8.対照的な二人
厄介に感じた担任の話はおよそ1時間決着を見ることはなかった。それまでじっとボクと白木さんは聞いていたのだ。少しぐらいは話される側の視点に立ってみて欲しいよ……。白木さんが途中痺れを切らす光景も常々見受けられた。笑顔をいくら表面上では絶やしていてもやはり他人のそんなプライベートな話をされても対応に困るというのが本心なのだろう。なんてこんな卑屈になっているのはあまり思わしくない。
担任の話が終わりを迎えた後教員室から急いで廊下に出た。ボクの後に白木さんが扉を閉めた瞬間に白木さんから溜息が漏れた。それはそうだと内心思っていた。先ほど予想したとおりだ。若干間を入れて白木さんの一言。
「ちょっとキビしかったかな」
白木さんの顔は明らかに疲れを見せていた。
「なんか、ごめんね。あの人ボクの担任の先生なんだ」
「あ、謝らないで、みなもと君はなにもしてないし……」
ボクはさっき先生の口から口走られた言葉に少し疑問を抱いていたので聞くことにした。
「聞いてもいいかな?」
「うん」
白木さんは快く承諾しボクに笑顔を向ける。
「アイドルって本当なの?」
「やってるよぉ〜!」
「ボク全然知らなかったよ」
「ヒドいなぁ。結構テレビとかにも出てるのに」
テレビなんか最近全然見てないなんて言えない。
「ゴメン」
「今度あたしが出る番組が近くなったら言うね!」
「うん、その時は欠かさず見ることにするよ」
「あら、爾菜じゃない」
背後から声が聞こえる。どこかで聞いたことのある声だった。誰だっけ。頭の中の引き出しを開けてゆく。後ろを振り返る。
「えっ……」
驚きだった。そこには志倉さんがいた。今帰るのだろうか鞄を持って立っていた。ボクは最初に受けた印象から誰も友達がいないものと思っていたからだ。そんな志倉さんが最も逆サイドに位置するであろう白木さんに声を掛けているのだ。二人は友達なのだろうか。
「志倉さん……」
「 ……」
志倉さんは白木さんに向けていた視線をボクの方に移す。目が数秒間合わさる。しかし志倉さんは何も反応を見せなかったかのように白木さんに歩み寄る。
「爾菜はなんでコイツといるの」
志倉さんは多少小声で言ったようだがまる聞こえだ。その場に居辛かったのは言うまでもないだろう……。
「みなもと君はね、あたしがノート運ぶの手伝ってくれたの」
白木さんはそう志倉さんに弁解する。弁解というか真実を言ってくれた。
「ふーん……」
志倉さんはそう言ってボクに向き直って近づいてきた。若干沈黙が続き、志倉さんと暫くの間目を合わせていた。
「どういうつもり」
「どういうつもりって」
「転校初日からアイドルに媚売っとこうなんてどんな神経してるの。男は皆最低ッ! おべっかばっかり使って人格形成良さそうに見せて置いて結局は上辺だけ。アンタもそんな中の一人なんでしょ! 爾菜になんかしたら私、許さないから」
「あのね、季節」
白木さんは話そうとしたが聞き入れることなく白木さんの方に歩いていった。
「行くわよ」
そう言って白木さんに声をかける。白木さんはボクに手を合わせて急いで志倉さんを追いかけていった。
ボクは複雑な心境だった。そんな気持ちで白木さんを手助けしたつもりなんてこれっぽっちもないのに……。
お読み戴きありがとうございました。
若干ストーリーの流れがゆっくりかと思いますがそこのところはどうぞご理解いただきたいと思います。
尚、質問・感想・評価等、ドシドシ頂けると執筆活動に創作意欲が湧いて参り、作業にハリが出てくるのでよろしくお願い致します。
それではまた次のストーリーを読んで戴ければ幸いです。