15.驚愕
ボクは手塚くんの誘導で教壇に上って教卓の前に立つ。
パソコンを教卓の上に置く。
画面にはある建物の中の図面が映し出されていた。
手塚くんはエンターキーを押した。
するとその図面の中に赤いポインタが点滅する。
「昨日、図面は覚えてきたな?」
手塚くんがよく通る声で話し始めた。
「勿論だ」
「当たり前だ」
皆その返答を聞きながら頷いた。
「そうか、実地でもしトラブって緊急回路がどこか指示するときに図面が入ってないと指示伝達に支障が起きる。
まぁ覚えてきたなら問題はない、では本題だがポイントF12……」
そう言って計画を淡々と説明した。
図面が頭に入っていないボクとしてはどの話もチンプンカンプンだった。
でも一つだけ分かった事がある。
用は、ボクは責任者だからバレた時の保険のようなものとして今回の総責任者に重用したという事。
皆、それをボクには言ってないがボクが計画が分からないと手塚くんに言ったときに『あゆむは分からなくていい』
という返答が返ってきた時点で悟った。
という訳で現在教室内にいる……。
ここにはボク以外に誰もいない。
空っぽの空間。
ボクは自分の席に座って机の上に残されたトランシーバーと対面していた。
聞くところによると身体測定は夕方まで掛かるとの見込み。
「こちらP4、チェックポイント1、に到達。
これから天井裏ダストに潜入」
目の前のトランシーバーから無線が入ってきた。
「こちらP1本隊、ラジャー、こちらも床下ダストを通過中、
引き続き厳戒態勢の下任務を追行してくれ」
会話の内容からして上・下を攻める気だろう。
もし見つかっちゃったらボクの責務になっちゃうでしょう。
不意にため息が毀れる。
ボクはただ聞いているだけだった。
勿論、事実上手塚くんが全て仕切っているからボクは何もできない。
故に、ボクはここで待っているだけ。
どうしよう……。
しばらく何の会話も聞こえてこなかった。
きっと今頃先に進むのに一生懸命なんだろう……。
そのうち授業終了のチャイムが聞こえる。
すると後ろの扉がガラガラという音とともに鳴り響く。
それを受けてボクは振り返る。
誰だろう?
もう帰って来たのかな。
「あれ〜?みなもとくん??」
扉を開けたのは白木さんだった。
制服を着ていた。
今日は身体測定のはず、なんで体操服に着替えてないの?
そんな疑問が心の中で渦巻いていた。
「白木さん、どうしたの、今日は身体測定じゃ……」
「私だけ先にしてもらったの。
今日は仕事が入ってるから……。
それにしてもなんでこの教室にはみなもとくんしかいないの?」
白木さんは教室内を見回す。
これは怪しがられるかも、と心の中で冷や汗かいた。
「うん、みんな今日は・・・・・・、あぁっ、そうそう、みんな食堂に行ったんだよ!」
ボクはふと上手い考えを思いついたまま言った。
しかしそんなのは傍から見ればウソだとすぐにバレる感じの言い様だった。
それが言い放った後すぐに後悔としてやってきた。
ボクはもっと上手いウソを言う事が出来ないのかな・・・・・・。
昔からウソをつく事に慣れていない為こういう結果になり、みんなに悟られるのだけれど。
しかし白木さんの態度は意外だった。
「そうなんだぁ。皆仲良しだねっ!
みなもと君は行かなかったの?」
一点の曇りも無い程快活に信じてしまった。
その快活さはボクに安堵、いや不安さえ与える程だった。
「ボクは・・・・・・」
口篭る。
何を言っていいか分からない。
何も思いつかないというのが本音だけど。
「仲間外れにされてるとか?」
白木さんは物凄く思案したような表情でボクを覗き込む。
「いっ、いや、そんな事はないよ。
ボクは・・・・・・っあ!そうそう、今日はボクは男の子の日だからっ」
「えっ?」
白木さんが目を大きくして声を上げて疑った。
しまったっ!
なんでこんな事を言ってしまったんだろう。
「いやっ」
右手を前に出し顔を背ける。
この後どうやってフォローしよう・・・・・・。
あぁ、ボクはなにをしてるんだろう。
ボクは心の中で自問自答していた。
「そうなんだぁ!
