2.謎
「着きました」
そういって平賀さんはカチャカチャっとオートマを操作した。車は33号館の車寄せの所にキィーッっという音と共に停止した。すると後部座席のドアが開いて
「お帰りなさいませ、雪穂様」
メイドの格好をした若い女の人が礼をしながらそういった。
「ただいま戻りました」
そういって車を降りる雪穂さんと一緒にボクも降りる。周りには執事さんやメイドさんが33号館の入り口に沿って二列応対で頭を下げていた。ほんとにボクここにいていいのかな。上を見上げると33号館は高層高級ホテルみたいだ。一体何階まであるんだろう。 見当もつかない。とりあえず前二列応対の間を堂々と通ってロビーに入った。中央に待合場であるのか大きなソファーがいくつも並べてあるトコに様々な種類の観葉植物が置いてある。至る所に花が飾ってあって風流かも。昔だとこんなのを『をかし』っていうのかもしれない。何故か大きいシャンデリアやレッドカーペッドにマッチングする。雪穂さんがロビーで受付の人と話している傍らそんな感じでボクは周りを見渡していた。
「本日はどちらのお部屋にいたしましょうか」
「最上階のスイートを用意してください」
「申し訳ございません。本日は奥様が大事なお得意様とご商談の為使用中でございます」
「それじゃあ55階のマスタールームを用意してください。あそこは大抵滅多なことがない限り使用しないはずです」
「申し訳ございません。そちらは御当主様がお使いになっております」
「お父様が。一体どなたと……」
雪穂さんは手を口元に持っていった。少し俯いて
「それじゃあ63階のクイーンールームを用意してください」
「ええ、そちらであればご用意できます。お食事のほうもすぐお持ちいたします」
食事よりお電話をお借りしたいんですけど……とは言えない。折角おもてなししてくれるわけだし素直に受けるべきかな。いやでも本当の目的としては電話を借りたかったわけだしやっぱり食事は断って電話を借りてすぐ帰るべきか、実質さっき雪穂さん携帯電話持ってたし。う〜ん、どうするべきか。ボクはその場で佇んで考え込んでいた。
「そろそろ参りましょうか。これから行く部屋に国内用電話があります」
やっぱ、行くべきだよね。よくお母さんがお言葉に甘えることは大切だって教えてくれたし……。ん、国内用ってコトは。国際用もあるの。
「あっ、国内用ってことは国際用もあるんですか」
ふとボクはエレベータに乗り込んだ時に雪穂さんに聞いてみた。
「ええ、ありますよ。私を含める家族は全員ほとんど海外の支部との連絡や取引先との商談のアポイントメントなどを取り付けるときに使うので国際用を主に置いてあります。国内用は限られたところにしかないんです」
普通の家庭においてあるのはどちらも兼用して使えるものばかりだとおもうんだけどなぁ。 知らないのかな、今の時代分けて使っているのは公衆電話ぐらいだよ。分けて使う必要あるのかなぁ。
「そうなんですか……」
ってこんなこと聞いてる場合じゃない、明後日から折角、学園に通うんだし友達にならなくちゃ。あっ、でももう友達なのかも。いや、でもまだ会ってから時間も経ってないし。
「なにか趣味とかあるんですか」
こんなありふれた質問しかできない自分に失望する。
「えっ、そ、そんないえるようなものなんてありません」
雪穂さんは手をブンブンさせて否定した。ボクなんか変なこと聞いたかなぁ。
「好きなモノとかありますか」
こんな質問抽象的過ぎないかな。でもそんな心配は要らなかったみたい。
「読書を……少々嗜みます」
読書かぁ。ボクも結構読んでる。なんせ半ば強制的に家の妹が読め読めっていって感想をいうまで出て行ってくれないんだ。しかも自分が読みたい本だったらまだしも何故に外国のラブロマンスものばかりなんだろう。男の子と女の子ではそれぞれ主観、価値観とか違うと思う、だからボクじゃなくて女友達に薦めたらどうなのっていってもボクがいいんだって。理由は分かってない。なんでだろう。妹は教えてくれない。
「ボクも結構好きなんですよ。」
「本当ですかっ! っあ、いえ、その……すみません、私、本の事となるとつい舞い上がってしまって。どんな本を読まれるんですか?」
「えっと最近は……『菫日記』 って知ってますか」
ラブロマンスものを読んでますっ! なんて言えない。だからボクはその類以外でボクのお気に入りの本を言って見た。
