エピローグ(差し替え版)
綺麗な一室に通され、そこはロランの部屋らしい。
何処となくロランが嬉しそう、というか楽しそうなのが気に入らない。
だって……ロランが本当に僕の事を好きだと錯覚してしまいそうになるから。
どうせ銀髪しか好きでもないくせに。
恨めしそうに見上げるとそこでロランがそんな僕に微笑んで、
「そんなに僕が嫌なのかな?」
(本当にあきらめが悪いというか落ちないな。それに見知らぬ輩に攫われても困るから、体から落としてやる。ビッチというか感度も良い淫乱だし、すぐに欲しくてらなくなるだろう。この猛獣は頭が軽そうだし)
「……」
うきうきとしたように心の声が弾んでいて、それを全部聞かされている僕がこんな風に機嫌が悪くなるのも当然だろう。
触ってきたら蹴りでも入れてやろうかと思うのだが、生憎と僕をもてなす準備で忙しいらしい。
というかどうして僕を選んだのか全く説明がないのも酷くないだろうか。
一目惚れしましたで納得するわけないだろう、常識的に考えて。
心の声を聞く限りはロランは僕の髪に一目ぼれしているみたいだけれど。
というかどうして僕を選んだんだろう、その切っ掛けを僕はまだ聞いていない。
もしも別の誰かだったら、どうするんだと僕は思う。
なのにそんな僕の不安を全く考えずに、ロランは頭の中がエロい事で一杯だ。
酷い。これは酷い。
美味しそうな獲物を楽しめると言った事ばかり考えている。
それを延々と読まされる僕の身にもなってみろと。
けれど先読みの力と勘違いしている内に、離れた方が良いかもしれない。
ただの勘だが……僕はロランにこの力を知られると、酷い目に遭いそうな気がするのだ。
そこで僕にロランが紅茶を差し出す。だが、
「君のために用意したんだ。落ち着くかと思って。どうかな?」
(もちろんお前のためだ)
心を読んだ僕は少しは僕の事を思っているのだろうかと思って口にする。
でも相変わらずロランの心の中はアレである。
それよりもこんなエロい事ばかり考えていないで、
「もう少し説明してくれればいいのに」
「……」
(そういえば予知能力だと思ったが、近い未来しか見えないのか? 俺が説明しないとは思えないし……見てるだけでリュシーは襲いたくなるから、それは仕方がないな)
いや、そこはまず説明からだと思う。
いきなり連れ帰って襲おうとしているこの変態貴族、説明しろまずはと思わざるおえない。
なので更にじと目になって僕はじっとロランを見ると、
「どうしたのかな?」
(く、物欲しそうな顔をしている。どうしてこう俺の理性を振り切ろうとするんだ……初めは、見て来いと言われて一目ぼれして調べさせたら、その美貌で男を誘惑してゲームをして金を巻き上げる美人って聞いて、うっかりそのまま攫ってやるかと思って近づいたら警戒されて捕まえられなかったし。結局は誤報だったらよかったが……結果は、リュシーが俺の事なんて好きじゃないから同じだな)
最後の方が珍しく弱気で悲しそうだったので、僕は罪悪感がむくむく湧き出てくる。
でも銀髪しか好きじゃないし、事情も説明してくれないし、もしかしたら誰かと間違えているかもしれないのに……そう、全部ロランが悪いのだ。
僕は……多分、ロランが好きだし。
ほ、ほんの少しだけれど。
多分、ほんの少し……。
そう考えていると悲しくなってしまい俯いてしまう僕。
そんな僕の頭をロランが撫ぜた。
「そうですね、突然連れてきたから不安ですよね」
(あーもう、こんな顔をされたら襲う気にすらなれない。絶対にアレな感じにしてやろうと思っていたのに。全くリュシーは俺の心を掴んで放さない。見た目も性格もここまで好みだとは思わなかったな……でも事情を説明したら説明したで、リュシーは俺の事を更に疑って、“好き”だって俺の感情を疑いそうな気もするし、どうしようか)
