スキル
「・・・・・え?」
死んでない? 助かったって事か? あんなの凄いのをを喰らって骨だって折れる感覚もあったし、あれで死なないって言うのはおかしいだろ、って、自分の死を強弁してどうするんだよ。
もしかして夢とか? あの時も衝撃だけで痛みは感じなっかったような・・・強すぎるダメージっていうのは受けた時に痛みを感じないと、何かで聞いたことがあるけど、あれがそうなのか?
いや、重症だがまだ助かる可能性があるって事かもしれないな。
「助かるの?」
「助からないよ」
「助からないんだ?」
「もうちょっとしたら死んじゃうからね」
「何で?・・・俺にも分かるように説明してもらっても?」
「いいよ、じゃあ説明するからね、僕が用意した身体で異世界に行ってもらう事は、さっき説明したよね、それは誰でもいいって訳じゃないんだよ、まず作った身体の頭蓋骨に収まるような、丁度いい脳の容量を持っている事、次は異世界に対して柔軟に対応できるように思春期ぐらいまでの年齢、後は致命傷を負っているが脳に損傷が無く、僕の説明が終わる位までは生存出来る事なんだよ、君はあれで致命傷を負いまだ”死んでない”けど長くは無い、と言うかかなり短いんだよ、これで理解できたかな?」
つまり、俺はまだ生きているけど、現在進行形で死ぬ最中って事か、なんて思わせ振りなんだよ、期待して損した気分だぜ、でも何で移植なんかするんだ?
「てっきり死んだと思ってたし、異世界に行くのもいいんだけど、脳の移植っているの? その身体に俺の魂を入れれば完成するって訳じゃないの?」
「そうしてもいいんだけどね、君の世界で精神は肉体の影響を受けるって聞いたことあるでしょ、それと同じで僕の作った脳に君の魂と記憶を入れた場合、まっさらな脳でも影響は受けるんだよ、極端な事には成らないとは思うけど、性格の変化や記憶の変質はあるはずなんだ、君もそれは望んでないでしょ?さらに言えば身体も変わっちゃうからね、なるべく変化を抑える為にも脳の移植は必要なんだよ」
「じゃあその身体を使わないで、俺の体ごと異世界に行けば何の影響も無いんじゃないの?」
「影響だけをを考えればそうなるね、でも今回の目的はこの身体を使う事が大前提なんだよ、君がその体で行っても何の意味もないんだよ、僕は作ったこの身体を活用出来る、君はそのまま死なずに異世界で生きて行ける、いい事だらけだね」
「これから死ぬのにいい事って、まあ俺としても、このまま死ぬよりはいいんだけどさ、でも何でその身体をそんなに使いたいの?」
「そんなにと言うか、使うつもりで作ったんだけど、残念な事にそれが出来なく成っちゃってね、”せっかく”作ったんだから使わないと勿体無いでしょ?」
「え? それだけの理由で?」
「そうだよ、作った物は有効に活用しなきゃね、君もそう思うでしょ?」
おいおい、そんな理由なのかよ、・・・なるほどね俺も勿体無いに含まれてるって訳か、致命傷が理由なのも”せっかく”死ぬなら有効活用しましょうって事か、神様にとっては俺の死なんてその程度なんだろうな、でもまあ、もうすぐ死ぬ身らしいし”せっかく”なんでそれに乗って活用されるとするか。
「思う、思わないは別にして、一応は理解したよ、何か腑に落ちない所もあるけど、うだうだ言っても始まらないし」
「そうだね、そんな事言ってるとドンドン時間が無くなっちゃうしね、スピードアップして行くよ」
「でも何でそんなに急いでるの?」
「何でって君の為に急いでるんだよ」
「俺の為?」
「そうだよ、さっき死んでないけど長くないって言ったよね、あの崩落に巻き込まれた君の体は今すごい事に成ってるんだよ、全身いたる所を骨折してるし、内臓もぐちゃぐちゃだし、出血もひどい、潰れてる部分もかなりある、幸いな事に全身を圧迫されてる為に出血が抑えられてるんで何とか生きてるって感じかな、それでも一時間位が限度だろうね、頭には大きな瓦礫は当たらなかったけど、かなりダメージを受けてるんだよ、ヘルメットが無かったら、脳にも影響が出て対象から除外される所だったんだよ、ヘルメットをしててよかったね、ほら見てみる?」
神様の手の示す方を見ると映像が浮かんできた、瓦礫を通して今の俺が写し出されている。
うわぁ、手足が折れてあんな方向に曲がってる、スゲエ痛そう、・・・あの白いのは骨か? 左脚から脇腹は、えぐれるように潰れてる、全身が血まみれで痣や裂傷だらけだし、・・・あれでよく生きてるな、自分ながらに関心するぜ。
気持ち悪いなと思いつつも目が離せない、しばらく見ていたが急に映像が消える。
