28.光
「只今をもってこの選挙の保留を命じるっ」
いきなりドア口から聞こえるハリのある大きな声。
よく見るとそれは女の子であった。
遠くからでよくは分からないけれども、セミロングの髪の長さで背が高くスレンダーな女の子であった。
その女の子はなにやら手帳らしきものを内ポケットから取り出してボク達のいる舞台側に歩み寄ってきた。
「生徒執行取締委員会委員長の名をもってこの場は私が主軸として取り仕切らせて戴く。
尚、選挙委員会の全権限は私に委託される故、悪しからず」
ボクはポカンとした状態でそれを聞いていた。
一体何が起きたんだろう……。
選挙が終わった今何をすることがあるんだろう。
「まっ、まさか……アイツはっ」
隣で手塚くんが驚きの声を上げた。
ボクはゆっくりと顔を手塚くんの方に向けた。
「ど、どうしたの……?」
ボクはゆっくりと手塚くんに問いかけた。
「まさかっ、いや、どど、どうしてか分からん! 俺は混乱してる。ああ、あゆむに何を言っていいのか分からない、んだ」
手塚くんは動揺して頭に手を持っていった。
周りの皆の視線はその女の子の一点に注がれた。
皆もおそらく状況がつかめていないといったところだろうか。
木野城くんは声を少々うならせながら起き上がった。
「大丈夫ですか?」
雪穂さんは木野城くんの背中を片手で支えながらそう問いかけた。
「えっ、ええ。な、なんのこれしき、大丈夫ですよ」
木野城くんは頬に手を当てながら片目を瞑っていた。
流石に手塚くんの渾身の拳は痛いというのが見て取れた情景だった。
「無理はしないでください」
そう雪穂さんが木野城くんに投げかける。
木野城くんは辺りをゆっくりと見回し、異変に気がついた様にその始点を探った。
その後目を大きく見開いて驚いたように立ち上がった。
「これはこれは瀬那さん、よくいらっしゃいましたね! あなたのお力もあって木野城 晴紀、見事生徒会長に当選することが出来ましたよ。
感謝してますよ。して、どうしたのです?ここに直々にいらっしゃるとは思っても見ませんでした。
あぁ、そうか、私の生徒会長就任の祝詞を戴けるのですね。なんと、嬉しい事か」
女の子はピタと木野城くんの目の前の壇下で足を止めた。
俯きながら今まで掲げていた手帳をポケットに戻した。
「当選おめでとう……、良かったな……」
「ありがとうございます。 まぁ、私が当選することは選挙を行う前から明白でしたが。
大体私の対抗馬があんなヘタレの源 あゆむだとは拍子抜けですよ。
そもそも私の相手ではなかった。私の前に立ちはだかろうなんて100億万年早いことですしね。
そう思いませんか?」
「 ……」
女の子は沈黙を保っていた。
「雪穂さんを私から奪うからこういう事になるんだ。
まぁそれを今回はよくしらしめられた機会でしたが。
仲間を頼ってばかりで自発的に何も出来ないただの無能な人間。
父の源 雄司氏であったって会社の利益の事しか考えず人の気持ちを顧みない最悪な人間。
親子揃ってなんとまぁ……。そもそも金にモノを言わせてあなたの母上の学校を乗っ取るとは、人間の風上にもおけない方々だ、ハハハ。
下民はこういう結末を迎えるのですね。父親の方には一矢報いる事が出来なかったですが、息子の挫折を知れば打撃を与えられない訳ではない。いい気味だ」
「……つくな」
「ハハ、なんですか?もう一度言ってください」
「 ……、この嘘つきめっ!! 下民は貴様の方だっ!」
突如顔を上げ怒号に満ちた物凄い剣幕で木野城くんに向かって罵声を浴びせた。
館内がその声で響き渡った。
これは一体……。
「なっ、何を怒っていらっしゃるんですか? げっ、下民が私とは一体どういう事ですか?」
木野城くんは若干焦っていたように見えた。
一体あの女の子は誰なんだろう……。
生徒執行取締委員会の名は聞いたことがある。
生徒会の代わりとして存在する機関。
