盗賊
あれから、起きて馬車に揺られている時には、スキルの訓練として鑑定や索敵をしたり遠くの物を確認しようと目を凝らすようにしている。
話を聞くとスキルの取得には反復して覚えるのが良いらしく、それに習って行う事にしたのだが、客として馬車で移動中の身としては、降りて何かをする事は出来ず、動かないスキル上げは、それくらいしか思いつかないので、退屈ながらも反復して行っているところだ。
今日は出発してから14日目で、明日には王都に着く予定だ、今回は魔物の襲撃が何時もより多く、大変だったらしいが、その分魔物の素材や魔石などが手に入り護衛の人達は懐が潤ったと喜んでいた。
ここから先はめったに魔物は出て来ないらしい、馬車の中の雰囲気も明るく、王都に着いてからの事を隣人と話すなど会話も増えている。
昼近くに先を見ていた護衛から、注意の声が掛かった。
この先に馬車が一台止まっているとの事だ、しばらく行くと、車輪の壊れた荷馬車が街道の隅に止まっていおり、荷台の中には平積みの木箱が詰まっていた。
護衛の二人が馬車に近づいて声をかけると、荷台から一人の商人風の男が出て来て護衛と話を始めたが、我々は、少し離れた所で馬車を止めて様子を見ているので、会話の内容は分からなかった。
話に区切りがついたのだろう、二人が戻ってきて、雇い主の商人と話をしている。
聞くところによると、彼の名前はニエンといい二人で王都に向っていたが、車輪が破損し予備の車輪も無かったので、腕っぷしの強い相棒が、先に王都に行き馬車を借りて戻る算段らしい、この辺は魔物もそうそう出ないからと、彼が残ったそうだが、ここで待つのは心細いし、出来れば早く王都に行きたいので、予備の車輪があったら代金は払うので売ってほしいとの事、相棒は馬車を借りられたらこの道を戻って来るので、それまでの同行も希望していた。
こちらが同行を許可し、予備の車輪を売る事にしたが、一人では車輪の取り外しが出来ないので、何人か手を貸す事になった。
もちろん俺は手伝わない、怪力で手伝ってもいいが、面倒事に巻き込まれそうなのでやめておいた、それに今は客なのだ、静観するのが正しい位置だと思う。
その後、問題無く出発したのでスキル上げを再開したのだが、索敵をしたら妙なものが映った。
ニエンの馬車の荷台部分から人の反応があるのだ、荷台には木箱が六個あるのが見える、反応も六だ。
中身は穀物だと言っていたが、良く考えたら木箱に穀物を入れるか? 普通は麻のような丈夫な袋に入れなかったっけ? だがこの世界ではこれが普通か? う~ん・・・わからん、だが人は入れないよな?。
内緒で人を運んでいるとなると 正式な手続きでは王都に入れない人? 出入り禁止の犯罪者とか、誘拐された人とかかな? となるとニエンは犯罪に手を染めている事になるよな、もう一つの可能性は、強盗の一味、この場合は盗賊か? ニエンが木箱の仲間に合図を送ると、出てきて襲ってくるんだろうな、・・・盗賊だとしたらいつ襲ってくる? 不意を突いて来るはずだから・・・夜、寝込みを襲うか?・・・よし、みんなと相談しよう。
暗くなる頃に野営所に着いた。
カシムが、馬車から離れたがらないニエンを言葉巧みに遠避ける、十分に離れた所で隠れていた護衛の一人が、後ろからニエンを殴り昏倒させて、二人でさらに遠くへ引きずっていく、それを見ていた俺たちが、ニエンの馬車の近くで雑談を始めるが、その中には俺も参加している。
「あれ? ニエンさんは?」
「ん? さっきカシムに呼ばれて雇い主の所に行ったぞ」
「そうなんだ、じゃあしばらく帰って来ないね」
「だろうな、金払いはいいんだけど無駄に話が長いからな、当分は本人が帰りたくても、引き留められて、延々と昔の武勇伝なんかを聞かされる羽目になるんじゃないか」
「恒例行事ってやつですか?」
「そうそう」
「だいぶ時間が経ってから、疲れ切った顔で戻って来るだろうさ」
「違いない」
そう言って、みんなで笑いながら話をする。
今の話は丸っきり嘘ではなく、雇い主は、話好きで酔うと同じ話を何回もするそうで、聞き役は、クジ引きで決めてるそうだ。
しばらくしてニエンを連れて行った一人が戻ってきて、無言で右手を回した。
