1(面白くない)
イノベーション・カクテル
雛形は危ないって小耳に挟んで、面白くないと思った。雛形亜希子は何考えてるんだか分からない。訊ねても生返事。加えていつも不機嫌で。あたしはいつでもフラットだけど? 一方的な、誰かの都合。
レッテル。赤で書かれた注意の文字。雛形に触れるな。雛形が伝染る。何それ。やっぱり誰かの都合でしかない。
聞いてた?
その言葉は面倒だった。
うん、聞いてたよ。
面倒くさいから適当に。目立たなければいい。頭を低くして、見えないように。気付かれなければそれでいい。
ねぇ、聞いてた?
あたしの小学校は五文字の言葉でだいたい片づく。うん、聞いてたよ。じゃ、何の話だったか云ってみて?
そしてあたしは口ごもる。
やっぱ聞いてないじゃん。もういい、だって。
了解。あたしは愛想笑いを憶え、せっせと距離を作り、やがてそれが壁となる。中学に上がると顕著になった。けど、それって悪いことじゃない。レーダーに引っかからなければ授業で指されることもない(余所見しない、次の問題、前に出て解きなさい)。レーダーに引っかからなければ掃除当番を頼まれたりしない(ごめん、部活遅れそうだから代わって!)。レーダーに引っかからなければ──。
*
夢を見た。
たくさんの大きな鷲が羽ばたき、町にたくさんの大きな爆弾を落として行く。爆発。眩い光りに空気が震え、炎が夜空を舐める。鷲は得意満面。次から次へと爆弾をぼんぼん落とす。丸焼きの世界。ゴウゴウ真っ赤に燃え盛り、ゴウゴウ風が巻き上がり、ゴウゴウ火の粉が舞い散った。目覚めた真夜中、布団とシーツが濡れていた。下着までぐっしょり。
*
今日も窓の外を見る。十月になったばかりの三時間目。地理。小春日和は窓際席の特権。
グラウンドの向こうの住宅地。繁華街。空に大きな鷲を足してみた。次々爆弾を落としてみた。光りと炎と熱風があたしを襲う。校舎は赤く塗り替えられて、窓ガラスが次々割れて、黒い煙りに巻かれ何も見えなくなる。
ぽかり。
教科書で頭を叩かれ、廊下に立たされた。なんて罰則。クラスメイトの失笑なんて気にしない。壁越しに先生の声がもそもそと聞える。「試験に出るぞ」だなんて。バカくさ。
スカートを手折り、廊下に直に体育座り。見上げた窓の向こう、空はまっさらで、ぽっかり浮いた白い雲が間抜けっぽかった。チャイムが鳴るまでそうしてた。ちっとも空は赤く染まることはなかった。




