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8(カウント)

 そんなことあるから云ってるんだけど、面倒になった。「全部イチってのもいいですね」云って思った、むしろアリだって。綺麗だし、管理も楽そう。「科目欄に同じ数字なら、取り違えもないですね」

 すると先生、あはっと笑って、「欄外に注意書きされるんじゃいかなぁ」

 すぐにしまった、って顔をした。「また二週間後に」

 そそくさとした感じで診察終了。お会計を待ちながら、云われたことを思い返す。枠の外。欄外のあたし。一線を越えたってことかな。なんだか口元が勝手に緩むから、必死に堪えた。一方で、そんなことをつるっと口にしちゃった先生も結局普通の大人なんだって思った。まぁ同情はするよ。お仕事とは云え、ご苦労様。

 そんな次第で、ドクターストップ不登校。一度、担任の吉川先生が電話くれたけれども、特に話すこともなく、すぐに終った。

「無理しないでね」困ったことがあったらいつでも相談にのるわ、だなんて。社交辞令って重々承知、だからあたしも、「もういいです」

 先生、受話器の向こうで絶句の沈黙。息遣いだけ往復して、「電話、ありがとうございました」返事も待たずに、受話器を戻した。

 とは云え、勉強をサボったりしていたわけじゃない。家で読むなら教科書って面白い。副読本もいいし、好きな所から始めて、教科をあちこち渡り歩く。気になったところはパソコンで調べつつ、科目を跨ぎながらも、意外と繋がっているんだなと思ったり。

 身に付いたかどうかは測定という名目の試験を一切受けていないから不明。やっぱり趣味の範疇だと思う。なのでテストを受けても答案真っ白なのは想像に難くない。でもまぁ、別にいいかな。学校に行かないってこと、もっと早くやっておけば良かったよ。生活リズムは無茶苦茶になったけど。

 人類の体内時計が二十五時間周期って話もよく分かる。夜の長い季節っていうのも関係してると思う。日暮れは早くて、夜明けは遅い。静かで暗い時間が楽しい。

 そんな中にあって、通院日だけがあたしの規定されたサイクルだった。預ったお金。保険証。先生とお話。お支払い。処方箋。お薬。お支払い。或る帰りがけ、不意に、今までの間違いに思い当たった。お薬って病院で貰うものだと思ってた。病院って診察してもらうものだと思ってた。全部、お金になるんだってことだったんだ。

 あたしは計算してみた。薬剤師さんの説明とお薬の注意書き。領収書と点数。固定と変動費。三割負担で、お薬の値段が分かって、錠剤の数で割れば単価になって……小銭を飲むようなものだった。まるでお腹の中が貯金箱。銀色シートの一枚十錠の贅沢品。地獄の沙汰も金次第とは良く云ったものでして。

 だから先生の話をきいて、時間にお金を払って、処方箋でお薬を買う。代わり映えないだけに面倒。処方箋ってコピーできないかな。手間が減っていいのに。互いに損無しのウィン=ウィン。

 処方箋はコピー用紙に三文判。これこそ売買できる紙に他ならない。難しいとは思えないけど、誰もやってないのを加味するまでもなく、無理よりなにより割り合わない。別の方法、模索かな。もっと楽で、簡単で。

「良く眠れる?」

 或る時、訊かれた。ゆっくり五つ、心の中でカウント。「怖い夢を見たりします」

 すると先生は、追加で睡眠薬を処方してくれた。はてさてこれは、面白い贅沢品を買えてしまった次第でして。

「ふらついたり、ちょっと強いかなって思ったら半分にしてみてね」

 それでいいんだ?

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