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服屋

更衣室に連れ込まれた俺は、二人の女性店員に服を脱がされて、あちこち寸法を測られた、戸惑うような緊張するような妙な感じだ、オッサンはその間部屋から出ている。

彼女たちは俺に密着するように動き回っており、それが何だかちょっと嬉しい。

静かに深呼吸をすると女性特有のいい匂いがして、思わず表情が緩んでしまう、変態か?・・・普通だよね?

店員さんをジッと見てたら「採寸さいすんは初めてですか?」と言ってニッコリされた、笑顔に見とれながらも首を縦に振る、同性だと見てても不審がられないな、まあ程度によるだろうが。

採寸が終わり服を着て更衣室から出ると、オッサンからどんな服がいいのか聞かれたので、活動的な普段着を二着と肌着を五着ほしいと話す。

「全部で大銀貨四枚ね、出来上がりは三日後になるわよ」

オッサンが野太い声で返事をする。


やっぱりな、入ったら直ぐに採寸されたから薄々は気が付いてたけど、この世界、又は、この地域の服屋はオーダーメイド専門みたいだ、見本は有るが、既製品を売るシステムじゃないみたいだ。

どうしようかな? この服を洗うにも着替えは必要だし。


「わかりました、三日後に又来ます。それで今、服の替えが無くて着ている服がこの有様なので、何か直ぐに着れる服はありませんか?」

「だったら古着屋に行ったほうが・・・あなた冒険者なのかしら?」

俺の服に付いている返り血を見ながら聞いてくる。

「いえ、まだ冒険者じゃありません、これから防具と武器を買ってから冒険者ギルドに登録に行こうと思ってるんです」

「だったらいい物があるわよ」

オッサンがニッコリと笑う。 おう、笑うと又迫力のある顔になるな、思わずりそうになるのをグッと堪える。

そう言って奥から持って来たのは、見た目は丈夫そうな長袖、長ズボンで飾り気の無い服だ。

「これは防具の下に着る服よ、丈夫で機能的なんだけどデザイン性に欠けるのよね、これなら一寸ちょっと待ってもらえれば、直ぐに手直しできるわよ、これから防具を買いに行くなら丁度いいんじゃない?」

これは鎧下よろいしたみたいな物かな? 防具を買いに行く前に此処に来て良かったかもしれない、防具を買ってから鎧下を探す手間が無くなったし、普段着の上から防具を着て変に思われるのも避ける事が出来た訳だ。

何かギリギリな感じがする、早く常識を身に着けないとな。


「では、それをお願いします」

「わかったわ、じゃあ直ぐに手直しするわね」

服を渡された店員は奥の部屋に入っていった。

「どれ位時間が掛かりますか?」

「三十分位かしら、ここで待ってる? 用事があるなら後でもいいのよ」

「ここで待ってます、ちょっと町の事を聞いてもいいですか?」

「いいわよ、何かしら?」

「この店を出たら防具屋に行こうと思ってるんですが、場所を教えて頂けませんか?」

防具屋の場所を聞いた後は、雑談と言うかオッサンが一方的に喋ったり質問をして来た。


まずはスタイルや顔の良さを褒められた、此の世界の基準では相当高いレベルらしい、スタイルは兎も角、顔に関しては、俺自身が確認してないので何とも困る、まさか知らないとも言えず、適当に誤魔化して相槌を打った。

次は何で化粧をしないのかと言って来る、今のままでも男が放って置かないけど、化粧をすれば更に男が群がって、いい男を選び放題と、自分の願望を織り交ぜながら化粧を薦めてくる、だが俺からすれば男が群がって来るなど悪夢以外の何物でもない、丁寧に遠慮しておいた、女性が寄って来る化粧があるなら是非してみたいが。

