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破滅のレギオン  作者: 陰松蓮
EPISODE 1:崩壊する塔
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日常に漂う不安

 萌芽(きざめ)たちの住んでいる蔵森くらもり市は、豊富な自然に恵まれて市内で地域の環境を保護する取り組みも行われている。

 都会と言えるほどビルが建ち並んでいるわけではないが、生活する上で困ることはない。女性に好まれるような可愛い服や美味しいスイーツを扱っているお店もあるので、放課後や休日に出掛けるのに退屈はしない。

 この蔵森市にも多くの魔導士が住んでいる。日本だけでなく、世界中で魔導士たちは人間として自分たちの生活を営んでいる。

 萌芽と百合果の通う高校と小学校はたった数100メートルしか離れてないので、途中まで一緒に登校することができる。

 二人で手を繋いで歩いていると、まるで本当の姉妹のように見えてるかもしれない。

 百合果の頭頂部は萌芽の胸の辺りにある。萌芽の身長は178で少し皆より背が高いが、百合果も小学生の中では身長が目立つのかもしれない。

 しばらく歩いていると、数メートル先の十字路で一方向に大勢の人が向かっていた。パトカーや救急車、消防車も群衆と同じ方向へ進行していた。


 「確か、あっちは蔵森駅の方だっけ?」


 「そうだよ。お姉ちゃんも大分この町のこと詳しくなってきたね」


 「私がここに来てもう1年くらい経つんだよ? 私だってもう立派な蔵森市の住民なんだから!」


 萌芽は腰に手を当ててドヤ顔で胸を張った。波打つように胸が揺れる。


 「僕たち一緒にお出かけするからね。でもこの前お姉ちゃん一人で買い物に出掛けた時、3時間もお店に着けなくて家に連絡してきたよね?」


 「そ、それは家からちょっと離れてたし、お店の周りの道が複雑だったから!」


 顔が沸騰するように熱くなって頭から湯気が出そうになる。目の前の幼女は私をからかって楽しんでいるようだ。


 「でも駅で何かあったのかな? 事故とか事件かな」


 「まだニュースになってないみたい」


 リュックサックの小さなポケットからスマホを取り出して、蔵森駅に関するニュースを検索してみるが、それらしい記事はヒットしなかった。

 それから彼女たちはそれぞれの学校の分岐点に着いた。百合果とはここで一旦別れることになる。


 「バイバイ、お姉ちゃんー」


 「またね、百合果ちゃん!」


 互いに手を振り合いながら、各々の学校へと赴く。



 百合果と別れてから約10分後、萌芽が通う蔵森高校に到着した。早々に着いてしまったためか、生徒の姿はあまり見られない。

 彼女の教室は階段を上がってすぐの2—3教室である。ドアを開けると、教室内はざわついていた。

 教室に入ると、二人の少女が私に駆け寄ってくる。


 「彩魅(あやみ)ちゃん、沙世(さよ)ちゃん、二人ともおはよう! 何かあったの?」


 「きざめ知らないの? 蔵森駅の動画見た?」


 ショートカットで明るく元気な郷山彩魅(さとやまあやみ)。クラスではムードメーカーのような立ち位置にいる。


 「駅の動画? 学校に来る途中でパトカーとか救急車が駅の方に向かっていくのは見たけど」


 「動画サイトにアップされているようなの。それもついさっきのことよ」


 長髪を後ろで結んでいるのは撫川沙世(なでかわさよ)。冷静沈着な性格で、風紀委員長も務めている。


 「これだよ、これ!」


 綾魅ちゃんが興奮した様子でスマホの画面を操作して動画を再生する。

 その動画を3人で寄り添って見てみる。教室の他の皆も同じ動画を見てるようだ。

 動画が再生されると、現実では有り得ないような光景が映し出された。


 最初に映し出されたのは朝の蔵森駅北口。駅を利用するサラリーマンや蔵森高校の学生も映っている。北口から20メートルほど離れた場所から撮影しているようだ。

 動画が再生されてから数秒後、駅の上に大きな影が迫ってきた。時間の経過に伴って、その影を作り出している物体が映り込む。

 古びたビルで築50年くらいのものだろうか、全体的に茶色くなっている。10階建てくらいだろうか。師匠の仕事の手伝いをたまにしているためか観察力が妙に高くなってしまった。

