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Achieve〜与えられた試練〜  作者: Tale Jack
★第一章 【第一の試練】
26/56

19.大喧嘩

 地平線辺りが紫色に染まっていた。

 

 時は夕暮れを迎えようとしていた。

 

 ボクと雪穂さんと白木さんは既に剣道場に着いていた。

 

 思えば、さっきの号館を一階まで下って、舗装された並木道を通ってここまで来た。

 

 やっぱり距離的に長かった。

 

 剣道場というのには似つかわしくないほどに近代的な建物だった。

 

 加えて規模が大きい。

 

 国技館を二まわりぐらい小さくしたぐらいのものだった。

 

 驚く余裕もなく雪穂さんは剣道場の中に入っていくので着いて行く。

 

 そして入り口に入ったところで人だかりが出来ていた。

 

 そのせいで前の方が見えない。

 

 ボクは制服を着ている生徒を掻き分けて最前線に行った。

 

 前方にはまた人だかり。

 

 しかし今度は何かを囲むようにして、剣道着を着た生徒達が立っていた。

 

「今日こそ、許しておけねぇ!このあま、覚悟しろよッ!!」

 

 ふと誰かの怒号が鳴り響く。

 

 それを受けて辺りはざわめく。

 

 何か嫌な予感がする・・・・・・。志倉さんは何処にいる?!

 

「元々覚悟なんて出来てるわよっ。

 

 アンタ達の方こそ怖気づいてたんじゃないの!?

 

 恐いんでしょ、あたしが?」

 

 取り囲みの中心から志倉さんらしき声がする。

 

 しかも、怒号を発する者に対して挑発してる。

 

 火に油だよ。

 

 大変だ。

 

 その焦る気持ちとは裏腹に、志倉さん達の関係は激化してゆく。

 

「なんだとぉ!女だと思ってりゃあいい気になりやがって!」

 

 ボクはまたまた『すみません』と言いながら群集の中を掻き分けて、中心に急ぐ。

 

 掻き分けてゆく瞬間に、剣道着の麻の匂いがボクの感覚を麻痺させる。

 

 汗も混じっているからだろうか・・・・・・。

 

 懐かしい。

 

 昔おじいちゃんとやった剣道・・・・・・色々な事が頭の中をよぎる。

 

 そして中心部にやっとの思いで辿り着いた。

 

 一応、現段階では野次馬の中で行く末を見ていよう。

 

 剣道着姿の志倉さんは、この状況下で思うのも不謹慎かもしれないけど、かなり似合っていた。

 

 背は小さいながらも味はあるというかなんというか、風情が感じられた。

 

 右手には木刀を持っていた。

 

「いい気になってるのはアンタ達の方でしょ!?

 

 下級生苛めて楽しいのッ?!

 

 そんな事するようなクズには、この剣道部には必要ないのよ!

 

 そうやってアンタ達は社会の中でゴミとして分別されていくんだわ!」

 

 志倉さんが群集の中の一点を見つめる。

 

 その方を見やると、剣道着を着ている男子部員が仰向けに寝せられてる。

 

 それを看病するように男子部員たちが数人付き添っている。

 

 そしてその内の男子が志倉さんに向かって言う。

 

「志倉先輩ッ!もう・・・・・・いいんです。

 

 俺達がいけないんです。

 

 先輩達のロッカーを片付けるのを躊躇ったから・・・・・・。

 

 だからもうやめて下さいっ!!

 

 怪我人はもう・・・・・・十分です・・・・・・」

 

 男子部員が言葉に詰まると、それに続くかのように他の男子部員も

 

「コイツの言うとおりッス。

 

 俺達が先輩達の言う事を聞けばそれで済んだんです。

 

 だから・・・・・・これからちゃんと・・・・・・従います」

 

 男子部員から発せられた言葉。

 

 加えて、男子部員の唇を見てみると、思いっきり噛締めてる。

 

 相当悔しい事が伝わってくる。

 

 するとそれを聞いた志倉さんが即興で返答した。

 

「アンタ達、こいつ等の言う事なんて聞かなくて良いから。

 

 っていうか、聞く価値もない!

 

 大丈夫よ。本日付でこの剣道部から永久追放するからっ。

 

 このあたしの手によってね!」

 

 志倉さんは右手に持っていた木刀をそっと床に置いた。

 

 男子部員からみたらこういう先輩がいたら、絶対頼もしいんだろうな・・・・・・。

 

「おぉうっ?そいつは面白れぇ。

 

 木刀を置いたって事は素手でいいんだよなぁ!?」

 

 この間のチンピラの主格が指を鳴らし始めた。

 

 そして首を思いっきり左右に数回ふる。

 

「志倉先輩っ!やめて下さいッ!

 

 先輩が闘う必要なんてないんです。

 

 俺達の犠牲でこの場は納まるんです!だから・・・・・・」

 

 男子部員は切実にそう言い、おもむに立ち上がる。

 

 そして志倉さんの方に来ようとすると

 

「アンタ達はそこにいなさいっ!

 

 そこでじっと眺めてればいいのよ。

 

 邪魔立ては許さないッ」

 

 志倉さんも同じように、指を鳴らし始め、首を左右に数回ふった。

 

 そして深呼吸。

 

 相手のチンピラは、余裕があるのか微笑を浮かべている。

 

「さぁ、パーティーだ!

 

 パーティーは派手にやらなきゃな!?