「それっ私のお気に入りの本なんですっ! あっ、また。重ね重ねすみません。」
雪穂さんは慌てて口に手をあてた後、頭を下げる。
「謝らないで下さい。いいんですよ、舞い上がっても。少なくともボクの前では」
ボクは優しく微笑んだ。意外だった。これほど本のことにくいつくなんて。しかももっとも抽象的な質問で。
「初めてです。私にそんな優しい言葉を掛けていただいたのは。うれしいです」
さっきまでの大人しい雪穂さんとは違った表情。目がキラキラ輝いてる。笑ってるし。今までの雪穂さんを知らないけど今の顔が一番いい表情をしている気がする。少なくてもさっきよりは全然いい。雪穂さんが少し間をおいて再び口を開く。
「『菫日記』 平安時代に大柴友法によって書かれた書物。全15巻。本紀や列伝などが主とされますがこの世を去る前にかかれた最後の15巻は自分の苦難の一生を書いたんですよね。友法は名門の武士の本家に生まれ一時は武士を志したもののその本家はあろうことか優秀な門下生が謀反を立てて焼き討ちにあったそうな。そこからがこの物語の始まりですよね。私何回読んでも泣けちゃって、特に友法が当時難病だった柴又病にかかってしまい、助かる方法が伝説の秘薬しかないと聞いた本家唯一の生き残り,織子が必死に探しにいって、やっとの思いで見つけて戻ってきて友法はなんとかそのお陰で助かったものの織子はそれと引き換えに死んでしまった。自分のために一生懸命やってくれた人、なにより幼い頃から一緒にいた織子がいないんですよ。それってあんまりじゃないですか」
「ボクもそこが一番印象深かったんです。友法としてはやりきれない気持ちでいっぱいだったはずです。だから友法は2年後……」
「それ以上言わないで下さい。思い出し泣きしちゃいます」
少し笑みを浮かべて目に少し浮かんだ涙を人差指でゆっくりと拭う。なんだろうものすごくうまがあう。同じ趣味。同じところが一番好きなんて、こんなことあるんだ。
「ごめんなさい」
「気にしないで下さい。……気が合いますね。本がお好きだと伺ってもいままでどなたも私と同じ本が好きなんて言った人いないんです。まぁ無理もないですね、この日記自体世の中に2組しかないんですから。私の家に一組、もう一組は行方知れず。ん? では何故……」
甲高いアナウンスと共に眼前の扉が左右に開かれた。どうやら63階に着いたようだ。
「えっ!」
それは目を疑うような光景だった。何故こんなところに……。中年の二人の男性が並んで真ん前に立っていた。一人は背が高くて無精髭を生やして黒ストライプのスーツを着たこの人は
「お父さんっ!」
お父さんは口をポカンと開けて驚いたような顔でボクを見つめていた。
「あゆむ……」
お父さんが何でここにいるの。仕事場から今頃帰って自宅に帰ってるんじゃなかったの。さまざまな疑問が頭の中に思い浮かんだ。
「なんでここに」
「あゆむちょうどいい、話があるんだ。雪穂ちゃんも一緒に来ていただけるかな」
「雪穂、パパも来て貰いたい。大切な話なんだ」
ぱっ、パパ? ってことはこっちの少し太ってメガネを掛けてるスーツ姿の優しそうな人は雪穂さんのお父さん。ますます謎だよ。なんでボクのお父さんと雪穂さんのお父さんが会ってるの。
「はい」
ボクはとりあえずうなずく。
「この方があゆむさんのお父さんですか」
「そうです、父です」
隣にいる雪穂さんにそう答える。雪穂さんは正面にいる雪穂さん父に向き直って
「お二人はお知り合いだったのですか」
すると雪穂さん父がそれに対して
「あぁ、そうだよ。その詳細も含めてこれから話し合おうじゃないか」
ニッコリ笑ってボクたちに話して父親達二人は先に歩き出す。
「私たちも行きましょうか」
「はい」
ボク達もその二人についてゆく様に歩き出した。
この度はPrologue Secondを読破いただき至極の致すところです。
しかし自分が執筆した今ストーリーを見てみると少しマンネリ化している行動や仕草をいれていたり、
会話文が多かったりと皆様のご期待に添えなかった部分が多々あったように思います。
直そう直そうと思いこんな感じに仕上げましたが腕がまだまだ足りませんね。
それでも気を落とさずに頑張ってまいりたいと思いますので
皆様の温かい応援やコメントをよろしくお願い致します。
それではまた次のストーリーを読んでいただければ幸いです。