ロランなりに僕を好きで、だから話せないでいるらしい。
でも、今の言葉でどうやら僕の銀髪だけが好きなわけではないらしい。
ロランは“僕”が好きだと信じていいのだろうか。
途端に憶病になってしまいそうなになるけれど、でも、僕はただ心が読めるだけで、だからロランの気持ちが分かるだけで、本当の気持ちは口に出して伝えないといけないだけで。
だから僕は、ロランの心ではなく、ロランに自分から答えて欲しかったから、だから、
「僕はロランが銀髪しか好きじゃないんだと思っていたんだ」
「……そう、とられたのか。確かに銀髪は好きだけれど、俺はリュシーが好きだよ?」
(銀髪が好きだから近づいたと思っているのか? 確かに見た目も銀髪も好みだけれど、それだったら愛人にすればいいだけだしな。うん、やっぱりリュシーはアホだ)
そうやってすぐに悪口を挟むなといいたい。
でも好きだと言われたからそれで帳消しにしてやると僕は思いながら、
「本当に僕が好きなら、どうして、まるで僕を狙うかのように来たのですか? 僕はごく普通の一般人ですし」
「そうですね……」
(説明か……説明したらしたで、どうだろうな。先に体を落としておいた方が確実にリュシーが手に入る気がするしな……)
「僕はロランが好きだよ。……だから銀髪しか好きじゃないんだと思って、ゲームで諦めてもらおうと思ったんだ」
「……」
(どうしてこう、いきなり破壊力抜群の言葉を言うんだ。く、襲いたい。可愛過ぎる。狙っているのか?)
何故かロランが萌えていたので僕は、聞きだすために、
「だったらせめてどうして僕を選んだのか教えて欲しい。初めから僕を狙っていたみたいだから」
「それは……」
(どう説明したらいいかな。そう、確かあれだ。銀髪令嬢を侍らしていたら、お前もそろそろ妻を連れて来いって言われて、丁度いい相手がいるから連れて来いと言われて渋々見に行ったら一目ぼれしたんだよな……)
「え? 妻?」
同性同士はままある事なのでその辺はいいとして、何で見ず知らずの僕がロランの妻にと僕が思っていると、そこでロランの顔から表情が消えた。
「……今、俺は言わなかったよな?」
(まさか)
「え、えっとあの……何だか怖くなっていませんか?」
「思っただけのはずだよな、妻って」
(という事は)
その声を聞きながら僕は、自分がとても危険な事になっている気がした。
顔を蒼白にしている僕に、ロランは僕をじっと見てから、
「……てっきり先読みの能力かと思ったが、どうやら心を読む能力みたいだな。なるほど、心を読んで周りの状況を推測するのか。……確かに先読みと似ているな」
「え、えっと何の事でしょうか」
「そうか」
(ちなみにさっき飲んだ紅茶には、男でも孕むような効果が……)
「いやぁああぁああっ」
「というのは冗談だったんだが、でもそうか、心を読む能力か……」
そこに今までの優しそうな雰囲気が無くなったロランが、にやりと笑う。
「じゃあもう、猫を被る必要はないな。思った通りの事を言えばいいか。それに今まで俺がどう思っていたのか全部聞こえていたわけで……そうかそうか。俺が好きだと思っていたのも全部知っていて弄んでいたと」
(この淫乱ビッチが)
「! また淫乱ビッチって思った! すぐにそんな風に悪口を思っているのに僕が素直になるはずがないじゃないか!」
「仕方がないだろう、リュシーを見ていると変な気持ちになって襲いたくなるし」
(そう、全部この存在自体がエロ生物なリュシーが悪い!)
「エロ生物って何だ! く、全部聞こえているって分かっているのに全然改善していないし……やっぱり、ロランが好きだと思ったのは気のせいだったんだからぁあああ!」
「……つまりリュシーは本当に俺が好きだと?」
(さっきのは俺から情報を引き出そうとしたわけではなく?)