そして触れて欲しくない質問をされる。

「あなたの居た所では、お化粧しない女性が多いのかしら? 良かったら出身は何処なのか教えてちょうだい」

不味い質問が来たな、記憶喪失も選択肢にいれてたけど、これだけ話をした後じゃあ使えそうも無いし、田舎だと言っても地名を聞かれたら答えられないしな、聞いた事が無いほど遠い国で、習慣なんかが違うと言う設定が無難かな、国の名前は、名前・・・全然重い付かない、早く答えないと、自分の国の名前も直ぐに言え無いなんて、怪しい訳ありみたいだし、まあ訳ありなんだけど、ああ、もういいや適当で。


「ニホンて言う国です」

「ニホン?」

オッサンの顔が急に真剣な物になる。

やばい、この世界にニホンて言う名前の国があるのか? あの表情からして敵対している国とか? やっちまったかもしれないな、どんな言い訳を考えようかな? まずは確認してみるか。

「どうしたんですか? ニホンと言う国に何か?」

「そうじゃないのよ、昔になるけど私、けっこう色々な国を旅して回ってたのよ、だけどニホンて言う国は一度も聞いたことが無くて、だから気になっちゃったのよ」


よかった~ 取り越し苦労だったらしい、急に表情が引き締まったから焦ったな、ん? 何やらオッサンは腕を組んで考え事をしている、自分の知らない国って結構気になるのかな?。


「興味深いわね、知らない国って事は、知らないような武器とかあると思うのよ、良かったらどんな物があるか教えてくれない?」

武器か、銃とか火器なんかは言わないほうがいいだろうな、問題は文明がどの位なのかだ、剣とかあったし中世レベルかな、町中でも剣を持ってた人も居たし、江戸時代あたりの話でいいかな。

「いいですけど、私もそんなに詳しくはないんですよ」

「あなたの持ってる武術スキルの武器でいいわよ、自分の使えないスキルの武器はそんなに詳しくないと思うから」

「わかりました、武器をつかう武術スキルは、弓と槍ですね」

「以外だわ、剣術を持って無いなんて、剣を使った時の返り血みたいだったから、てっきり持ってるのかと思ってたのよ」

返り血って、それだけで武器を特定するってスゲエな。オッサンは見かけも強そうだけど、観察力も凄いな。


「残念なんですけど、剣術はないんですよ、では弓からいきますね、ニホンの弓は二メートル以上あって、下から三分の一の所を持って矢を射ります、矢を放った時に弓を持つ手首を、外側に返すようにするるのがコツですね、なので的に当てられるように成るまで結構かかるんですよ」

俺は身振りも合わせながら説明する。

「そんな弓があるの、随分と長いのね」

「普通の長さがそれ位なんですよ、長い物だと三メートルって聞いた事があります、実際に見た訳ではないんですけどね」

「そんなに長いの? ニホンて国は面白いわね、武器一つ取っても結構違うようだし」

「まあ、遠い国ですし、こっちまで情報が入って来ないんでしょうね」

「それでも、知らない国の話を聞くのは楽しいものよ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいですね、次は槍なんですが、ニホンの槍は剣状の刃が付いてて、それを長い柄に装着させて、相手に向って突くんですが、こっちの国でもそんな感じですか?」

「そうね、目的によって多少刃の形や長さが違うけど、大体そんな感じね」

そういえばこの世界には薙刀なぎなたは無いって神様が言ってたっけな。

「槍とはちょっと違うんですけど薙刀っていうのもありましたね」

ですって?」急にオッサンの目つきが鋭くなる。

「ど、どうしたんですか? 急に怖い顔をして、何か変な事言いました?」

「あら、御免なさいね、知らない武器の名前が出て来たものだから、気になっちゃって、改めて続きを聞かせてちょうだい」

と言ってオッサンは笑みを浮かべた。

やっぱり笑顔のほうが怖ええよ。

「えーと、薙刀の所からいきますね、薙刀は突くのではなくて、斬撃ざんげきとして振り回して使用します、なので刃の形が、片刃の剣が反ったような形をしてます、ニホン国のかたなに似てますね」

