を救ってくれた志倉さんには感謝の気持ちでいっぱいであったし、何よりそれに勝るとも劣らず疑問の念がこみ上げてきていた。この結果を収められる事が出来たのも志倉さんを含む剣道部の皆がいてくれたからである事は言うまでもない事……。しかし何故彼らはボクなんかに投票してくれたんだろう。馴れ合いでこんな事はしないだろうという事は志倉さんの先程の瞳を見てはっきりと分かった。

 

 それを問いかけるという目的も、お礼をいう事よりは重要性は低いが含んでいたが故にこうして志倉さんのいるであろう道場に諸事が終わってからすぐに飛んで来たのだ。『後は俺に任せておけよ。お前はしなければならない事があるんだろう?』 そう手塚くんはボクに言って生徒会設立に関する書類手続を行ってくれた。そして更にはそれに白木さんや琉嶺先輩までもが加わってくれた。彼らがいなければここまで漕ぎ着ける事ができずにどこかで心折れていただろう……。感謝してもしきれない存在、人の温かみや人情という真の意味が分かった気がした。

 

 一方生徒執行委員長には後で話があるから昇降口に来てくれ、と一言去り際に言われただけで他の会話は何も交わす事はなかった。委員長にも多大なる感謝を寄せていた。状況を打開してくれた主軸の人でもあったからだ。後で会った際にやはりお礼を言おう。

 

 道場に向かうと志倉さんはそこにはいなかった。一体何処に? 思い当たる節がなかった。とりあえず中に入ってみる。中は漆の板張りの床に正方形の形に白線のテープを貼ってあった。上を見上げると天井が物凄く高くドーム型になっていた。辺りを見回すとそこにはもう一つの部屋が、『防具庫』 であった。扉はキャスター型の引き戸で取っ手に手を当てる。ここにいるのだろうか?

 

「しっ、失礼します……、誰かいらっしゃいますか?」

 

 防具を干すための大きな棚が置かれていて、換気用にと窓や換気扇も一つずつ設置されているようだ。他には何があるんだろう? 竹刀は何処にあるんだろう……。なにやらもう一個奥の方に扉があるようだ。ここに竹刀とか鍔とかがあるのかな? そう思ってドアノブに手を掛けて何の躊躇いもなく手元に引き寄せた。扉は開け放たれた。昔懐かしの竹刀や鍔ちゃんご対面。

 

『あっ』

 

「 ……」

 

「 ……」

 

「……っ、きゃぁっ」

 

「うわぁっ、なっななんで此処に?」

 

 竹刀等を探そうと思って何の躊躇もなくドアを開けようと思っていたら本来の目的であった彼女がそこにはいた。しかし、ただいたわけではなかった。思いがけない事に袴の紐を解いて胴着姿でそこに立っていたのだ。志倉さんは手を胴着の下の部分を思いっきり下に引っ張って足を内股にしていた。勿論志倉さんもボクが入ってくるなんて微塵も予想はしていなかったであろう。だから一瞬目があった時点で何も声が出なかった。志倉さんは顔を赤らめた。そっ、そんなつもりじゃなかったんだよっ、そう思いつつも叫ばれた瞬間に咄嗟に外に出てドアを思いっきり閉めた。そしてドアに寄りかかり一息つく。中からは何も聞こえてこない。相当怒ったのかな、思いっきり謝ろう。そう思ってボクはドアに対面し頭を精一杯下げる。

 

「ごっ、ごめんなさっ、うぁッ」

 

 誠心誠意込めた謝罪をしてる人間に対してドアを思いっきり開けることないでしょ。ボクがドアに対面してたもんだからドアが勢いよく開いてそれがボクの頭に思いっきり当たったのだ。ゴンと鈍い音と共にボクは頭を抑えてしゃがみこむ。昔ボクが通学途中に考え事をしながら歩いていたら電信柱に頭をぶつけて頭から流血した記憶が甦る。今回もそうなったらどうしてくれるの……

 

「よっ、よよくも私のあああんな姿見てくれたわねっ! ゆゆ許さないんだからっ、そっ、そそそこに直りなさいっ」

 

 志倉さんは袴を付け直しボクの前に仁王立ちで立ちはだかっていた。

 

「もっ、ももう直ってます、イテテテ」

 

「ちょ、ちょちょうしに乗ってるんじゃないわよっ! せせせいとかいちょうになったからって何でもしていいって訳じゃないでしょっ! ひっ、ひ跪きなさいっ」

 

