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「ゆっくり、」抜いて垂らさぬよう注意され、あたしはレバーに触れぬよう、そっとノズルを元に戻した。お父さんはキャップをギチギチ鳴らし締めて、カチッとカバーを閉めた。
お終い。手首を振って、指先のニオイを嗅いでみた。うわ、くっさ。
「ガソリン、ついたか?」
かぶれるぞって。ううん。ついてない。
ドアを開けて車に乗ると、ニオイも一緒についてきた。もしかしたらゆらゆらの影だったかも。だったらあたしは燃える女。ファイヤマンは消防士。これ、引っかけ。
その晩、お風呂に入って歯を磨いて、寝る前に時間割りを見ながら気が付いた。おっとどっこい、大発見。お誕生日の神さまからのプレゼント。以前見た夢は、とどのつまりあたしの深層心理で願望で。なんて素敵なの、世界を開く突破口。エウレカ!
すぐさまパソコン、起動させ。
検索ワード:火炎瓶。
*
警察で聞かれたこと。
「火炎瓶の作り方はどうやって知ったの?」
年かさの婦警さんはいかにもって感じの優しい声音だったけど、目は笑ってなかったな。
私の答え。「映画とテレビと国語辞典」
分からなければ調べればいい。字が読めれば理解充分。知りたい気持ちは何より勝る。だから回答に嘘はない。ちょっと端折ったかもだけど。それよりこの建物、奥の部屋だか地下の部屋だかにもっとたっぷりエグいもの、仕舞ってるでしょ。今度案内してくれないかしら。それともおトイレの帰りに迷子になっていいかしら。お父さんとお母さんがお迎えに来て、おじゃん。
他にも何故か世間話をだらだらしたような気がする。学校生活まで訊ねてどうしようっていうの。お友達とか作ってくれる? いらないよ、そんなの。と、まぁお腹の中は別として、あたしなりに如才なく答えたと思う。感じ良くいられたと思う。少なくとも婦警さんの目から険は取れたと確信してる。
とは云え、罪には罰なんだな。少しは割引してくれないかしら。中学生割り。初犯だし、未遂だし。それにしたって学校の成績まで知られてたのはあいたたた。誰よ、通信簿、横流したの。一だの二だのと並ぶばかりだけど、恥ずかしいって思った自分に驚いた。へぇ、こんな気持ち、あったんだ、みたいな?