卯田くんとおにぎりとしゃけ
親父の車の助手席に乗り山を下る。
曇天模様だが、雨は未だ降らない。流れる木々の間にどんよりとした海が見える。
「そういえば親父、海の近くに来たのに未だ魚食べてないな。」
「あー、そうか?いや、ごめん昨日の飲み会で魚出た。と言うか魚づくしだった。」
「そうか、じゃあ、今日の昼は肉にするか?」
「いや、おまえ未だ魚食べてないだろ?魚でも良いぞ。」
ざんねん昼食に本家で魚食べたよ。鯛もな。
「いや、いや、では夕飯に魚を焼こう。イカも良いな、釣ったが喰いそびれた。」
「イカか~良いな~♪カサゴの煮付けが旨くてな~♪」
「煮付けは難しいな、技術的に~。」
「そうなのか?」
「いや、煮過ぎると身が崩れるからその見極めがむずかしいんだよ。いまいち、煮えたかどうだか解んない。」
「そう言う物か~。」
運転しながら鼻歌を歌う親父に、僕は、窓の外の流れる風景を見る。
山を降りて漁港を抜け。峠を越えると。未だ新しいが、ドコにでもあるような。新国道(国道バイパス)の郊外店舗群へと到着した。
まずは、全国展開の百均へと向かう。
買い物リストを参考に、カゴに入れる。
なんだ、最近は物資欠乏の折、物がヤワくなったなあ。
しかし、心揺さ振るウキウキアイデア商品が多い。餃子を圧着する道具とか、にんにくのアマ皮を剥く道具とか、有っても仕方ないだろう。
手にとって考えるが、使うことが全く無いので。棚に戻す。親父は買っちゃう派だけどな。
親父がカセットコンロのボンベをカゴに入れるのを阻止する。
「まて!親父!カセットコンロの燃料はホームセンターの特売の方が安い!!」
「お?おう。そうか…。」
ふう、危ない。気をつけないと親父、ホントに使い道の無いモノ買うからな。カセットコンロなんて夏は使わないだろう。
レジを通して精算済みの商品を、袋に詰める。
ふと、顔を上げると。コルクボードの掲示板に、”夏祭り納涼盆踊り”の手作り感溢れるA4サイズ白黒コピー用紙がある。
盆踊りか…。トンと夏らしいイベント無いなあ。
ここら辺は炭坑節だろうか?
ぼんやりポスターを眺めていると、
「ちょっとすいません。」
おおっと、邪魔になった様だ。ワレモノを包む古新聞に用のある方に。
「あっ、サーセン。」
と答え振向くと同じ歳ぐらいの黄色っぽい七分袖のシャツにショートパンツの女子だった。
まゆげが…。髪もショートで日に焼けている。陸上部だろうか?なんだろう?不思議そうなまゆ…。目でじっとコチラを見ている。
「アンタ、ここら辺の人ではないね?」
「お、おう、最近、引っ越してきたんだ。」
「ふーん、ひょっとしてウワサの転校生?」
「ウワサかどうか?は知らないが、噂が名路鵜西高なら、その転校生だ。」
「ふーん。」
まゆげ…。いや、まるで珍獣でも見るように観察されている。
まるで、陸上トラックで鮭を見つけたような表情だ。なんか居心地悪い。
「あー、僕は卯田将弘よろしく。」
「わたし、籾山楡よろしく、たぶん、同じ組よ。ウワサでは。」
「ほう、籾山さんは…。」
「楡って呼んで。籾山が多いのよ、ここら辺。」
「楡さんはここら辺にお住まいで?」
古新聞で茶碗を包みながら答えてくれた。
「うーん、山の向こうの海側、漁港の西のほうよ。」
「では、学校まではバスで登校?」
「そう、始めは自転車だったけど、部活で遅くなると物騒だから今はバスね。」
「ふーむ。」
暗くなると物騒なんだろうか?鬼?いや、年頃の娘さんなら親が心配するか…。
「なに、怖い顔してんの?」
おおっと、まゆげにシワが出てしまったか。ごまかそう。
「いや、この、盆踊りがね。」
「あーそれねえ、うーん、ここら辺の子供は夏休みになると、皆、どっかに行っちゃうのよ。夏が終わると帰ってくる。」
「どっか?」
鮭かよ。
「そう、親戚の家とか、合宿とか、林間学校とか理由を付けて…。昔からそうみたい。で、漁港の商店街が寂しいから、商工会が企画してるの。毎年、盛り上がらないのに。」
「へー」
何へーだ?
「盆踊りに行っても、人は居ないし大人はピリピリしてるし、31日に漁協がやってる港祭りは盛り上がるのよ、みんなも帰ってきてるし。」
「そうか~、夏らしいコトしていないから行ってみようと思ってたんだが。」
「港祭りにいらっしゃい~♪浜焼きもあるし、潮汁もあるよ、出店の数も全然違うし、花火も上げるから。」
「うん、そうする、しかし、盆踊りは、中途半端な日だな。」
「あーそれねえ、毎年開催日が違うのよ、八月の満月の日だって。」
(´・ω・`)読み返したら”ヘー”カウント漏れがあったので”ヘー”カウンターは辞めます。
次回からは新たに”レロ”カウンターを始めます。
「その、チェリー食べないのか?」