みなもと君の家ではまだこどもの日が過ぎてなかったんだ〜!」
さっきの切迫した空気は何処へやら、白木さんはニッコリ笑って言った。
加えて明るいテンション。
良かった、いい感じに勘違いしてくれたようだ。
その勘違いの本元を問われると回答はないんだけど・・・・・・。
「うっ、うん。そんな感じかなぁ〜、アハハハ」
苦し紛れからの脱出。
それにより言葉がしどろもどろ。
もう自分が嘆かわしい。
「じゃあ、丁度良かったよ!」
白木さんが一旦ボクに目を向けて廊下の方に目を向けた。
「ほら、隠れてないで出てきてよ!」
白木さんがその方に声を掛けた。
誰かいるのかなぁ。
次の瞬間−−ー−−−
「なんで私がコイツとやらなきゃいけないの?」
憤懣がたまっているのか物凄く不満たっぷりに白木さんに投げかける。
そう、出てきたのは志倉さん。
そしてボクを威嚇した目で睨みつける。
なんかボクって志倉さんに嫌われてるみたい。
「だって二人の方が心強いから」
志倉さんは腕組をしてつま先を何回か打ち付けてから
「分かったわよ!爾菜がいいなら仕方ないわね」
何か腑に落ちないせいか若干眉間に皺がよっている。
白木さんは志倉さんに頷いて再びボクの方に視線を移す。
「みなもとくん」
「はい」
「お願いがあるんだけど・・・・・・」
「なんですか」
「実は今度仕事で武道場の看板モデルをやる事になって、CMに出るの。
それで色々なバリュエーションの武道をやるんだけど、武道監修の人たちがちょっと忙しくて教えてもらえないの。
季節には剣道を教えてもらうんだけど・・・・・・、どうしても拳を使う人が見つからなくて、
そうしたらね、みなもと君がこの間剣道部の人達を退散させたって聞いたから、
え、えと・・・・・・空手だったよね?
私に教えて欲しいの。・・・・・・ダメかなぁ??」
「間違ってるわよ、爾菜っ。
コイツに教えてもらう事は出来ないわ。だって、コイツが出来るのは酔拳、だから無理でしょ」
志倉さんは吐き捨てるように言った。
「っえ、そうなの。
あのスーフィズムの旋舞みたいなポーズから色々なワザを繰り出すアレの事!?
聞いてたのと全然違う」
ちょっと待ってよ!!
酔拳って何?!
ボクってまだ未成年だよね?
お酒飲めないし、そんなの見たことないし、第一習った事もないし、見せた事もない。
第一怪しいでしょ、学校でそんなの生徒に使ってたら。
飲兵衛じゃないんだからさ・・・・・・。ハァー。
「ちょっ、ボクは空手だってっ」
志倉さんに必死に訴えかける。
「ハァ?・・・・・アンタは酔拳でいいのよ、あんな意味の分からないようなの・・・・・・第一、一番それがアンタにお似合いよ!ふんっ」
またしても憤懣たっぷりな口調でボクに言う。
「いやいや、完全に異質のものだって!!じゃあ、志倉さんは酔拳見たことあるのっ!?」
ボクは自分の内心がバカにされてるようでどうにも腹の虫がおさまらなかった。
こう見えてもボクはあんまり怒ったことがない。
大抵は心の中で処理出来得るカテゴリの中に分別できる事だから。
しかしながら今回は・・・・・・。
大体最初からボクの何が気に食わないのさ。
そう心の中でいきり立っていた。
「ないけど、どうせ同じようなものでしょっ」
「見たことないのにそんな風に決め付けるのはいけない事だと思うなっ。
大体ボクは志倉さんを助けるためにあんまり気の進まなかった武道を使ったんだよ」
ボクがそう言うと志倉さんは目を細めて
「誰がそんな事頼んだ」
サラリとそんな事を言った。
その瞬間ボクのボルテージが更に急上昇した。
腸が煮えくり返るかと思うくらい腹が立った。
そりゃあボクは頼まれてもいない事をしたかもしれない。
第一ボクの好意に対して別に感謝はしてもらわなくてもいい。
そんな事は端ッから望んでない。
しかし少しぐらい認めてくれたっていいと思う。
志倉さんはボクの事を対等な人間と判断してくれてない。
それが一番のボクの怒りの根本だ。
ボクの事を何も知らないような子が分かったように判断しないで欲しい。
「誰がって・・・・・・」
言葉にならなかった。
あまりに頭の中に色々な感情が過ってしまった。
「季節っ!」
突然白木さんが志倉さんに一喝入れた。
その華奢な身体からはあんまり想像できないような喝の入れ様だった。
ボクもその喝を聴いた瞬間今まで思っていた事が抜け落ちて真っ白になってしまった。
志倉さんは目線を若干下目にしながら白木さんの方を向く。
そしてゆっくりと目線を合わせる。
口元が少し震えている。
「今のは折角季節を助けてくれたみなもと君に対して失礼じゃない?」
「だって、あたし助けてなんて一言も言ってないんだもん。
コイツが勝手にしたことだし・・・・・・」
若干さっきに比べて素直な口調になっていた。
志倉さんって白木さんと信頼関係で結びついてるんだなぁ・・・・・・。
「あのね、季節。とどのつまり、剣道をやっていたって喧嘩には勝てないと思うの。
そこでみなもと君が助けてくれた。
