地上
「さて、スキルは大丈夫かな?」
「あとは思い付かないな、言っても貰えなかった物は残念だったけど」
「過剰なのは無理だよ、でも魔法に関してはずいぶんと食い下がってたね」
「そりゃあ使ってみたいし、まさか自分でもあんなに興味があったとは思わなかったよ」
魔法はあの身体だと、メインは水属性になるらしい、自分で好きな属性を選べなかったのは残念だが仕方が無い、他の属性もメイン程ではないが使えるらしいので良しとしておこう。
だが俺は自分で思ってた以上に魔法が使いたかったんだろう、気がつくと俺は神様の脚に取りすがるようにして、魔法の強化をお願いしていた、魂の俺は理性より欲求の方が強いらしい、神様も苦笑いしながら、魔力を増やしてくれて【魔力上昇】のスキルもいっしょに貰えた、説明の方は時間がないので省かれてしまったが。
スキルは、なんとか気が付いたり、お願いしたりして、貰ったのがこれだ。
【鑑定】【索敵】【夜目】【弓術】【槍術】【体術】【状態異常半減】
【鑑定】スキルは見る物すべてが知らない物ばかりなので、それを知る方法として欲しかったんだ、同じような物は結構あるらしいが、そこが危険なんだと俺は思っている、”同じ物”と”同じような物は”似ているだけで違う物だからだ。
似たような生物で無害だと思ってたら火を吹かれたり、植物でも食用だと思ったら毒だったりするかもしれない、それこそ虫や草一つでも信用出来ないと、切々と訴えると最初は渋っていたけど何とか貰えた。
【索敵】は(気配察知)(地図)(索敵)(隠れる)など希望を上げてみたら、どれか一つと言われたんで、索敵にした、相手の位置が分かれば逃げたり、回り込んだり出来て良さそうなので選んだ。
【夜目】は希望したら、あっさり貰えた。
【弓術】も、すんなり貰えた、理由はアーチェリーをやってるからだ、苗字が弓元なので弓には元から興味があったからだ、尤も我が家は弓とは何も関係性は無い、過去にご先祖様の誰かが弓に携わっていたかもしれないが、その辺はわからない。
弓じゃなくてアーチェリーにした理由は近所にアーチェリーをする場所が有った事、後は映画で主人公がアーチェリーを使うのを見てカッコイイと思ったからだ。
【槍術】は貰うのにちょっと揉めた。(剣術)を希望すると、やった事が無い武術はあげられない、と言われた。
弓術はもらったが遠距離用だし接近されると使えない、接近されて剣で戦ったとして、切り合った事など無い俺が、剣術のスキルも無しに満足に戦えるとは思えない、そこで思い出したのは、妹の詩織が薙刀をやっていた事だ、裏山の空き地で練習に付き合わされて、打ち合いと言うより滅多打ちにされる訳だが、それでもやってた事には変わらないだろうと希望をしたら、神様は哀れむような目をしながらくれた。
向こうの世界では薙刀は無いらしい、それに近いのは槍に分類されているので槍術になった。
【体術】は授業で柔道をやってたので、希望したら、神様は「しょうがないね」と笑って、すんなり貰えた。
【状態異常半減】は代案として貰った。魔法をレジストするようなスキルは却下されたが、異世界の病気に対して知識も免疫も無いのが心配で、何か防ぐスキルを希望した所、あの身体は病気に対して抵抗力が高いと説明されたが、毒、麻痺などの状態異常に対しては、そうでも無いとの事で、頼み込んで状態異常限定で何とか貰えた。
「もう時間も無い事だし、そろそろ脳を移植して剣と魔法の世界へ招待しようかな」
しまった、もうそんなに時間が過ぎたのか、スキルで方で時間を取り過ぎたか。
「もう時間なの?まだ向こうの常識とか聞いてないんだけど」
「それは説明に時間がかかるから、もう無理だね」
「身体の説明も聞いてないんだけど、高性能って何処が?」
「それも無理だね、残念だけど脳移植をして送還する時間だよ、じゃあ元気でね」
その声を聞いた途端、俺の意識がぼんやりとしていく、最後に神様を見ると、とびっきりの笑顔で「ごめんね、後でいいものあげるからね」と言われた。