「もういいよね、見ての通り君はもう直ぐ死ぬ事になるんだよ、でも君はすでに異世界行きを希望しているから、今直ぐ脳を移植して向こうに送りだせるんだけど、このまま何の知識の無いまま行くと、碌でもない事にしか成らないって言うのはわかるよね?」
「碌でもないって、・・・何が起きるかは別にしても、魔法のある異世界って、こっちの常識じゃあ考えもしないような事が、たくさんあって、知らなきゃ命に係わる事も多いって事?」
「うん、そうだね、こっちの世界じゃ存在しない危険な魔獣なんかもいるし、治安も悪いからね、油断してると危ないと思うよ、だから脳移植はギリギリまで待って、限られた時間で生きて行く為の知識と必要なスキルの選択をしようと思ってるんだよ」
「スキルってゲームなんかにあるスキル?」
「そんな認識でいいと思うよ、厳しい世界なんで分かりやすい恩恵も必要なんだよ」
スキルがある世界か~、これぞ異世界って感じだな、もちろん魔法もそうなんだけど、どんなのがあるんだろうな、すごいスキル貰って無双出来たり、女性のピンチに駆けつけて惚れられたり、ゲームであるような事が実際に出来たりするのかな~、悪くないな~。
「君、何を急にニヤけ出して、変な妄想でもしてるのかい?そんな暇は無いと思うんだけどね、ふむ、もしかして・・・こっちの世界では何て言ったかな?・・・そうだ君は中二病を患ってるんだね?」
「はうっ!」
胸に突き刺さる痛みと共に床に手を付いて跪いてしまう。
確かに俺は多少その気はあるかもしれないが、何で跪くようなオーバーリアクションをしてしまったんだろう、それにこの胸の痛みは何だ?神様を見るとニヤニヤしてこっちをみている。
「不思議そうな顔をしているね、君は今、魂だけの存在なんだよ、だから心の動きがそのまま行動に出るし、精神的なショックは痛みとして感じるはずだよ」
そうだったのか、中二病は過ぎ去った黒歴史のように思っていたが、まだ克服出来てないとは、なんて事だ、これじゃあ先が思いやられるな。
「なるほど、急に胸が痛くなるし、びっくりしたよ」
「さっきから話が進んで行かないね、もう本当に時間が無くなっちゃうよ」
「時間は後どれ位あるの?」
「三十分は切ってるよ」
「え?そんなに無いの?」
「君が死ぬのに一時間位って言ったよね、ここでずいぶん話をして時間を潰しちゃったしね、死ぬ直前に脳を移植して向こうに送るとしても、もうそれ位しか残ってないんだよ、最悪時間切れに成ればスキルも何も無く、異世界に行くことになるね」
それは不味いな、スキルが有ると無いとじゃ、文字通り命に係わるんだろうから、早いとこ相談しなきゃな。
「じゃあ、急いでやりましょう、どんなスキルをくれるんですか?」
「まず向こうで会話が出来るように【異世界言語】だね、これで問題無く会話が出来るようになるよ」
「おお、便利だね、向こうで会話に不自由しないのは助かるな」
「そうでしょう、このスキルは便利というか必須だよね」
英語なんか赤点ギリギリで、読み書きが苦手だったしな、・・・あれ?
「そのスキルで向こうの文字の読み書きも出来る?」
「ふふっ、良く気が付いたね、それは会話のみのスキルだよ、向こうは識字率が低くてね、貴族、金持ち、商人なんかが使うくらいで、そんなに読み書きは必要じゃ無いから大丈夫だよ」
「ん~、読めない人も全く字が読めないって事は無いよね?生活に必要な簡単な文字とか、自分の名前とか位は書けるじゃない?」
「まあそうだね、それくらいは知ってるだろうね」
「そうすると俺は、それすら読めないって事になるんだけど、それはちょっと何とかならない?」
「しょうがないね、気が付いちゃったんだし、じゃあ【文字認識】を追加してあげるね」
「ちょっと待って、言わないとスキルは貰えないの?」
おいおい、今のスキルは気が付かなかったら貰えなかったって事か、やばいな、会話みたいに必須な物はくれるけど、そうじゃない物は気が付かなきゃダメって事か、聞き漏らさないように会話には全力集中しよう、今後の生活に掛かってくるし、些細な事でも見逃さないようにしないとな。
「普段はもっとのんびりとしてて、色々と話をしたり、詳細を詰めたりするんだけど、今回に限っては時間が無いから必要最小限度にしてるんだよ、さっきみたいに気が付いたら追加はするけどね、断っておくけど幾ら気が付いても、バランスを崩すような過度なのは無理だからね」
「普段って、そんなに沢山のひとが異世界に言ってるの?」
「まあ、数百年に一人位だよ、そんな事より時間が無いんだよ、急がなくていいのかい?」
そっちが気になる事を言うからじゃないか、まあいいや、急がないと。