 

 でも良かったのか?こんな大勢で押しかけてよォ!?」

 

 チンピラの主格がそういうと背後の方から木刀や竹刀を持った、またまた剣道部員じょうきゅうせいが走ってきた。

 

 1対多数・・・・・・勝てるわけない。

 

「このままじゃ志倉先輩が危ねぇ!!やっぱり俺達も!」

 

 そう男子部員の誰かが言って立ち上がり、それを受けて他の士気も上がりこちらもまた多数が加勢しようとすると

 

「そこで座ってなさいっていってるのでしょっ!!

 

 こんな事もまともに聞けないの!?」

 

 志倉さんが大声で叫んだ。

 

 館内は一瞬閑散とした。

 

「いやっ、でもそれじゃあ志倉先輩が・・・・・・」

 

「アンタ達が加勢したところで、あたしの勢力は変わらない」

 

 それを受けて男子学生はしずむ。

 

 下を向いている・・・・・・絶望してるのだろうか?

 

 このままじゃ志倉さんがやられる。

 

 でも自分達が加勢しようとしてもそれを受け入れてくれない。

 

 必要とされてない。

 

 自分達のせいなのに・・・・・・。

 

 やりきれない気持ち。

 

 悔しい気持ち。

 

 いっぱい。

 

 

 

 

 

「さぁ、熱い青春ごっこはおしまいだ。

 

 今日はオマエを二度と表に出られないような顔にしてやるぜ」

 

 そして時が流れる・・・・・・

 

 間というやつだ。

 

 次の瞬間

 

「行け」

 

 そうチンピラの主格が言うと一斉に他の人たちが志倉さん目掛けて襲ってきた。

 

 志倉さんは動かない・・・・・・

 

 チンピラの先駆けすかさず木刀を志倉さんの頭目掛けて先槍を入れようとした。

 

「何っ!?」

 

「ちょ」

 

 ボクはそれを素手で掴んだ。

 

 極限状態まで待ってみたけど、事態の収拾がこのままだとつかない・・・・・・。

 

「何だテメェはぁ!?」

 

 他のチンピラ達の動きは一向にやまない。

 

 これを全部片付けるのは疲れるなぁ。

 

「やめてくださいっ!!」

 

 ボクは大声で一喝した。

 

 チンピラ達の動きは止まった。

 

 するとチンピラの主格が

 

「オゥオぅ、この前は世話になったなっ!?

 

 だが今回はこの前みたくいかねェぜ。

 

 なんせこんなに数がいるんだからな・・・・・・」

 

 両手を広げて若干上に上げる。

 

 そしてクルっと一回りしてチンピラ達を眺める。

 

 その後再びボクに微笑を浮かべた。

 

「数が問題ではありません。

 

 とにかくここでおしまいにして下さい。

 

 誰に対しても怪我はさせたくないんです」

 

 するととなりにいた志倉さんが

 

「またアンタなのね!?

 

 なんで出てくるの、アンタ邪魔なの、引っ込んでて、第一アンタには関係のないことでしょっ!!

 

 これは私達剣道部の問題なの!」

 

 志倉さんが真剣にボクに向かって眼を向ける。

 

 やっぱりそうだ・・・・・・。

 

 この人は嫌味ったらしく言うけれども、でも・・・・・・。

 

「じゃあボクが剣道部に入れば解決だね・・・・・・」

 

 ボクは声を小さくして志倉さんに返答した。

 

 剣道部の問題であり、ボクに関係がないと言うのなら、ボクがその問題の中に入れば済むこと。

 

 この状況を黙って見過ごすわけにはいかない。

 

「そういう問題じゃ・・・・・・」

 

「何をブツブツ言ってんだ!?オイっ、やれッ!!」

 

 そう言って再び奇襲を決行。

 

 あくまで最終警告を無視しますか・・・・・・。

 

 ボクは志倉さんの前に立って、床に置いてある木刀を取った。

 

「ちょっ、それはあたしの・・・・・・」

 

「ちょっと借りるね」

 

 その後、ボク達の周りには大勢の人達が円状に倒れていた。

 

 ボクは全て峰打ちで留めていた。

 

 程度を加減した、これは無意識の内だった。

 

 もともと武道の心に反する事は絶対しないと最初に誓ってやり始めた剣道。

 

 だけど・・・・・・。

 

 前方を凝視する。

 

 残るはチンピラの主格一人のみ。

 

 すると予想外の事が起こった。

 

「もう我慢ならねェ!」

 

 そう発狂して内ポケットから取り出したのはサバイバルナイフ。

 

「こっ、これで、てっ、テメェ達を、ヘッへ、これで仕舞いだっ!!」

 

 ボク達に走りこんでその矛先を向けてくる。

 

 コレは危ない。

 

 と瞬時に察知したのか、すぐさまチンピラの主格の間合いに入り込み、鳩尾に峰を差し込んだ。

 

 サバイバルナイフはチンピラの主格の手からすり落ち、カランという音を立てて床に落ちた。

 

 そして膝を突いて、思いっきり前に倒れこんだ。

 

 辺りは歓喜の声を上げていた。

 

 館内は殺伐した空気から一変、明るい空気になっていた。

お読み戴きありがとうございました。


今ストーリーは本来ならばこの後に少し主人公と○○との関わりを執筆していたのですが、急遽諸事情により、次話にまわすことに決定致しました。

ですので、その模様も次回までお楽しみに!


感想・評価・投票ランキング等々して戴けると非常に励みになります。

宜しければお気軽にお寄せ下さい。


それではまた次のストーリーを読んで戴ければ幸いです。

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