3.真実➀
長い廊下を歩いて一番奥の部屋に入っていった。クイーンルームという名前がつけられていることだけはあって、入り口は歴史の感じられる年季の入ったドアがやけに高級感を演出していた。中は半円形ほどの床から天井にかけての長方形型のガラス張りの窓が取り付けてあって、そこまで歩み寄って外を眺めてみるとあたりのイルミネーションがボクの目に美しく映る。さっきのライトアップしたものをここからみると物凄く神秘的に見えるのはここがやっぱり高いところだからだろうか。眩い光を放つ室内の大きなシャンデリア。床一面は大理石。長テーブルがあって、たぶんここは食事をする席かな。
「あゆむ君といったね、座ってくれ」
雪穂さん父の声でふと視界を外から内へ変えた。雪穂さんを含め他の二人も着席していた。ボクは一番窓から近い席にある雪穂さんの隣の席に腰を掛けた。ボクが椅子を引い座ってから少し間が空く。沈黙……。だけどそれを最初に破ったのはやっぱりお父さんだった。
「さて、なにを話してよいやら……。まずは、すまなかった」
お父さんはいきなり立ち上がってボクに向かって頭を下げた。
「何に関して謝っているの? お父さん何にも悪いことしてないでしょ」
「いや、お父さんはなぁ、嘘をついていたんだよ」
「……嘘?」
ボクはゆっくりと口元を転ばした。
「じつはな、父さんの会社は非メーカー系のガレージメーカーじゃないんだ。あゆむはいつも父さんの会社の仕事を副社長として手伝ってくれたね」
「えっ、だってあゆむさん、まだ高校生なのに……なんで?」
雪穂さんは小声で言った。
「まぁ……そうだね」
確かめるように返事した。
「結論から言おう。父さんの会社は貿易会社だ。それも外国も含めた業界トップの最大手企業、Minamoto Tradeのね。全国に186ヶ所にわが社の系列がある。父さんはその中で社長をしている。では何故あゆむに嘘をついていたか、それは……私の会社を将来的に継いで欲しかったんだ。様々なコトを勉強して経営というものを学んで欲しかった。その一歩としてモノづくりを考えるひらめきや仕事の大切さを学ばせたかった。だからこそ小さなアントレプレナーの会社を立ち上げて、わざわざ内の社員に手伝ってもらってアントレプレナーの仕事を手伝ってもらった。だが嘘をついたことは悪かったと思ってる、この通りだ、許してくれ」
お父さんは少し頭を下げた。正直信じられない。そんな大会社の社長だったなんて。でも信じろって言うほうが無理かもしれない。いきなり、父さんは貿易会社社長だ、あゆむに経営というものはなんたるかを学んでもらうために嘘をついた。なんて、でも……。
「あの会社はどうなるの」
ボクは少しトーンを落としてそうたずねた。幼い頃からあそこで社員の人やお父さん達と一緒に頑張ってきて思い出も沢山出来た。あそこはボクにとって大切なもの。
「そのことなんだが、実はあの会社は買収されてしまった。どの会社に買収されたかは調査中だがきっと取り戻す。あそこはあゆむだけじゃない、父さんやわが社の複数の社員にとってもかけがえのないものなんだ。確かに最初はあゆむの経営学を学ばせる準備段階の部分を学ばせるために父さんが立ち上げた。正直最初の頃みんなモノづくりなんて興味はなかった。ただ父さんの友人がアントレプレナーをやっていたんで、イタチごっこというか、その、真似事をしたんだ。だからあの職を選んだのには理由はない……。しかしモノづくりという、消費者の視点になってよりよいものを発案したり、試してみたりする。そんな仕事に愛着が徐々に湧いてきたんだ。確かに経営的にキツいときもあった。なんせわが社の勢力範囲では未開拓の部分だったからな。失敗が多くて……。でもそんな時いつも隣に座っていたあゆむは画用紙いっぱいにアイディアを書き出してイラストを描いていたね。その時のあゆむは目をキラキラさせて汗だくで汗を拭く余裕もないくらい鉛筆を動かしていた。父さん、それを見てもの凄く感動した。『俺はなにをやっているんだろう。あゆむがこんなに頑張っているんだから俺も……』 って奮起させられた。社員の皆にもその光景に心動かされたはずだ……」
お父さんはしみじみと話した。そう、あの頃はやる事が発案しかなかったから一生懸命画用紙いっぱいに書き出していたなぁ。白い画用紙。鉛筆で文字やイラストをいっぱい書く。そして間違ったら消しゴムで消す、何度も、何度も。時には手が痛くなって鉛筆ダコが出来た。それでもなんとかガムテープで手に鉛筆を固定して描いていた。それも今となってはいい思い出……。お父さんも同じ気持ちだったんだ。なんか嬉しい……。
雪穂さん父や雪穂さんはただ俯いてずっと聞き入っていた。少しの間沈黙が続く。部屋の中にある大きな古時計がカチカチっという音がやけにボクの耳に入ってくる。やがてゴーン、ゴーンという音を立てる。それが鳴り止むと今度は雪穂さん父が口を開いた。
「ユウちゃん、いや、あゆむ君のお父さんと私は大学時代に知り合ったんだ。もう長い付き合いになる、最近は連絡だけ取り合っていたが昔はよくお互い愚痴を溢す為に近くの居酒屋に飲みにいったものだ、ハハハ。コホン、あゆむ君のお父さんは私にその買収した会社を一緒に探してくれないかって
わざわざ私に頼みにここにまで来たんだよ。
そんなこと電話でもいいのにね。っま普通はどの会社に買収されたか分かるんだけど、不思議なことにその知らされた会社はダミーだったんだ。一体なんでそんな事をしなければならなかったか、検討もつかない。まぁともかく私たちがそんな話をしている最中、雪穂と男の子が一緒にクイーンルームを使用する、まぁこの部屋だな、という情報を家の警護班から聞いてね、どんな男の子を連れてきたんだろうっていう興味があってここの階に上がってきて待ち構えていた、という訳さ」
雪穂さん父は優しい口調で淡々と語りかける。お父さんもあの会社を大事に思ってくれてたんだ……。
「父さんも興味があったんだ。なんせよくここに父さんは所要で来ていたから雪穂ちゃんがカワイイ子だって知っていてそんなカワイイ子が連れてくる男がどんな男かと思えばあゆむだった訳だよ……。なんか父さん的には複雑だよ……」
ボクは咄嗟に隣の雪穂さんを見る。雪穂さんはウフフと少し笑っていた。
「おじ様にはここに来たとき少し遊んでもらっていたんです。優しい方で、その人があゆむさんのお父様だったとは……」
そういうことだったんだ。全然知らなかった。
「あゆむ、ここで大事な話がある」
お父さんは改まった様子でこちらを見つめる。なんだろうこんなに改まっちゃって。シャンデリアからの眩い光が充満するこの部屋には緊張した空気が流れていた。
Prologue thirdを読んでいただきありがとうございます。嬉しい限りです。
しかし、今回は少し短いですね。
そこの所はどうかご容赦ください。
それではこのAchieve〜与えられた試練〜というのお話に少しでも多くの方に関心をもっていただければ
幸いです。
そして次のストーリーも御覧いただければ感激です。