運命の話
「ねえ、あなたは運命の人っていると思う?」
「どういうことだ?」
「運命の人よ。ほらよく言うじゃない、僕は70億分の一の確率で君に出会えたんだ、君は運命の人だよ
的なセリフ。」
「そんな古臭い口説き文句を使うやつがいるのかどうかという点が一番疑問ではあるが。」
「うるさいわね。で、どうなのよ?」
「そんなくだらない理論にいちいち試行をめぐらすほど暇じゃない。」
「どこがくだらないのよ。合ってるじゃない。人類全体がだいたい70億としたら、そのうちの一人なんだから70億分の一なんじゃないの?」
「…どこから説明するかに迷うが、まあやってみるか。」
金山黒騎は、ため息をつきながら黒板にチョークを走らせる。
「葵、まずお前の前に、牛肉、豚肉、鶏肉、ラム肉、ウサギ肉があるのを想像しろ。」
「私、しゃぶしゃぶは豚肉派なのよねー。」
「そしておまえはこの中から一つを選ぶ。」
「でも鶏すきも捨てがたいわ!」
「お前がこの5つの中から”肉”を選ぶ確率はなん分の一だ?」
「.......は?」
「わからないのか?」
「いやだって、全部お肉・・・」
「そのとおり。あえて言うなら5分の5だな。」
「なにがいいたいのよ。」
「ではここでもう一つ問題だ。お前が同性愛者である可能性を考慮するならば」
「ないわ。それは断言できる。」
「男女含む70億人の人間の中から、お前が人間を選ぶ確率は何分の一だ?」
「70億分の70億・・・」
「そう。つまりは、条件が不安定または広すぎる場合、確率は当てはめることはできない。だって正しい解のないものに一つの確定した解を求めることなどできないだろう?」
「でも、好みというものがあるじゃない。顔とか、性格とか。」
「人間の感情に確定した解があると?」
「それは...ないだろうけど。」
「誰と出会おうと、仮に愛し合おうと、その確率は等しく1分の1だ。別に感動することも感謝することもない。運命なんて安い言葉をつかうほうもバカなら、引っかかるほうもバカだな。」
「あら、それは違うんじゃない?」
「なんだ、理解できなかったか?」
「いえ、あなたの確率の話は分かったけど...結局は1分の1なのでしょう?」
「ああそうだ。」
「だとしたら、全部の1分の1を大切にしましょう、でいいんじゃない?好きな人とも嫌いな人とも、
出会いは等しく訪れるんだから。」
「ところであなた、振られたことあるでしょう?」
「何を根拠に言っている。」
「女のカン。」