7.アイドル
口を開くなり言葉を発するかと思えば一瞬躊躇した。不思議な事に周りには誰もいなかった。
「どうしたの」
ボクは思わず問いかけてしまった。
「あのね、生徒会ってホントに立ち上げるの? 知っての通りこの学校には生徒会ってないの、って正確にはあったんだけど……」
『あった』とは……? 普通そのまま存続しているハズなのにね。大体生徒会なんて普通名前が違えどどの学校にもありそうなのにこの学校にはない。それはかねてから疑問に思っていた。まぁ異質なものはあれどもね……。
「立ち上げるつもりだよ。どうして」
「この学校で生徒会を立ち上げるんだったら気をつけて。数年前に生徒会の役員8名全員が突然辞任を表明したの。なんでかは分からないけど一説では誰かによってやめさせられたらしいわ。それ以降も生徒会に入った人々は全員不思議にも辞任を表明したの。だから本当に気をつけて、何かあってからだと大変だから……」
この事を話そうか話すまいかさっき思案していたのかな。でも結局話してくれた。少しボクに話してもいいと思った部分があるのかな。誰がどんな手を使って辞めさせたんだろう。しかもその動機は一体……。
「それでもボクは立ち上げるよ。ボクはやらなくちゃいけないんだって言ってもメンバー集めなくちゃいけないけど……。ありがとう、教えてくれて」
「えっと、全然、あたし何にもしてないし……」
彼女は遠慮目に手を前で振った。
「じゃあ、行こうか、教員室だよね」
「うん」
ボク達は再び歩き出した。階段を下りたらもうすぐそこに目的地があった。結構さっきの所から近いもんだなぁ。ってさっきボクはあの先生に会いに行って経験があるんだけど。教員室の扉の前に立つなり彼女はノートを床に置いた後扉をノックした。そしてノートを持ち上げ扉を開け中に入っていった。ボクもそれについていく。
中へ入るとやはりさっきの予想通り、ボクの担任がたまたまボクの目の前にいた。ボクはマズいと思って目をそらす。しかし、時既に遅し。気づかれてしまった。担任の口元が緩んでいた。ボクは顔を背けながら前にいる白木さんについてゆく。そして誰かの先生(不在)の机の上に置いてボク達は立ち去ろうとした。勿論白木さんはボクと先生の間のことは何も知らない。故に置き終わったところで仕事が終了した白木さんはさっさと教員室の扉に手をかけた。その時ボクは更に別の意味での『仕事』が増えたかと思ったけどココまで来ればもう何もないなと油断していた。
だけど人生そんな甘くない。初対面だったけど大体担任の性格はつかめていた。というのも分かりやすいほど安易な頭の持ち主だったからだ。それは教頭とのやり取りで大体分かった。そんな人がこの部屋を出ようというボク達に声を掛けたのである。なんと無常な事か。
「待ちなさ〜い!」
ボクはギクっとなった。背筋に微妙に衝撃が走ったというかそんな感覚に瞬間陥った。やけに甲高い声もその理由に加味されている。声が大きいのではないのだ。白木さんは何かとクルっと声の主の方へと向き直る。ボクはゆっくりと振り向く。先ほどの表情に更に拍車をかけたように今度は頬もつり上がっていた。
ボクは恐る恐る返答する。
「 ……なんですか」
ボクの声を受けるなり、先生はボク達の目と鼻の先まで歩み寄ってきた。そしてボクの方に顔を向けた。
「源君ったら転校初日なのに手が早いのねぇ〜!」
やっぱり誤解している。ボクは何故か冷や汗が額から流れ落ちる。それと共に吐き出される溜息。白木さんは少しビックリしていたようだ。何に対してなのかは検討もつかない、思い当たる点がいくつもあって。このまま無視をして退室してしまうのも上策であろう。しかしながら今日知り合ったばかりの人にそんな事をするのは殺生かもしれない。やはり最初のうちは触れてあげよう。
「先生ッ、違いますよ。誤解をしないで下さい」
ちゃんとここで弁解を図っておかないと白木さんにそんな魂胆だったのかとこれまた本当の誤解をされてしまう。それは流石にまずい。本当でもないことがもし流れてボクが生徒会を立ち上げられない事になったら……。
加えてそんな思ってもいないことを白木さんに誤解されたくない。そんな気持ちからの便宜であった。
「別のクラスの子といちゃいちゃ二人でここまでノート運びしてたんでしょ」
やっぱり人の話を聞かない。それに『いちゃいちゃ』ってここまでの経緯を見たうえでいってないでしょ。それなのにそんないかにも体たらくでふしだらな事しませんよ。
「違います」
「ん!?」
先生は白木さんの方を見て首をかしげた。
「もしかして、白木爾菜さん」
「はい」
「あ〜っ、やっぱりぃ〜!」
白木さんに加えてボクも首をかしげた。
「この学校にいたなんて驚きだわぁ。あなた今人気急上昇中の演技派アイドルの白木爾菜さんでしょ」
アイドル!? 白木さんが……。ボクは目を疑った。さすがにそれはないなと思って捨てた選択肢が急に浮上しそれが確定事項となってしまったのだから。
「白木さんがっ!?」
ボクは白木さんに面と向かってそう言った。
「まぁ、人気急上昇とか演技派っていうのはわからないけど一応アイドルです……」
ん? 待てよ、なんでアイドルの子が学校にいるのに先生はその事を知らなかったんだ? いくら別のクラスとはいえ、そのことは校内や勿論教員室でも話題になることうけあいだ。
「先生はなんでこの学校に白木さんがいるって知らなかったんですか」
ボクはふとそんな事を聞いてみた。でも返ってきたのはは予想範囲内、ど真ん中直球の返答だった。
「先生は先月までお暇もらってたから」
隠したいわけね。自発的にではなく、用は先生、停職処分くらってたんでしょ? また今度は校長か理事長あたりに失礼な事をしたんでしょ。
「それより、あの有名な一流名門プロダクション、Minamoto 芸能プロダクションに入ったって世間では実しやかに囁かれてるんだけど本当なの」
「ええ、何とか厳しい審査を潜り(くぐ)抜けてたまたま入れました」
「たまたまって、あそこに入ったアイドルは誰もが売れっ子になって成功を収めていると言われてるのよ〜。っまぁ、審査員によるんだけど……、先生が応募した時はあまりの先生の美貌と艶やかなオーラ、セクシーさを出しすぎて審査員が先生を第一次審査でボツにしたの。まったく、罪なプロダクションよね〜、アッハーン、でも先生攻められるって好きなのぉ、この間もねホストクラブにいって・・・・・・」
それ以降も先生のプライベート話は続いた。ボクは白木さんに色々聞いてみたかったけれども担任のマシンガントークに耳を傾けたくなくても耳を傾けるフリをしなければならなかったので話が終盤を迎えるまでそれは叶わなかった。
実際のところ、先生のプライベートな話なんて聞きたくないです……。
お疲れ様でした。
今回のストーリーはいかがでしたでしょうか。
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また質問等も受け付けておりますので何かご不明な点などありましたらご評価お願い致します。
それではまた次のストーリーを読んで戴ければ幸いです。