予期せぬ出会い
予期せぬ出会い。
世の中にはそんな出会いがあるようだとロランは思う。
六歳になったばかりのロランは、あの日、確かに運命の出会いを果たした。
黄金を落としたような鮮やかな金色の髪に、カットが施された紫水晶のようだと称された瞳をもつ、整った美貌の少年だと周りがもてはやしていたのをロランは知っている。
そしてそんな自分を女の子達は放っておかず、何時も自分の周りは彼女達の華やかな笑い声で満ちている。
それが好きだったロランは、同時に彼女達を上手く扱うすべをこの年で手に入れていた。
貴族の次男なので家を継ぐことは出来ないが、将来はこの美しい令嬢たちを娶り幸せに暮らすのだろうとこの時ロランは疑いを持つ事すらしなかった。
そしてロランはとても運が良かった。
どんな勝負だろうがロランが負けることはなく、それが、貴族の持つ魔法の中でも、個人に時々現れるという固有の能力だと知ったのはつい最近のこと。
“確率操作”。
本来起こりうるはずのない偶然を、自分の都合のいい必然に無意識の内にロランは変えているらしい。
ただロランにしてみれば、生きているだけで十分皆運がいいのだし、自分は人よりも少しだけ運がいいだけだと、その力を知った後も思っていたが。
そんなある日いつものように女の子達に囲まれて楽しんでいたロランは、父親に連れて行かれて市井にやってきていた。
それほど裕福ではない街の一角は、貴族の花に満たされた庭と比べて、薄汚く醜悪な場所に見える。
幼い自分はこんな場所に連れてこられるなんて、そんなに運がいいわけないじゃないかと心の中で毒づく。
そこでロランは更に、
「試しに子供達と遊んでみるといい」
あの時父が何を考えていたかといえば、令嬢を独り占めするロランが他の令息の怒りを買い、それが父親経由から苦情が来ていて、それゆえにロランにお仕置きも兼ねてこんな事をさせたのだ。
けれどその理由をロランはこの時はまだ知らずにいて、言われたとおりに渋々と子供達の声のする方に歩いて行く。
子供達は今にもレンガが崩れ落ちそうなあの曲がり角の先にいるようだ。そこで、
「じゃあ、リントが鬼だね!」
そんな元気のいい声が聞こえて、曲がり角から一人の子供が姿を現す。
着ているものは粗末な、ところどころ穴の開いた場所を別の布で継ぎ接ぎした服。
けれどそんなものよりもロランはその髪の色と美貌に目を奪われた。
柔らかな白い月の光を思わせるような艶めく長い銀髪。
そして新緑を思わせる鮮やかな緑色の瞳。
どちらも活き活きとして、貴族のあの鬱屈したものとは異なる力強い生命を感じる。
「君は……」
気づくとロランは自分からその子供に声をかけようとしていた。
けれど彼なのか彼女なのか。
女の子かなとロランが思うと、そこで目の前の子供はむっとしたようにロランを見た。
「僕は、男だから」
何故か心を読まれたような、そんな不安感がロランの中で生まれる。
けれどこの子供達と遊んで来いと言われたのでロランは、彼に仲間に入れてもらおうとロランが切り出そうとすると、
「僕達と遊びに行きたいんでしょう?」
彼がそうロランに言う。
どうしてロランが思ったことが分かるのだろうと思うけれど、差し出された手にロランは意識が移ってしまい、それ以上は何も考えられなくなってしまう。
それでも、どうしても聞きたいことがあって、
「僕の名前は、ロラン。君の名前は?」
「リュシーだよ!」
答える彼の名前をロランは口の中で反芻する。
そしてこの時に出会った彼を、甘い思い出を、ロランはやがて忘れるが……ロランは銀髪フェチになってしまったのだった。