「……そうだよ。というか、何で疑うんだ。何時もは自信家のくせに」
「あー、そうだな。うん、そうかそうか。本当に俺をリュシーが好きなのか……」
(どうしよう、安心してしまった。はあ、何でこの俺が振り回されているんだよ。本当にリュシーは魔性だよな)
「どっちがだ。僕だってロランに振り回されてばかりだ。今だって本当の事を話してくれないし」
「……分かった、全部話せばいいんだろう? その代りリュシーは俺の“妻”だからな」
(面倒臭い)
「面倒がるな! ……それで良いから教えてよ」
僕がそうロランをせかして聞いた所、こんな答えが返ってきた。
「実はリュシーの両親が意識不明の状態で保護されて最近意識を取り戻した、これはもちろん知らないだろうな」
(知ってたらこんな風にならなかっただろうし)
「! 」
「その両親はどちらも敵対していた貴族の娘と息子である日書き置きとともに駆け落ちしたのだそうだ。そして追手をかいくぐり子供、つまりリュシー、お前を産んでこっそり育てていたと。けれどある日事故で意識不明で保護された身元不明者に、その行方不明の息子と娘がいたと分かって、その頃には駆け落ちされたために敵対関係じゃなくなっていたその貴族の両親が保護した。これが一年くらい前の話だ」
「!」
「それで息子達が目覚めたその貴族は大いに喜んだのだが、更に調べると孫がいたことがわかった。孫にまで逃げられててまるかということで、適当に貴族の嫁にしてしまえ、そうすれば逃げられないだろうと、要するにリュシーの両方の祖父母も画策した。ということでその相手を探していたが、そこで丁度銀髪令嬢を侍らして楽しんでいたダメ息子の俺がいて、都合がいいと白羽の矢が立ったというわけだ」
「ダメ息子って……」
このロランがダメ息子どころか狡猾な相手だとしか思えない僕は、突っ込みを入れてしまう。
それにロランが小さく笑って僕の耳元で、
「銀髪と見れば男も女も……特に女を口説きまわっていたからな。本当に何でこうなったのか。ああ……でも昔、市井に行かされた時に遊んだ子供が銀髪だったな。そう、確か六歳くらいの時リュシーのいる町で……なるほど」
(全部リュシーのせいか)
そう言われえばそんな事も昔会った様ななかったような気がする。
そう僕が思っていると、
「あった気がする」
「……運命だな。もう放さないよ、リュシー。正確には逃がさないだけれどね」
(逃がせるわけ無いだろう? 諦めろ)
この奇妙な偶然という心地よい幾つかの出来事が、僕の心を満たす。
まるで夢みたいだと僕は思った所で、おらんが僕に近づき僕はロランにキスされる。
それに僕がぽやんとして気持ちいなと思っていると、ロランの心の声が聞こえた。
(さて、ここまで話したし、そろそろ頂いてもいいよな?)
鬼畜な心の声が聞こえた僕はそのまま本気で逃げようとしたのだが、結局逃げきれなかったのだった。
それから日々、飽きもせずに僕はロランに襲われていた。
あれから両親と再会して、そして僕がロランの嫁にされた顛末を聞いて、両親が自分達の実家に殴り込みをかけたといった騒動があったのは良いとして。
今日は貴族の集まりに僕は出させられていた。
すでに以前、住んでいた町の人達と挨拶はすでに済ませている。
そういった慌ただしい日々を過ごしていた僕達だが、今日はえらい学者先生の話を聞かされていたり、意外にこの生活は大変なのではないかという疑惑を僕は持つ。
でもロランが僕を好きだから頑張ろうと思う。
そこでロランが僕の手を握ったので僕も握りかえす。
ロランの嬉しそうな心の声が聞越えて僕も嬉しくなる。
そうそう、ロランの能力は“確率操作”という自分の望む結果を引き当てる能力であるらしい。
だから逃げても無駄だと言われて、何で僕がロランから逃げないといけないんだと言い返した。
ロランはとても嬉しそうだった。
そんなこんなで喧嘩したり仲直りしたりして、僕の幸せな日々は続いていくこととなった。
「おしまい」