これは話し合った決め事で、盗賊のサインだ、みんなが頷き、盗賊だった場合の作戦行動に出る。
「おーい、ニエンさんから、馬車を中心に移動させてほしいっって言われたんで、移動させるぞ、手伝ってくれ」
「ニエンさんは?」
「今、恒例行事の最中だぜ」
「かわいそうに」
「早く終わるといいな」
「まったくだ」
そう言いながら、みんなが馬車に近づき、一人が御者台に乗り馬車を動かし、その振動に紛れて護衛達が荷台の中に、音を立てないように乗っていく、俺の役目はそこまでで、みんなを見送った。
馬車は中心ではなく、端の方に移動して止った。
御車台から「よし!」と声が聞こえる、その後すぐに木の割れるような音と、うめき声がして直ぐに静かになった。
荷台から全員が下りてから索敵をしてみたが、荷台の中の反応はすでに消えていた。
話し合って決めた選択肢の一つを実行したのだ。
護衛の人達もベテランであり、俺からの話を聞いて盗賊と確信したらしい、ニエンを尋問したのは裏付けにすぎず、それを確認して、こちらに怪我無く、相手を無力化する方法の中の一つを考えて実行したわけだ、今回の作戦は、そのまま箱の上から強引に剣を突き刺し殺害する、という非常にシンプルな方法だ。
盗賊の死体は、そのまま荷馬車で移動し、近くの森に捨てて、金になりそうな物は回収したようだ、死体は魔物の餌になるらしい。
盗賊は討伐対象で、殺しても罪にはならず、倒した者に権利が発生するので、身包み剥ぐのも当たり前らしい、最も、ギルドには報告は必要で、返り討ちにした時だけではなく、遭遇しただけ、見かけただけでも報告しなければならない、ギルドとしても周辺の治安は気に掛けているようだ。
カシムが尋問を終えて戻って来たが、袖に少し血が付いている、尋問はかなりハードだったらしい。
みんなが集まってからカシムが尋問の成果を語ってくれたが、内容はかなり胸糞の悪くなる内容だった。
今回のように商人を装ったり、道中で襲撃したりと数々の凶行に及んでいて、金目の物は奪い、男は殺され、女は慰み者にされ、子供は奴隷として売り払ったりしていたらしい、身代金の取れそうな者は身代金を受け取りその後に殺害するなど、かなり悪質な手口だ。
まったくもって不快な話だったが、まだカシムの話には続きがあった、今夜盗賊の襲撃があると言うのだ。
夜間に奴らが木箱の中で潜んでいる状態で、ニエンが外に向けて合図をするのをきっかけに、盗賊が奇襲を仕掛ける、我々がそれに対処している隙を狙い、木箱から仲間を出して内側からの襲撃で、人質を取るなり背後から襲うなどの計画だったらしい。
アジトには頭目や何人かは残っているが、今回襲撃して来る人数は9人、ニエン達7人を含めれば16人、奇襲が成功すれば、こちらの護衛は全滅したかもしれないな。
ニエンはまだ生きていた、尋問で傷を負っているが、夜間襲撃の情報が性格ならば生かしてくれるとの話を信じて、本人なりに正確な情報を提供したらしい、もちろん情報が間違っていれば、あっさりと殺されしまうんだろうが、本当に助けるのかな? それなら王都で引き渡されて奴隷落ちだろうけど、聞く所によると犯罪奴隷の労働環境は厳しく終身刑で使い潰しらしいし、悲惨な未来しかなさそうだけど、・・・まあいいか、本人が何を考えていようとも、襲撃が正確ならばそれでいい、内容が違ってもある程度は想定して置けばいい事だ、我々は夜間の奇襲に備えて準備をする事にした。
夜も更けて、一人の影が馬車の裏に移動して、小さな灯りを円を画くように回した、すると遠くで薄っすらとした灯りが二度点滅した。
数分後、見張りなのに、岩に腰かけて居眠りをしていた男に、何処からともなく矢が頭に刺さり倒れる、そして音を立てないように一人の盗賊が草を搔き分けて現れた。
周りを見て手で合図をすると、後ろから仲間達がゾロゾロと出てくる、その表情は、これから自分たちが行う事に対して、成功を信じて疑わない、そんな笑みが浮かんでいるのが見えた。
彼らがさらに前に進もうとした時、目の前の地面に火矢が飛んできて刺さると直径1メートル位の火柱が上がるが、すぐにザーという音と共に急に消えた。