 そのビルが音もなくゆっくり駅に倒れ込もうとしている。だが、駅周辺の人々は頭上にビルが迫ってきているにも関わらず、気にも止めない様子だ。

 そして駅とビルが接触する瞬間、大きな衝撃波と破裂音が響き渡り、流石に現場にいた人々は、音と目の前の出来事に驚いて駅から蜘蛛の子を散らすように避難する。


 「スゴいよな! 大事件だよ!」


 「綾魅ちゃん、不謹慎だよ!」


 「そうよ。死者は出なかったものの、大勢の人が会社や学校に遅刻することになったのよ」


 「そこかよ! 怪我人の心配はしないのかよ!」


 すかさず綾魅ちゃんがツッコミを入れる。何だかんだ心配してる辺り、綾魅ちゃんも気にしているようだ。


 「そんなことないわ。でも、どのみち怪我をしているなら遅刻は免れないわ。遅延証明書でもあれば話は別でしょうけどね」


 沙世ちゃんのこういう態度は相変わらずである。ワザとなのか、それとも天然なのか、それは本人にしか分からない。


 他愛もない雑談をしていると、教室のドアが勢いよく開け放たれて担任の卜部先生がやってきた。教室の生徒たちが一斉に静まりかえる。


 「えーっと、今日の始業式なんだけど、午前6時頃、蔵森駅にビルが突っ込んだお陰で、学校に来れない生徒がいるため、今日は帰ってよし。私も家に帰って昨日朝一で並んで買ったゲームやるぞ!」


 卜部先生にとって始業式よりも新作のゲームの方が余程重要と見て取れる。残念美人に分類されてしまうのも無理はない。

 まだ教室の時計は9時半を過ぎたばかりだ。教室の生徒たちも早く帰れることが嬉しいようで、各々の自由時間をどう過ごそうか好き勝手に話している。



 萌芽たち3人や教室の皆は学校を後にした。自分の教室以外はまだ解放されていないようだ。こういう時の卜部先生の適当さには感謝したい。


 「早く帰れてラッキー! まだ10時だし、どっか遊びに行かない?」


 「……家に帰るわよ。こんな時間に学生が街中を出歩いていたら補導されて面倒でしょ。まあ駅の件もあるし、お巡りさんも久々に仕事できて嬉しいでしょうね」


 「えー! つまんないの!」


 二人が話してる間、萌芽は先程の投稿された動画のことを考えていた。


 (ビルがあんなにゆっくり倒れるなんてあるわけないし、どうして駅の周囲の人たちは気づかなかったの? それに、撮影者はどうして駅にビルが倒れてくるのが分かったの?)


 いくら考えてもその原因が思い付くことはなく、一人で考え込んでいると二人が話しかけてきた。


 「きざめさんどうかしたのかしら? 綾魅があまりにも騒々しくて頭痛でもする?」


 「それ酷くないか!? 大体、沙世が嫌味たらしいことばっかり言うから!」


 「今ここでそのよく回る舌、引き千切ってあげましょうか?」


 「こっちこそ、そのムカつく顔面をあたしの拳で整形してやるよ!」


 「二人とも落ち着いて!」


 このままだと流血沙汰になってしまうので萌芽が必死に制止する。仲が良いのやら悪いのやら。


 「私ね、さっき見せてもらった動画のこと考えてたんだ」


 「お! きざめも気になる? あたしもそこ見に行こうと思ってたんだよねー」


 「きざめさん、綾魅に着いていったら危険だから行っては駄目よ」


 二人の声はまるで悪魔の囁きと天使の忠告のようだ。確かに一度見に行ってみたい気持ちはある。でも……


 「ごめんね綾魅ちゃん。やっぱり沙世ちゃんの言う通り、危ないから止めとこ?」


 「んー、仕方ないなぁ。じゃあ別のところに遊びに行こうぜ!」


 「遊びに行くつもりはないけど、何処かで昼食を取らないかしら?」


 少し早いけど、そろそろ萌芽もお腹が減ってきていた。


 「じゃあファミレスで良いか? あたし新メニューのデザート食べに行きたいんだけど……」


 ファミレスで昼食を取ることになった女子高生たちは、春休みのことや今後のことについて談笑した。盛り上がり過ぎて5時まで居座ってしまった。定期的に注文していたから店員に忠告はされることはなかったが。

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