ごめんねって、何が?っと思ったが、そのまま意識を失った。
「行ったね」
「行きましたね、向こうに着くにはもう少し掛かるでしょう」
僕の後ろに控える使徒が返事をする。
「楽しみだね」
嬉しくて、つい笑顔になってしまう。
「本当によろしかったんですか?」
使徒の方は心配と言うか戸惑ってるように質問して来る。
「何がかな?」
「彼に与えた身体です、かなり規格外な代物に成っていたはずですが」
「そうだね、僕の自信作だし、もっとも途中までだけどね」
「それは失敗と言うのでは?」
相変わらず、気にしてる所を突っ込んで来るよね、まあ否定はしないけどね。
「そうとも言うね、なにしろあの身体は高重力惑星用にと思って作ったからね、最初の内は順調だったんだけどね」
骨格、筋肉に関しては高重力に耐えられるように、かなり強化したし、プロトタイプになるので、不具合の無いようにと内臓や免疫系の強化をしたところで気が付いたんだよね、人型じゃなくてもいいって事に。
高圧、高温の世界だと炭素型生物より、珪素型生物のほうが適しているのを、今更ながら気が付いたんだっけ、魔法の世界ばっかり作ってたからすっかり忘れてたんだ。
なので次は高重力惑星で珪素型生物を作ろうと決めたので、当然の事ながら、作り掛けの身体は不要となったけども、破棄するのは惜しい、そこで残りは魔法世界の素材で補って完成させたんだ。
「神様、何故彼にあの身体を与えてたんですか?」
使徒が再度質問をしてきたけど、質問と言うより確認なんだろうね。
「もちろん面白いからだよ」
僕は満面の笑みでそういった。
「やっぱりそうですか」
使徒は、やや諦めた表情をして、ため息をついている。
「さて僕は彼にお詫びと御褒美のスキルをあげる準備をしなくちゃね」
ふふっ、何がいいかな、なるべく面白くなるのがいいな、隠しスキルも付けてあげよう、どんな反応するのか今から楽しみだね。
「お詫びとは何のことでしょうか?」
使徒は不思議そうに聞いてくる。
「ああ、それね、時を止めれば時間はいくらでも取れたけど、彼には時間が無いと言って身体の説明を業としなかったんだよ、それは地上に降りて自分の体を見た時の反応が見たかったからなんだ、だけど彼の性格だと辛い思いをさせてしまう事にも成るのも分かってるんだ、なのでお詫びと言う訳なんだよ」
「では御褒美とはなんでしょうか?」
「分かってるんでしょ? 僕を楽しませてくれるはずの彼への御褒美なんだよ」
「楽しませてくれるのは、確定なんですか?」
「おそらくね、彼は期待を裏切らないと思うよ、今まで送った人達も外してなかったしね」
前の人達の反応を思い浮かべると、今でも笑顔になっちゃうね。
「要するに、彼に悪戯をして、その反応を見て楽しもうとしてるんですよね?」
「簡単に言うとそうなるね」
「そうゆう事には随分とやる気を出すのですね」
「それはそうだよ、たまに息抜きをすれば、気持ちが落ち着いて次の事をする活力になるんだから、むしろ全力でやらないとね」
ここは僕の行動を、きちんと正当化しておかないと、次にやる悪戯がやりずらくなるからね。
「まあ、そう仰るのなら、そう言う事にしておきます」
使徒はあまり信用してないようだけど、まあいいか、さてどんなスキルをあげようかな。
気が付くと俺は、緑の中に立っていた。
目の前には森があり、広葉樹らしい木が、枝を四方に伸ばしている、手前は膝下位の草が生い茂っており、少し離れた場所には土がむき出しに成っている所がちらほら見える、平地らしく周辺の視界を妨げる物は無い、遠く離れた所に山や森のような緑が見えていた。
俺の立って居る所は、森の入り口というか境目みたいな場所だ。
此処はもう異世界らしいが、地球と比べてとくに変わっているようには見えない、地球だと言われれば、そのまま信じてしまう位違和感が無い。