急激な暗転により視界を潰された盗賊達は、身動きが取れなくなり、怒号を発しながら剣を振り回すも、矢を受けて動きの鈍ったところを次々と切り捨てられていった、終わってみれば此方の怪我無くあっさりと返り討ちになり、逃げ出せた盗賊はいなかった。
ニエンから盗賊達が来る方向と合図を聞いていたので、罠を仕掛けることにしたのだ、案山子を急遽作り服や皮鎧を着せて、居眠りをしている体勢で固定し、こちらが油断している風を装う。
合図を受けて潜入が成功したと思っている奴らは、簡単に案山子を倒した事で警戒が緩いと思ったようだ、表情からも油断が見てとれたので、作戦はそのまま継続とした。
進行方向の地面に油をまいておいたので火矢で着火させる、そしてすぐに砂をまいて消す、いっきに消さないといけないので、ここは俺が担当した、油をまいた側に隠れて、火が付いた瞬間に樽に満タンに入れた砂を、一気に掛けて消す、これで視界を奪われた盗賊達に勝ち目は無くなり全滅となった訳だ。
盗賊たちの身ぐるみを剥がして金目のものを回収する、この場面のみを見る分にはどっちが盗賊か分からないような光景だ、死者の懐を探る男の姿は贔屓目に見ても悪党よりだ。
その後、ここに死体を放置しておくわけにもいかず、森に捨てに行ってもらい、辺りの血を洗い流すなど、諸々の作業を終えた所で、見張り以外は寝る事になった、ニエンは話した情報が正確だったので殺されず、今は縛られて寝ている、今日は俺も疲れた(精神的に)ので寝る事にした、殺伐とした一日だったが、いよいよ明日は王都に着くな、どんな所か楽しみだ。
朝食後、ニエンに盗賊達の行動について問い質す、昨夜仲間が戻らなかったので、襲撃が失敗したのは気が付いているはすだ、その後こっちを追って来るのか、来ないのかが気になる所だ。
ニエンによると、盗賊は頭目を含めても、もう6人しか残っておらず、今回のような人数を、一人も漏らす事無く始末した相手には、手を出さないはずだと話す、さらに我々が王都で報告する事でアジトの捜索隊が派遣されると考えられるので、この近辺から離れるだろうとも話す。
これで道中で盗賊による襲撃の可能性はかなり減るなと考えていたら、ニエンがとんでもない事を言った。
アジトには攫われてきた女性が居るらしい。
こっちに来る昨日までは生きていたとの事で、今はどうなってるかは分からないと話す。
我々が王都に着いてから捜索隊が出ても、アジトを引き払われて空振りになる可能性が高い、そうなると、攫われた女性も連れていかれるか、殺されてしまうかもしれない、女性を助けるには、アジトを引き払う前でないと危ない、となると今日中に何とかしなければならない。
商隊の護衛達を何人か連れて行く案は駄目らしい、盗賊が他にも居る可能性が、無いとは言い切れないし、他の危険があるかもしれない、商隊を危険にする事は避けるのが護衛の役目との事。
となると、今この場にいる護衛以外の誰かになる訳だ。
盗賊を倒し女性を助けられる位の実力が有る人物、回りを見ても護衛以外で強そうな人は居ない。
俺か・・・俺なのか・・・俺なら出来るだろう、だがな、人を殺すのはちょっと躊躇われる、護衛に殺される盗賊を見て、悪党だからしょうがないと言い聞かせてはいたが、正直な事を言えば気分は悪かった。
もし今回の護衛の仕事を受ける事が出来ていたら、盗賊を殺すのは俺の役目だったはずだ、頭では分かっているのだが、実際受けなくて良かったと思っているのも事実だ。
だが盗賊に囚われている女性の事を考えれば、そうも言ってられない、今現在も盗賊達の慰み者に・・・・・ん、ん~~・・・・ふーー・・・駄目だ、だんだん腹が立ってきた、う~~、女性に乱暴するような奴等など、・・奴等など・・・生かしておく価値など無い、後腐れの無いように殺しておくべきだ、いや、ぶち殺す!、必ずだ。
「お・・いや私が、アジトに行って奴等をぶち殺して来ます」
「おいおい、物騒だな落ち着けよ、助けにいくんだろうが、殺すのが目的じゃ無いぞ」
「だけど女性にそんな酷いことをする奴なんて死んで当然でしょ?」
「だから落ち着けって、女性を助けるのが優先だぞ?」
思わず興奮した発言をしてしまい、カシム呆れ顔で突っ込まれてしまった、その後しばらくして落ち着くまで俺の過激な発言は止まる事はなかった。




