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卯田くんとおにぎり  作者: 王石 勉
第1章:卯田くんとおにぎりと夏休み
17/21

卯田くんとおにぎりと弁当

(´・ω・`)カフェ・ド・鬼

とりあえず、さくらさんには僕のナイロンパーカーを羽織ってもらいワンピースの下にジャージのズボンと新品の靴下を履いてもらった。

シューズとスニーカーソックスだけでは心配だ。

いや、ちょっとイロイロ有ったが。(主にかわいくないと言う抵抗。)

「足を出して山道歩くのはちょっとよろしくありません。虫に刺されるかもしれません。膝と足首が一番ケガし易いのです。」

とにかく押し切った。


ジャージ戦隊と化した僕たちは山道を進む。

僕だけ地図で位置を確認しながら進んでいるので、つばきさんにとってはペースが遅めらしい。

プリントアウトした地図を見てもらったが。

知りたい情報は得られなかったため、現地を見ながら書き込んでいる。

きっと、つばきさんの頭の中の地図は、紙の上の地図とは合わないのだろう。

ゆびで指して”あの谷は水が流れているか?”とか”この下の谷が合わさる所は湿地なのか?”と聞くと答えてくれる。

途中、不自然な切通しや土塁、空堀の跡が有ったが、女性陣はスルーだった。

かなり昔はココで迎え撃ったんだと思う。


暫く進むと広い広場に出た。

かなり大掛かりに作ったらしい。

「コレを作るにはかなりの人扶が必要だな…。どれだけ時間を掛けて作ったんだろう…。」

「あの、コレは戦後に作ったそうですよ?」

答えるつばきさん、いつも笑顔を絶やさないさくらさん。

「へ?」

「あっちに林道があって車でココまで上がってこれます。洞窟へはあの小道です。」

「え?そうなの?」

う~ん、そんなもの有ったら、里までダイレクト進攻じゃないか、ココがアラモになるのか。

ココで少人数で防ぐのは無理だな。

おっちゃんら呼ぶか…。

一人200発持てば20人ぐらいで300人ぐらいは殺れそうな地形だ。

しかし、鬼に散弾が効くだろうか?有効射程も短い。

最低でも00ダブルオーバック弾、効果が出るのはサボスラッグか、。

ああ、せめて12.7mm×99ライフル弾があれば…。いくら鬼でも穴が開くだろう。狙撃も出来る。(北海道しか許可されていません。)


