26.生徒会長選
奏応学園生徒会、一度は消え去った。
その理由はまだ分かっていない……。
ただ分かっている事と言えば、前の生徒会執行委員の人達は全員自らが辞任してしまったという事。
この現象は非常に不可解であった。
そしてこれからまた新しい生徒会が復活しようとしている。
ボクか木野城くんを生徒会長とする生徒会が誕生しようとしている。
何故生徒会の人達は全員辞任してしまったのだろう……。
でも今はそんな事関係ない。
ボクはただ目の前にいる支援してくれる人達のために生徒会長になるしかないんだ。
いつしか、与えられた試練が自らが与える試練となっていた。
ボクと木野城くんはジャンケンをした。
そう、勿論順番決めである。
結局ボクが勝って後攻を選ぶ事が出来た。
そして現在ボクの目の前には雪穂さんがマイクスタンドに向かって歩き出していた。
応援演説の始まりだ。
代表者は木野城くん側からは勿論雪穂さんが、そしてボクの側からは琉嶺先輩が選出された。
「皆さんこんにちは、この度私、詩条雪穂は木野城晴紀の支援者を勤めさせて戴く事になりました。
晴紀さんは……」
雪穂さんが挨拶すると男女共にから歓声が上がった。
やっぱり雪穂さんはボクだけでなく皆から好かれてるんだ。
やはり痛手は相当大きい。
雪穂さんはその歓声が湧き起こる中で応援演説をした。
そしてその演説が終わり雪穂さんは反対側の舞台袖に向き直る。
今度はボクの応援演説だ。
ボクは先輩の方を見やる。
何故か先輩はハンカチをかみ締めていた。
瞳には闘志さえ感じられたほどだった。
「私の番ですわねっ!
詩条雪穂……好き勝手出来るのもここまでですわ!!」
そう呟きながら今度は先輩が演説台に向かって歩き出す。
先輩がステージに出ると女子の感極まった声がさっきよりも熱狂的に聞こえてきた。
ボクは袖幕から観客席を見回すと女子の手にはあるボードが掲げられていた。
『琉嶺先輩の付き人会、先輩に何処までもお供しますっ♪』
そうボードには書かれていた。
こんなに熱狂的に、大体今の時代”付き人”なんて”差別用語”なんじゃないかな。
そしてそのボードを持った人たちはほとんどが女子。
先輩が演説台の前に立つとその女子達からは声援があがり、先輩は得意げな顔をした。
それとは対照的に男子は冷ややかな目であった。
手塚くんの言った言葉は本当だ。
「皆様、この度はお集まり戴きまして誠に感謝いたします。
さて今回は私、琉嶺乃唯は源あゆむ側の支援者を勤めさせて戴きます。
それに際しまして、今回源さんに投票される方は私のオフショットを配布したいと思います。
そして無作為に誰かがランダムに私の水着姿の写真が贈呈される特典がついて参りますっ。
詩条雪穂さんが支援する木野城晴紀側にはなにも用意されていないようですが、ねっ。
私と詩条雪穂さんのどちらを選択するのか、まぁどちらを選択するなど、投票開示等やらなくても
分かりきった事ですが……フフ。
さて、そもそも私とみなもとさんは……」
何故か先輩は自信に満ち溢れているように感じられた。
実際序盤引き気味だった男子のなかでは少数ながらも支持表明をする人がちらほら見受けられた。
女子の方は木野城くんや雪穂さんのファンを除外するしかしそれらの半数以上の人達がボク達に声援を向けた。
選挙って凄い。
女子からの圧倒的な声援と共に先輩の演説は終わりを迎えた。
ボクの横で手塚くんがガッツポーズをしていた。
彼曰く、”思惑通り”らしい。
そして今度は木野城くんが演説台に向かう。
そしてマイクスタンドを自分の口元に引き寄せて
「皆さん、今日は私の為に集まってくれてありがとう、感謝する! そもそも私がこの選挙に立候補したのは……」
淡々と言葉を紡ぎだし終盤を迎えると
「それと先ほど琉嶺先輩が仰った言葉は少し違っている。
こちらに何の用意もないというのは嘘だからだ。
あちらは写真、ならばこちらも写真で対抗しようじゃないか! 」
そう言うと、木野城くんは内ポケットから徐に何かを取り出した。
そしてその手を上に掲げた。
『えっ!? 』
場内が閑散としてしまった。
「先ほどそこの噴水で撮ったボクと雪穂さんの写真だ。
私が雪穂さんをお姫様だっこしている姿が良くキマっている。
まさに”ベストショット”。
こんな写真はそうそう撮れたものじゃない。
しかし特別に今回は私の方に投票をした人には特別に全員これを贈呈しようじゃないか、
なんという粋な計らいっ!