「既に跪いてますよ……」

 

 ボクは頭を抑えながら志倉さんを見上げる。はっ、般若? 尋常じゃないくらいに御冠になっている……。

 

「ふんっ」

 

 志倉さんはそう言ってボクの頭を足で踏みつけて思いっきり地面に擦り付けた。まっ、摩擦とか凄いから、小さな砂利とかが額に擦れて地味に痛いから……。

 

「ほ、ぼクMにゃないにょ」

 

 もう言葉にすらなっていない気がする。口元が地面に幾度も触れるのでもの凄く話しづらい……。

 

「なっ、ななにバカな事言ってんのよ気持ち悪いっ! あ、あっち行けゴキブリっ!!」

 

「うぁっ」

 

 そう吐き捨ててボクのわき腹を思い切り蹴飛ばした。ボクは勢い良くごろごろと転がって壁に激突した。ボクが悪い事したにせよ扱いがひどいよ……。

 

「男ってやっぱり最低っ、例外なしね。あんたが気持ち悪いからもう体の一部で触れる事すら憚る、大体……わわ私の……」

 

「みっ、見てませんよっ!!」

 

 ボクは痛さを堪えて力を振り絞り顔を上げてそう志倉さんに言った。

 

「ど、どどの目が見てないですって? ふんっ」

 

 志倉さんはボクの方に歩み寄ってきてしゃがみ込んで人差指と中指でボクの両の目を思いっきり突く。あまりの痛さにボクは自発的に転がる。Sッ気たっぷりじゃないかっ! ボクは痛さをそれでも堪えきれなくて少々の呻き声を上げる。

 

「ビービー、ほざくなっ! さっきあんなに鼻の下伸ばしてたくせによよよくもそんな事が言えたもんねっ!」

 

「は、鼻の下の、のばしてなんか、いない、よ……」

 

 呻き声をやめて、感じた事のない痛さを堪えて最後の力を振り絞って弁明を顔を上げて垂れた。

 

「ど、どどどの鼻が伸びてなかったですって? ふんっ」

 

 志倉さんは虫の息で倒れているボクの背中に跨って右手人差指と中指ををボクの鼻の中に突っ込んで上に引き上げた。キャッ、きゃめるくらっち? 鼻の中の皮膚に志倉さんの若干伸びた爪がくい込んで尋常な痛みじゃなくなってるから、もう拷問といっても過言ではない……。

 

「アンタの汚い鼻水が付いちゃったじゃないのよ……」

 

 そう言うと志倉さんはボクの頬にそのボクの鼻水を擦りつけた。先程とはうって変わって無表情だった。ボクは心も身体ももう何もいう事が出来ないほどの疲れがやってきていた。

 

「このミドリムシっ! そこでへばってろっ、ふんっ」

 

 ゴキブリからのミドリムシ? これはランクが下がったっていう認識でいいんだよね? 志倉さんは立ち上がってこの部屋から出ようとしていた。マズい、このままじゃ本来の目的を果たせない。

 

「すぃ、すぃくらしゃん」

 

 志倉さんは無口のままこちらを振り向き立っていた。

 

「きょっ、きょふは、はりはとうふぉだいました」

 

 ボクは宇宙人だろうか? 日本語が話せない。自分が嘆かわしい。

 

「なっ、何? かっ、か勘違いしてんじゃないわよっ! わっ、私はただ貸しを作るのが大嫌いなのっ。とと特に、アンタみたいな汚らわしい生物に貸しを作ったなんて考えただけで鳥肌が立つわ。それにそれ以上に爾菜に迷惑掛けたから……そっ、それだけよっ! あぁっ、なんか腹が立ってきたわ。このカスがっ! ふん」

 

 最後に志倉さんは足を大きく振り上げてボクの頭に垂直に振り落とした。か、かかと落とし……。ボクは失神して目が覚めた時には志倉さんは姿を消していた。

御閲覧戴き誠に感謝致しますっ♪

このストーリーで少しでも楽しんで戴けたら非常に嬉しく思います。

若干昔の自分に起きた事を小出しで掲載させて戴きましたが、どうでもいいですね。

以前より少しシリアスさは軽減したつもりです。今後もそのように出来る時には行っていきたいと思っております。


投票ランキングもこの作品に好感を持って戴いてる方には是非お願いしたく存じます。感想・評価等も今後の私の小説に対する創作意欲が湧いて参り、適度なハリが出てくる事と思います!して戴けたら感激しますっ☆〃


それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いですっ♪

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