卯田くんとおにぎりと具
「随分と遅くなった…。」
まだ、日没までは少し時間が有るが随分と暗くなってきた。
水の入ったバケツと竿を持ちながら、MTBを押す足取りは重い。
海岸の突堤でイカ釣りを始めたら、なかなかアタリが無く。
途中の自販機で買った。麦茶のペットボトルを飲みながら。
ジリジリと日に焼かれていた。
日が傾き始めたらイキナリ釣れ始めたのである。
久しぶりの釣果にテンションが上がり。
アタリが収まると西日が眩しくなった。
夕食の準備をしなければ。
丁度、ココに5匹もイカが居る。
今日はイカそうめんで明日はイカ飯だな。
足取り軽くMTBを走らせたら。
この坂の登りである。
行きは下りで帰りは登り。
ひょっとしたら、学校始まったら毎日コレか?
MTBに前カゴ付けるか。しかし見た目がなあ。
リュックだと背中が暑そうだ。
そんな事考えていると。日も落ちて辺りは暗くなり始めていた。
家に続く道は舗装されていない、砕石が転圧されているので、砂利道と言うわけでではないが。大きな穴も無い。
でも、これ、雨振ったら最悪だな。長靴要るぞ。
山から見下ろす町は、街路灯と家の明かりが疎らに灯り始めた。
「ああ、昔に比べたら灯りの数が増えたな。」
ぼんやり明るい西の空、最早、頭の上は星空だ。
明日も晴れか。火星か金星見えるかな。
ぼんやりそんな事を考えていると。
茂みがガサガサ揺れたかと思ったら。
人が山から転がってきた。ビックリしたイノシシかと思った。
大慌てでMTBのスタンドを立て駆け寄る。
駈け寄ってから声を掛けるを躊躇した。
何でこの人、鎧、着てるの?落ち武者?映画の撮影?コスプレ?
「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
「大丈夫です!!ココは危険です!下がって下さい。」
女性の声だった、同じぐらいの年代だろう。なんか大人っぽいが。
「えーっと、大丈夫じゃないでしょう。血が出てますよ?」
「平気です。ソレよりヤツが来ます!逃げて下さい!」
「えー、なんかの撮影ですか?」
茂みがまた揺れたかと思うと。大男がぬるりと姿を現した。
「当代の武士も質が落ちたようだな、このような雑兵しかおらぬとは。」
「だまれ!」
女武者がいつの間にか弓を引いて矢を放つ。
あぶないなあ。今ではこういうのは緑色の全身タイツ着てCGで合成だろ。
大男が腕をふるうと矢は折れて茂みの中に落ちた。
「この程度か!ふはははははは、」
高笑いする大男、
なんだ、このおっさん、山賊のコスプレか?鬼みたいな顔しやがって、ご丁寧にツノまでつけてる。
「あー、あのモシ。ドコのどちら様でしょうか?」
「む!そうか未だ名乗りを上げていなかったな。ワシは丹波の国、大江山の酒呑童子様の御家来、茨木童子様の輩下、名路鵜山の鬼熊童子が手下。金虎の鬼柾の倅。鬼蔵と申す。」
有名所から又、ずいぶんと下に下がったな。
「その、ナニガシの鬼蔵さんが何の御用でしょうか?」
「うむ、兼ねてからの約定の期日がせまり。”鬼の世からこの世へご挨拶替わりに一暴れせよ”とのお屋形さまからのご命令。ソレを果たしに名路鵜山の洞窟を越えてやってきたのである。」
「で、一暴れは終わりましたか。」
「うむ!洞窟より出てみれば女雑兵ただ一人。なんとも拍子抜けなものよ。その首を証にお屋形さまに差し出す所存」
じろりと女武者を睨む自称鬼蔵さん、女武者は身を強張らせ刀に手をかける。
震えてるじゃん、女の人、ビビらせてんじゃねーよ。随分とペラペラ喋るな。なんか、裏があるか?