そのトップである委員長がこの学校を取り仕切っているという風に皆が噂してた。
そしてそこの女の子がどうやらそのトップらしい。
「貴様、私にこの学校は源家の私利私欲の為に乗っ取られたといったな?」
女の子はそう言いながら壇上へ上がる階段へと歩き出す。
「そ、そうですっ!全てはこの源が仕組んだ事、私達は被害者といっても過言ではありません」
木野城くんはその女の子の方に視線を合わせながら堂々と受け答えた。
「今なら無罪放免とまではいかないが比較的軽い罪にしておいてやる、正直に話せ」
壇上に上がったところでまたしても立ち止まり木野城くんの方を睨んだ。
「なっ、私には瀬那さんが何を仰ってるのか分かりません」
木野城くんの手元にふと視線がいく。
僅かながら木野城くんの手が震えているのが見て取れた。
ボクはまだ状況がつかめていなかった。
「ほう……どこまでもしらを切るか……。ではこれは何だ?」
館内は静寂に包まれていた。
皆は口を開くことなくボク達のいる壇上に向かって視線を向けていた。
その女の子はスカートのポケットからなにやら数字が並んでいる紙を取り出した。
「そっ、それはっ」
木野城くんは一歩足を後ろに踏み出した。
「これは九年前から去年までのこの学校の決算報告書の一部を抜粋したものだ。
ここの部分をよく見てもらえば分かるように収入の部分を何故支出の部分が毎年上回っているんだ?」
その女の子はその紙の左端の数字から右端の数字まで一連になぞった。
木野城くんの顔が若干引きつっているように見えた。
「さっ、さぁ、何故でしょうね? 私にも分かりかねます……」
その女の子は木野城くんの方に歩みだした。
「私はここの学校創設時代から代々経理を任せている木藤という人にこれが正しいか一から計算して貰った。
結果数百億の水増しが発覚した。当人に何故このような事が起きたか聞いたところ、経理統括に自分の経理結果を渡して最終審査をして貰っていたと答えたよ。どういうことか分かるか?」
「わっ、分かりません……」
木野城くんの唾を飲み込む音が聞こえた。
額から汗が流れ出ているのが見て取れる。
ってことは九年前から去年まで毎年この学校は数百億の赤字だったって事?
「さらにしらを切るか……。木藤から貰ったその決算書を経理統括が提出するつまり……その経理統括が水増しを行ったって事だっ! ……さてここで問題だ……去年まで経理統括だった人物は誰だ?」
再びその女の子は声を張り上げた。
木野城くんは急に顔を下に向けた。
「最上 天……名に聞き覚えがないか?」
「しっ、……知りません」
木野城くんの声のトーンが徐々に落ちてゆくのが分かった。
まさか……。
「九年前と言えば何が起こっていたかな? 確か木野城の会社が新天地に勢力拡大という目的で支社を全国に創設したものの失敗し大きな負債を抱えたという記事が新聞に載っていたような気がしたんだがな……」
その女の子のその一言で全ての全貌が見えたような気がした。
ボクは木野城くんの方を見た。なんでそんな事したの……。
「当時全国に勢力を拡大しようと社内で進言しその案を推進したのは誰だろうな……」
話す事をを休めることなく木野城くんに向かって言葉を浴びせる。
「最上は自分の失敗を補おうとして当時片手間で業務にあたっていた奏応学園経理統括という役職を利用したんだ。
無論最上と私の母は親友であったから……いやいや、これは間違ったな。
一方的に私の母が親友と思っていただけか……。
そもそも最上が奏応学園経理統括を任されたのも私の母のコネでなったようなものだ。それを逆手にとって母を裏切った。絶望していたよ……。
去年まででようやく挽回できる程の金が入ったんだろうな。去年は木野城の会社の株が急上昇していたからな。
さて、それは犯罪にあたるのではないか? フン、第一そのお陰でこの奏応学園は多大な負債を抱えてしまった。
つまり知らぬうちに貴様の会社の身代わりになっていたという事だよっ!!