ダメだ、あのオッチャン等は手加減知らないから。

ロードローラーに鋼鈑張って鋼のトゲを溶接ぐらいはする。

昔、河原の草を燃やすのに自作の火炎放射器使って火事出して怒られてたからなあ。


ナイフ付けた狩猟銃(違法です。)持ったオッチャン等が世紀末覇者仕様のロードローラーにタンクデサントして一斉射撃するのが目に見えるようだ。

きっとオッチャン等なら”鬼は消毒だ~!!”とか”俺の放射器は50m飛ぶぞ~!!”と叫びながら、この世の地獄をココに作ってくれるだろう。

たのもしい限りだが、結果は判るので何とか自力で…。



歩き始めて一時間以上なので休憩することにした。

お茶を飲む。

なんか疲れた、強化剤を食べよう。

リュックからカラフルチョコレート菓子を出す。

きゅぽん

筒を開けるとマヌケな音が山の中に響いた。

つばきさんもさくらさんもきょとんとしている。

「ああ、お手をどうぞ。」

手のひらに菓子を載せる。

姉妹はびっくりしているようだ。

まあ、だがしかしだからな。

見たこと無いのか久しぶりなのか。

恐る恐る食べている。

僕は手の平に乗せて一口で咀嚼する。

ああ、甘い。

疲労に甘い物は正義だ。

姉妹は一つづつゆっくり食べている。

なんだろ、かえでさんを思い出す。

やっぱり姉妹だとドコか行動が似ているんだな。

たぶん、指摘すると地雷のはずだから言わない。

休憩も終わり片付ける。

筒を振ると残りは少ない様子だ。

つばきさんが注目しているので筒ごと渡す。

「どうぞ、残り少ない様なので。」

「え?よろしいのですか?」

「はい、出発しましょう。この先が洞窟ですね?」

つばきさんは両手で大事そうに紙筒を握っている。

それ、溶けちゃうよ。


ココからは出来るだけ正確に地図を作る。

特に道幅や高低差、カーブは重要だ。

距離は歩幅で測っているので概ねだが。

地図は有るので大体わかる。


さらに進むと少し広い場所に出た。焚き火の跡もある。

「あの晩、ココで鬼と戦ったのです。」

少し表情の固いさくらさん、なるほココなら少人数でやりあえるかもしれない。

道は切通しの様に谷になって続いている、まっすぐではない。

恐らく昔の人が掘ったのであろう、鬼が掘ったのかもしれない。


「コチラの道を進むと鬼が出る洞窟です。」

つばきさんが道を示す。

ソレとは別の小道がある。

「あれ?こちらの道は?」

「その道を進めば里に出ます。かなり曲がりくねっていて、道も細いです。まさひろさん家から里に降りる道と交差します。」

「なるほど。あの晩はこの道を通って逃げたんですね。」

さくらさんにたずねる。

「はい、陣幕で覆って居たので。さっき来た道は鬼には分からなかった様です。思わず道をふさがれた形になりコチラの道から逃げました。」

「それは使えますね。」

「はい?」

「いえいえ」

首を傾げるさくらさん。

なるほど、今来た道は鬼も知らない可能性が有るのか。

通行不能にしておけば、鬼が里に降りるまでの時間稼ぎになるな。

どちらにしてもココで50人、いや、50鬼足止めしないとコッチの負けだ。


「では、洞窟へ案内します。」

つばきさんの表情も固くなった。

さくらさんはかなり無理をしている様子だ。

やっぱり鬼と対面したときの恐怖がよみがえるのだろう。

ココに残ってもらっても、いや、ダメだ一人の方が心細いだろう。

一緒に戦ってくれると言ったんだ、怖がっていては困る。

「さくらさん大丈夫ですか?一緒に行きましょう。」

少し身構えたさくらさん、かなり悪い様子だ。

手を差し出す。

少しびっくりした様子だがゆっくりと差し出した手を握ってくれた。

ウォン!!女の子の手を握ったのなんて何年ぶりだ!!


先を進むつばきさん、それに続く僕に手を引かれているさくらさん。

何だろ。鬼の仕業か?木陰のせいか?凄く空気が涼しいです。

道幅は2mちょいかな?、両面切通しで左右は壁、カーブしていて先が見えない、少し登りだ。

あまり良くない。

鬼に有利だ。後で測ろう。

100m進むと大きな岩が積み重なった様な壁が見えてきた。

行き止まりになった。

「ココが鬼の洞窟です。」

確かに自然に出来たにしては奇妙な大岩が積み重なりぽっかりと口を開けている。

なるほど…。鬼が出そうだ…。

洞窟の中を懐中電灯で照らす。

なんだろ、古墳の中みたいだ。

「中に入れるんですか?」

「はい、しかし、直に行き止まりです。」

平然と答えるつばきさん。

「入ったコトが有るんですか?」

「小さいころは肝試しで一人で何度も。まあ、昼間は鬼は出ないのです。」

「よし、では入って見よう。」

さくらさんが握った手が強くなった。

さくらさんの顔を見つめる、不安そうだ。

「大丈夫ですよ。鬼が出たら刀をお借りしますよ。」

「ハイ。」

真剣な顔になったさくらさん、握っていた手を離し腰の脇差を外し両手で抱きかかえる様に持った。


リュックから取り出した懐中電灯を片手に中に入る。

さくらさんとつばきさんには予備の百均懐中電灯(LEDキーホルダー)を渡した。

真っ暗な洞窟の中に入ると天井が高かった。

夏なのに涼しい、ジメッとして土臭い。洞窟っぽい。いや、洞窟に思えない。

床は平らな石が敷いてあり壁には平たい大岩が立っている。

人の手が入っていることは間違いない。

鬼が退治できれば町の微妙な史跡観光スポットぐらいには成るだろう。

1数メートルも歩くと行き止まりだった。

行き止まりは半円形に少し広い石室、その奥を塞ぐ巨大な岩。

つばきさんが大岩の前に立ち止まり岩を照らす。

「この岩から鬼が出てくると言われています。」

「この岩の中に入ったと言う人は居ますか?」

「権現様がこの岩の中の鬼の里に討ち入り鬼の統領と話をつけたと言う伝説です。」

「なるほど、」

大岩に触れてみる只の固い岩だ、表面はつるつるでひんやりしている。

あの夢の中のカクカクした鎧武者を思い出した。

「その後、江戸時代前までに何度か攻め入ったと言う話はあります。」

他の酔っ払い武者の話にも合う。

あの夢はお告げだったのだろうか?

