9.心配事
ボクは階下へ降りて行き、昇降口から靴を履き替えて外に出た。足取りが少し重い。やはりさっきの事がどこか心の片隅でこびり付いているからだろうか……。自分でも分からない、しかし……。
昇降口の外から校門に向かう途中には結構長い一本道がある。幅も狭くはない。地面には敷き詰められたレンガ。そのレンガの色は不規則に模様していた。それとは対照的にその一本道に沿うように規則的に生い茂っている植物。しかしながらその中でも一際目立つのは両端に伸びている木々だ。右方に目を向ける、桜の木だ。緑の葉を細い枝から出だしている。春までの準備期間中はこの様に緑々しいのだろう。
冬になれば緑の生命は地面に落ち、その葉にバクテリアがつきそれが土の栄養分となって桜は最盛期ともいえる春を迎える。左方を見やると銀杏の木。この木々もまた緑の葉を出だしている。秋になれば扇形の葉をヒラヒラ舞散らせ、それがまるで金色の舞を見ているかのような感覚にさせられる。例えまた冬を向かえその細い枝から葉や花びらがなくなり丸裸になったとしてもまた巡りくる季節、春や秋がやってくる。
自分が主役の時を迎える事ができる。ということは今の期間は銀杏にとっても準備期間。ボクはどうなんだろう……。学校生活に慣れ、友達ができるまでの間のこの時期はこの桜の木や銀杏の木と同じように準備期間なのだろうか? いつかは最盛期を迎えることができるのだろうか。
主役になんて望んではいない。ただこの学校にいち早くなれて友達を沢山作って腰を落ち着かせたいだけ。色々な事を思案していると校門に着いてしまった。校門から外に出ると学校を取り巻く塀の前に雪穂さんが鞄を持って待っていた。もしかして結構待ってたかな。ボクは雪穂さんの方に近づいていった。
「す、すみません。物凄くお待たせしました」
「大丈夫ですよ。私も先程来たばかりですから全然待ってはいませんよ」
雪穂さんはボクに向かってニッコリ微笑んだ。ホントこの人は気を使ってくれる。
「それでは行きましょうか」
「はい」
学校の塀に沿って歩いていった。行き着いた先はタクシープールのような車が屯っている場所。ただタクシープールと違うのは黒塗りの車がズラリと並んでいる事。その中の一台の車の中から平賀さんが出てきた。そして一礼した。雪穂さんが先陣を切って平賀さんの待つ車の方へ歩きだし、ボクもそれについて行く。平賀さんが後部座席のドアを開け雪穂さんがアップボンネットの淵に頭をぶつけない様に配慮してか手をその部分に添えていた。
「っさ、あゆむ様もお乗りください」
雪穂さんが乗り込んだのを確認した後今度はボクに投げかけた。ボクは頷いて車に乗り込んだ。やがて平賀さんも運転席に乗り込みエンジン音とともに車は発進した。
「学校はどうでしたか」
「ええ、意外と知り合いができました」
「あの今日お会いした男性の方とかですか」
「はい。まだ本質などは分かりませんけどたぶんいいヤツだと思います」
「ええ、私もそう思いました。いきなり手にキスされた時は少々驚きましたが、面白い方だと理解しました」
「ボクもまだアイツと会ったばかりでそこまでするとは想定外の出来事でなんかごめんなさい」
「あゆむさんは何も悪い事はしていないじゃないですか。謝る必要、ないですよ!」
「今日はなにかあったんですか」
雪穂さんは続けてボクに問いかけた。やっぱり雪穂さんにはお見通しなのかな……。
◆◇◆◇◆◇
「そんなことがあったんですか……」
「ボク自身は厚意でやった事が実は相手にとっては無礼講だったなんてこともあるんじゃないかなって思ってしまって……」
「あゆむさん?」
「はい」
「あゆむさんが厚意を持って手伝って差し上げたのならそれが誰であれ嬉しいと思いますよ。もし私がそんな重いものを持っていたら手伝って欲しいと思いますもの。ですけれども下心があってした事なら志倉さんにそんな事を言われても仕方ないかもしれません。しかしながらあゆむさんはそんな気持ちは一切なかったのでしょう? でしたら気にする必要はありません」
なんだろう。雪穂さんに言ってもらうとなんか心強い感じがする。
やっぱり雪穂さんって凄いや。
読破お疲れ様でした。
同時にお詫び申し上げます。
実は今回のストーリーは原本の4分の一なのです。
ではなぜその原本をそのまま出さなかったかといいますと大変告白しにくいことなのですが下書き部分の文章を4度も消去してしまったからです。
故に今回のストーリーは要点部分だけを掲載しお笑いのエッセンスなしでの文書となりました。
大変皆様にはお待たせしてしまい且つストーリーの文書が短かった事、それらに関しましてもお詫び申し上げます、すみませんでした。
尚、10月からの更新日程ですがおそらく不定期となります。ご了承下さい。
最後になりましたがこの作品に対してのご意見・ご要望・ご感想等・疑問点等を評価と一緒に送って戴けると喜ばしい限りです。
それでは次のストーリーも読んで戴ければ幸いです。