この髪フェチの変態
水筒に入っていた冷やされたお茶は美味しくて、お菓子も美味しい。
駄目だ、餌付されちゃ駄目だ、僕!
そう自分に言い聞かせるのに、
「はい、あーん」
(なんだこの猛獣、お菓子で凄く簡単に釣れるぞ。というかなんだこの可愛い生物。嬉しそうに、もきゅもきゅ咀嚼して……連れて帰るか)
再び差し出された紫色のゼリーに口を付けた僕は、今の心の声を聞いてびくっとする。
油断した、これではお持ち帰りにされてしまう。
どうしようと思って、いざとなればあのカードゲームを仕掛けて煙に巻こうと決める。
だが現状ではその話に持って行くのは難しい気もする。
どうしよう、僕。
僕の貞操も含めて色々な意味で危険だ。
そこで僕は閃いた。
そう、僕がこのロランに食べさせていることで好感度が上がって危険なことになるならば、僕がロランに食べさせればいいのだと!
ご馳走に意識が向けば、僕に対しての欲望から気が削がれるかもしれない。
そう思って、緑色のゼリーを一つ取り、
「こ、今度は僕がロランに食べさせてあげるね」
「そうなの? 嬉しいな」
(なんか先読みで見たのか? やけに焦っていたようだが……つくづくやりにくいなこいつ。早く俺に落ちろよ。……良い事を思いついた)
何かを誤解しているロランに僕は安堵していたが、最後の言葉に不安を覚える。
また碌でもない事になりそうな気がする。
けれど、今更引くことも出来ずに僕は、ロランの口にゼリーを差し出すが、
「ぁああっ」
そのまま僕の指ごと口に咥えられてしまう。
ロランの舌が僕の指をなめ上げて、それに体が小さく震えてしまう。
口からへ変な声が出て、このままでは不味いと思って手を引こうとすると手首をロランに掴まれて逃げられない。
その間にも舌で丁寧に指を舐められて、僕は頭の中がぼうっとしてしまう。
相手がロランだと思うと更に体の芯が熱くなって、
「や、やだっ、ぁああっ」
まるでか弱い少女のような甘ったるい声が自分の口から出て、僕はくらくらする。
こんなの僕じゃない。
不安が湧き上がるのに、僕は逃げられない。
そこでようやくロランが僕の指を口から放して、
「リュシーの指って甘いね」
(感じていやがる。……感度が良さそうだな。そういえばこの前触った時も中々……犯すか)
「んくっ」
僕は涙目になってロランを睨みつけた。
嫌がっていたのにこんなにじっくり舐め回しやがって、しかも心の中では犯すだの感度がいいだの……酷すぎる。
なので僕は無言でロランを睨みつけていると、
「あ、えっと、ごめん」
(しまった、やり過ぎた。だいたいこいつがこんなに可愛いのがいけないわけで……ああ、どうしよう。すごく機嫌が悪そうだ。まったく、この俺を弄ぶんだから大したやつだ、この猛獣は)
嘆息するようなロランの声。
でも僕からすると、何時僕がお前を弄んだんだという気がしなくもない。
さんざん危険なフラグばかり立てやがって、それを回避するための苦労を考えろ、というかもう来るな……来るな?
そこまで考えてロランが来なかったらと思うと、僕は何となく、心の中にぽっかりと穴が開いたように感じる。
別にいなくなってもいいはずだ。
だってロランは、正体不明の貴族で何故か僕のことを狙っているのだ。
しかも見かけだけ……。
そこまで考えて僕は、本当にロランが気に入っているのは見かけだけなんだろうかと思うと……悔しい。
何で見かけだけなんだと僕は思って不愉快で、でもどうしてこの僕が不愉快にならないといけないんだと僕は焦って、そこで思い出す。
そう、このロランは、
「ロランは銀髪は好き?」
「? 好きだけれど、何?」
(もちろん大好きだ。銀髪の素晴らしさについて語るなら何時間でも語れるからな。だがこの猛獣の銀髪はやはり素晴らし色だ。やはりこの猛獣は魅力的だ。だがここで押し倒すよりは、体を綺麗に磨かせてからのほうが楽しめるか? そうだな、この綺麗な銀髪を洗って丁寧に愛でたいな)
僕は自分が墓穴をほったと気づいて、慌ててこの髪フェチの変態にそろそろ戻らないとと僕は切り出して、その場を逃げ出したのだった。