もしあそこでみなもと君が助けてくれなかったら、季節は今病院にいるかもしれないわ。
加えて、季節の大好きな剣道だって出来てないかもしれない、あんな大勢相手にして大怪我して二度と出来なくなってるかもしれない。
だからそこは感謝すべきじゃないのかな?」
白木さんは強い口調から教え諭すような声へと変遷していた。
ボクの気持ちはどんどんおさまってゆく。
白木さんがボクの心を代弁してくれたみたいに・・・・・・。
「やっぱり、分かんないっ!!」
そう言って志倉さんは何処かへ消えてしまった。
白木さんは深い溜息をついた。
「ごめんなさい。季節は心の中ではみなもと君の事分かってると思うの。
だけど、上手く態度に示せない子なの、昔からそう。
分かってあげて・・・・・・」
白木さんに言われると志倉さんがなんだか可哀相に思えてくるのは気のせいだろうか・・・・・・。
「うん・・・・・・」
「ありがとうっ!で、さっきの話だけどお願いできるかな?」
「ボクなんかで良かったら、喜んで」
「じゃあ早速明日から特訓ね。
場所はまた連絡するね!」
そう言って教室から出て行ってしまった。
日が落ちてまた日が昇った。
いつもと同じく雪穂さんと車で登校して、教室に入った。
教室の中には昨日いなかった女子がいた。
男子はと言うと全員が肩を落としている。
昨日の夜知ったことなのだが、ボクはあの後すぐに帰ってしまって、すっかり手塚くん達の事を忘れてしまっていた。
手塚くん達はあの後、順調に駒を進めて遂に女子の測定会場の真上のダストまで行った。
しかしそこには先客がいた・・・・・・。
理科教師、といえば分かってもらえるかな?
毒闇先生がヨダレを垂らしながら覗き込もうとしていたらしい。
しかし運悪くそのヨダレが格子の間を通って保健の先生に垂れてしまって、気づかれたらしい。
だがその頃には手塚くん達は逃げ出していた。
ここで更に不運なことに理科教師が手塚たち達の存在を公言してしまったが故、手塚くん達も芋ずる式に網にかかってしまったのである。
手塚くん達はここで保険役に抜擢してあったボクの存在を道連れにしようとしてかバラしていたが、
教室にはボクはいなく結局ボクは無実の罪を着せられたという事で無罪とされた。
女子の間からはボク以外の男子は皆評価がガタ落ちになってしまった。
でもボクの男子からの評価がガタ落ちになったかというとそれは違う。
男子は男子でどこかで諦めがついているらしく、ボクの事を恨んでいたりだとか、怒っていたりだとかはしていなかった。
ただただ、落ち込むばかり。
なんとか慰めてあげようかな・・・・・・、そう思いつつ席に着く。
後ろで顔を伏せている手塚くんに声を掛けようとしたらアナウンスが流れた。
(全校生徒に告ぐ、これから臨時集会を始めますので講堂に集まって下さい)
男子は最初項垂れていたが、重い腰をようやく上げて講堂に向かった。
勿論移動中は会話一切なし。
ブルーな雰囲気満々。
ボクはそんな男子の表情を見ながら講堂に向かった。
講堂はうちの学校は凄かった。
オペラホールみたいに備え付けの席があって、リクライニング式。
全部で10000人くらい収容できそうなくらいの大きさだった。
しかも地面にはレッドカーペッド、ステージの幕は真っ白なシルク。
ボク達は前の方に詰めて着席した。
周りの人も後からどんどん着席して行く。
ステージの真ん中には壇台が置かれ、その上にはマイクがあった。
「手塚くん、もう機嫌直したら?」
ボクは隣で肩を落としている手塚くんに声を掛ける。
「・・・・・・うぅ、ハァー・・・・・・」
もう不幸せMAX。
なんか周りから暗い色の空気が漂ってる感じなんですけど・・・・・・。
ボクはどうしたらいい?
どうやって慰めよう。
(えー、マイクのテスト中)
女の人の声が聞こえた。
おそらく先生かなんかでしょう。
何が始まるんだろう。
(本日は皆さんに重大なお知らせがありまして、集まってもらいました)
周りがざわめく。
(実は、現理事長が辞表を提出され、時期的に異例ではありますが新しく理事長を迎え入れる事になりました。
現理事長である朱鷺等 麻耶は本日付で解任となり、明日からは新理事長にならせられる源 雄司に引き継がれます。
それでは双方の挨拶を述べていただきます。)
圧巻で仕方なかった。
周りの人はざわめきからどよめきに変わり、さっきまで肩を落としていた手塚くんが顔を上
げて興味津々とステージの方を向いていた。
お読み戴きありがとうございます。
今回は如何でしたでしょうか?
面白さのエッセンスをあまり出せませんでしたが、このカテゴリの中であればこれぐらいでしか頻度的に出せませんでした。
そこは申し訳なく思っております。
しかし驚きの面とのドッキングを統合して面白いと評価して戴けるなら嬉しい限りです。
次の更新は12月中旬になるかと思います。
何卒ご了承下さい。
またご評価・ご感想お待ちしております。
それではまた次のストーリーを読んで戴ければ幸いです。