「あー、もしもし、名のある武人が女の首持って帰った所で笑い者に成るだけです。ほら、ソコに兜が落ちております。ソレをもって帰って御報告すれば貴方の体面も保てるのでは?」
今度はコチラをじろりと見て。考え出した。
あ、なんか、やな予感。
「むう、それも、そうだなこうしよう、その女の息の根を止めて貴様の首を取り、兜を付けて手土産にしよう。」
コチラにゆっくり進む鬼蔵さん、女武者が刀を抜き構える。
やっぱりそう来たか。
距離を測ってバケツに入った海水とイカを鬼蔵さんの顔に浴びせる。
「ぐあー何だ!!目に沁みる!!ぐ!痛い!痛い!」
のたうち回るイカと鬼蔵さん
まあ、海水だしね、ああ、そういえばイカ噛むんだった。痛いよね。イカ。
竿のイカルアーを引っ掛けてリールの釣り糸でぐるぐる巻きの簀巻きにする。
六号糸だからそう簡単に切れないだろ。
「おのれ~!卑怯だぞ!!」
「うるさい、コレでも喰らえ!」
バケツに引っ付いて耐えている最後のイカを鬼蔵さんの口に放り込む。
「ぐ、何だ!生臭い!!動くぞ!」
おおっ食べちゃった。さあ、どうしよう。
のたうち回る鬼蔵さんに、女武者が切りつける。
「あ!待った!!」
踏み込みが浅いので致命傷に為らないが。深い刀傷が腹に縦に入る。
「あ~あ、」
釣り糸の簀巻きが解けて鬼蔵さんが腹を押さえながら、立ちあがる。
「おのれ~小僧!許さんぞ!!」
ビビッて下がる女武者、下がるなよ。切り込めよ、立ちあがる最中なら隙があるだろ。
万策尽きたので。口車でビビらすしかないな。
女武者から脇差を失敬して、鬼蔵さんに切っ先を向ける。
「ほう、女一人のケツを追廻し。刀も鎧も持たない、その小僧に不覚を取り大怪我か、鬼柾と言う物も大したことは無いな。」
さあ、引くだろうと思ったら。顔を真っ赤にして怒り狂った。
「お、親父殿の悪口を言うな!!」
あれ?涙目でキレてる。なんか間違ったっけ?
怒りに我を忘れて突進してきた、あ、鬼蔵さんだった。
脇差で右手小手を掃うと感触無くスポンと手首が切れた。
「ぐああああああ!!」
痛さに切り口を押さえのた打ち回る。鬼蔵さん。あんまり血は出ていない。
切れすぎるだろこの刀。とりあえずビビらそう作戦続行。
「ほら、どうした立て鬼蔵、たって戦え、親父殿の名前を汚すのか。」
「おのれ!おのれ!」
立ち上がろうとする所を膝に一閃、コレ又、すぽんと切り落とせた。
立ち上がれなくなり、顔が青くなる鬼蔵さん
「どうした、まだ、片手と牙が残っているぞ。戦え。」
「ヒイヒイ」言いながら腰が抜けたのか、後ろに下がり始める鬼蔵さん。
なぜか切り落としても、動きつづける足を蹴って鬼蔵さんにパスする。
わきわき動く手のヒラに刀を刺し、切先に手が付いたまま。鬼蔵さんに向きなおる。
「ちっ!腰抜けめ!その足を付けて、とっとと帰れ!貴様の手は土産にもらっておいてやる。うそ偽り無く報告せい!首を洗って待って居ろとな!」
なぜか、言ったとうりに切った足を切り口に着けるとぴったりくっ付ついた不思議だ。
鬼蔵さんは走って山の茂みに消えていった。後ろを振向かずに。
夜に取り残された女武者と僕と掌、イカが居るけど、まあ数えなくてイイや喰えないし。
女武者が青白い顔をしていた。
「これ、どうしよう?」
脇差の切先に付いた掌、わきわき動いている、趣味の悪いマジック・ハンドを女武者に見せたら。
そのまま、倒れて気絶した。
「おい!どうした。大丈夫か!」
倒れた女武者の身を起こそうとして、躊躇した。
触れてイイのか?
女の人にイヤ、女性と名の付くモノに触れたなんてもう記憶に無い。
オロオロする男子高校生、それが僕だ。
やあ、(´・ω・`)ようこそ、スローターハウスへ。
この話はサービスだから、まず読んで、落ち着いて欲しい。
うん、「またコレも」なんだ。申し訳ない。 仏の顔も電波までって言うし、謝って許してもらおうとも思っていない。
なんか戦争の話ばかり書いているのは、王石、自身が戦記モノ大好きってコトだからね。
でも、鬼武者ってカッコイイよね。渡辺綱の話を知ってからこの話をやりたいと思っていたんだ。
まあ、テンプレだから、仕方ないけど。何とか終わらせるよう努力するよ。
次回は、おにぎりを語り合う話。