鬼蔵さんと烏賊
(´・ω・`)イカした話を目指さなイカ?
とんでもない武士と遭遇し。山と暗闇を掻き分け。洞窟を目指す。
切り落とされた腕の切り傷がじゅくじゅくと痛む。
洞窟を抜けると。顔なじみの営門の姿が見えた。
「おう、どうした、鬼蔵…。」
我の姿に。言葉を失う、営門に答える。
「お屋形様にご報告を、お屋形様に…。」
そこで、意識を失ったらしい。
次に気が付くと、戸板に乗せられ、お屋形様と親父殿が居る御屋敷の白洲であった。
手に包帯が巻かれて、気を失っている間に手当てを受けたようだ。
「気が付いたか鬼蔵、人界の様子は如何であった?」
「お屋形様!申し訳ございませんこの様な姿で。」
「ああ、良い、良い、見たまま話せ。」
「洞窟を抜け、人界に出たところ、山中で陣幕と篝火か焚かれた陣を見つけました。」
「ほう、出迎えが有ったのか。」
「ハイ、人が引いた陣であろう。と近づくと中には女武者が一人。」
「女にヤラレたのか?」
「矢を放って来ましたが、矢の力もなく、二、三、刃を交えたところ到底、児戯に等しく。当代の人の武者はこんな者かと増長し。逃げる、女武者を追いかけた所、山中にて若い太公望が一人。」
「太公望?山中にか?」
「はい、コチラが名乗りを上げて、女武者の首を貰い受ける旨、言い放つと。太公望は魚篭を投げ、ひるんだ隙に、竿の釣り糸で簀巻きにされました。」
「釣り糸でか?」
「はい、不可思議なことに、どんどん糸が伸びるのです。しかも強くて引き千切れない。」
「うむ。面妖な。妖術を使うのか。」
「おそらくは、かなりの使い手に思われます。簀巻きにされて身動きが取れなくなったところを、女武者の一太刀で、胴を切られましたが。浅く、簀巻きから脱することができました。」
「…。」
「太公望と対峙して、飛び掛ると、太公望は刀を抜き、一刀の元、我の腕を切り落とし。その太刀筋は目に追うこともできず。痛みに耐えかねて倒れた我に一言『立って戦えと』」
お屋形様と親父殿は驚いた顔を隠そうとはせず。無言であった。
しかし、切られた腕が痛い、まるで手に何かが刺さっているようだ。腹まで痛くなって来た、切られた腹はもう塞がっているのに。
「立ち上がった我に、また、太公望の一閃により、足を切り落とされ、立ちあがるコトもできなくなり。」
「む?足までやられたのか?しかし、そなたの足は付いておるぞ?」
「はい、動けなくなった我に足を投げてよこし『手は土産に貰ってやる、足をつけて帰り、伝えろ、首を洗って待っていろ。』と。」
「…。」
「なに、敵の情けを受けたのか?」
無言のお屋形様と声を荒げる親父殿、しかし、腹が痛い、まるで中から刺される様だ。痛みで脂汗が出てくる。
「ははっ、」
「お屋形様、倅の不始末は私が受けます、何卒寛大な御裁可を。」
「いや、様子を見て来いとの命は果たしておる。太刀を受けて来たのは仕方ない。」
「しかし、それでは面目が立ちません。おのれ、太公望、必ずや、この鬼柾が討ち取って見せます」
「ふむ、まあ待て、そなたの倅の話では武士の手勢は少ないとの話だ。いくら強くても数で押せば良いであろう。」
「では、イカに?」
「そなたに、先陣を任せる、手勢を集め満月の夜、一気に人の世へ攻め入れ。」
「はっ、」
「それまで、暫く日が有るな。おい、鬼蔵、お主は娘に化けて、人の里を見てまいれ。満月の夜までに帰って来い。機会があればお主の腕を取り返してこい。無理はするな。」
お屋形様の下知を聞くが気が遠くなる。
「おい、どうした倅、お屋形様の命であるぞ。返事をせい、腕が痛むのか?」
「は、腹が…。」
緊張の糸が切れて吐くが、何も出ない。無様な姿だが、腹が痛くて、気が遠くなる。痛みで目の前が真っ暗だ。
「腹の傷は塞がっておったぞ!痛いはずが無かろう!」
親父殿の言葉を最後に気を失った。
倅の無様な姿に落胆するより、驚愕するコトの方が多い。
人が一刀で鬼の腕や足を落とすのである。
にわかには信じがたい。
倅の手当てに立ち会ったが、腹の傷はもう既に塞がっていた、痛いはずが無い。
しかし、腕より腹が痛いという。
お屋形様が青ざめた顔でつぶやいた。
「太公望の妖術だ…。若いと言っていたが、かなりの手練だ。」
その言葉に腑に落ちる。
「よもや、おとなしく倅を帰したのも、この妖術を掛けた為。」
「うむ、伝聞を伝えた途端この痛がりだ、間違いないであろう。山中に太公望と言うのもオカシナ話だ、妖術を使って姿を変えておるやもしれん。コレでは何かに化けた所で直に見破られるであろう。」
「なんと面妖な…。」
未知の敵に驚愕する。
腹を押さえたまま唸り、戸板に乗せて運ばれる倅を見届ける。
その後、倅は10日間も腹痛にうなされ。吐く物も無いのに吐き続け、飯も喰えず。その後は何も無かった様に回復した。
恐るべし、太公望の妖術よ…。