それとも呪いか。

オッチャン等のご先祖様はその時”ひゃっは~”しすぎて皆殺しにしてしまったんだろうな。

だから微妙な史跡になった。

流石、オッチャン等の先祖だ、子々孫々まで”ひゃっは~”している。


つばきさんに手伝ってもらい洞窟内部を大まかにメジャーで測りながら図面を書く。

そのまま洞窟を出た眩しい。

さくらさんはホッとした表情で脇差を腰に戻した。


洞窟を出ると先の見えない谷底を進む。

谷の幅と測り歩幅で距離を出す。

鬼になったつもりで進む。

地面は踏み固めらている、草も生えていない。

土の上に薄いコケが生えている程度だ。

下りになっている、大雨降ったら川になるのだろう。

しかし、水捌けは良いようだ。水攻めも無理だな。

歩くと元の陣幕跡にでた。

下り坂だ気持ち距離が短く思われるが、歩数にあまり差が無い。

なるほど、鬼たちはこの世に出るとこんなふうに見えるのか。

しかし、おもったより時間が掛った、時計を確認すると11時に近い。

休憩してココで解散しても良いだろうか?

いや、この先の林道で解散すべきか?

「お疲れ様でした。ココで少し休憩しましょう。僕はこの上を調べたいので。先に休憩して下さい。」

「あの、お弁当を持ってきました、早いですがココでお昼にしませんか?」

さくらさんが笑顔で答えた。

いつの間にか両手で風呂敷包みを掲げている。

あの、大きなカバンの中身はコレか…。

つばきさんは呆れている様子だ。

「あ、あの~。つばきさん、どうしましょうか?」

「こちらでお昼の用意をしますので、卯田さんはどうそ。御調べ物を…。」

「そうですか、リュックを置いておきます。ビニール袋とシートが有るのでご自由に使ってください。」

「はい。」

背を向け山に向かう

後ろで何か姉妹が言い合っているが聞こえない。いや、聞かない。


広場から斜面を登り切通しの上に立ってみた。何とか進めそうだ。

谷を見下ろす。

なるほど緩やかなカーブだと思っていたが。

変形のS時に近い。

切通しを全て見通すことは出来ない。

ドコから仕掛ければ良いのだろうか?

攻撃を受けた鬼はドコに逃げるのだろう?

ドコから支援射撃するのが良いのだろうか?

何時、鬼たちは混乱から脱し態勢をを立て直すのだろう?

谷の深さを測る。

一応、ガラケーで周囲の写真を撮って置く。

後で気が付くコトもあるかもしれない。


仕掛けを考えるが。

いろいろ難しそうだ。

弓で射る場所は二、三箇所、候補は有るが逃げ道を考えると選択は難しい。

もう面倒なので谷を塞いで溶接用酸素瓶を洞窟に、谷にプロパンで窒息させて火をつけて終わりにしようか?と考えたが。

それではオッチャン等と変わらないと思い直り考えを止めた。

有機リン系農薬が大量に有れば話は早いんだが…。


戻るとビニールシートの上に華やかなお重が並べられ。

取皿と箸、西洋カップとスプーン。

ティーポットと言う無国籍ランチが広がっていた。

微笑むさくらさんに眉間にシワを寄せているつばきさん。

どうしよう?なんて声を掛ければいいんだ?

