美味しいもので釣るか
その次の日も、ロランはやってきやがった。
おかげでゲームで他の奴らからお金を巻き上げられないので、お小遣いが少し厳しい。
だが適当にあしらって興味がなくなるように、僕は頑張った。
頑張ってはいたんだ。
「でね、酷いんですよ、リュシーを触ってみたら肘鉄を食らわされてしまって」
「リュシーらしいな。自分に手を出してくる人間には容赦しないからな。かくいう俺達も全員リュシーに投げ飛ばされているし」
「皆さんリュシーに手を出そうと?」
「いや、腰に手を回してみたら、投げ飛ばされた」
「「「俺も俺も」」」
「そうなのですか」
(つまり俺は脈アリってことか? 投げ飛ばされなかったし。やはり俺は美しいから当然だな)
やっぱり一度投げ飛ばしておいたほうが良かっただろうかと、僕は思う。
しかも他の奴らと仲良くなりやがって。
確かに雰囲気や、会話からは親しみやすさが溢れているが、中身はアレだ。
騙されている、皆騙されている。
しかも外堀から埋めていくようにこの店の従業員とも仲良くなりやがって。
やっぱり痛い目に合わせて、そのままフェードアウトを狙ったほうがいいのだろうか。
僕は真剣に悩むがそこで更に、
「しかもリュシーは酷いんですよ、俺に本当の名前を始め教えてくれなかったんです」
(よーし、他の人達にリュシーの悪行をばらしてしまえ。そして同情を買ってやる)
やはり早めにこいつとはケリを付けなければと僕は焦る。
そんなロランに、この前恋人同士になったアシルが、
「でも、最近、人さらいのようなもの、隣の町で聞きます。やっぱりリュシーは強いとはいえ、見かけもいいですし警戒しているのでは」
「なるほど、それはあるかもしれません」
(あの猛獣をどうこう出来る奴がいるかどうかは謎だが、確かにあの美貌は危険だな。でも猛獣だしな……)
お前の考えていることは全てお見通しだ! と言えたらどうだろうと僕はもんもんと考えながら、そこでようやく最後の皿を洗い、
「お待たせしました。それで今日はどうしましょうか」
「あ、リュシー、そうだね、今日はなにか食事をごちそうしたいのだけれど……このあたりのお店がよくわからないんだ。ここでもいいのだけれど……」
(ふん、庶民の口にする料理が俺の口にあうわけ無いだろう。まあここの料理も、さっきもらった菓子は美味しかったから、少しは味見してやってもいいが……とりあえずこの猛獣の餌がどんなものか味見して、美味しいもので釣るか)
完全に僕は猛獣扱いなのと、食事を馬鹿にされたので……確かにここの料理も美味しいが、ここにいるとどんな理由で影響があるかどうか分からなかったので、
「分かりました、近くのお店で食事をしましょう」
そう僕はロランに微笑んだのだった。
たまたま路地裏にあるその店を目指していくと争う声が聞こえる。
「助けてっ、誰か! むぐっ」
「うるさいガキだ! 早く連れて行け」
その声に、この近辺に住んでいる少年だと気づいた僕はかけ出す。
見た目もそこそこ良かったはずだが、と思っていると見知らぬ男たちが彼を捕まえてどこかに運び去ろうとする。
とっさに僕は駆けて、その内の一人に体当たりを食らわせる。
「このっ! ……!」
(誰だこんな時に……何だこの美人は)
悪人顔の男。
そこそこ年齢はいっているようだが、僕を見た瞬間はっとしたようだった。
こんな奴に美人とお言われるのは気に食わないが、僕は小さく呪文を唱えて、冷気を生み出す。
それを魔法で奴らは防御して逃げていき、心を読むと最近となり町で人さらいをしている奴ららしい。
しかも、僕みたいな美人がいるなら捕まえようとターゲットにされたらしい。
面倒だが全員返り討ちだと思っていると、その捕まった少年が僕に抱きついて、
「リュシー、ありがとう」
「お礼はいいから今度はこんな人気のないところに来ちゃ駄目だよ。後今度は他の人達にも今日の奴らのことを話して注意しておいてね。う、うん」
そう言って走って行き他の子どもと合流するのを見届けた僕は、そこで、
「子供を助けるのは感心するが、そんな風に無鉄砲に飛び出してどうするんだ。怪我をするかもしれないだろう!」
(猛獣とはいえいきなり走って行くとは思わなかった。たく、怪我したらどうするつもりだったんだ)
心の中を読んで僕は、猛獣だから大丈夫だとか散々言っていたくせに、こうやって本当に心配してくれているのだと気づく。
言っていることと思っていることが同じだ。
それが僕にはほんの少し嬉しくて、
「心配してくれてありがとう」
「……だったらこういう行動はしないでください。ああいう奴らが来れば俺の部下を読んで対処させますから」
(だいたい、そんな事をしてこの銀髪に傷がついたらどうする気だ! お前の価値はこの銀髪に集約されるのに)
「……ありがとうございます」
言っていることは良いのだが、考えている事は僕の心配ではなく銀髪の心配らしい。
なんという髪マニアだと僕は思いながら、ちょっとだけいいやつかもと思った自分は間違いだったと僕はため息を付いたのだった。