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二重人格なあいつと遭遇

 じたばたする少年を金髪の彼は受け取ったリュシー。

 身なりの良い彼は貴族だろうか。

 面食いの自覚のあるリュシーは、目の前の彼の男性的な美貌に一瞬見とれてしまうが、


「随分と元気が良いんだね」

(調べさせた通り、元気が良いな。この淫乱ビッチは。どうやって料理してやろうか)


 にこやかで優しそうなその表情の裏で、彼はこんな事を考えていた。

 何という2重人格で性格の悪い奴だろうと思うと同時に、調べさせたというくだりで、最近よく自分が見はられているような気がしていたが、どうやら彼だったようだと僕は気づく。

 しかも淫乱ビッチ。

 僕が一体何をしたと。


 確かにこの見た目は魅力的ならしく男どもが襲ってきたりするが、全員返り討ちだし、ゲームの勝利で掛け金を頂いてはいるけれど、今まで恋人はいない。

 あの仲の良い両親を見ていたので、僕はあれくらいに愛し合える相手が良いなという、恋愛の敷居が高いからなのかもしれない。

 なので恋人もいないので未だに体の関係にある相手は男女ともに0だ。

 そう思うとなんだか悲しくなってきたが、そこで目の前の男に、


「でもあまり君みたいな可愛い子がこうやって、追いかけたりするのは感心できないね。怪我をしてしまうかもしれないからね」 

(まあ心配するだけ無駄だろうな。これだけいきのいい性格だし、後先考えない猪のような突進するようなやつだし。それに昨日自分の2倍もの相手をぼこっていたから、あれだな。見た目はこれだけど中身は熊か何かなんじゃないのか? 動物だ動物、しかも小動物みたいな可愛い奴じゃなくて、猛獣だ)

「は、はあ、ありがとうございます」


 僕は、言い返すなと自分に言い聞かせながら、必死で普通の答えを言う。

 もしもこの心の声が僕に聞こえているとなるとどうなるのか、正直ここまで性格の悪い奴だと、碌でもない事になりそうな気がする。

 しかも僕の素性を調べている貴族。

 貴族の横暴さも伝え聞く分、あまり関わらずにいた方がよさそうだなと僕は心の中で思いながら、


「すみません、僕は用があるのでこれで」

「そうなのか。引き止めてしまったね。ところで名前だけ教えてもらえないかな」

(逃げようとしやがった。警戒しているな。猛獣だから勘が良いのか? とも思えるが……まあいい。急いては事を仕損じるというし、少し時間をかけて信頼感を得ていくか。とりあえず名前だけでも言わせておこう。もう知っているが呼ぶのに面倒だからな)


 などと考えているのを僕は全部聞いていたわけですが……許せん。

 バレていようが何しようが、絶対に本名なんて教えてやるものかと思いつつ、にっこりと微笑みながら、


「セレスと言います」

「そうなんだ、君に似合う素敵な名前だね」

(こいつ嘘をつきやがった。この俺様に。絶対にその内何らかの形で恥ずかしい思いをさせてやる。しかし名前を偽ろうなんて手馴れているな……やはり淫乱ビッチか?)


 その心の声のいらだちに僕はザマーミロと心のなかで舌を出したが、また淫乱ビッチと言われてむかっとくる。

 これ以上一緒にいるのは良くないと思いながら、僕はその場を去る。

 追ってこないのを確認してからそこで、


「い、いい加減放せよ」

「まあまあ、ケイト。君のためになることをするんだからいいじゃないか」

「ど、どうせあんな目に合わせるんだろう! 知っているんだからな!」

「いいじゃん、アシルが好きなんだからさ」


 先ほど僕がゲームで負かした青年、アシルの名前を告げると、やっぱりと言って顔を青くして逃げ出そうとするケイトを引きずるように連れて行く。

、そしていつものように嫌がるそのケイトを連れてきて、先ほど勝たせてもらったアシルの前でケイトがどれだけアシルを思っていたのかを代弁した。


 ちなみに少年はそれをされて気絶する。

 何時も皆こうなるんだよな、根性が足りないと僕は思う。

 人間の心の中はドロドロの欲望に満ちているので、一応オブラートに包んでそこはかとなく薄めて話しているのに。

 だが、何時も何故かリュシーはやり過ぎだといわれるのである。

 今日だって周りの人に言われてしまった。


 別にいいじゃないか、今だって顔を真っ赤にしながらも嬉しそうにその少年を先ほどの青年が背負って連れ帰っている。

 感謝されるならともかく、何で文句を言われなければならないんだと僕は思うのである。

 だいたい、そうやってどれほどのカップルを僕が作ったと思っているのだと、僕は思うわけである。

 そもそも見かけだけで相手を選ぶようなやつらなど、リュシーの眼中にない。

 だからそういった奴らが、幸せになれそうな道を作ってやって、かつ身の危険を回避する僕の処世術なのである。

 どちらにとっても得があるじゃないかと僕は思うのだ。


 そこで、“声”が聞こえた。


「……リュシー……か」


 遠すぎて聞き取れない心の声。

 心が読めるといっても遠すぎれば、遠くの声が聞こえないのと同じように、それほど遠い場所で人の心は読めない。

 しかもここは周りに人も多いので心の声も多く雑音になる。

 多分あいつが僕を観察している。


 そういえば以前にその主を追いかけようとしたのだが、上手い事巻かれてしまった。

 その時感じたのだがどうも魔法を使っているらしいという点である。

 この世界の魔法は、貴族の特権であると同時に貴族と関連する連中しか使えないという事になっている。

 それは“血”によるものらしい。

 リュシーもささやかな魔法が使えるが、それは何処かで元貴族の血が混ざっている事を意味する。


 ちなみに両親共に魔法が使えていたが。

 とはいえ、貴族の落胤のような話はちょくちょく聞くし、その落胤の末裔もささやかな魔法が使えるので、僕もそれほど目立たずに生きてこれたのだが。

 彼らが一体僕に何の用なのだろうと薄気味悪くなりはするのだが、それよりも自分の生活が大事だし、今日はなんといってもケーキを作れるのだ。

 なので、昔誕生日にもらった懐中時計を確認して、 


「あ、もうそろそろお店を手伝わないと。じゃあね~」


 また僕の一人勝ちかよと周りで声が上がる。

 残念でしたと軽口を叩いて、僕はその場を後にしたのだった。

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