それでは私に投票、宜しく頼むよ」
言い終わると木野城くんはゆっくりとした足取りで舞台袖に向かった。
相変わらずのこの空気。
誰一人として声をあげない。
良く見てみると女子は皆あ然の状態だった。
ボクはそんな中ステージに出てゆく。
辺りは閑散さの極みだった。
皆からの冷ややかな目を向けられつつも言葉を発しなければいけない。
なんというシチュエーションか。
「みっ、皆さん!
今日はお集まりいただいてうっ、嬉しいです。
ここで残念なお知らせがあります。
先ほど琉嶺先輩が仰った写真の件ですが、贈呈しない事に決めました。
つまり今回ボクに投票して戴いても何の見返りもないという事ですっ」
「ばっ、バカっ!あゆむっ! 」
舞台袖から手塚くんの焦った声が聞こえる。
そしてそれに対照的にも場内は批判の声が続発。
挙句の果てには『お前になんかもう投票しねぇぞ』という野次まで聞こえてしまった。
そんな事にショックを受けている場合ではない。
何かで人を釣って支持を得ようとするなんて最悪の行為だ。
そんな時白木さんがボクの横を通り過ぎて演説台に向かう。
するとどうだろう。
場内の雰囲気はいきなりヒートアップ。
圧倒的な男子からのラブコール続発。
辺りの客席はどよめいていた。
そんな中白木さんはマイクを口元に近づけてこう言った。
「私、今回みなもと君が敗戦したら……芸能界引退します!」
言い終わると皆の声が止んだ。
そして少しの間を置いてから一気に場内は男子のパニックが起こった。
それを収集するのに1時間も要することになった。
場内が収まった時点でいよいよ投票ボタンを皆押し始めた。
ボクはステージに備えつけられたスクリーンを見つめていた。
そしてボクの支援者のいる背後を振り返ってみる。
「大丈夫だ」
「大丈夫ですわ」
「きっと当選するよ!」
皆からこのような言葉を聞かされてボクは勇気付けられた。
そして再びスクリーンを見つめる。
木野城くんは余裕の笑みを浮かべていた。
『ピンポーン』
投票終了の合図だった。
『それでは発表いたします! 』
そして若干の間を置く……
『木野城側投票数……739名! 対する源側投票数……』
アナウンスの緊張感がスピーカーを通して伝わってくる。
ボクは唾をゴクリと飲み込んだ。
『……690名! よって次期生徒会長は木野城 晴紀候補に決定いたしました!
そして今回は残念ながら源 あゆむ候補は敗退となりました。
皆様投票ありがとうございました』
支援者の皆の視線は下を向いていた。
全てが終わった……。
ボクは罪悪感と絶望感に苛まれていた。
ボクは……お父さんの試練を、自分の試練を、全うする事が出来なかった。
そして何故か場内のもわっとした熱気に冷気が混ざった感じがした。
ボクは膝を落とした。
皆に恩返しできなかった。
ボクに与えられる試練はもう存在しない……。
ご閲覧戴きまして誠にありがとうございました。
さて、やっと第一章の終盤に差し掛かりました。
ここまでで皆様からの感想・評価を戴けると非常に励みになります。
そして投票ランキングの方もご協力賜りたいです!
何卒宜しくお願い致します。
そして次の話ですが、結構間が空いてしまうかもしれません。皆様からの声が多ければ時期は早まるかもしれませんが、基本的にそういう事はないので時間が掛かってしまうと予想されます。
まず最初にお詫び申し上げておきます。
それではまた次のストーリーを読んで戴ければ幸いです。