毎年毎年何か紙を見ながら私の母は頭を抱えていた。去年まで私は何で悩んでいるのか分からなかった。
というより母にその悩みの種を聞いてみたが教えてもらえることは出来なかった。
しかし、この学校が乗っ取られたという貴様の言葉で私の脳裏では合点がいった。
毎年毎年母が悩んでいたことは源家にこの学校を乗っ取られるという事で、自分の役職、学校を司る重要な役目である席、生徒を愛しつつ
その生徒の人生の指針の手助けになる指導者の最峰としての奏応学園理事長という席に執着を持っていた母がそれを奪われるという事で落胆していたのだと。
私は母を苦しめた源家を恨み、木野城、貴様の方の影の支援者として票獲得を秘密裏に行った。
だがそれは間違いだと気づいた。この学校に源が転校してきた時に母が心労で入院し、辛くも退任前日には退院できた。
私はその退任前日の夜に母に呼び出された。そう、母に私の木野城側への支援を行うというのが知れたが故だった。
母は言った、このままでは奏応学園が経営破綻するという危機的状況を打開、救ってくれたのが源 雄司氏だと。
私は非常に後悔したよ。 つまり、木野城 晴紀、貴様に騙されたという事だっ!!
貴様の会社の幹部に私の知り合いに頼んで潜入してもらったスパイがいてな。
そのスパイが貴様の身辺調査をした所分かったよ。
貴様と貴様の父親は直接この事には関わっていないもののそれを全て知っていたんだ。それで私や周囲を利用し源を陥れようとした。
人間の風上にもおけないのは貴様ら木野城家の方だ。正々堂々勝負の出来ないこの腰抜け坊ちゃんめっ!よくも私を騙してくれたな。
お陰で源に申し訳が立たない。どうしてくれる?
さて私はこれからこの一連の事を警察に報告する。貴様の会社は忽ち信用を失うだろう。
まぁいずれにしろ貴様の茶番劇も、もう終わりだ……。
明日限りで貴様はこの学校を出て行ってもらう、木野城 晴紀。
それと明日ここを去る前に貴様の会社に流入したこの学校の赤字部分およそ9年分を返金してもらう」
「むっ、無理だっ! そんな事をしたら会社の存亡の次元の話じゃない、わが社は倒産確定だ!
確かに悪かったと思ってる。事の重大さも重々承知だ!しかし……」
「これは犯罪なんだぞっ!! 本当は違法な事を知っていながら見過ごしていると貴様らも罪に問われるんだぞ。
しかし私の母はまだ貴様が高校生だからこの先の人生を見つめなおしながらこんな間違いは二度と犯さず正しい人生を送って欲しいという理由で貴様を転校扱い、貴様の父親は会社に大打撃を与えるという事で放免という比較的軽い罰で済ませようとしている。
フンっ、やはり貴様はわが身大事な人間だなっ!」
木野城くんは俯いて黙ってしまった。顔面蒼白とはまさにこの事だろうか……。
木野城くん……なんで、最初は嫌な人だなって思ってたけどこんな事するなんて思いもしなかった。
雪穂さんもなんで? この事知ってたのかな? なんで木野城くんに協力したんだろう。
「加えて生徒会長の件だが貴様の獲得票は739だったそうだな。
対して源は690票その差49票。私の意向が変わったとしても、もう投票を済ませてしまったが故もう変更はきかない。
合法的にこの選挙結果を覆してやろうじゃないか。
貴様の様に汚い事はせずにな。
現在ここに在籍してないグループがいる。もうそろそろ到着する時間だ」
そう言ってその女の子は自分の腕時計を見て開け放たれたドアの方を眺めた。
すると丁度誰かが開け放たれたドアに立っていた。
胴着姿の人……、まさかっ。
「しっ、志倉さんっ!!」
目を凝らして見ても彼女である事に変わりはなかった。
でもなんで志倉さんがここに……。
辺りの空気は再び一変しざわついた。
ご閲覧戴き誠に感謝申し上げますっ♪
シリアス要素たっぷりでお送りいたしました。
まだシリアスの部分は続くかと思います。
ラブコメを期待してくださっている方々にはホントに申し訳ないと思っております。
予定では二章に入り次第ラブコメっぽく執筆してゆく所存です。
コメント・感想戴けるととても励みになります。
特に今回のストーリーは色んな方の意見を聞いてみたい所です。
それ以外でランキングの投票でも構いません、むしろそっちも励みになり感激です。
良ければ宜しくお願い致しますねっ!
それではまた次の話も読んで戴けると幸いです♪