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本日の、サービス

 今日も今日とて皿洗いをしている僕の名前はリュシー。

 年は十八歳。

 銀髪に緑の瞳の美少年であるらしい僕は、今日もたくましく生きている。


「良い天気だからどこかに行きたい気持ちになるけれど、今日は仕事が夜まであるものね。確かエニトリさんの誕生日祝いだったっけ」


 貸切でこの酒場でお祝いだそうだ。

 しかも、今日はリュシーがケーキを作っても良い事になっている。

 昔母に教わり、生クリームと果物の乗ったふわふわのケーキを作るのが今ではリュシーの趣味だったので、それを任されたのはリュシーにも嬉しかった。


 それに今の時期は生の果物が大量に安く手に入る。

 果物たっぷりのケーキは、クリームと絡めると芳醇な香りが口いっぱいに広がるのだ。

 美味しいと言ってくれるといいなと思いながら、すでにやいて冷やしているスポンジケーキに目を移す。

 これをたっぷりとクリームで飾れば、甘党のエニトリさんは喜ぶかなとリュシーは思う。

 作った物を美味しいと言ってもらえるのもまた、リュシーの楽しみの一つなのだから。


 そこでふと近くの窓を見ると、貴族の馬車が通り過ぎていく。

 こんな市井に何の用だと僕は思ったのだけれど、すぐにその窓からのぞく彼に目を奪われる。

 金色の髪に、紫色の瞳の美貌の男だ。

 ふと何処かで出会ったような懐かしい感情が僕を襲うけれど、思い出せない。


「僕が魔法が使えるからって、貴族と接点はないから知らないし、だとしたら気のせいだよね」


 そう思いながら綺麗に洗い終わった皿を、清潔な布でふいていく。

 一年ほど前に事故で親を亡くして――行方不明のままだがこれだけ戻ってこないと、察し、である――細々とリュシーは一人で生き抜いてきた。

 両親は駆け落ち同然に家出して結婚したのだと自慢げに言っていたので、親戚は誰もいなかった。

 それでもなんだかんだで逞しく両親も、そしてリュシーも生き抜いていたのである。

 そして一人になってしまったリュシーは親の財産が少しはあったので初めのうちは困らなかったが、このままではいけないと悲しみを乗り越えて働きだした。

 と、声が聞こえる。

 正確にはか細い心の声だが。


「リュ……皿……」

「……気持ち悪い」


 小さく僕は呟く。

 この前から探るような心の声が聞こえて、僕は気味が悪くて仕方がない。

 以前その声の相手を追いかけようとしたが、途中で見失ってしまったのだ。

 見つけたらそのうちボコボコにしてやると、最後のお皿をふき終わった所で僕はそろそろ休憩しろと言われる。


「はい。でもって休憩となるとまたあのカードゲームなんだよな……ふん、勝てるわけがないのに」


 心を読める僕の前で、ゲームをしかけるなんて……でも、この力を知らないんだから仕方がないんだよねと僕は心の中で舌を出して、今日の獲物を探したのだった。







 初めは偶然だった。

 たまたま休み時間に他の人達が何処かに行くのでついていくと、お金をかけてゲームをしているのを目撃する。

 いかがわしいカードゲームでお金をかけあうのを目撃した僕は仲間に誘われ、ルールを教わりそれを始めた。

 僕は良いカモだと彼らは思った事だろう。

 けれど実際に獲物になったのは彼らの方だった。


 ちょっとしたおこずかいを稼ぐつもりで始めたそれは、僕の能力にとても適したものだ。

 しかも僕は見た目も良かったがために、男でも良いという男達に狙われていた。

 彼らを黙らす&金づるにして、ゲームを続けていった僕。


 こう見えても護身術やら何やらも得意だし、少しばかりだが魔法も使えるのでゲームで負けても襲ってくる欲望に満ちたケダモノを力づくで黙らせる事も出来た。

 ただ暴力ばかりで抑えるのは難しいのでゲームを利用していた部分もある。

 気付けば一度も負けることなく、この界隈の麗人“銀色の妖精”という妙なあだ名までつけられてしまった。

 そして今日も今日とて、食堂で働いているので午後の休憩時間にゲームに僕は挑んでいた。

 今日は若い男で、真面目で働き者の僕の一つ上の青年アシルだった。

 すでに七回ほど僕に負けており、今回で八回目の負け記録だった。


「あーっ、また負けたぁああ」

「はい、じゃあ貰うね」

「うう、何時になったら勝てるんだよ。その内絶対、俺の下で啼かせてやるからなぁぁあ」

「……いい加減、僕じゃなくてもっと一途に思っている相手を選んであげなよ」

「? 何の話だ?」

「……仕方がない、稼がせてもらったのでサービスしておくか」


 僕は嘆息してから、席を立ち、路地裏に隠れて賭けの様子を見ていた一人の少年に向かっていく。

 少年は僕が近づくと慌てて逃げようとする。

 そんな彼を僕は自慢の足で追いかけていく。

 逃げ足には自信があるのだから、と小さく僕は嘯いてみる。

 そこで、曲がり角から人が現れる。

 そして僕がその少年を追いかけているのに気づいたらしく、その追いかけていた少年を彼は捕える。


「は、放せ! 誰だ!」


 その焦るような追いかけていた少年の声。

 けれど僕は、追いかけていた少年を、何処かで見たような……先ほど貴族の馬車で見た彼が、捕まえているのを見て、彼に視線が釘付けになってしまう。

 柔らかな甘い顔立ちの、金色の髪に紫色の瞳をした、美しい男。

 そんな彼は、僕に微笑み、


「この子を捕まえたかったのかな?」


 そう、僕に問いかけたのだった。


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