穏やかな風が吹く、森の匂いも普通にする、風が吹いた事で少し肌寒い、と感じて体を見ると裸だった。
どうりで肌寒いと感じるわけだ、と俺は空を見上げる、頭の中が真っ白になって何も考えられない、しばらく空を眺めていた、一分位して又下を向いて体を見る、そして上を向く、見間違いではないようだ、何故だ? いくら考えても答えが見つからない、今度は下を向いてじっくりと俺の体を見る。
胸がある、・・・そうじゃない、乳房が大きく、いや・・・・・でかいオッパイがある、理解しろよ俺、オッパイがあるのを確認、胴・・・ウエストは細くなっている、・・ヒップは普通か?、手足もスラリとしている、股間にはあるべき物が見えない、確認するのが怖い、勇気を振り絞って股間に手を伸ばす、やはり無い、触った手に妙な違和感がある、無視しとこう、オッパイを触ってみる、形の良いオッパイが触られて変形する、やはり違和感がある、認めたくない気持ちが強いが、如何みても男性の体じゃ無い、これは女性の体だ。
ぐらりと体が傾く、急に眩暈がしてきた、踏ん張ろうとするも、よろけて倒れてしまう、起き上がろうと四つん這いに成った所で、強い吐き気がしてゲーゲーと吐いてしまった、胃液しか出ないが少しは収まってきた、眩暈も和らいできたが、体の事を考えると、又、眩暈や吐き気におそわれた。
どうやら女性の体に成った事を、俺は表面上は理解しても深層では理解していないか、拒否をしてるのかもしれない。
十六年男性として生きてきて、いきなり女性に成るなんて、精神のバランスが崩れたのかもしれない、などと思っていたら、何かが体の中に入って来た感覚があって、あっと言う間に眩暈や吐き気が収まった。
訳もわからずぼんやりしていたら、頭の中に神様の声がしてきた。
「やあ、もう大丈夫だよ【精神耐性】のスキルを付けたからね、もう気分は悪くないでしょ? 君に女性の身体だって言わなかったのは、悪かったと思ってるけど、どうしても必要なことだったと理解してくれれば助かるんだけどね、おかげで期待通りの成果が得られて僕はとても満足してるよ。
なので、そのお礼と気分を悪くしたお詫びに、スキルを追加してあげようと思うんだ、あとで確認してね、確認方法は、チェックボードと念じれば脳内でチェックボードが閲覧できるように成るんだよ、だけどこれは内緒にしといてほしいんだ。
本来チェックボードは使徒が管理用に使ってる物なんだけど、今回は御褒美で特別に付けてあげるね、相手を見て念じると相手のチェックボードも見ることが出来る優れ物だよ、一応チェックボードの劣化版なんかは、普及させてあるんだけどね。
さて、もう伝える事は伝えたし、これ以降はこっちから君にコンタクトを取る事はもう無いんで、これでお別れだね、折角来たんだから、この剣と魔法の世界を楽しんで行ってね、君の活躍を陰ながら応援してるよ、じゃあね~」
言うだけ言って声は聞こえなくなった。
随分一方的に話して行ったな、要するに女性の体に成ったのも、具合が悪くなったのも、全部仕組まれてたって事なんじゃないの?
何か納得できないな~、俺は息を大きく吸い込んだ。
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
うっぷんを晴らすように俺は大声を出した。
びっくりした、俺の声が女性の声に成ってる、体が女性なんだから当たり前なんだろうけど、違和感が凄いな、自分の声に驚いてるようじゃ、我ながら先が思いやられるな。
辺りを見回すと少し離れた所に袋らしきものが見えたので、そこに行くとショルダーバックがあった、中には服と瓶や道具らしき物が幾つか入っており、パンや干し肉であろう物もあった。
服は麻か木綿のような素材で出来ており、パンツはダボッとしたブルマのようだ、ブラジャー見当たらなかった、存在しないのかな? 俺は服を着ながらつぶやいた。
「せめて服くらい着せて送還してくれても良かったんじゃないかな?」