24.支援者➃
ボク達は階段を只管上っていた。
終止無言の状態。誰も口を開こうとしない。
ボクは唾を飲み込んだ。
思いがけずゴクリと音がなってしまった事に恥ずかしさを覚えた。
着いた先はその校舎の屋上でもある扉の前。
手塚くんはドアノブに手を掛けてゆっくりと捻った。
開け放たれたドアからは勢い良く風が吹き付けてきた。
そこに広がっていた景色は晴天の青空だった。
歩みを進めてみると、広がるアスファルトに何故か一箇所だけレッドカーペッドが敷かれていた。
よく見てみるとその上にはアンティーク調の椅子が置かれていて脇には小さなテーブルが配置してあった。
「あの人があゆむの今回の支援者の中枢ともいえる人だ」
手塚くんが振り向いてそう言うとその誰とも知らぬ人との距離がどんどん近くなってゆく。
そしていよいよ対面の時。
椅子に腰を掛けていたその女の子はいささか不機嫌そうだった。
何故このシチュエーションで手にワイングラス的なものを持っているのか理解に苦しんだ。
しかしなにより目に飛び込んできたのは女の子の姿だった。
藍色の長い髪をして顔には上品さが感じられた。
はっきり言って美しかった・・・・・・。
ふと手元に視線がゆく。
爪は長くしかも調和の取れた形。
これは相当な手入れをしていなければ成せない事。
加えてこの奢侈な感じ。
これらが示すベクトルは・・・・・・。
女の子はワイングラスを脇のテーブルに置くとボクを一睨み。
それから手塚くんに視線を移した。
「随分遅かったのですわね?」
そう言いつつ立ち上がった。
「で、この方が源 あゆむさんですの?」
そう手塚くんに問いかける。
「そうだよ」
その女の子はボクのつま先から頭の先までながすように一望した。
「この方が源グループの・・・・・・」
「あの・・・・・・」
ボクはその女の子の方を向きつつも視線を落としていた。
女の子は不思議そうな顔をしながらボクを見つめていた。
「なんですの?」
「あなた誰なんですか?」
「っま、失礼な方ですわねっ。でも名乗ってはいませんでしたわね。私、琉嶺 乃唯と申します。
ちなみに3年生、つまりみなもとさんの先輩という事になりますわ。以後お見知りおきを・・・・・・」
そう言ってちょこんと頭を下げた。
「琉・・・・・・嶺先輩?
何故今回ボクの支援者になってくれるんですか?
勿論ボクと琉嶺先輩は今日が初対面だし・・・・・・」
すると今度は手塚くんが隣から口を挟んできた。
「それは俺から説明するよ!
この学校には二大勢力と中立勢力がある事は知ってるか?」
「知らないけど・・・・・・」
勢力って・・・・・・この学校にそんなのあるの?
全然分からなかった。
「二大勢力・・・・・・。つまりこの学校において特別視されている人。
一人はあゆむがよく知る人物だ」
ボクのよく知る人物・・・・・・?
それって、まさか・・・・・・
「もう気づいてるみたいだな。
そう、木野城側の最大支援者でもある詩条雪穂。
寄付金や留学費援助や設備費や部費など支援は多岐に渡る。
もう一つの勢力・・・・・・それがこの琉嶺 乃唯先輩なんだ。
琉嶺財閥にしてこの学校の設立資金投資者。
互いの勢力は敵対勢力となっている。
そしてどこにも属さない中立勢力としてこの白木 爾菜さんがいるわけだ」
手塚くんは淡々とそう語りながらボク達の周りを歩き始める。
ボクは琉嶺先輩の方に視線を送る。
この人が財閥のご令嬢なんだ・・・・・・。
だからあんなシチュエーションになってたんだ。
合点がいった。
でも・・・・・・
「なんでボクの支援者になってくれるんですか?
ボクは雪穂さんと繋がっています。
だから本来であれば先輩はボクの方につくべきではないんじゃないんでしょうか?
理由がボクにはいまいちよく分かりません」
「そうですわね・・・・・・。
私は詩条雪穂さんに恨みがあるのですわ。
まぁここでは言わずもがなですが・・・・・・。
そして詩条雪穂さんは木野城側についている。
私としてはどうしても詩条雪穂さんを圧倒したい。
という事はあなたの方につくしかありませんわ」
琉嶺先輩はそういい終えるとまた椅子の方に歩き出して腰を掛けた。
対する手塚くんは立ち止まった。
そしてボクとの距離を詰めてくる。
表情はいつもになく真顔だった。
「あゆむ・・・・・・、これでもあゆむが当選するか正直分からない。
しかし俺らが出来ることはここまでだ。
勝算がたった訳ではないがこれで互角になったと考える。
後は選挙を待つだけだ・・・・・・」
ボク達はそれ以降の授業を全てサボることになった。
放課後にはボクと白木さんで支援者3名の氏名を書き込んだ願書を職員室の淫乱教師に出しに行った。
選挙がいよいよ始まる・・・・・・。
なんともいえない気持ちが心の中に充満していた。
いつこの気持ちは取り払われるのだろうか・・・・・・。
ご閲覧戴きありがとうございます。
残念ながらまだまだシリアスな話になってゆきます。
本来のカテゴリを前面に出せないことへのもどかしさを感じながらも今後執筆してゆくのでご理解・ご協力の程宜しくお願い致します!
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それではまた次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。