18.消えた手紙
ボクの前方のドアから入ってきたのは・・・・・・
「みっ、みなもと君!なっ、なんでここにいるの?」
この高く透き通った声の持ち主、そう・・・・・・
「しっ、白木さん!!ボクも同じ疑問を投げかけたいんだけどっ」
なんで白木さんが理事長室に入ってきてるの?
絶対にボクのお父さんとは知り合いになり得ない、でっ、でもさっき”雄司”って呼んでたしなぁ。
「あたしは、そのっ、社長、っあっ!違う違う。次期源理事長に話があって来たの!!
みなもと君こそなんでココに?しっ、詩条さんまでいるみたいだけど!?」
白木さんはボクの隣に立っている雪穂さんに目を向けて、驚きつつお辞儀をした。
雪穂さんはゆっくりと落ち着いた様子でそれを返した。
やっぱり雪穂さんって”きょどる”ことなんてないのかもしれない・・・・・・。
ボクはこんなにも、まさかの場所で白木さんと顔を合わせてきょどッてるのに。
それにしても、ボクのお父さんに話しかぁ・・・・・・。
一体何を?
まぁ、そこはプライバシーに関する所だから関与はしないけど。
でもさっき”雄司”って確かに呼んでたよね?!
あれは一体何故に・・・・・・。
理由を聞きたかったものの、聞くタイミングは過ぎてしまった。
現在はボクに質問を投げかけられている。
あんまりいい文句が浮かばない。
どう返答していいんだろう・・・・・・。
白木さんの目はボクの方を向いている。
「ぼっ、ボク達はその・・・・・・」
とボクが言いかけようとした時に
「私達はここで朱鷺等理事長が何か置き忘れたモノはないかと探してたんです」
「そうなの!?それでここにいたんだぁ」
白木さんの目線はボクから雪穂さんに移った。
雪穂さん、ナイスフォロー!
「そうそう、みなもと君?」
白木さんが改めてボクを呼びつける。
「なに?」
「今日の放課後にあたしの武術の監修・監督してくれるんじゃなかったの?
手紙が机の中に入ってたでしょ!?」
あぁっ!そうだった、忘れてた。
冷や汗がジワジワ湧いてくる。
白木さんに悪かったなぁ。
ん?!そういえば、放課後に机の中の教科書とか一冊ずつ確かめながら鞄に入れて、最後に確認として中を見たけど何もなかった。
「それってさ、いつ入れたの?」
「昼休みにちゃんと入れたよっ」
昼休みか、昼休みはボクは雪穂さんと食べてたけど・・・・・・。
蛇足として、木野城くんは他の娘と食べてた。
「放課後確かめてみたけど・・・・・・そんな手紙なかったんだ・・・・・・」
「なかった?!おかしいなぁ・・・・・・。あたしちゃんと入れたつもりだったのに・・・・・・」
どういう事!?入れてたものがない?
すると今まで沈黙していた雪穂さんが口を開いた。
「整理しましょう」
雪穂さんは落ち着きを払いながら話の主導権を握った。
「あゆむさんは昼休みは、昼食を私と一緒していました。
昼食を食べ終わった後、少し雑談などをしてから教室に戻られました。
授業の予鈴も鳴りましたので。
なので昼休み中はあゆむさんは教室、つまり机の周りにいなかったわけです。
あゆむさん、これは事実ですよね?」
雪穂さんがボクに問いかける。
「はい、その通りです」
ボクの回答に頷いてから今度は白木さんに目を向ける。
「一方、白木さんは昼休みにあゆむさんの席の中に手紙を入れた。
間違いありませんね?」
今度は白木さんに尋ねる。
白木さんはアイコンタクトをしながら
「間違いないですっ、席を確かめてから入れたんです」
そう確信を持ったように言った。
「あゆむさんや、白木さんの証言を統合しますと行き着くところはどうしても一つです!」
「何者かに盗まれたという事ですか?」
ボクは先をよんでから雪穂さんに問いかけた。
「ええ、そうしか考えられません」
雪穂さんの目線が若干下に下がり、回答が少し溜息交じりだったのは気のせいだろうか・・・・・・。
「一体誰が?何の為に?」
白木さんは独り言のようにそう呟いた。
「そこは私も存じてはいません」
雪穂さんは誰ともなく投げかけられた疑問に、自らが答えた。
「ですが・・・・・・」
雪穂さんは何かを躊躇うかのように言葉を切った。
そして少し時間が経った後、
「言える事は・・・・・・、あゆむさんと、白木さんの間に結ばれた約束事に対して、良くないと思っている人です。
残念ながら私はあゆむさんと白木さんの間に起きている事象・人間関係を全て把握している訳ではないので分かりかねますが・・・・・・」
雪穂さんのお陰で話は平行線を辿らなくてよくなりそうなの・・・・・・かな?
ふとボクの右太股がバイブによって震える。
ボクは右ポケットに手を入れて、その原因元となる携帯を取り出した。
見てみると着信だ。
誰だろう・・・・・・。
そう思って二つ折りになった携帯を通常状態にする。
画面には『手塚くん』の文字が。
何かこれから何処かに行くから、そのお誘いかなぁ。
毎回色んな所に行って結構帰りが遅くなるから最近平賀さんが心配している。
この間なんて『あゆむ様に風邪をひかれてはこるんです・・・・・・』
といってメチャメチャ落ち込んでた。
落ち込まれるのって怒られるのより堪えるんだよなぁ・・・・・・。
なんとか今週くらいは早く帰らなきゃ。
出ようか出まいか迷ったけど、結局携帯に出て誘いを断る事にした。
携帯のボタンの受話器ボタンを押す。
するともの凄い勢いで
「今すぐ剣道場に来てくれっ!!志倉達が大変なんだ。
とにかくソッコーで来てくれ!!」
志倉さん達がどうしたんだっ!?
ボクは徒事ではないと感じて、雪穂さんと白木さんに状況を説明した。
「とりあえずここは、話を一旦保留にしておきましょう。
今はそれより志倉さん達が心配です。
私が剣道場まで案内します」
そう言って、雪穂さんは先陣を切って歩き始めた。
しかしそれは一般の人から見る”歩く”という観念を雄に卓越していた。
人が普通に走るのより早い・・・・・・。
実は雪穂さんのホントの正体はくのいちなのでは??
そう疑問に思わざるを得なかった。
「白木さんも行こうっ」
「う、うんっ」
白木さんに声を掛けて共に走り出す。
扉を開け放たれた理事長室に差し込む夕日は既にその光量がなくなってきていた。
そろそろこの学園の全ての電灯に明かりが灯るだろう・・・・・・。
お読み戴きありがとうございました。
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それではまた次のストーリーを読んで戴ければ幸いです。