ですって?」

「だから顔が怖いですって」

「あら、いやだわ、また知らない武器の名前が出て来たんでついね」

と言って笑う。

だから、笑うともっと怖いんだって。

「刀というのは、片刃の剣を少し反らせたような形をしてて、斬る事に特化させた武器です、切れ味は凄いんですけど、剣のような重量にまかせた、打撃のある攻撃は期待できません、それに刀を剣と同じように振っても上手く斬れないんです、刀で斬るには相手に対して、こんな感じで引くようにして斬らないと刀の性能を十分に発揮できません」

と、さっきと同じように身振りを付けて説明をした。


「ふーん、面白いわね」

面白いと言いつつオッサンは、何かを真剣に考えているように、眉をひそめて腕組をしている。


「おまたせしました」

手直しが終わったらしく、女性店員が奥の部屋から服を持って出て来た。

「ありがとうございます」

お礼を言って服を受け取り、更衣室で着替える、足を上げたり手を回したりしても、体の動きを邪魔しない、いい感じだ、服としては飾りっ気は何も無いが、鎧下とはそんなもんなんだろう、血だらけの服よりは断然にいい、金額は大銀貨一枚だった。

オッサンはまだ難しそうな顔をしていたが、「では三日後にお待ちしてるわね」と言って手を振ってくれた。


それに返事をして店を出る直前になってオッサンに呼び止められた。

「そういえば彼方の名前を聞いてなかったわね、私が居なくても名前を言ってくれれば、対応できるわ、服の代金はその時にね」

やばいぞ、どうする? 名前が無いとは言えないし、この世界の女性の名前は全くわからない、誰か名前を呼んでるのも聞いてない、地球の女性の名前はどうだろう? 違和感は大丈夫か? だがこっちの名前を全く知らない以上どうしようも無いな、やらかしちゃったら直ぐに違う町に行こう、・・・よし。


「し、シオリです」

「そう、シオリって言うのね、とっても良い名前だわ、私の名前はノクトよ、冒険者ギルドに行った時に、私の名前を出せば少しは、優遇してくれるわよ」

「分かりました、ありがとうございます、では三日後に来ますね」

お礼を言って服屋を出た。


言われた通りに道を進むと、鎧の絵が描かれた看板があった。

「いらっしゃーい」

中に入ると年は五十代位の男性がカウンターの奥で防具らしき物に皮紐を通している、手を休めると、こっちに歩いてきた、店員なのか職人なのかわからないので聞いたら店主との事。

「これはまたベッピンさんが来たね、今日はなんの用事かね?」

「初心者用の装備一式を買いに来たんです」

「もしかして、あんたが着るのかい?」

「はい」

「冒険者になるのかい?」

「そのつもりです」

「大丈夫かい? あんまり荒事には向かないように見えるんだが、無理しちゃいけないよ、確かに稼げるけど、それだけ危険って事なんだからね、冒険者になってもみんなが稼げるわけじゃないんだよ、死んじまう奴だって多いんだ、思い直したらどうだい、なんなら働き口を紹介してやってもいいんだよ、冒険者ほどは稼げないけど、安全だし、あんたほどベッピンさんなら、何処でも使ってもらえるからさ」