解からない時は、謝るのが先鋒だ。

「申し訳ありませんでした。とりあえずの調べ物はおわりました。」

「お疲れ様でした。こちらの準備は整いました。」

「…。」

両手を広げて仕事を誇る微笑み少女、それに無言の不機嫌少女。

おう、雰囲気が最悪です。

シートの空いている場所に座る三人で向かい合わせの格好だ。

いま気が付いたがさくらさんはパーカーを脱いでいる。

まあ、暑いからなあ。

ココは木陰のひさしと海からの風が通って涼しい。

シートに広がるカラフルな重箱の中身。

太巻き、稲荷、小女子の佃煮、大根の煮物、胡瓜の酢の物、チューリップになった唐揚げ。

「おお、立派なモノですね、どれもおいしそうだ。」

まるで運動会だ…。

笑顔で取皿を手に菜箸を持つさくらさん。

「何をお食べになりますか?」

「あ、では先ず。海苔巻きと、稲荷、唐揚げを頂きます。」

ニコニコしながら皿に盛る。

皿を受け取る。

取り皿に盛られた食材は美学があった。

盛り付けは個人のセンスが光る。

男盛では越えられない深くて広い溝だ。

流石女の子。小皿に盛るだけでも違いがある。

小さな皿の上には日本庭園の様な計算された黄金率。

黒い太巻きの断面を見せ、ソレを三角稲荷の狐色の光沢が山河を表し、カボス?(スダチかも)と青物野菜をバランスよく置き、まるでジオラマのようだ。

太巻きの白い酢飯に干瓢、デンブ、青い胡瓜、対照的な卵の黄色。

何だろ。米が不自然に光っていない。

恐らく自家製であろう。

見た目、デンブが不自然にピンクでなく、干瓢と同化している。

取り皿が回るとさくらさんの合図で始まる。

「「「いただきます」」」

箸に取って一口齧る。

おお、口の中で米が崩れる。干瓢の食感とデンブのボロボロ崩れる甘み、胡瓜の青い香りが鼻を突きぬけシャクシャクした胡瓜の歯ざわりが最後まで口の中で踊る。

自家製なら干瓢を煮るのも一苦労だ。

卵焼きは砂糖も出汁も加えていない普通の卵焼きだが、デンブと干瓢が甘めで煮てあるので気にならない。

デンブを作るなんてどうやるんだろう?

稲荷に掛る。

海無し県では俵型が主流だがココでは三角形だ。

揚げに薄っすらと中身が見える。

揚げの色が薄いのだ。

なるほど、酢飯だけではなく具が入っているのだ。

一口で片付ける。

うん、揚げの味付けが甘くない。

しかし、悪くは無いが、何か物足りない。

噛むと巣飯の中の具が口の中に広がる。

ゴマとシイタケとニンジン、コンニャクか?

いや、紫蘇の刻みも入っている飲み込んだ後、鼻に抜ける清涼感。

偉い手間だ、コレは好みの問題だ。

僕は昔からなれひたしんだ、甘辛い揚げの味付けに酢飯と生姜の甘酢が大正義だ。

だが、悪くない。

ソレは味噌ラーメンとトンコツラーメンのどちらかが優れて居るかを競うような物だ。

個別の士なのだ。

皿でその存在を突き上げるちゅーりっぷに挑む。

そうだ!伏せた食材の中で唯一のニク…。いや、上を示すひょうげ者。

焦げた小麦と片栗粉でその身を纏い脂と肉汁の貴公子。

沸点の高い油で加熱して、衣で表面をガードして高温の中でニク汁を逃さず加熱する。

唐300年の歴史と科学。

すばらしい、千年の時をつなぐ文化の継承だ。

うれしそうに食べるさくらさんに食が進まないつばきさん。

なんだろ、何か有ったのか?

しまった。

つばきさんに携帯電話番号を交換するミッションがあった。

どうしよう?

自然な形で携帯の話に持ち込むには…。


自然な。あくまでしなやかに携帯電話の時計を確認する。

げ、ここ、圏外じゃん。

「どうかしましたか?」

さくらさんが笑顔で質問する。

「いえ、ここ、携帯が圏外なんですね?」

「ええ、そうですね。我家も圏外区域なんです。」

「そうなんですか?不便ですね。」

「そうでもありません。持っていないので不便も何もありません。」

「はい、持ってないです。」

がーんだな、携帯番号交換計画は一瞬にして瓦解した。

まじかよ!!毎回家電かよ!

誰が出るのか解かんないだろ!!

僕の心臓が持たないよ。


「どうかされましたか?」

いかん、スゴイ顔に出てたらしい。

心配そうな顔をしている。

どうしよう誤魔化さなければ。

「いえ、ちょっと考えていた仕掛けが使えなくなったので…。」

「??そうですか??」

首を傾げるさくらさん。

不機嫌モードから脱出しつつあるつばきさん。

やっぱり美味しいは正義だ。

最後の稲荷に箸をつける。

うん、美味い。

「お替りはどれにしますか?」

「ああ。申し訳ない。頂きます。」

慣れた手つきで菜箸を奮うさくらさん。流石だ。

「はいどうぞ。」

「頂きます、ああ、どれも美味しいですね。さくらさんが作られたのですか?」



ビシッ



姉妹の箸が凍りついた。

僕はその日最大の地雷を踏み抜いたのであった。


女の子が弁当持ってきたら作ってくれたと思うだろ!!

ふつうは…。

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