くし立てるように店主であろう人が話してくる、内容を聞いても分かるように、いい人そうだ、俺のためを思っての事なんだろうけど、ちょっと鬱陶うっとうしい。

「あの、見た目はそう見えないかもしれませんが、結構強いんですよ」

「分かってないねー 大抵の人は自分の力を過信しすぎてるんだよ、大丈夫って言う人ほど危なっかしいもんなんだよ」

しばらく喋り続けていたが、何度目かの話で、やっと初心者用の防具一式を買うことが出来た。

皮帽子、皮鎧上下、皮のグローブ、皮ブーツ、フード付きのマントを買って装備した、次は武器屋だ。


武器屋は防具屋の二軒隣にあった。

「いらっしゃい」

ここでは四十代位の細めの男性がやはりカウンターの奥でナイフの手入れをしていた、この人も聞いたら店主だった。

「弓が欲しいんですけど、強めの物はありますか?」

「強めってどれ位だい?」

「出来れば一番引きの強いのを見せて下さい」

「お嬢ちゃん、うちの一番強いのは大人でも引けないよ、冒険者でも上位の人じゃないと引けない程強いんだ、もっと弱いのにしたほうがいいよ」

張力って普通は体重の三分の一位の強さの物を使うから、今の俺の体重は五十キロ前後か? そうすると十七キロ位が適正か、無理って言うのは当然だな。

だけど弓術とかスキルで筋力アップも出来るから、地球よりも張力のある弓もあるはずだ、是非引いてみたい、俺のステータスならどんな弓でも引ける事だし。

「私は怪力のスキルを持ってるんで大丈夫ですよ」

「ほう、そうなのかい、でもちょっと信用できないな、じゃあこの弓が引けたら、一番強いのを引かせてあげるよ」

「わかりました、これですね」

俺は渡された弓を持って、軽くつるを弾いてみる、慎重に壊さないようにそっと扱う、それを見て勘違いしたのか「無理ならあきらめたほうがいいよ、そいつでも張力は六十キロはあるんだからさ」と言ってきた。

「大丈夫だと思いますよ」

と笑顔で答えて、そっと弓を構え肩まで弦を引く、壊さないように手加減をするのが大変だ、手がプルプルする。

店主を見ると口をアングリと開けている、チートとはいえ疑われるのはいい気分じゃないので、ちょっとすっきりした。

「引けたので一番引きの強い弓を引かせて下さい」

声を掛けられて、店主は奥から弓を持って来たが、さっきの弓より大きい、イギリスのロングボウによく似ている、もっとも写真でしか見た事がないので、違いは指摘できない、とにかく似ているという印象だ。

「これがうちの店で一番引きが強い弓だ、張力は百五十キロだ」

「百五十? 凄いですね」

驚いた俺に気を良くした店主は、ニヤリと笑って言った。

「この弓はいくら何でも無理だろう、これを引けたら無料ただであげるよ」

「え? 無料ただで? 理由を聞いてもいいですか、もしかして、いわく付きな物で呪われるとか?」

「そんな事ある訳ないだろう、ただ単に売れないんだよ」

「でも性能的に高価な物なんでしょ?」

「そりゃそうさ、大金貨一枚で仕入れたんだ、それでも破格の安値なんだよ、これを作るなら大金貨五枚は掛かったはずだ」

大金貨か、たしか一枚持ってたな、相場はどれくらいなんだろう、言いっぷりからすると、相当価値がありそうだな、それを手放すのはなんとも理解出来ないな。

「聞けば聞くほど無料ただにするのは、おかしくないですか?」

「そう思うのも分かるけどな、張力が百五十なんて弓を引ける奴なんか殆どいないんだよ、引けてもそれだけ力のある奴は、前衛で剣や槍を持って戦ったほうが、よっぽど効率がいいんだよ、だから弓には目もくれないし、弓に適正のある奴は筋力が足りない、まあ、そういった訳だ、少しは納得したかい?」

店主は、やるせなさそうに頭を掻いている。


「じゃあその弓を引かせてもらいますね」

店主から弓を受け取り構えて弦をゆっくり肩まで引く。

あ、これは引きやすいな、まだ弱いのには変わりはないけど、多少は手加減に神経を集中しないで済むな、これなら使えそうだ。

「引けたようだな、約束通りその弓は、お嬢ちゃんにあげるよ」

何やら店主が複雑そうな顔で弓をくれると言ってくる。

無料ただで手放さなくても、いいんじゃないですか? 売れなくても店に飾って置いても十分宣伝とかに成りますし」

ちょっと無料ただで貰うには高いし、気が引けるしな。

「置いとくだけでも場所を取るし、何よりその弓をみてると、自分の商才の無さに嫌気が差してくるんだよ、だから手元には置きたくないんだ、これも何かの縁だと思って気持ちよく持ってってくれよ」

なるほどね、弓があると自分の失敗を常に見せ付けられてると思っちゃってるのか、分かんないもんだな、人の考えてることなんて。

よし、じゃあ有り難く貰っていこう、でも少しは他の物を買っていくか。

その後で店主にお礼を言って弓を貰い、剥ぎ取りナイフと普通の剣を予備として買って店を出た。


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